「“100年後の世界を良くする会社”を増やす」を経営理念に、中堅中小・ベンチャー企業を中心にコンサルティングを提供するリブ・コンサルティング。今回はリブ・コンサルティング・コリアのGBI事業部 事業本部長 香月義嗣様にアクシスコンサルティングの梅本昇平がインタビューしました。
文中の情報及びデータ等は2016年2月現在のものです。
入社後わずか1年半で韓国へ。韓国の大手企業へ日本のノウハウを伝える。
梅本
まずは、香月様のご経歴からお伺いします。
香月様
大学院を卒業し、大手経営コンサルティング会社に入社しました。入社して1年半で韓国事業部の立ち上げのため韓国へ行き、2006年頃から韓国の大企業向けにコンサルティングをおこないました。
当時は日系大手自動車メーカーの人材育成プログラムを作っていました。日本で培ったノウハウを韓国でも勉強したいというニーズがあったため、韓国市場に入れたのだと思います。
主に伝えていたことは営業手法です。しっかりとした提案をしたうえで信頼関係を深めていく日本の営業ノウハウを韓国の大手企業に伝えました。韓国のトップ企業が興味を持ってくれたおかげで、多くの企業から声が掛かるようになりました。
そのメンバーで2012年、リブ・コンサルティングに参画しました。せっかく日本人が韓国で働いているのだからということで、2011年頃から日系企業へのコンサルティングも開始しました。今は日系企業4割、韓国企業6割ぐらいの割合でしょうか。
梅本
韓国では具体的にどのような課題があったのでしょうか?
香月様
当時の韓国では一人あたりの売上が日本と比べて非常に低く、それを労働量でカバーしようとしていました。残業時間が長いことは国家的な問題で、それを質の向上により改善しようという動きがありました。
この生産性向上という動きに興味を持ったことが大きかったと思います。クライアントは、今は大手企業から中堅に移り、10〜30位くらいまでの韓国の製薬業界が主なお客様です。
製薬業界は利益率が高いので投資ができますし、オーナー企業なので、経営者がいいと思えば使ってくれるという特徴があります。
韓国の課題は20年前の日本と同じ。情報格差が生かせる。
梅本
リブ・コンサルティングのなかにおける韓国オフィスの役割はどのようなものでしょうか?
香月様
会社として、全体の20%をグローバルで稼ごうという動きがあり、その一番手が韓国オフィスです。日本が今後縮小傾向にあるなかで、日本の20年前と同じような課題を韓国が抱えているため、その情報格差を生かせることが大きいですね。
逆に、韓国で培ったノウハウを日本に持ってくることもできます。当社では、日本と韓国でターゲットが違い、韓国でコンサルティングしている大手企業や製薬業界のクライアントは日本では韓国ほど多くはありません。今後は韓国での製薬業界のノウハウを日本に持ってくる動きもありえますし、情報交換は実際に始まっています。
梅本
韓国の市場はどのような状況なのでしょうか?
香月様
日本を1960年スタートに、韓国を1980年スタートにしてGDP成長率をグラフにすると、全く同じように落ちてきており、日本と同じように0%成長になると言われています。
梅本
日本と比較して、韓国企業ならではのテーマはありますか?
