世界最大級のプロフェッショナルサービスネットワークの一員で、M&Aや事業再生・再編などを支援するPwCアドバイザリー合同会社。 今回はディールズストラテジーチームのリードパートナーである青木義則様にアクシスコンサルティングの山尾康久と坂本健太がインタビューしました。 文中の情報及びデータ等は2016年4月現在のものです。
技術は使われてこそ意味がある。技術を事業につなげることに興味があった。
山尾
まずは青木様のご経歴からお伺いします
青木様
私は大学・大学院でコンピュータ・サイエンスを学んだ後、新卒で大手IT企業に入社し、6年程、研究職をしていました。
自分で研究・開発した技術について論文発表や特許取得などもしていましたが、技術は使われてこそ意味があると考えていましたので、技術を事業につなげることに興味を持っていました。
そのような想いから、研究者時代も自分のアイディアを実証するためのプロトタイプを製作し、実用化するために事業部の方に自ら売り込んだりしていたのですが、ビジネスのことを知らないために、空回りをしているような感覚もありました。
ビジネスのことをより深く知りたいと考えていたときに、たまたまコンサルティング業界のことを知る機会があり、ビジネスについても学ぶことができると思ったため、コンサルティングの世界に転じることにしました。
そこで外資系の戦略コンサルティングファームに転職し、幅広い業界のクライアント企業に対して、成長戦略や事業戦略、M&A、事業再生など、多様なテーマでプロジェクトに取り組むことができました。
その後、今度は独立系の投資会社へ転職。未公開企業への投資や企業への投資、M&Aや投資先企業と大手企業が協業する際のアライアンス支援を担当していました。その後、PwCに入社したという流れです。
PwCに入社した理由は、戦略の知見と投資の知見の両方を活かして仕事をする場として考えたときに、チャレンジングな機会が多そうで楽しそうだと感じたからです。
PwCアドバイザリーでは、M&Aや事業再生、PPP(官民パートナーシップ)に関するサービス提供をおこなっており、それぞれに必要な専門性を持ったチームを擁しています。
加えて、PwCコンサルティングやPwCあらた監査法人、PwC税理士法人、PwC弁護士法人などとも協力しながら、総合力を活かして難易度の高い複雑な案件に取り組んでいます。ですので、これまでの戦略ファームとは違った、新しいサービスができると思いました。
元々研究者であったこともあり、新しい領域やフロンティアに興味があります。戦略の知見を武器にもう少し新しい領域を切り開きたいという想いから入社を決めました。
何のためのM&Aか? 最初に議論すべきポイントから関わる。
坂本
御社全体のお話や、ディールズストラテジーの方向性、ビジョンについてお聞かせいただけますか?
青木様
M&Aに関しては、かなり日本の企業にも根付きつつあり、お客様の悩みも高度化してきています。その中でM&Aディールを戦略的に使うことはとても重要な経営手法だと言えるでしょう。
その際に、最初に議論すべきポイント、何のためにM&Aをするのか? 本当に必要なのか?というところからサポートしていかなければ、本当に良いM&Aディールを成功させることは難しいと思います。
私たちの仕事は、まさにその最初の部分を支援するものです。事業拡大のために、シュリンクしていく国内に留まらず海外に出ていくことや、環境変化、競争激化など様々な要因に対し、お客様が変革のための戦略を考える場面に入っていきます。
山尾
御社にはPwCコンサルティングにもストラテジーコンサルティングのチーム(Strategy&)がありますが、そことの違いはどこにあるのでしょうか?
