プレゼンテーションには、どのようなスーツで臨んでいますか? スーツやネクタイ選びなど、どのような装いが効果的か迷うこともあるのではないでしょうか。 今回はオーダーメイドスーツの老舗、銀座テーラーの専務取締役 鰐渕祥子様にインタビュー。ビジネスマンにお勧めのスーツの選び方についてお話を伺いました。
好きな色より、似合う色を選ぶ。
アクシスまずは、プレゼンテーションに勝つために効果的な装いのポイントを教えてください。
鰐渕様
自分が好きな色より、似合う色を知ることが大切です。顔色が良く、健康そうで肌艶も良く見える色を選ぶだけで見栄えが大きく変わります。
同じ日本人でも顔の色は十人十色ですが、一般的に日本人に一番似合うのはネイビーと言われています。
また、プレゼンテーションを誰にするのか? ということにも考えなければなりません。一般的な会社であれば、ネイビー、またはチャコールグレーのスーツが無難です。
さらに自分をどう見せたいか? 例えば保守的な会社にプレゼンするのであれば、白シャツを着て、それに合わせてチーフをポケットに入れたり、ネクタイで少し個性を出すぐらいがいいのではないでしょうか。
ネクタイの選び方については、無地やレジメンタルストライプが主流ですが、色選びが大切です。
例えば今年はパステルカラー調のピンクとブルーがトレンドですね。ただ、あまりビビッドになりすぎると個性が強すぎるため、彩度を落としたほうが爽やかさや清潔感が出せます。
新緑の季節には綺麗なグリーン、初夏であればライトブルー、というように、季節感を意識して個性を出すと良いのではないでしょうか。
対ファッション系の会社へのプレゼンでは、もう少し個性を出してもいいと思います。例えば、カラーシャツにネクタイ、それに合わせたチーフ、カフスというように上手くバランスをとると洗練されたイメージになります。
プレゼンテーションではあまり奇抜になりすぎないことが大切です。特に日本人の場合は第一印象が奇抜過ぎると受け入れられる人は少ないと思いますので、あくまで品よく色遊びをすることですね。
いい服を着ることは、相手への敬意のひとつ。
アクシス
では、若手・中堅それぞれのスーツ選びのポイントを教えてください。
鰐渕様
20代の方の場合、ほとんどの方が既製服を選ばれていますね。もちろん既製服でも良いのですが、必ず押さえるべきポイントがあります。
まず体に合ったサイズのものを選ぶことが必須ですね。ポイントは肩の位置です。それがあまりにも外にきているとだらしなく見えますし、内側に入りすぎると窮屈に見えます。
また、人によって手足の長さが合わないことがあるので、サイズ直しはしたほうがいいですね。
30〜40代で少し余裕が出てきた方は、オーダーの第一ステップを踏んでみても良いと思います。
銀座にもパターンオーダーやイージーオーダーなど比較的リーズナブルに購入できる店が増えました。どれだけいい服を着ていても、サイズが合わないとカッコ良くは見えませんので、そこは押さえたうえで生地を選ぶのがお勧めです。
40代以上の方は、生地にこだわりを持ちつつ、オーダーのラインのなかで格を上げていくとワンランク上に見えます。
良い生地のスーツを着ていると、その人の重厚感が出て、一目置かれるようになります。相手も「良い服着てきてくれているな」という印象を受けますので、相手に敬意を表すことにもつながりますよね。
アクシス
体型によって気をつける点はあるのでしょうか?