香月様
最近、韓国でもベスト5に入るくらいの大きなマートの生産性向上プロジェクトを担当しました。販売員の数が多いうえ、生産性が上がらないという問題がありました。そこで同じ売上でも利益が上がるように販売員の数を効率化しました。
実施したことはシンプルでアルバイト販売員の業務標準化です。販売員のための行動マニュアルなどを詳細に作り、それを浸透させて品質を一定水準に高めてから配置転換をして人を減らしました。
これまでその企業は売上のみを見て、利益は見ていませんでした。この「確実に利益を出そう」という視点が非常に先進的で、実行後は、売上が変わらず利益が約1.5倍になりました。
梅本
今の動きとしては売上よりも利益を重視している企業が多くなってきたということですね。
香月様
2年前に韓国の大手企業から効率化したいということで、先進的な仕事の仕方をテーマに講演をしてくださいと言われました。仕事の仕方に注目して、効率化を図って利益を出そうという動きがここ2~3年出てきています。特に日本をベンチマーキングしている企業は反応しますね。
今、韓国で一番発行部数が多い新聞にコラムを書いていて、「韓国企業よ、ここを直せ」ということを3点ほど書くことになったのです。本当はそんなつもりではなく、2時間のインタビューのなかで、そういうことを言った20分のみ取りあげられたのですが(笑)。
8割の人には嫌悪感を持たれたと思いますが、2割の危機感を持っている優秀な経営者からは評価されて連絡もらうことがあります。意識が変わりつつある企業は考え始めていますね。
梅本
クライアントへは御社から営業をかけていくのでしょうか? それとも新聞やメディアを通しての問い合わせの比率が多いですか?
香月様
クライアントからの紹介、セミナーとそれ以外でそれぞれ1/3ずつ程度ですね。
どう見せるのが一番効果的か? 入社したメンバーをプロデュース。
梅本
韓国オフィスと国内のオフィスを比較して、雰囲気の違いはありますか?
香月様
韓国オフィスも日本と同じように、大手電機メーカーや大手コンサルティングファームなど著名な企業がたくさん入っている有名なビルに入っています。
そこにオフィスを移してから自分たちもそういったポジションで働いているという感覚は持っています。昔は日本からどんどんノウハウをもらうスタンスでしたが、この3年で韓国流にローカライズして、クライアント開拓をするという動きに変化しています。
また、日本では既にある程度確立した事業で動いているメンバーと新しい事業をつくっていくメンバーが分かれていますが、韓国は全員が貪欲に動くというところが違うと思います。
韓国では入社したメンバーにどこの業界で何を売ってもらうのか、その人のバックグラウンドと強みからどのように見せるのが一番効果的か、と考えています。プロデュースに近い感覚です。
例えば、東大の政治経済の博士課程を持つ韓国人が入社したときには、どうすれば彼の価値を発揮できて、韓国社会のためになるのかを考え、韓国の日系企業の社長向けに「韓国人と日本人との違い」や「マネジメントするならどこに気をつけるべきか」をテーマにセミナー講師をしてもらいました。その結果、大絶賛され、信頼関係ができ、相談を受けるというポジションを得ることができました。入社するメンバーによってビジネスをどう動かすかを考えるフェーズなのです。
梅本
一人ひとりのブランディングも考えながらプロジェクトのアサインなどに取り組まれているのですね。
日本のほうでも韓国の経済の情勢があまりよくないというニュースを見かけますが、現地でもそのような雰囲気はありますか?
香月様
そうですね。そのなかで事業を作らなければならないので、セグメンテーション(市場細分化)して、ターゲットを決めて、愚直にやっています。
次はどの国に行こうか。アジアで活躍するチャンスは多数ある。
香月様
リブ・コンサルティングは今後アジアを攻めていこうとしています。既に、欧米式とは違う日本のコンサルティングを韓国やタイなどそれぞれの国に合う形で持って行き、成功しています。次はどの国に行こうかと考えるのも楽しみですね。
梅本
本社から韓国オフィスへの異動はあるのでしょうか?
香月様
今後の可能性はあります。日本で培ったノウハウが生かせるビジネスチャンスが韓国にあればどんどん行きます。
また、韓国メンバーや海外で活躍しているメンバーが他の国の立ち上げに関わってくることは出てくると思います。特にアジア圏ですね。代表の関は数年に1カ国進出しようと考えているようです。
最近は韓国で支援した日系企業のキーマンが日本に戻ったときに、日本のコンサルティングの仕事を依頼してくれたり、タイの会社を紹介してくれたり、ということもあります。
韓国で満足度が高かった仕事が他にもいい影響を与えているのが面白いです。日本では出会えないような企業と私たちが韓国で出会って紹介してもらう構造があります。
梅本
お忙しいと思いますが、プライベートやワークライフバランスについてもお伺いできますか?
