日立製作所100%出資のビジネスコンサルティング会社、日立コンサルティング。 今回は社会イノベーションコンサルティング本部ディレクター、滝口浩一様にアクシスコンサルティングの山尾康久、田畑孝、梅本昇平がインタビューしました。 文中の情報及びデータ等は2015年9月現在のものです。
人材輩出企業で学ぶ
山尾
はじめに滝口様のご経歴についてお聞かせください。
滝口様
社会人のスタートは、アンダーセンコンサルティングという外資系のコンサルティングファームでした。現在のアクセンチュアです。
チェンジマネジメントを推進するグループで、戦略立案や人事コンサルティングを手がかけていました。インダストリーはエネルギーや通信。あとは教育など。
通信はちょうど業界再編のときで、古いものがガラガラと入れ替わる時代。そのときにコンサルティングの経験を積んだことが今に生きています。
その後、ベンチャーに移りました。アンダーセン出身者がたくさんベンチャーを立ち上げていた時期でした。誘われてそのひとつに入りました。
成功も失敗もありつつドタバタと過ごしている中、今度はエクサージュ(日立コンサルティングの前身)に来ないかと誘われて、かなり早い時期に入社しました。社員番号は31番。今は両手で数えられる古株になりました。
田畑
元々、学生時代からコンサル業界を志望していたのですか?
滝口様
当時から経営には興味がありました。大学のゼミも、経済学部にいながら経営系のところに潜り込むような形で入っていましたから。
手っ取り早く経営の近くで仕事ができるのはどこだろう、と考えてコンサルかな、と。いくつか選択肢がある中で、一番自分のカラーに合うと感じたのがアンダーセンだったのです。
田畑
コンサルティングファームで経験を積んだあとにベンチャーに。このときはどのようなお気持ちだったのですか?
滝口様
当時のアンダーセンの社風はリクルートさんに近いものでした。学校というか、いずれは卒業する場所。
いつまでも在籍しているのは格好悪い。しっかり力をつけて外に飛び出そう。そんな会社だったのです。
私自身、経営に近い現場で実務をやりたいという気持ちがありました。いくつかオファーをいただく中で、大手よりはベンチャーだろう、と携帯系の事業会社を選びました。
この大根、20円?
山尾
その経験を、再びコンサルティング業界で活かす、という流れですね。
滝口様
「日立コンサルティング」ではなく「エクサージュ」という名前だったことからわかるように、当時はグループ会社ではあったものの、日立との関わりは薄いものでした。
完全にベンチャーという雰囲気で、従来のコンサルティング業務の枠組みにもとらわれない。
たとえば大手流通チェーンで、より地域密着を目指して個々の店舗ごとに情報を発信していくというプロジェクトがありました。ちょうどweb2.0という言葉が出回って、コンテンツマネジメントシステムにも新しい潮流が生まれた時期です。
なにしろ新しいことばかりだったので、次から次へといろいろな問題が持ち上がってくる。クライアント側の業務だと思われるようなことでも、とてもクライアントだけではカバーしきれない。
我々がそこで何をしていたかというと、会議室で「この大根20円でしたっけ?それとも21円?」と。当時の社長から「滝口さん、この会話、コンサルティングファームにふさわしくないですよ」と怒られました(笑)。
梅本
滝口様はエネルギー業界の専門家というイメージがありますが、小売業などにも携わっていたのですね。
滝口様
幅広くやっていました。コンテンツをどう配信していくか、というところに携わる機会が多く、その流れでアパレル企業さんともお仕事をしたことがあります。
エクサージュの頃はインダストリー別の組織ではなく、コンピテンシー単位でした。会社組織というよりは、コンサルタントのチームで動いていた時代でしたね。
環境問題は経済活動に落とさないと続かない
梅本
そのようなお仕事を経て、少しずつ滝口様の軸足をエネルギー領域に集中させてきたのだと思いますが、エネルギーに対して強い想いがあったのでしょうか?
