さて、私ごとですが、今度の8月1日でキャリアコンサルタントとして10年目を迎えます。10年一昔と言います。また、どんなに能力の無い人間も、同じことを10年間一生懸命やれば、ある程度にはなる、とも言われます。
おかげさまで、いろいろなことを経験してきました。業界の先輩方は沢山おりますが、自分なりに多少は引き出しが増えてきたと思います。今後はその経験を、後輩に伝え、一人でも優秀なキャリアコンサルタントを増やして行ければ、、と考えております。
そして、その10年を振り返り、この季節になると思い出すことがあります。Iさん、パンケーキ。。。以下は、8年前の話です。。
「社内IT=楽」???
Iさん(20代後半)は、東京大学卒業の外資系コンサルティング会社勤務のコンサルタント。経歴は優秀。どんな方なのだろう、と色々想像を膨らませながらアポイントを取りました。
Iさんは初対面とは思えないほど非常に気さくな方で、コロコロ良く笑う、明るい元気な青年。私も学歴・経歴とのギャップ(?)にちょっとホッとした記憶があります。
そんな彼が強く転職を希望しておりました。「もう、忙しくて嫌になっちゃいました。提案書を書きまくって、ほとんど寝ていないんですよね。楽な職場ってないですかね。社内ITとか。」
非常に優秀な方なのですが、「社内IT=楽」というあまりにも短絡過ぎ、かつ、キャリアのことをあまりにも考えていないことに、ある意味、Iさんの若さを感じました。ただ、こんなIさんの、率直な物言い、人懐っこさ、人生何とかなりそうな雰囲気、から不思議な魅力を感じる方でもありました。
私との面談当日は、下記の理由で社内ITにはまだ早いのでは??というお話を差し上げました。
・社内IT職は技術力を求める案件が多いが、Iさんには技術のバックグラウンドがない
・IT企画職には、まだ経験年数が少なく、業務知識が少ない
・Iさんのポテンシャルを考えると、経験を吐き出す社内ITよりも、これから5年間はまだまだ充電期間であること
・まだ若いIさんが1つの会社の中に収まると成長が緩やかになってしまうこと
Iさんも上記を十分理解していただき、自分の経験をさらに伸ばすべく特長のある業務系コンサルティング会社で更なる成長を狙うことになりました。またご提案した会社はライフワークバランスも取れている会社です。
若さの悪い部分が面接で出てしまい、、、失敗の連続
さて、順調に書類選考も通過して2社のコンサルティング会社を受験。しかし、、、各企業からのIさんに対する評価は大変厳しいものでした。
「Iさんは、面接官が語りかけているときにお茶をすすっていました。コンサルタントの能力以前の問題です!」
「面接当日、腕のボタンをとってラフすぎる格好で面接に来てました。」
「志望動機もイマイチ明確になっていないようです」
どうやら、能力以前に面接に臨む態度が悪いとの事。私が初対面の時に感じた「若さ」が悪い意味で出ていました。
そこで私はIさんを緊急召集し、各会社の評価をそのままお伝えしました。結構これだけの悪い評価を伝えることはエージェントとしてツライ作業なのですが、Iさんの為にもそのままお伝えし、このままでは結果は変わりませんよ!と半分説教モードでお話しました。
それに対しIさんは「う~ん、それはまずいですねぇ(ニヤニヤ)。」他人事のように笑いながら話を聞いていました。
正直私は、「コイツちょっとまずいのでは・・・」、と感じたのは内緒です(笑)。
一応、Iさんもフワフワした気持ちで転職活動を進めていた事を反省。二人でリスタートを切る事になりました。ただ、この時点ではIさんが変身してくれることに全くの確信をもてません。
次にターゲットを絞った会社は、マーケティングリサーチ会社。Iさんのリサーチ能力やドキュメンテーション能力、コンサルティング力を生かしつつ、Iさんもマーケティングリサーチ業界という新たな領域にチャレンジし、30歳までに自分のコアコンピタンスを作りあげたいという希望も取り入れ、ご自身も心を入れ替えるとの事。
Iさんから見て、マーケティングリサーチという未知との遭遇が、全てを変えてくれればよいのですが。。。そして、この後Iさんの能力が爆発していくのです。
大学受験以来の頑張りで考え抜いた面接対策
マーケティングリサーチ会社にターゲットを絞ったIさんは、心を入れ替え面談対策をしました。Iさんは下記に関して、大学受験以来の頑張りで考え抜いたとの事。
・現職での職務内容を端的にどう伝えるのか?
