世界最大級のプロフェッショナルサービスネットワークの一員で、M&Aや事業再生・再編などを支援するPwCアドバイザリー合同会社。 今回はディールズストラテジーチーム シニアマネージャー 菅田 一基様にアクシスコンサルティングの山尾康久と坂本健太がインタビューしました。 文中の情報及びデータ等は2016年4月現在のものです。
ロシアやドバイ、ヨーロッパで仕事をした後、PwCへ。
山尾
まずは菅田様のご経歴からお伺いします。
菅田様
大学院を卒業後、コンサルティング会社に入社しました。大学院では国際法を学んでいたので、当時はインターナショナルな仕事をしたいと考えていましたが、大学院の指導教官に「コンサルティングが合っているのでは?」と勧められたのがきっかけでコンサルティング業界に入りました。
最初から経営に興味があったわけではなく、視野の広がる仕事ができるのでは、というぐらいの気持ちだったと思います。
コンサルティングをする中で、次第にM&Aや海外展開のご支援が多くなり、ロシアやドバイ、ヨーロッパで仕事をする機会が増えていきました。そのような環境の中で経験を積んでいくうちに金融に関する専門性を高めたいと考えるようになり、次のステップとして金融機関への転職を決めました。
ただ、金融機関に入った時期がリーマンショックの頃でして(笑)。なかなか大変な時期を過ごしましたが、日本企業のリストラクチャリングを第三者的な立場で内側から見られましたし、金融の勉強もできました。
その後、またコンサルティング業界・アドバザイリー業界に戻って来ないかとお誘いを受け、外資系のコンサルティングファームでM&A関連の支援を様々な国に赴いておこなってきました。
そのファームでの後半の2年間はヨーロッパで暮らしていたのですが、日本に帰って来るタイミングで、もう少し大きいフィールドで働きたいと考え、PwCに入社することになったという流れです。
ヨーロッパに行ってみるとPwCなどのいわゆるBIG4の存在感が大きいということは肌で感じていました。中でも特にPwCの印象が強かったのでPwCへ入社することにしました。
山尾
海外では就職したい企業ランキングナンバーワンだという話を聞きます。
菅田様
人気もありますし、社会的ステータスや信頼性が特に高いですよね。ヨーロッパでは、監査をするような人は悪いことはしないだろうという、社会的コンセンサスがあります。やはり監査法人に対する認識がアメリカや日本とは少し違うと思いますね。
ドメインの見直しから支援するのが、ディールズストラテジーチームの本懐。
坂本
業務についてお伺いしたいのですが、最近のプロジェクトで、面白かった事例やPwCならではの事例を教えてください。
菅田様
非常に面白かったのは、クロスボーダーのビジネスデューデリジェンス(買収企業の属する業界の市場調査)ですね。拠点が世界中にあり、ロケーションが多岐にわたっていました。
それほどまでに広範に拠点を持つ企業のビジネスデューデリジェンスは経験がなく、非常にチャレンジングでしたが、様々な国へ出張し、現地の人とディスカッションするという経験はとても刺激になったと思います。
世界中に広がっている会社の仕事を受けられるというのは、弊社のようなグローバルネットワークのメンバーファームのひとつのアドバンテージです。様々な国に拠点があるからこそできることですね。
もうひとつは、世の中が変化する中でもう一回自分たちのドメインを見直して、本当に成長すべきところはどこなのかを再考してから、再度ロングリスト作りからやり直すというプロジェクトです。
例えば成長戦略を考えたときに、実現の手段としてはM&Aが当然見えていますが、最近多いのは、過去に何件かM&Aを実行したけれど、どうも上手くいかないというケースです。
こういったご支援は、まさに我々ディールズストラテジーチームの本懐だと思っています。
プロジェクトが終わると今度はそこで上がってきたロングリストの意向調査をして、ディールに繋げていくことも。実際にディールを作っていくので、非常にやりがいのある仕事だと思います。
山尾
今クロスボーダーの案件と、ドメインの見直しというキーワード出てきましたが、トレンドとしてはどのような案件が増えてきていますか?
菅田様
成長戦略の部分から見直したいという依頼や、対象会社は分かっているが、そこが今どういう状況か? 提案をすると受けてくれるのか?どのような提案だったら受けてくれるのか?など、相手を説得するための方策を考えるプロジェクトが多くなってきています。
山尾
どのように事前調査をされるのでしょうか?
菅田様
デスクトップだけで調べても限界がありますので、実際にインタビューを含めておこないます。対象企業が外国の企業であるケースが多いので、その情報収集は我々のネットワークを使ってカバーするケースが多いです。現地のオフィスと合同でリサーチをすることもあります。
対象企業の拠点が広ければ広い程、PwCのカバー力が差別化要素になる。
坂本
戦略系のファームやBIG4とコンペになることもあると思いますが、どのように差別化を図られていますか?