鰐渕様
痩せている方の場合は、あまり体に合わせすぎると、貧弱に見えてしまう傾向がありますので、既製服であれば、肩が合えば少しゆとりがあってもいいと思います。ストライプや生地と同系色のチェックも体型をカバーしてくれます。
恰幅の良い方の場合、定番は無地かストライプですね。チェックや膨張色はお勧めしません。お腹の気になる方は、ツーピース用のベストを差し込むとスマートに見えます。
銀座テーラーでは、ウエストラインを出す立体的なシルエットのスーツをつくっています。既製服でも、ウエストがくびれた形のものを選ぶと、恰幅が良い方でもスッキリ見え、メリハリや立体感が出て綺麗に見えますよ。
女性のスーツ選びは、清潔感と清楚なイメージが大切。
アクシス女性がお客様の企業に訪問する際に気をつけるポイントは何でしょうか。
鰐渕様
初めてお会いする方の場合は、決して派手にならないようにすることですね。あとは清潔感、清楚なイメージを与えることは大事です。
スカートの場合は丈の長さは、立ったときに膝くらいで、座ったときに少し上がるくらいがいいと思います。ジャケットのベースの色はベージュやグレーだと落ち着いた感じが出せます。
相手と親しくなってきたら、白も良いと思いますが、白は意外と目立つので、最初はベージュやグレーで相手の反応を見ながら、ポイントとしてスカーフなどで色味をつけるのがお勧めです。
女性に関してもどう見せたいかは重要です。国柄によりますが、日本の場合は、初々しさを出したほうが相手に受け入れられやすいと思います。アメリカの場合はある程度成熟した女性のほうが対等に見てもらえますが。
対する相手の年代にもよりますが、あまりフラットな靴を履いていると、「スリッパのようなものを履いてきたのか」と思われることもあるので注意が必要です。ある程度ヒールがあったほうが目線も上がりますし、エレガントに見えますね。
軽くて柔らかく、機能性の高いスーツがトレンド。
アクシス
では、最近のビジネススーツのトレンドについて教えてください。
鰐渕様
ここ数年は、軽くて柔らかく、着やすい洋服という機能性が重視され、イタリア風の洋服がトレンドですね。今は従来より2割ほど軽い着心地に仕上げているものが非常に売れています。
スーツを着る方の多くは、第一線で働いているので、「軽いほうがいいよね」とおっしゃいます。
また、今はナチュラルウール100%でストレッチがよく効いた生地を、英国の高級生地ブランドが開発しており、安っぽくならずに機能性に富んだ生地がありますので、それをテーラーメイドで仕立てるというのが業界で流行りになってきています。
既製のビジネススーツのトレンドについては、生地のトレンドとも絡み合って、「着ていて楽」というのを前提に考えているブランドが多いのではないでしょうか。
スーパーブランドの場合は、「この服がいい」とデザイナーが打ち出していき、ファンがそれに合わせる形で着ますが、それに対して我々は真逆です。お客様がどういう人に対してどう見せたいか、それに応じて洋服を選びます。
色に関しては男性は常にネイビーが主流です。ネイビーのなかでも暗いもの、グレーがかったもの、少し明るいブルーよりのネイビー、というようにバリエーションは豊富にあります。生地によっても光沢の出方や艶感が変わるため、幅が広く、不動の人気ですね。
店員と親しくなり、自分に合った一着を。
アクシス
自分に似合う色やスーツを知る方法はありますか?
鰐渕様
私は人に聞きます。自分がいくら似合うと思っても、まわりがどう判断するかわからないですよね。店員さんと仲良くなって、色々試着させてもらうのが一番だと思います。
我々はお客様一人ひとりに対して一から決めていくので、接客時間が長いです。そこから信頼関係が生まれて、気に入ってもらえると、「任せるよ、今どんなのがいいの?」と言ってもらい、話しながら決めていきます。
アクシス
洋服によって自分の気持ちも大きく変わりますよね。
鰐渕様
「着るものによって明らかに変わる」、と実感された方がおられました。
報道番組のコメンテーターをされている大学教授の方で、それまでは洋服に無関心な方でした。しかし報道番組に出ると、ブラウン管を通して自分を見るわけですよね。
あることをきっかけに、こちらで衣装を担当することになり、その方にあった生地選びから全てオールコーディネートをしたのです。すると、それを着てテレビに出られたときの周囲の反応が、大きく変わったそうです。
また、その方自身もブラウン管を通して見たときに、「洋服って人をこんなふうに変えて見せるんだ」と実感されたと聞き、そのことがテレビで体現される形で残ったので、我々もうれしかったですね。
テレビの場合特に一瞬でその人のイメージは決まりますよね。出会いの場でも、一瞬で決まりますので、そこで洋服が占める部分は大きいと思います。
10年以上前から、特に第一線で働かれているビジネスマンを対象に「サムライスーツ」というオーダーメイドスーツを販売しています。和の文化を取り入れたスーツで、鯖江市の漆塗りをしたボタンと京都の西陣織を内ポケットの随所にあしらっています。また、好きな漢字をひとつ選んで頂いて花押も入れるというものです。
どの西陣織を選ぶのか、どの花押を入れるのかなどを話し合いならが選んでいだき、スーツを一からお客様一人ひとりにお作りしているので、その方の人格づくりをお手伝いしていると思っています。ストーリーのある自分だけのスーツを着ると、モチベーションも上がりますし、話題にできますよね。
スーツは、元々イギリスから、作業服の一環として伝わってきた洋服ですが、今は「闘う洋服」という認識に変わりました。特にプレゼンテーションに臨むときはスーツは印象を左右する重要な要素です。
今日の相手はどういう人なのか? どう見られたいのか? ということをしっかり意識してスーツを選んで頂だくことが、最大のパフォーマンスを出すことにつながると思います。