IT活用に関する幅広い知見を基に、お客様の課題解決にトータルなソリューションを提供するコンサルティング会社、NTTデータ経営研究所。 今回は、事業戦略コンサルティングユニットを率いる加藤賢哉様に、アクシスコンサルティングの山尾康久がインタビューしました。 文中の情報及びデータ等は2015年9月現在のものです。
「創造」を手がけるコンサルティングファーム
山尾
加藤様が率いる事業戦略ユニットについてお伺いします。御社の中でも、主に民間企業に対するコンサルティングをおこなっているチームですね。
加藤様
インダストリー軸で言うと、私のユニットはすべての業界を見ています。特に強みを持っているのは、製造業、流通業、情報通信業です。
サービスラインとしては、BPRもありますが、新規事業開発に関わることが多いですね。
コンサルティング業務というものは、すでにあるものを変革するアプローチと、まだ存在しないものを創造するアプローチがありますね。私のユニットは「創造」を手がける機会が非常に多いです。
山尾
比率でいうとどのぐらいになりますか?
加藤様
件数ベースだと半分くらいはこちらになりますね。他のファームに比べても多いのではないかと思います。
新しいポートフォリオをつくる
山尾
それはかなり多いほうですね。加藤様のユニットを拝見していて魅力的だと感じるのが、既存の枠組みにとらわれずサービスラインをどんどん拡大していこうとしている点です。
加藤様
元々弊社は、ITトレンドからのアプローチに長けており、クライアントにもそこを期待されています。
たとえば最近だとIoT。これを企業にどう取り入れていくか。あるいはIoTの時代になると、社会はどのように変わるのか。
ただ、自分たちの強みだけに頼っていると、ファームとしてのさらなる成長は難しいので、外にいる人材リソースを柔軟に中に取り入れることによって成長させています。
異文化と異文化のぶつかりあいを大切に
山尾
その結果、加藤様のチームは様々なバックグランドを持ったメンバーになってきたわけですね。
加藤様
たとえば最近入ってきたメンバーは、ある産業の構造全体を俯瞰するアプローチをとることができます。
山尾
産業改革的な。
加藤様
日本の産業においては「ものづくり」が欠かせませんが、近年大きな変化が起きていますよね。ロボットの導入であったり、先ほど話に出たIoTであったり。構造そのものを見直さないと次のステップに進めない状況になっている。
山尾
御社としても新しいアプローチが必要であり、だからこそ積極的に人材を集めているわけですね。
加藤様
中途で入る方は、既存のユニットに入るだけでなく、我々にとっての新しいポートフォリオに入ることもできます。この点は、外から来る方には魅力的に映るようです。
シニアクラスになれば、自らテーマを掲げてポートフォリオを作ることもどんどん奨励しています。もちろんマーケッタビリティは考えないといけませんが、単にメンバーとして業務を遂行するだけでなく、より広いビジネス領域でやっていきたいという人にとってはいい場所です。
山尾
たとえば事業部長として新たにビジネスを起こしたいと考えるような人にとって、御社はとてもいい環境だと思います。きっと若い方にとっても刺激になりますね。
加藤様
その通りです。若い人にとっては、自分の可能性を考える場になると思います。
最近おもしろいなと思ったのは、うちには外資系ファームから来たメンバーも、国内のシンクタンク系出身のメンバーもいるのですが、社内にいながらまるで転職したような気分になると、新しく来たメンバーに言われたことがありました。
私は異文化と異文化がぶつかり合うことを尊重していますし、型にはまらないことを期待しています。
人を真剣に育てる場所
山尾
若手の話が出ましたが、加藤様のチームは育成にも積極的に取り組んでいますね。
加藤様
ポテンシャルを持った人材をしっかり育てる。これは育てられる側だけでなく、育てる側にも意味があることです。
人を育てた経験がないまま上に行くと、どこかで限界がきてしまう。育てて一人前にするまでの過程を通じて、育てるほうも成長することを狙っています。
山尾
そのような姿勢は、コンサルティングファームでは珍しいですね。プロジェクト以外の仕事はしないところも多いです。
加藤様
うちは面倒見がいいですよ。若手を真剣に育てています。私たちの仕事は人が全てですから。人材育成も仕事だと明確に位置付けています。これは私のユニットだけでなく、全社でそういう文化がありますね。
たとえば新卒社員には一年間先輩がコーチとしてつく制度があります。さらに、コーチのコーチ制度もあるんです。人を育てる体制はしっかり整っています。
求めるのは創り出す力
山尾
加藤様が新しいメンバーに求める資質はどのようなものでしょうか?
