石川さんは新卒でIBMに就職。業務戦略コンサルタントとして、製造・小売・通信など様々な業界の業務改革プロジェクトにリーダーとして関わってきた。
任される仕事の幅も広がり、会社のメイン事業である人工知能を活用したプロジェクトにもアサインされる状況の中、30代を目前にコーチングの世界へ転身した。
コンサルタントの業務の中で何を感じ、なぜコーチングの世界へのキャリアチェンジに至ったのか。その背景を伺った。
着実にステップアップしたIBM業務戦略コンサルタント時代
―石川さんは新卒でIBMに就職されました。当時の就職活動について教えてください。
実は、就職活動の時期が来ても希望の進路が決まらず、考えあぐねる日々が続いていました。 コンサルファーム以外にも、自分が関われたら楽しそうだな、くらいの気持ちで出版社、メーカー、製薬会社、人材サービスなど幅広く受けていました。
今思い返すと、周囲にコンサタントとしてバリバリ働く先輩が多くいて輝いて見えたことが、最終的にコンサルタントの道を選んだ大きな決め手だったと思います。
コンサルタントの先輩たちは皆口をそろえて「仕事は忙しいが、『あなたが一緒にやってくれたから変化が起きた。ありがとう』と感謝されるのが嬉しい」と話していたことが印象に残っています。
その影響もあり、IBM(当時IBCS)に就職を決めました。
―IBMに就職されて、どのような業務を担当されていましたか。
IBM時代は業務改革コンサルタントという肩書きで働いていました。
業務効率化やITを活用したアナログ業務の効率化、また監査対応を兼ねた改善型の業務設計などが主な業務内容でした。
新卒から7年弱いたので、最後の方は人工知能を活用したプロジェクトなどにも携わることができ、会社のメインの事業に一通り触れることができました。
―コンサルタント時代に、苦労されたことはありますか。
比較的右脳型だったため、ロジカルな資料作りやデータ分析など左脳的に整理する力を身に付けなくてはいけませんでした。
しかし年々経験を積むことで、自然と苦手意識なくできるようはなれたかなと思います。
―新卒から着実にステップアップされていましたが、転職への意識はいつ頃からお持ちだったのでしょうか。
お客様とのプロジェクトを経て、徐々に自分がわかってきたという感じです。
全てが順風満帆だったわけではなく、どうしても事がスムーズに進まないプロジェクトも一定数ありました。
鶴の一声で始まり、うまくお客様の気持ちが乗っていない状態でプロジェクトが続いたり、お客様の本音にたどり着けず、後から「あの時はこうしたかった…」という気持ちを聞いたりなど、様々な体験をしました。
このようなプロジェクトを経験する中で、自分に不甲斐なさを感じるとともに、「関わる“人”が『〇〇を実現させたい。やり遂げたい』といった気持ちや、その時の関わり方こそがとても大切なのではないか?」ということを感じるようになっていきました。
自分の志向性を言語化した転職活動フェーズ
―どのように転職活動をスタートされたのでしょうか。
まずはエージェントの方はもちろん、コンサルを一度辞めた先輩など、多くの社外の方と話すことから始めました。
ただ同じタイミングで前職でも仕事の幅が広がり、ビッグデータ・人工知能のプロジェクトにもアサインされるなどバリバリ働いているところでしたので、進退に対してははっきり決めていませんでした。
―何か転職の意向を加速させるきっかけはありましたか。
当時担当していたチリの行政機関とのプロジェクトの影響は大きかったです。
お客様がこれまで漠然としていた「組織は何を実現したいのか?」「社会に対して与えたい影響とは何か?」などを丁寧に言語化し、これからのアクションを一緒に考えるという機会に恵まれました。
その際にとてもやりがいを感じ、心から楽しいと思っている自分に気がつきました。 これが大きなきっかけでした。
ただ、当時は「コーチング」という言葉を知らず、自分のやりたいことを言語化できていませんでした。
―どのように志向性を定め言語化していったのでしょうか。
転職を意識したタイミングで、以前から定期的に情報提供くださっていたAXISの担当の方に自分から連絡をとりました。
そこでいくつか企業や求人をご紹介いただく過程で、「コーチング」という言葉に出会いました。
伺ってすぐに大きな魅力を感じましたが、まずはそもそも何がやりたいのかを深堀するためにも、同時並行でいくつかの企業を調べながら受けることにしました。
数社の選考が進む過程で次第に、組織の根幹である「人」が、「自発的」に、「心から納得して」行動を起こしていくための力になりたいという思いが言語化されていきました。
そういう人が組織内に増えることは、もともとコンサルタントとして追求していた組織全体の成長にも確実につながると感じました。
並行して人事コンサルなども受けていましたが、関わり方が「制度」や「規則」にフォーカスしてしまう点にジレンマを感じました。