菅田様
闇雲に様々な案件を受注したいとは思っていませんので、やはりクロスボーダーの部分の強みを活かしていこうと思っています。M&Aの相手やクライアントの、拠点が広ければ広い程我々の広範なカバー力が差別化要素になります。
クロスボーダーは他の会社でもできるという話もありますが、その中でも弊社は海外のオフィスとの連携がスムーズですし、何でも日本で巻き取ろうという考えではなく、現地のオフィスをしっかりと活用しながらチームワークでできるところがBIG4の中でも際立っている点です。
当然ストラテジーのバックグラウンドを持った人にもチームにジョインしていただいているので、提案の中身、コンテンツのクオリティについても高いレベルで戦えると思っています。
ライフスタイルに合わせて働くことが可能。多国籍で柔軟性の高い組織。
坂本
では、チームのご紹介をお願いします。
菅田様
クロスボーダー案件が多い関係もあり、非常にインターナショナルな環境ですね。例えば私がプロジェクトマネージする時にも、チームメンバーとマネージャーがイギリス人、シニアアソシエイトがアメリカ人で、アソシエイトがインド人やインドネシア人という感じです。
私以外全員外国籍で、社内ミーティングもクライアントミーティングもすべて英語だったり。そのような環境があるのは、我々の面白いところです。
ワークライフバランスにも非常に気を遣っている組織ですし、気を遣いたいとも思っています。当然忙しい時もありますが、忙しいのが当たり前、プライベートを犠牲にするのが当たり前ではなく、それは例外的なことだとしっかり認識しています。
時間外労働や土日出社が必要な場合は、しっかり事前に説明をして、納得してもらってからするべきだと考えています。
また最近は男性でもお子さんの送り迎えをしますので、私のチームにも17時には一旦帰り、戻ってから仕事をする人もいます。実はマネージャーですが、そういう柔軟な働き方も許容できる風土があります。
坂本
ライフサイクルに合わせた働き方をされているということですね。
菅田様
はい。先日、台湾の女性に話をすると、それぐらいは当たり前だと言われましたが(笑)。しかし、日本の中で相対的に比較すると、柔軟性は高いですよね。
多様な人の力を取り込んで価値を出していきたいので、他者や他のチームとしっかりコネクトして仕事ができる人に来て欲しいです。この業界は、徒弟制度で育ち、自分のやり方に固執してしまうタイプの方もいると思いますが、それは古いと思っています。
逆に徹底的にハードな環境で働きたいという方には合わないかもしれません。メンバーを叱咤激励するタイミングもありますが、基本的な気質は、ワークライフバランスを重視した柔軟性の高い組織です。
悪いところを直すのではなく、良いところを見つける。
山尾
仕事でも、プライベートでも結構ですが、最近感動したことなどがあれば教えていただけますでしょうか?
菅田様
仕事の話になりますが、やはり日本人は細かい部分があり、トレーニングをしっかり積み上げていないとなかなか評価されません。その中にインターナショナルなバックグラウンドを持った人間が入ると苦労するケースもあります。
そのような人の居場所をどのように作ろうかと非常に悩んでいた時期がありました。プロジェクトに入れたり入れなかったり、長い時間をかけてしっかりとチャンスを与えてきました。やはり彼の強みは語学力なので、その語学力を使って実際にインタビューをしてもらい、チャンスがあれば必ず彼を呼んでいました。
なかなか最初は上手くいきませんでしたが、実はつい先日、彼とクロスボーダーの案件の提案書を作ると、見違えるくらい良いアウトプットが出てきたのです。
お客様に提案した時に『菅田さんのところはこの案件、前にやられたことがあるでしょう?』と言われました。彼の良いところが開花して、それが世間的にも評価されるレベルに来たと思うと感慨深かったです。
長い間見てきたので、個人的な感情も入って本当に良かったな、成長したな、と思いました。
坂本
社員の教育にもかなり力を入れておられるのですね。
菅田様
そうですね。悪いところを直そうと思いがちですが、実際はなかなか直らので、良いところ見つけられるようにしています。
バックグラウンドやナショナリティも様々で均質な組織ではありませんので、良いところを見つけてあげられると、お互い気持ちよく仕事ができるようになりますし、良い関係が作れると思います。
山尾
会社として若手をしっかりと育てていくという土壌があり、短期的でなく中長期で見るという社風なのですね。では最後に、読者の方にメッセージをお願いします。
菅田様
M&Aのマーケットでは、お試しで買っていた時期が終わり、本当にやらなければならないことは何かを考えて実行する時期にきています。
その中で、投資銀行や本当に会社のことを分かっているアドバイザーが求められる場面が増えてきており、我々のチームにも様々なテーマで依頼いただくようになりました。
業界全体として、より活性化していく時期に入っています。こういう波に一番乗りをしようという気概のある人はぜひ、我々の会社だけでなく、アドバイザリー業界にチャレンジしていただければと思います。