加藤様
即戦力という部分では、やはりコンサル経験者。コンサルティングアプローチのベースの部分は持っていてほしいですね。ファンダメンタルの部分がしっかりしているということです。
一方、アプリケーションの部分に関しては、我々のほうでいかようにでもサポートできると思います。もちろん特定の部分に強みを持っているなら、それはそれでありがたい。ただ弊社は扱っている分野が非常に広いので、どのような領域であっても、柔軟性を持って取り組んでほしい。
自身の経験や既存の枠組みの中で答えを見つけようとするのではなく、自ら答えを創り出していく。そのような姿勢が求められます。
山尾
マインド面が重要になってくるということですね。
加藤様
とても重視していますし、今後の社会に求められるコンサルタントの姿だと考えています。答えを見つけるというメンタリティではなく、クライアントと一緒に答えを創り出していこうとしないと、厳しい時代になってきています。
ニューノーマルという言葉がありますが、過去の延長線ではない状況下において成功体験に頼ろうとすると、一生懸命答えを見つけ出そうとしてしまう。でも、見つからないわけです。
たとえ話をすると、ここに馬車が一台あるとします。その能力は時代に追いつかなくなりつつある。だからといって性能を上げようと馬車を五台繋げても汽車にはなりませんね。
しかし過去の経験に縛られると、五台で駄目なら十台でという話になってしまいます。
山尾
ゼロから汽車を創り出さないといけない。
加藤様
普段からそんなことばかりを考えている人間が稀にいますよね。別に誰に頼まれたわけでもないのに、ついつい考えてしまうようなタイプの人。そういう人はうちにはまりやすいですね。
採用面接しているときにも、たとえば将来事業をやりたいと答えた相手に、普段どんなことを考えているの?と質問をしてみます。すると言葉に詰まる人と、そうではなく突拍子もないことを言う人に分かれてきます。
後者は日常的におかしなことを考えているわけですね。そういう人物がフィットすると思います。
オンとオフをきっちりつくる
山尾
すこし話が変わりますが、休日はどんなふうにお過ごしですか?
加藤様
昔は多趣味だったのですが、こういう仕事をしているとだんだん趣味と言えるほどのものは少なくなってきますね。ただ昔から乗りものはずっと好きです。自動車、オートバイ、サーフィン。
今は専ら自動車ですね。週末しか走らせられないのですが。唯一の贅沢と自分では思っています。家族からの猛反対を受けつつもここだけは許してくれ、と(笑)。
好きな車を持って、一生懸命磨いて。サザンオールスターズをかけながら、週末に乗る。これが一番の楽しみですね。
あと、最近子どもが乗馬を始めました。埼玉県に乗馬クラブがあるのですが、元々動物好きだったので、体験レッスンを受けて。毎週末連れて行く必要があるのですが、私は車に乗ることができるから(笑)。
山尾
願ったり叶ったりですね。
加藤様
ただ、向こうで待っていてもすることがないので、それなら自分もやってみるか、と。すると思ったよりおもしろい。
オートバイにしてもサーフィンにしても、乗りこなすのが難しいものが好きで、バランス感覚には自信があったのですが、馬は生き物なので全然違いますね。一頭一頭個体差があって、その違いを感じながら乗りこなすのが楽しいです。
山尾
ワークライフバランスについてはどのようにお考えですか?