滝口様
大学時代、主専攻は統計学でしたが、環境にも関心があり、環境経済を学んでいました。その流れの中で、エネルギーにも元々興味があったのです。ちょうどCO2やゴミ問題が騒がれた時期だったと思います。
当時から今に至るまで、一貫して考えていることなのですが、環境問題や持続可能な社会を作るというのはボランティアでは解決しません。きちんと経済活動の中に落とし込んでいかないと。企業が適正利潤をとって、その上で回していかないと永続的にならないのです。
アンダーセンでもエネルギー業界には関わっていました。システムの入れ替えでプロジェクトをマネジメントしたり、導入後の教育に関わったり。
今から振り返るとラッキーだったなと思うのですが、全体像を見ることができる場所にいました。加えて、システムを使う人たちと日々話すことができた。ここで、エネルギーという世界の勘所をつかむことができました。
そのような経緯もあって、日立コンサルティングでもエネルギー絡みの案件があったときに手を挙げて。それからかれこれ10年以上関わっています。
エネルギーの世界は幅広い
田畑
2012年に社会イノベーションコンサルティング本部が誕生しましたが、滝口様はそれ以前からエネルギー業界に関わっていたのですね。
滝口様
エネルギー業界は波があって、そのときどきで専門の部隊を用意したり、どこかのチームの下で動かしたり、という感じで進めていました。
ただ本部を設立するにあたって、これからのイノベーションの中軸のひとつになるのはやはりエネルギーだろう、と。
また、この時期には、日立製作所との役割分担が明確にできてきていました。それで、ではこちらにもエネルギー専門のチームをつくりましょう、ということになったのです。
梅本
当初は何名くらいのチームだったのですか?
滝口様
社会イノベーション全体で5、60名。エネルギー専門は7、8名くらいでした。現在は30名ほどになっています。それでも人はまったく足りていない状態です。
山尾
それだけ社会のニーズがあるということですね。エネルギー専門で30人というのは、かなり大規模だと思いますが。
滝口様
エネルギーの範囲は本当に幅広いのです。既存システムだけでも相当なボリュームがありますが、加えて我々のチームは、〝その次に来るもの〟を考えていく必要があります。
例えばマイクログリッド(既存の大規模発電所からの送電電力にほとんど依存せずに、エネルギー供給源と消費施設をもつ小規模なエネルギー・ネットワーク)。
先行しているアメリカやヨーロッパでも今ようやく実証実験が始まった段階です。
このような部分をきちんと追いかけていくのも、我々の重要な役目です。
構想策定からPMOまで
梅本
プロジェクトの規模・期間はどのくらいが多いのですか?
滝口様
様々ですが、現在は4、5人規模が多いですね。大きな案件になると日立製作所と一緒に動くことが多いので。
期間だと、長いものでは数年関わっているものもありますが、3ヶ月から6ヶ月のプロジェクトが平均的だと思います。
山尾
全体像を描く仕事が多いですか?
滝口様
そうですね。構想策定から入ることが多いです。
田畑
競合というとどこになりますか?
滝口様
採用のときにもよく聞かれるのですが、答えるのが難しい質問です。というのはエネルギー業界に向けてのコンサルティングを提供している会社がそもそも少ない。
システム構築を前提に上流までという話だと総合系ファームが競合です。システム構築だけだと国内システムインテグレーターが競合に入ってくることになりますが、どちらも正面からぶつかることはありません。
梅本
シンクタンクはいかがでしょう?
滝口様
競合というよりは協業の相手ですね。
田畑
構想だけでなく導入までみてほしい、というお話もありますか?
滝口様
もちろんあります。はじめからそれが見えているときは、日立製作所のメンバーと組んで一緒に進めていきます。
こういうときは、コンサルティングのフェーズが終わっても残ることが多いですね。我々は構想から業務まで理解している存在なので、マネジメント、PMOという形で引き続き参加します。
エネルギー業界のこれから
山尾
最近は電力の自由化など、業界再編の話が常に新聞紙上を賑わせています。滝口様は、今の状況をどのように見ていらっしゃいますか?
