ケース面接は正しいだけでは通過しない
おもしろくない答えは致命的
コンサル業界の新卒・中途採用、特に戦略コンサルティングファームや総合コンサルティングファームの面接(インタビュー)では、よくケーススタディがおこなわれます。
求職者の論理性を見るためのもので、最近ではコンサル業界だけでなく投資銀行や外資系のITベンダーでもケース面接をおこなうことがあります。
多くの求職者はしっかり選考対策して臨みますが、ときどき「おもしろくない」「解決しようとする熱意に欠ける」という評価理由でお見送りとなることがあります。
ケース面接対策本を鵜呑みにしない
実はケース面接の対策本で入念な準備を重ねた人ほどよくおちいる落とし穴があるのです。それは正しい答えを出すことに固執しすぎること。
面接では論理思考力を面接官に示す必要があります。それは間違いではありません。しかし面接官はケースの解答に対して正しさだけを求めているのでしょうか?
例えば次のケース事例を考えてみましょう。
クライアントは美容院のオーナー。赤字の美容院を200万円の黒字に転換させてほしいという依頼を受けている。具体的な打ち手を提言してほしい。
<前提条件として与えられた情報>
- 現在20万円/月の赤字
- 月の売上:450万円(客数:750人、客単価:6000円)
- 月の人件費:150万円(従業員:美容師5人、平均月給:30万円)
- 家賃:300万円
- 原料費:20万円
こんな解決策は「おもしろくない」
ケース自体は単純な利益創出系です。大企業をテーマにしたケースであれば市場規模などより大きなところから入りますが、今回であれば、
- 利益=売上-コスト
- 売上=美容師の人数×一人あたりの客数×客単価
- コスト=家賃+人件費+原料費
これらの式を使い、売上をアップさせるか、あるいはコスト削減によって、現状から220万円の利益を創出する解決策を考えることになります。あなただったらこのような質問に対して、どのような打ち手を提言しますか?
下記は何人かの求職者に出題させていただいた際に実際にあった回答です。
「美容師一人当たり、原料費を頭数で差し引いても、56万円ほどの利益を捻出している計算ですので、美容師をあと4人雇いましょう。それで200万円の黒字です。」
「客をあと400人ほど増やす必要がありますね。。友達紹介キャンペーンなんかどうでしょうか?」
「家賃300万円が高すぎますね。家賃80万円以下のところに引っ越しましょう。それで200万円の黒字です。」
上記の3つは確かにロジックは通っているように感じます。ただ聞いていておもしろみがありません。なぜでしょうか?
それは計算さえできれば誰にでも出せる解決策だからです。クライアントが高いフィーを支払ってまでコンサルタントに期待する答えはそんなに単純なものではないはずです。
現役コンサルタントの言葉を借りると、「クライアントが抱える経営課題を見極められていない(そもそも経営課題を追求する姿勢がない)」、「打ち手に対する実現可能性が検証しきれていない(絵に描いた餅)」のですね。
新卒大学生のグループディスカッションであれば、実現可能性が多少低くても許されるかもしれません。しかし社会人経験のある求職者の中途採用面接であればそれではいけません。論理的でありながらビジネスとして具体的でなくてはいけないのです。
ケース面接で評価されるのは、クライアントの課題にどこまで迫れるか
一方でおっと思える解答もありました。
コストダウンの提案
家賃300万円というのは高いですね。これは銀座の一等地クラスの超好立地に店舗を構えているのでしょうか。
仮に銀座の一等地の1階だとすると、一坪あたり25万円くらいと聞いたことがありますから、12坪くらいの店舗でそのくらいの家賃になりそうです。
例えば家賃80万円以下のところに引っ越しができれば、確かに労せずして利益220万円増やせますが、まったく別の土地に引っ越してしまうとせっかくの固定客が離れてしまうリスクがあります。
そういえば同じ建物でも2階だと、その賃料は一気に5分の1(一坪5万円くらい)になると聞いたことがあるので、店舗を2階に移すだけで60万円くらいで借りられるかもしれません。付近で2階の貸店舗の空きを探せないでしょうか?
これであれば、同じ引越しでもすでに定着している固定客を離さずに家賃コストを下げることが出来るかもしれません。
売上アップの提案
次に客単価のアップについて考えてみます。美容院では、基本であるカットに加えて、カラー、パーマ、トリートメントなどのオプションがあります。
客単価が6000円ということであれば、カットはそれ以下の値段設定のはずです。4000円くらいでしょうか。カラーが5000円、パーマが10000円と仮定したとして、計算するとカラーを注文する客が20%(150人)、パーマは10%(75人)という仮説が立ちそうです。
- カットの売上:4000円×750人=300万円
- カラーの売上:5000円×150人=75万円
- パーマの売上:10000円×75人=75万円
直感的に考えてみて女性客が多いはずですから、少なくともカラーのオプションについてはもっと販売率を高められそうです。もしかしたらこの美容院の課題の1つは、オプションの提案力が弱いのかもしれません。オプションの販売率を高められないでしょうか?
具体的な目標数値としては、カラー客を60%(450人)、パーマ客を20%(150人)に引き上げることができれば、売上は225万円アップです。
原料費を考えればもう少し高い目標設定が必要ですが、あながち非現実的な数字でもなさそうです。
銀座一等地クラスの美容院の顧客セグメントとして、女性が9割(OL>主婦>学生)、男性が1割(サラリーマン>学生)と仮定します。カラー客を増やす打ち手として○○のセグメントに対して□□のアプローチを打ちましょう。パーマ客を増やす打ち手として△△のセグメントに対して××のアプローチを打ちましょう。
思考のフレームワークと熱意を表現する
いかがでしょうか?このような回答からは、限られたデータ、情報の中からクライアントの実態や抱えている課題に迫ろうとする思考のプロセスと分析力、そして熱意が見えてきます。
この熱意というのが実は重要なポイントです。コンサルタントはお客様ではないのです。クライアントの課題解決にクライアント以上に熱意を持って臨める人間性があるか。ともすれば実行まで責任を持たないと揶揄されるコンサルティング業界だからこそ、面接官は能力以上にその人物面をとてもよく見ています。
また最終的には絵に描いた餅ではなく、実現可能性のある具体的な打ち手を示しています。商圏を変えずに家賃を下げる方法を考え、またヘアスタイリングをもう一段オプション商品というところまでブレイクダウンして、顧客セグメントごとに売上向上施策を検討しています。
なお、このようにぱっと商圏やオプション商品という発想に至るためには、日頃から問題解決のフレームワークを自分なりに考える習慣が必要です。フレームワークというと3Cや4Pをイメージするかもしれませんが、それ以上に大切なのは自分なりに目の前の課題をロジックツリーで要素分解してみることです。タイトルに「戦略思考」などが入った書籍が参考になりますので、書店で探してみてください。
ケース対策に取り組んでいる方は、クライアントにおもしろくないと言われないようぜひ意識してみてください。
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今回の記事では、戦略コンサルティングファームの中途採用試験におけるケース面接の落とし穴をご紹介しました。
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