コーチングの方が、人が好きで右脳的な私の特性にも合っていたのだと思います。
―選考において苦労された点や意識されたポイントはありましたか。
意識していたのは、やはりたくさんの人と話すことでしょうか。
また採用面接の質問項目を想定し準備と練習を繰り返しました。
コーチ・エィの採用プロセスでは、面接の度に、プレゼンスや伝え方、話の内容などに関して具体的にフィードバックをもらいました。そのおかげで、面接での受け答えに関する意識が大きく変わりました。
それまでは焦ってしまうと「何を言うべきか」だけを意識してその場の流れで話してしまうこともありましたが、フィードバックを受けてから何をどのように伝えたら相手により伝わるか、にもアンテナを張ることができるようになりました。
コーチング領域へキャリアチェンジ後
―現在の業務内容を教えてください。
現在はいくつかの業務を掛け持ちして担当しています。
1対1のコーチと、クラスコーチと言われるクラス運営を行っています。
また、営業も兼ねており、案件の開拓や案件開始後のプロジェクト・マネージメントの役割も担っています。
―現在の職場に転職されて、環境はいかがですか。
まず、とにかく仕事内容が面白いです。
この先ずっと続けていきたいと思えるのは幸せですね。
コーチングというと1対1のイメージでしたが、入社して実際のプロジェクトに携わるようになって1対1を起点に組織全体を開発していくこと、チームでコーチするということの意味が分かるようになりました。
具体的な取り組みを上げると、例えばどの案件でも継続的に「クライアントの組織は、どうしたら目指す姿に近づいていけるか」について、プロジェクトに関わるコーチやリサーチャー全員が議論をしています。
議論を通じて、プロジェクトメンバー同士が「問い」を共有し、その「問い」をクライアント組織の経営陣やリーダーとのコーチングに落とし込んでいきます。
とは言え、完璧に確立した全ケースに通用する方法論があるわけではなく、悩ましいシーンも日々あります。
しかし、コーチ側がチーム一丸となってクライアントの組織に向き合うこのプロセスは新鮮で、私にとってとても刺激的です。
―一緒に働く方や職場の雰囲気はいかがですか。
人と話をするのが好きな集団といった感じでしょうか。
皆が「どうすれば気持ちよく働けるのか」を常に気にしています。
また、赤裸々にフィードバックをしあう文化があり、話し方など率直に思ったことを伝えて合っています。
今までなら即座に受け入れ辛いような指摘も「お互いにコーチとして成長する」という意識を共有しているため、無駄な軋轢を生まないのが働きやすい理由の一つではないかと思います。
私自身はストレスフルな場面や、緊張する場面でも「素」であり「本音」を出せるフラットな状態を保てるようになったという変化がありましたね。
相手への応対も変わってきたと感じます。
―異業種への転職に際し、元コンサルタントとして苦労したところはありますか。
コンサルを脱ぎ捨ててコーチになる、というプロセスが大変でした。
特に入社直後は「話を聞く」ということに苦労しました。
左脳的に論旨や言葉を捉えることを重視するコンサルの聞き方に比べて、コーチは表情や声の調子、言葉の間などを見ていくためキャッチする情報の範囲がとても広いです。
またコンサルのように、こちらから問題解決のための提案や情報提示をするのがゴールではなく、クライアント自身がコーチからの問いかけを通じて自身を見つめなおし、自ら意思決定をすることがゴールなので、どう関わるかが非常に重要です。
話の紆余曲折も含めて包括的に傾聴するとともに、私の「~するべき」と言った前提を押し付けないことが大切だと感じています。
現在も「ビデオを録画して見直す」「電話を録音する」などの鍛錬を継続していますが、相手から何を感じ取れているか、自分のコミュニケーションの癖は何か、を日々認識し、研ぎ澄ましていく必要があるなと感じています。
―最後に、転職をお考えの方に向けて、メッセージや展望をお願いします。
コンサルタント時代の話ですが、当時は業務の効率化を主軸にしていたので、同僚と「働けば働くほど自分の仕事がなくなるのでは?」と笑い話をしていました。
その延長線上で、ふと「自由に24時間使えるとしたら、何をしたいか?何に価値を感じるかとは何か?」を考えるようになりました。
この考え方は転職というキャリアチェンジの際、自分にとっての真の価値を探るために役立つ問いでした。
皆さんにとっても、「本当に本当のところ、何に時間を使いたいか?」は、キャリアの軸や人生の軸を考えるきっかけになるかもしれません。
個人の展望としては、少しでも早くエグゼクティブ・コーチになりたいですね。
また現在はまだ案件担当、プロジェクトマネジメント担当が主な役割なので、早くマネージャーになってく自らもチームを持ち、率いていけるコーチになれたらと考えています。
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