香月様
マラソンが趣味です。毎朝近くに住む日本人で集まり、川辺を朝6時〜7時まで走って、シャワーを浴びて7時半には会社に行くという生活をしています。ストレス発散にもなりますし、人脈作りにもなっています。ソウル国際マラソンにも出る予定です。
梅本
本格的にされているのですね。
香月様
ダイエットの延長みたいなものです。一緒にマラソンをしている人が45人ほどいるのですが、一番速い方が大手タイヤメーカーの社長だったり、大手スポーツメーカーの理事もいたりします。そこから仕事をいただいたり、相談を受けて仕事をしたりもします。
元々は3年くらい前に社長仲間で飲んでいる拍子に「ちょっとフルマラソン出るか」という話になり、3~4人で毎週日曜日に走り出したのです。今では日曜日に20〜30kmは走らないと気持ち悪いです。
梅本
ダイエットとはいえ、ストイックですね。
香月様
ストイックな人に引っ張られています。弊社では社内駅伝があるのですが、そちらでは成果が出ていません(笑)。
しかし、いつか韓国で企業対抗の駅伝大会をしたいと思っています。そこからチームワークを学ぶという建前で。駅伝という文化は韓国にないので、大会を始めて「『駅伝』という言葉を広めたのは俺だぞ」と言いたいですね。
グローバルで働くには言葉プラス何かを掛け算する必要がある。
梅本
香月様のように活躍したいと考えている方は多いと思うのですが、何かアドバイスがあったらお願いします。
香月様
日本は様々な課題が世界に先駆けて出てきており、課題先進国と言われています。日本で生産性を高める仕組みを作り、ノウハウを培うことは、かなり先進的な動きになるのです。
日本で仕事をするなかで努力し続け、考え方やノウハウを積んでおけば、日本のみならずアジアで活躍する機会も多いと思います。
韓国語は話せなくても言語以外の部分で重宝されるので、仕事が成り立ちますし、その価値を実感できるのがグローバルの面白さです。
オンリーワンにもなりやすいですね。日本でコンサルタントをしていたら、何万人といるコンサルタントのうちの1人かもしれませんが、韓国でコンサルタントをしている日本人は数人しかいないので。
言語はあくまでツールで、グローバルで働くには言葉プラス何かを掛け算する必要があります。何を掛け算するのかと、日本の強みをどう海外の市場でビジネス化するかを考える、海外のニーズとのマッチング能力やプロディース能力が特に重要だと思います。
日本で働くということはその強みをしっかりと強化することだと思うのです。なかなか海外のニーズまでわからないという場合は、まずは自分磨きだと思います。商品が自分で、自分自身を売るのは面白いところですね。
「ドウハウ=どうやったらうまくいくか」を真剣に考えてぶつかる。
香月様
コンサルティング業界はその価値自体が10年前から変わってきていると実感しています。
昔はフレームワークさえ知っていれば、ある程度仕事ができたかもしれませんが、今は一般書籍で読めますし、ネットで調べれば何でもわかる時代です。
従って、コンサルタントはプラスαでどのような価値を提供できるかに挑まなくてはなりませんし、常にクライアントの一歩も二歩も先に行って価値を提供する姿勢が必要です。
韓国では日本から来たコンサルティング会社は、情報やノウハウ以外に、「ドウハウ=どうやったらうまくいくか」を真剣に考えてぶつからないといけません。
勉強するというよりは、クライアントの立場になって、可能であれば一緒に働いて売上まであげるくらいの気概です。
今の仕事や場面でどれだけ成果を出すかということにチャレンジする感覚がないまま、学ぶためや格好のみで入ってくるのは意味がないと感じます。
私たち場合、口コミが大きいので1回でも失敗があると全部駄目になってしまいます。コンサルタントとして働くためには、成果にコミットしていくことが大前提ではないでしょうか。