先新のテクノロジーと世界各国で蓄積された知見を駆使し、クライアントを支援し続ける日本IBM。 今回はグローバル・ビジネス・サービス事業 組織・人財変革コンサルティング シニア・マネージング・コンサルタント 長谷川 まや 様にアクシスコンサルティングの荒木田誠と洲脇豪人がインタビューしました。 文中の情報及びデータ等は2017年5月現在のものです。
SEから組織・人財領域へ
荒木田
まず長谷川様のご経歴からお聞かせください。
長谷川様
新卒で日本IBMに入社し、銀行担当のSEとしてキャリアをスタートしました。IT業界全体が、大型のコンピューターから分散型コンピューティングにシフトしている時期で、日本IBMでもハードウェア中心のビジネスからサービス事業に軸足を移そうとしていました。新入社員研修では、当時ほとんど技術者がいないUNIXを担当するSEとして育成され、配属先も入社後間もなくサービス事業を担当する組織に異動となりました。インターネットの活用も加速している時期で、システム構築を担当するエンジニアとして、多くのチャレンジングなプロジェクトを経験することができました。
荒木田
まさにハードのIBMからサービスのIBMの転換期だったのですね。
その後、どのようなタイミングで職種が切り替わっていったのですか?
長谷川様
大規模なシステム構築を担当する中で、よりお客様との接点が多い仕事をやりたいという気持ちが強まってまいりました。IBMの技術を広くお客様に伝えていく研修部門に移り、自分自身の専門分野の研修カリキュラムを担当させて頂く機会を得ました。これが、人材育成に関わるようになったきっかけです。
荒木田
その仕事の延長線上として、キャリアがつながっていったのですね。
長谷川様
e-learningという学習形態が出てきたときに、IBMは人が学習する方法が大きく変わるというビジョンを打ち出しました。グローバルにラーニング・サービス事業部が設立され、私自身はコンサルタントの役割を担当するようになりました。その後、2002年にIBMがPwCコンサルティングを買収して設立されたIBMビジネス・コンサルティング・サービスに合流し、組織・人財領域のコンサルタントしてのキャリアが始まりました。
人財開発のIBM
荒木田
ではそれ以来、人材育成・開発からスタートして、人事組織系のコンサルタントとして
15年くらいになるんですね。
人事組織のコンサルタントというのも流行りとか移り変わりが出てくると思うのですが、15年前とここ数年のところの、御社の人事組織のコンサルティングで増えてきた領域や、IBMならではのテクノロジーを使ったコンサルティングなどはどのようなものがあるのでしょうか。
長谷川様
IBMには創業者理念として「教育に飽和点はない」「Think」といった標語があり、人を育成するDNAが脈々と続いていると感じます。経営や技術の持続性という観点でも、ビジネスリーダー、テクニカルリーダーを育成するための仕組みがあり、現CEOのジニー・ロメッティ自身もThink Academyという全世界共通の学習プラットフォームを主催しています。
世界中40万人近いの社員に向けて、月に1回、IBMの戦略や最新のテクノロジーに関する共通のプログラムが配信され、全社員が年間を通して、最低でも40時間学習に時間を費やすことが推奨されています。これをThink40と呼び、Your Learningという個人別にカスタマイズされたシステムから、自らのキャリア開発や短期的な業務目標を達成するために必要な研修やコンテンツに申し込むことができます。
洲脇
IBM自体がグローバルで自分たちがやっている内容をお客様に説得力をもって提供されていたのですね。
長谷川様
IBMが20年前にグローバル共通プログラムとして開発した管理職育成プログラムは、e-learning と集合研修と職場での経験を組み合わせた包括的なアプローチで、時間もコストも削減しながら学習効率を大幅に向上させました。外部機関からも高く評価いただき、このプログラムを自社でも導入したいという企業からの要望を受けて、お客様向けプログラムも開発されました。現在も、グローバルに事業展開を推進されている日本企業様にご活用いただいていて、国内だけでも数万人の受講実績がございます。
最近では、30年以上にわたるリーダー育成に関する調査結果と膨大な人材データーベースから、複雑かつ変化の早い環境下で成果をあげるリーダーの特性を定義し、その要件に基づくアセスメント・プログラムも開発されました。一人ひとりの個人特性や現在の発揮能力を元に、アセスメント対象者がコンサルタントと共に個別育成計画を策定いただきます。
洲脇
外部のコンサルタントとしては、お客様のグローバル化をどのようにお手伝いするのですか?