・どうしてその会社に行きたいのか?明確な志望動機。
・入社した後、どのような目的も持って仕事をしていきたいか?
・5年後、10年後自分がどのようなビジネスマンになりたいのか?
・現在の会社で異動はなく、なぜ転職の選択肢を選ぶのか?
・仕事上での成功事例とそこで得た教訓
・仕事上での失敗事例とリカバリ方法、そこで得た教訓
またトリッキーな質問も想定して下記についても考えたそうです。
・リサーチの現場の泥臭さについて、どう思うか?
・自分が思った仕事では無いことが来た時にどのように対処するか?
精神面で若さのあるIさんですが、獲物に狙いを定めた時の突進力突破力を感じました。予想通り1次面談の評価はえらく高いもので、前回バッシングに近い企業側のフィードバックも一転しております。
「志望動機や、弊社に入りたい意欲が強く感じられる」
「人物面も非常に明るく、一緒に仕事をしたい方である」
どうでしょう。本気を出した時にチラリと見える、日本の最高学府を卒業したIさんのポテンシャルの高さなのでしょうか!
しかし、2次試験も高いハードルがあります。数多くのグラフや調査結果を見ながら、クライアントに提出するようなレポートを作成するという、ほぼ実務に近い形の試験です。
ここでも、Iさんは実力を大いに発揮します。簡潔な内容で、
・数字の読み取り
・課題抽出(問題点提起)
・対応の方向性
などがキッチリ押えられておりますし、ビジュアル面も素晴らしい出来です。ここでも外資系コンサルティング会社に勤めるIさんの本気モードを見ました。
この時に、我々エージェントの仕事として、その方に如何に転職に対して高いモチベーションを与えることが出来るのかが非常に重要なことである、ことを学ばせていただきました。
その後、Iさんは最終の社長面接を無事通過!本当にIさんと私で喜びました。携帯が繋がらなかったので第一報は下記の題名のメールでお伝えしました。
「サクラサク!」
パンケーキの粉を買ってきて!
そしてすぐに、内定企業とIさん相思相愛で入社が決定。Iさんは激務によって溜まりに溜まっている有休消化でハワイに行かれました。そして真っ黒になって帰国後、祝杯を挙げにいきました。
その日の最後にお別れする際に、Iさんから御願いをされました。一ヵ月後にたまたま私もハワイに行く予定があり、それを聞いたIさんは、「ハワイでお土産買い忘れちゃったんですよ。パンケーキの粉なんですが。」
相変わらず憎めない方です。私は約束どおりハワイでそのパンケーキ屋さんに行って、粉を買って帰国し郵送しました。そんなこと自体を私自身も楽しんでいたのですが、それよりもIさんの訳の分からない魅力に引き込まれたのでしょう。
後日Iさんから御礼のメールを頂きました。
「パンケーキの粉、有難く頂戴いたしました。ありがとうございます。さて、お陰様で入社後、ちょうど1ヶ月が経過しました。社風というか社内の雰囲気は、今のところ自分にあっていると思います。全員が転職組ということもあり、いい意味でドライ、サバサバしていて、付き合いやすい感じです。」
何度も転職のお手伝いをしているのですが、入社後のフィードバックは、非常に気になるものです。環境に適応出来ているIさんを確認出来て一安心。Iさんは転職活動をする際に、色々失敗し、そこから学び、遠回りしましたが、ようやく居心地の良い場所を見つけられたようです。
Iさん、今、35歳ですね。その後疎遠になっております。その後どんなキャリアを歩んでいるのしょうか。でも彼は転職活動を通じて、多少は変わってくれたと思います。良いビジネスマンとしてのキャリアを歩んでくれていることを祈念いたします。
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