今回は、外資系ITベンダーにてトップマネジメントを経験後、外資系コンサルティングファームに転職された女性のケースをご紹介します。
T様は、新卒で外資系ITベンダーに入社されました。最初の5年程は、SIプロジェクト等に携わり、半年間の海外赴任もご経験。その後、テクニカルセンター統括、インフラ運用プロジェクトの責任者を経て、カスタマーマネジメント本部長として品質管理など、運用組織の責任者を歴任されました。また、所属部門のスピンオフによる分社化も経験されています。
現在は外資系ファームに転職し、テクノロジー部門にてインフラ運用プロジェクトの責任者としてご活躍されています。
分社化という分岐点を経て気づいた、ご自身の長期的なキャリア観やトップマネジメントとして長年活躍するためのコツなどについて、今回キャリアをサポートしたアクシスコンサルティングの中曽根が伺いました。
カスタマーマネジメント部門のトップとして活躍された外資系ITベンダー在籍時代
中曽根
新卒でIT業界を選ばれていますが、どのような思いでこの世界に入ったのでしょうか。
T様
当時はまだ就職氷河期でしたし、同じ大学の同じ学部でも、男女で採用に差があるような状況でした。IT業界を志望したのは、まだ比較的景気がよく、積極的に採用をしていたからです。また、その中で、外資系で男女の差なく活躍の場が用意されていた1社目のITベンダーを選びました。
中曽根
新卒から2004年までの5年間、SIプロジェクトを経験されてきたと伺いました。キャリア面で影響があったプロジェクトや出来事があれば教えていただけますか。
T様
2004年頃まではとにかく激務で、振ってくるタスクをこなすことでいっぱいで、キャリアを考えるような余裕もない状態でしたが、2004年に運用の領域を担当するようになってから、キャリアや自分の適性を考え始めるようになりました。
中曽根
運用の領域を担当されたことでどのようにキャリア観が形成されたのでしょうか。
T様
運用プロジェクトに入ってから約1年後にリーダーのポジションを担当したことで、組織の全体が見えるようになり、仕事に対する責任感や考え方が一歩上がったと思います。さらに、クライアントの部長、課長レベルの方々との接点が増えたことで、より高い視点での計画や予算の感覚を持って話すという機会が生まれ、リーダーの役割に面白さを感じるようになりました。
2008年頃には、社内での運用サービスの提供方法に、グローバル共通のモデルを適用していくプロジェクトを担当し、業務プロセスの可視化や、それぞれの作業にかかる時間の数値的な分析などにより、最適化・効率化の余地を洗い出し、変革するような業務を担当しました。カウンターパートが組織のマネージャーだったため、組織を広い視点で見る経験を積めましたし、やりがいや面白さを感じました。
中曽根
2011年にマネージャーに昇格され、テクニカルセンターの統括ポジションに就かれていますが、この話が決まった時点で、将来に向けたキャリア観はいかがでしたか。
T様
マネージャーという機会をいただいたので、まずは一生懸命やってみようと思いました。そこから2、3年はとにかく必死でした。
中曽根
具体的にテクニカルセンター統括としてどういった仕事をされていたのですか。
T様
テクニカルセンターは、リモートで複数のクライアントに対してサービスを提供する、400名程度の規模の組織でしたが、私はその中の100名ほどのチームのマネージャーをしていました。業務内容とは、メンバーの担当割り振りやトラブル発生時の対応といった日々のオペレーション、サポートしているアカウントの拡大に向けたプラン作り、サブコントラクターとの交渉や、配下メンバーの育成、人事評価など、多岐に渡りました。
中曽根
その後、カスタマーマネジメントの部門長に就任されています。職務内容について、お聞かせいただけますか。
T様
多数のクライアントの満足度調査や、社内のナレッジやベストプラクティスの収集・共有をリードしていました。そのほか、自身の配下にセキュリティポリシー適用に責任を持つセキュリティ部や社内ITサービスの提供を行うCIO部門もありました。
中曽根
ポジションが1段階上がり、新しく経験できたことについて教えていただけますか。