長谷川様
IBMがGIE(Global Integrated Enterprise)というグローバル戦略を打ち出し、世界で1つの会社となることが標榜していることから、日本企業のグローバル化を人事・組織の面から変革することを支援しています。まずは、海外含めたグループ会社全体で人材の見える化ができていないケースが多くございます。グローバル共通の物差しを定義し、人材管理できるようになれば、後継者管理や戦略的人材配置、体系的な能力開発が可能になります。人材管理を行ううえでは、目標管理や業績管理の仕組みを共通化することも必要となり、制度、運用の仕組み、システムと包括的に支援しています。
Watson×HR
荒木田
御社の強みでもある様々なテクノロジーと人事組織系の関わり方は、一番イメージがつきにくい領域かと思うのですが。
長谷川様
システムに直接かかわらない案件も多いのですが、昨今は、IBMが注力しているCognitiveとCloudを活用した案件や引き合いが増えています。たとえば、採用であれば、膨大な候補者の中から、その企業で定着し活躍する可能性の高い人をリストアップしたり、特定のポジションへの適合度を示すことが可能になっています。事前アセスメントの結果から、面接時に、面接官の手元にその候補者が定着する可能性や特定ポジションへの適合度、面接で確認すべき点を示すことで、属人的になりがちな評価のばらつきを抑えることができます。獲得したい候補者に対して、個人の特性に合わせた会話ができるので、候補者からも「結構私のことを理解してくれているな」「この職種ならやっていけそうだな」という印象を持ってもらうことも期待しています。
荒木田
日本でもすでにはじまっているのですか。
長谷川様
すでに導入が始まっています。データが蓄積され効果が検証されるまで、しばらく時間はかかると思いますが、データの収集・蓄積・分析の高度化と、早く始めたお客様から成果が出ています。
荒木田
職務経歴書って、ものすごい自然言語のかたまりなので、そこから見いだすのは人間の目だと大変ですものね。
長谷川様
そうですね。
日本語の解析精度をどこまで高められるか、という点が日本IBM自身のチャレンジでもあり、現在まさに投資して取り組んでいるところです。
入社後の育成機関「IbD」とは
洲脇
今年500名規模の経験者採用を実施すると伺っていますが、長谷川様はこの採用推進するための組織IbDにも現場の立場から関わっておられますよね。まずIbDが、そもそもどういう組織で何のために作られたかっていうのをマーケットの方々にお知らせしたいと思うのですが。
長谷川様
IbDはIBMers by Degreeの略です。IBMではIBM社員のことをIBMerと呼んでおりますが、入社した方が徐々にIBM社員らしくなり、IBM社員として早期にご活躍いただくための支援を行う組織になります。また、入社後に現場で活躍できる人材を採用するために、採用プロセスにも直接関わっていきます。
荒木田
IbDに携わっている方は、現場の方が入られていると伺ったのですが、それはなぜなのですか?
長谷川様
元々IBMは人材管理が現場に権限委譲されていて、現場で活躍できる方を現場で採用し、現場で育成しています。今回、採用数を大幅に増やしてもこの思想はかわりません。私自身も現業を持ちながらIbDの組織も受け持っております。
洲脇
中途入社の方は、全員一旦IbDに入るのですか?