滝口様
何をしたいのか? というところですね。インフラの整備に関しては、日本の技術はすでに非常に高いところにあります。
少し前にスマートグリッドという言葉が流行りましたが、実は日本ほどスマートグリッド化している社会はありません。
震災のときに計画停電がありましたが、外国からしてみれば送電網をあの単位で制御できるなんてとても難しいことなのです。そのような状況下で、では次に何をやりますか? と。
山尾
なるほど。
滝口様
例えばエネルギーの効率化が挙げられます。発電してから消費者に届けられるまでにかなりのエネルギーをロスしているというのはご存知だと思います。
その解決法のひとつが発電の地域分散化。地域活性化の政策と絡めて発展させていく。そうなると電力会社も、地方一帯のすべてをまかなうという考え方から変わっていきます。
送電網だけは日本の誇りだからしっかり守る。一方発電については自由参入を促していこう、と。発電が自由化されれば、今度は小売の自由化が進んでいきます。
また電気とガスを分けて考えるのも、エネルギーの供給という観点で考えれば無駄があります。海外にはその両方を持つ企業もある。従来型のエネルギー企業だけでなく、新たな分野からいろんなサービスと一緒にエネルギーを提供する企業も入ってくる。
日本もそのようなスタイルを取り入れることで、新しいビジネスモデルが生まれていくと考えています。我々はその支援をしていきたい。
若手に次の章を担ってほしい
梅本
滝口様のチームはどのような雰囲気ですか?
滝口様
個々が独立していますね。役職に関係なく自立して動いています。それぞれの領域でやるべきことを深堀りしてやっています。
田畑
ほしい人材もやはりそのようなタイプですか?
滝口様
そうですね。探究心を持っている人がいいです。先ほどお話したようにエネルギーの領域は本当に幅広い。うちにも日々案件が入ってきますが、ピンポイントで当たる人間はそうそういるものではありません。
だから探究心を持って新しいことを吸収し、地頭を働かせて行動してくれればいい。そう考えています。
特に力を入れたいのはコンサルタントクラスです。20代後半ぐらいの方ですね。もちろんどこも若い人はほしいと思うのですが、うちは少し特別な事情があります。
これから5年間くらいは業界が大きく動くタイミングなのです。家庭向けの電力自由化が2016年4月から。ガスの小売りの自由化が2017年4月から。電力会社の分社化が2020年、ガスは2022年。
このタイミングで若手に入ってもらい、たくさんのことを学んでほしい。そして、その後の第2章、第3章を担ってほしいと思います。
山尾
メンバーのバックグラウンドはどのような感じですか?
滝口様
コンサル出身が半分くらいを占めます。あとは日立製作所からや、システムインテグレーター。不思議な経歴の人間もいますね。
やりきった気持ちよさを感じる
山尾
最近はワークライフバランスを考えるファームも増えてきましたね。
滝口様
本来は自分自身で考えるべきものだと思います。とはいえ、コンサルティングファームでは優秀な人間ほど忙しいプロジェクトに投入されるので、そこはマネジメントしてあげないと疲弊してしまう。ローテーションさせることは意識しています。
ただ私もずいぶん長くこの業界で働いてきましたが、本当のピークはせいぜい1、2ヶ月なのですよね。ダラダラ仕事をするという感覚はうちのメンバーには全くありませんし、上の人間より早く帰ることに抵抗もありません。私も残れなんて言いませんし、言ったところで気にもしないでしょうね(笑)。
休めるときにはしっかり休む。長期休暇もきちんと取る。一方で、瞬間的に負荷が上がるときには踏ん張れ、やりきれ、と。そういう発想でやっています。
そのほうが本人にとっても楽しいと思うのです。やりきったという気持ちよさをぜひ感じてほしい。そのほうがプライベートも充実します。
田畑
滝口様はどのようなプライベートをお過ごしですか?
滝口様
けっこう多趣味ですが、平日はお酒を飲んでいますね。ウイスキーをストレートで。最近流行ってしまって少し困っているのですけど。
いくつか行きつけのバーがあって、そこで出会った方々と語り合うのが好きです。
あとはカメラも好きです。こういう取材の場になると、まずカメラを見て、次にレンズを見て、「ふーん、そうか」と(笑)。
あと意外なところでは、社交ダンスをしていました。今は年に2、3回ほどですが、踊ったりしています。