青木様
我々のチームがフォーカスするのは、M&Aディールにつながる戦略課題です。例えば非連続なレベルでの成長を目指されている状況での成長戦略や、海外市場への参入を垂直立ち上げしたい場合、中期的に資本提携が視野に入りそうな企業同士のメガアライアンスなど、ベンチャー企業への投資が想定される新規事業開発など、戦略実現のためにM&Aが必要とされるような状況での戦略立案に注力しています。
また、M&Aディールが動き出せばビジネス・デューデリジェンスを実施しますし、M&A実施後に事業シナジーを実現するためのサポートまで一気通貫でサポートさせて頂きます。
M&A案件というのは相手(M&A対象会社)があることなので、突然タスクが発生するということもあります。逆に、当初想定していた時間軸よりも、交渉に時間がかかることもありますし、時間に対するフレキシビリティが必要なことも、我々のチームの特徴的なところかもしれません。
そのために、FA業務や財務DD、税務DD、バリュエーションなどを提供する他のチームと情報交換や連携を密にしながら動かなければなりません。そこが一番大きな違いだと思います。
山尾
戦略立案のアプローチにも何か特徴はあるのでしょうか?
青木様
M&A戦略の場合は、相手がある中で戦略を立てなければならないため、自分たちでコントロールできない不確実なファクターを考慮しながら動く必要があります。
ゲーム理論的と言いますか、相手がどう動くかを読みながら進めていく部分が特徴的でしょうか。ある会社を買いたいと思ったときに、まず会社の状況を調べてみる。そうすると、どう考えても売却されることが見込めなさそうな会社と可能性がありそうな会社が見えてくるのですが、その肌感覚を持つことが必要です。
また、M&Aディールを起こしていく局面では、様々なステークホルダーがいる中で、相手を上手く巻き込みながら進めていく能力や、まとめていくなど人間くさい部分も重要になってきます。
強みは世界最大級の総合力とクロスボーダー案件数No.1の実績。
坂本
コンペになる企業もあると思いますが、どのように差別化を図られていますか?
青木様
テーマによって、戦略系ファームがコンペになることもありますし、BIG4系がコンペになることもあります。
私自身が戦略系ファーム出身なのでよくわかりますが、戦略系ファームは自分たちが得意な領域でエッジを立てています。
一方で、我々は必要に応じて他チームの専門家と共同でチームを組んで進めますので、周辺の部分までカバーできるところが差別化できるポイントです。
総合ファームならではのサービスの幅の広さがあり、一気通貫でできることは大きなメリットではないでしょうか。様々な会社に依頼するとお客様自身でまとめなければならない部分が多くなります。
また、クロスボーダー系の案件ですが、PwCのグローバルネットワークが強みとなります。PwCでは、世界中でオフィスがない国を探すのが難しいぐらいの状況です。対象企業の国にローカルなチームがあるかないかで、情報の取り方も違いますし、大きな差が出てきますよね。
昨年、日本のM&Aのリーグテーブルで、一番クロスボーダー案件を手がけていたのはPwCだったという事実があります(CY2015 THOMSONリーグテーブルより)。
実際依頼が来る案件は、クロスボーダーが非常に多いです。現地のファームやメンバーファームと共同で動くこともありますし、クロスボーダーの対応力に関しては非常に強いと思います。
また、ディールズストラテジーのチームはまだまだ新しいチームで、様々なバックボーンを持ったメンバーがいます。戦略コンサルタントとして長く活躍してきた人や、投資銀行でファイナンスやトランザクションを経験している人、事業会社でM&A担当として活躍してきた人など。
それぞれの分野で専門性を磨いてきた、普通であれば交わらない人間が集まってチームを作っているため、多様性やメンバーの幅広さがあります。
外国出身のメンバーも多く、PwCアドバイザリーだけでも10ヵ国以上の国々からのメンバーが集まっています。グローバル案件ではその国の出身者がいると、初期的な仮説がすぐに立てられるというメリットもあります。
組織再編でより連携がスムーズに。
坂本
PwC全体では統合や再編など組織としても動きがありましたが、変化を感じる部分はありますか?