長谷川様
コンサルタントからシニアマネージャークラスの方は、原則全員、6ヶ月間の配属となります。
荒木田
入社する方から見て、IbDを経て得られるメリットというのはどういうものがあるのでしょうか。
長谷川様
配属先での仕事を通して、IBMでの仕事のやり方に慣れて頂くことが一番良いとは思うのですが、たとえば上司が遠方の案件に入っていて直接会う機会が限られていたり、配属先組織で従来の業務を抱えていて、どうしても新しく入ってきたメンバーのサポートがしきれていないケースがあります。
これからご入社頂く方は、現場の仕事は従来通り配属先でアサインしながらも、IbDというコミュニティに入っていただくことによって、本来の所属長が見切れないところをサポートできますし、IbDの中で同時期に入社された社員同士がネットワークを構築し、情報交換したり、協業することが可能になります。現在のIBMは一つの技術、一つの職種でお客様に価値を届けることが難しくなってきていますので、色々な職種・組織のメンバーとネットワークができるという点はすごくメリットになると思います。
加えて、入社後のトレーニングも強化しておりまして、これまで三日間だったものを十日間に延長し、IBMで活躍するためのマインドセットの醸成と、ご自身で仕事に必要な知識やスキルをキャッチアップしていくための土台を形成しています。荒木田
よく同業他社さんの場合、同様のことは専門性を持たない若手の方だけに適応されているケースがあります。御社の場合は専門性が高い方マネージャークラスのような方もIbDに入ってくるとのことですが、それは組織に馴染む期間が6カ月用意されたということなのでしょうか。
長谷川様
そうですね。
等級が高くなると多様な人材を取りまとめて案件やプロジェクトをリードする必要があるので、いくら専門領域があってもIBMの中での立ち振る舞い方を身に付けるまで、苦労される方もいらっしゃいます。
荒木田
確かに、入社後に慣れる期間があるのはとても良いですね。
マネージャー以上で同業から同業に移られる方は、まず人間関係がないところで苦労される方が多いみたいですし。
長谷川様
そうですね。
お客様の課題に対してIBMならではのプロジェクト案件を創出していかなければいけないからこそ、社内ネットワークを作る機会を増やす必要性はあります。
ですので、入社して最初の十日間だけでなく、定期的にプログラムを提供していきたいと考えています。様々な専門家との交流を通して、益々中途入社される方のお力になれると考えています。
洲脇
ちなみに、その十日間の研修で今までやっていなかった特徴的なプログラムは何かあるのでしょうか。
例えばIBMの商品、Watson等を学ぶ機会はあるのでしょうか。
長谷川様
おっしゃる通りです。
たとえば、ディスカバーIBMと呼んでいるのですが、IBMの製品・ソリューションを学ぶだけでなく、IBMの一つの提供価値の一つでもあるIBMが事業会社として自ら経験してきた失敗や苦労、変革の経験値を学んでいただき、お客様に説明できるようになっていただきます。
また、最新のプロジェクト事例を学びながら、「あなたがそのお客様を担当するとしたら、IBMソリューションを活用して何を提案するか?」というようなケーススタディも用意されております。知るだけでなく体験できるように工夫していて、基礎研究所の研究者によるWatsonの最新デモや、Watsonのハンズオン演習も取り入れました。開発経験のない事業会社や戦略コンサル出身の方にも、テクノロジーを活用することを経験することで、説得力のあるコンサルティングができると考えています。
荒木田
そうなると、同業他社では一番の研修体制でしょうね。
非常に魅力的だと思います。
他のコンサルティングファームさんですと、若手を採用するのはいいけど、採用するとすぐにチャージがあがってしまうから採用に積極的になれないみたいなところがあって、ある会社は第二新卒や若手は、入社三カ月は稼働を見なくてよいというサポートをしているようなのですが、そのような考慮はあったりするのでしょうか。
長谷川様
はい。そのような考慮はしています。
現場からみると明日のプロジェクトの要員確保に困ったら人を採用しようという意識になりがちで、採用判断に躊躇している間に他社にいってしまうケースもありました。IbDでは6ヶ月間の中でプロジェクトを経験しながら最終的な配属先を決めるポテンシャル採用も進めていますし、現場が新しいメンバーをアサインしやすい工夫もしています。
0から1を生み出すことができる方に来ていただきたい
洲脇
あとは、御社はマーケットメーカーという観点からメッセージを出していますが、Cognitive時代のIBMというところで、会社として社員に何を求めているのでしょうか。
長谷川様
すべてのお客様、案件においてCognitiveなどの新しい技術の適用を検討するよう求められています。これはお客様の期待でもあります。経営とテクノロジーが切り離せない時代だからこそ、どのような職種にもテクノロジーを活用してお客様を支援していくことが求められます。
洲脇
それぞれの方が持っている専門性に加えて、Cognitiveも併せたサービスを考えられるようなスキル・マインドが求められているということなのですね。
長谷川様
IbDでは、0から1を生み出すことができる方に来ていただきたいと考えています。
Cognitiveを使うことによって、今までの世の中ではできなかったことが出来るようになるのではないか、という視点は必要ですね。今後、無限の可能性があることで、それをお客様だけで考えるのは難しいし、IBMがお客様と一緒になって考えることで生み出していきたい、そういうことを楽しめるような方に是非来て頂きたいと考えております。