加藤様
いい仕事をするためには、プライベートの時間をきちんと取るべきだと思っています。ワークライフバランスというよりは、次の活力を生むために、意識してオフをつくる必要があるということです。
私自身が中堅の頃は、四六時中仕事だったときもありました。ただ、いい仕事をするにはそれでは駄目なんだな、と気づく機会があったんです。
山尾
なるほど。
加藤様
もちろんこの業界は、一般の会社に比べれば相当忙しいですし、特に年度末はそんなことを言っていられないときもあります。ただ、それ以外はしっかりオンとオフを分けるように推奨しています。
究極は全員パートナー
山尾
コンサルティング業界では、「Up or Out」という表現がありますね。
加藤様
外資系ファームほどではありませんが、弊社にもある程度はあります。ただ、Up or Upという言い方が適切かわかりませんが、特に私のチームでは結果さえ出せばどんどん引き上げています。
よく冗談半分、本気半分でメンバーに伝えるのですが、究極的には全員がパートナーになろう、と。全員がパートナークラスのバリューを出せれば、すごいことになるぞ、と発破をかけています。
山尾
そういえば以前に加藤様にお話を聞いたことがありましたね。比較的若いシニアコンサルの方に、「やってみろ」と。チャンスをきちっと若手に渡しているカルチャーは素晴らしいと思います。
守りから攻めへ
山尾
今のマーケットについてはどのように捉えていらっしゃいますか?
加藤様
トレンドとしては「守り」から「攻め」に日本企業が転じてきている。これは肌で実感しています。
これはコンサルティングのテーマにも表れてきています。つい二、三年前までは現状の改革であったり、合理化であったり。そんな話が多かった。
しかし今は新規事業を立ち上げるなど、いわゆる攻めのフェーズのご相談を受けることが増えてきました。多くの企業が次のビジネスモデルを見据えています。
山尾
グローバル化という観点ではいかがでしょう。
加藤様
かつてグローバル化という言葉は「海外に出て行く」という意味で使われていました。弊社もそこを支援することが多かった。しかし今はもうそのステージは終わり、現地でどう成功させるか。そこが問われています。
例えば鳴り物入りで中国に進出した新興IT大手が、撤退を余儀なくされた、という話がありましたね。
山尾
ビジネスモデルの転換なしには成功できない状況だということですね。
加藤様
先ほどITトレンドからのアプローチを求められることが多いとお話しました。今だとIoTの他に、ビッグデータやオムニチャネル、デジタルマーケティングなどですね。
この手の話はどうしても技術ドリブンで進みがちです。ただ本気で導入しようとすると、やはりビジネスモデルの転換は避けられません。単にフロント部分にITを取り入れましょう、では駄目なんです。
例えば日本最大手の流通企業は、表面的には単にwebのチャネルを作っているように見えますが、その裏側で自分たちのサプライチェーン構造を抜本的に変えているわけですね。
この点に多くの企業が気づきはじめています。
日本企業の可能性
加藤様
もうひとつ、大きな変化としては競争の次元がシフトしていると。私はよく競争から協調の時代と表現しています。コラボレーションということですね。
私が主に手がける消費財の分野では、すでにグローバルのトッププレーヤーとの戦いになっているわけです。そのような状況で、国内でのつまらない場所で競争をしても仕方がない。協調が鍵になってきます。
そしてこのような業界横断、企業間連携というフェーズにおいては、弊社はとても強いと思います。NTTグループ自体が業界横断の代表的な存在ですし、社会性、公共性に関わる事業に深く関わってきました。
この波に乗って活躍したいという方はぜひうちの門を叩いてほしいですね。
山尾
日本企業の可能性についてはいかがでしょう。
加藤様
私は大きな可能性を感じています。日本は自分たちの力を過小評価するところがあります。ニュースを見ても、隣国の会社に負けたとか。でも、それはシンボリックだから目立つだけで、全体で見たらone of themでしかありません。
日本の底力。たとえば素材や加工技術。モノをしっかり作り、きちんと納めるという部分。品質への責任感。それを下支えするビジネスモデル。私は世界ナンバーワンだと考えています。
悲観する必要はまったくありませんよ。