青木様
統合・再編の前からグループ内の様々な法人とジョイントでプロジェクトを組んでいましたし、基本的には大きく変わっていないと思います。
マーバルパートナーズとの経営統合に関しては、これまではオフィスが別々で物理的に離れていたのですが、オフィスも会社も一緒になって、情報交換もしやすく、仕事がやりやすくなりました。
旧マーバルパートナーズのメンバーも、他チームのメンバーとの交流が増え、現場レベルでも、マネージャー同士がお互いのことをよく知るようになってきています。
世間を賑わせているような大規模な案件を担当できる。
山尾
では、御社で働くメリットとデメリットについてお聞かせいただけますでしょうか?
青木様
メリットは「スキルの幅を広げたい」「チャレンジングな案件に関わってみたい」と思っている方には面白い職場だというところです。私自身がすごく楽しんでいます。
以前の会社でも、大企業間のM&A経験はありますが、今は当時よりもM&A工程の全体に関わることができており、そこが非常に面白い部分だと思っています。
新聞を賑わせているような大規模な再編や経営危機からくるM&A案件にも関与できます。そのような複雑な案件では、時には数十人にも及ぶ戦略、財務、法律など様々な専門家を束ねなければなりません。
何十人もの専門家がチームとなり、数年がかりで再編や大きな経営危機を乗り越えるのをサポートできるのは、PwCならではだと思います。
山尾
多様な知見を持っている方が同じグループ内にいる総合力があるから世の中を動かすような仕事に最初から最後まで携わることができるのですね。
青木様
メリットとデメリットは裏表だと思いますが、その裏返しで、ブティックファームやモノカルチャーの会社にいると、共通言語や共通の物差しがあることでストレスなく仕事ができる部分があるかと思います。
しかし弊社の場合ですと、多様性があるため、専門性やアプローチが違うメンバーとチームを組むさいに、相手のやり方を尊重しながら、その人の力を上手く引き出していかなくてはなりません。それを楽しめるか、面倒に思うかによって、そこをメリットと感じるか、(コミュニケーションの手間という意味での)デメリットと感じるかということかもしれません。
様々な得意技を持つ人を集結させ、成果を出していきたい。
坂本
少し業務から離れて青木様自身のこともお伺いしたいのですが、最近お仕事、プライベートを含めて嬉しかった出来事はありますか?
青木様
最近嬉しかったのは、昨年、体操の世界選手権で日本のチームが37年ぶりに団体で金メダルを獲得したことです。学生のころに器械体操をしていたので、いつも注目して観ているのですが、長い間、手が届きそうで、なかなか届きませんでした。
毎回、「次こそは!」と思って観ていたのですが、それがようやく昨年金メダルを獲ったのです。
体操競技の世界の流れとしては、種目別をいかに強化するかというスペシャリスト志向になっています。そのほうがメダルも多く獲れるからです。個人総合で頑張っても金メダルは1個しかとれませんが、6種目あるので種目別だと金メダルも6個ありますからね。
しかし日本は、賛否両論ありますが、「個人総合で6種目全部できてこそ真の王者だ。その延長で団体金メダルが獲れてこそ価値があると」いう考えが強いように思います。これは海外勢との価値観の違いなのかもしれません。
私自身、今は仕事でチームを立ち上げようとしているところで、共通点があるというわけではありませんが、様々な考え方や得意技を持っている人を集め、成果を出していきたいと思っているところです。一人ひとりエッジが立っていて、まとまりがなさそうでまとまっているチームを作りたいと思っています。
山尾
では、最後に読者の方へのメッセージをお願いします。
青木様
今すでにコンサルタントとしてご活躍の方で、「自分の幅をもっと広げたい」「よりチャレンジングな案件に挑戦したい」と思っている方にとっては最高の職場です。今は新しいチームやサービスを創っていく段階なので、一緒にチームを作っていただける方にはぜひ来ていただきたいです。
未経験の方についても、同じことが言えると思います。M&Aは経営の意思決定の中でも、難易度が高く、重要な意思決定の一端です。そこに触れる、しびれるような体験がしたい方、刺激を求めている方にはぜひ挑戦してもらいたいと思います。