T様
多数のクライアントのリレーション調査や満足度調査でのクライアントフィードバックに触れる機会を得たことで、ライアントにより、その状況や考え方には大きな違いがあり、関係性の構築や満足度向上のためには、それぞれに違ったアプローチの仕方があるということを横断的に見ることができました。また、セキュリティ部門が配下にあったため、グローバル共通のセキュリティポリシーを全社に展開していく際のアプローチも学ぶことができました。
他組織へのサポートも積極的に申し出ることを意識し、周りとの関係性を築く
中曽根
テクニカルセンターの統括、カスタマーマネジメントのトップと、ご自身のロールが1段も2段も上がったことによって、どのような苦労がありましたか。
T様
テクニカルセンターの統括として、初めてマネージャーを担当した時には、過去の上司をロールモデルとしてそのやり方を真似しようとしました。その方は非常に誠実・まじめな方で、会社の方針を伝える際など、正しく、真っすぐにメッセージするタイプの方だったのですが、私がそのやり方を真似しようとすると、間違ったことを伝えてはいけないと気を使うばかりで自分の思っていることが言えなくなってしまったのです。そこでやり方を変えて、会社のメッセージをそのまま伝えるのではなく、「会社のメッセージはこうだけれども、私はこう思う、こう解釈している」という、自分の考え方を添えて、メンバーにメッセージを送るようにしました。
ロールモデルを真似しつつ、自分なりのやり方も大切にしてきましたし、配下のメンバーに対して、自分のやり方をどう感じるか、率直にフィードバックをもらうように心がけてきました。
中曽根
他にも苦労されたことはありましたか。
T様
女性であること、また、同世代の中では早くにマネージャーに昇格したことで、周りから見られている、値踏みされているのではないかという不安と緊張感はありました。幸いにも、周囲に信頼できる先輩のマネージャーがいたので、そういう悩みや不安についてもフランクに相談し、アドバイスをいただきながら乗り越えることができたと思います。
中曽根
カスタマーマネジメントの部門長に就任されたときはいかがだったでしょうか。
T様
配下のメンバーが皆私よりもキャリアが長く、専門性も高いスペシャリストばかりでしたので、そのチームの中で自分にリーダーが務まるのか、と不安に思っていました。
中曽根
スペシャリストであるメンバーをリードする立場にあったということですが、ご自身よりも専門性のある方や、社歴の長い方と一緒に成果を出すために行ったことなどあれば教えていただけますか。
T様
チームメンバーの想いや意見を社長に繋げたり、横の組織に対してサポートをもらうといったことが、私のポジションでできることだと思い、「私のポジションや立場、リレーションを使ってください」とメンバーに伝えていました。また、わからないことは教えていただくスタンスも大切にしました。
中曽根
周りの同僚と差別化を図る上で、マネージャー以降に気をつけてきたことや、身につけようとしてきたスキルがあれば教えてください。
T様
自身の担当業務や組織の範疇だけではなく、必要だと感じたときには、自身の範疇を超えて、自発的に関与したり、サポートしたりするような姿勢を持っていたことかと思います。
また、自信がないながらも海外ベンダーとのコミュニケーションや、社内の海外組織とのコミュニケーションを担当したことで、周囲から「海外コミュニケーションができる人」と見られるようになっていたことも、周囲との差別化要因になっていたのかなと思います。
分社化を経たからこそ気づけた現場への思いと将来へのキャリア観
中曽根
その後、担当部門がスピンオフされ、分社化後はカスタマーサクセスオフィサーの責任者を務められました。分社化を目の前にしたキャリア観は、どのようなものでしたか。
T様
カスタマーマネジメントの領域でまだまだ学ぶことはあったのですが、現場に戻りたいという気持ちがあったところに分社化の話が出たので、ここは今後のキャリアを考え始める良いきっかけだと思いました。
中曽根
結果的にはいったん分社化された企業に移っていますが、それはなぜだったのでしょうか。
T様
会社の分社化が落ち着くまではある程度見届けたいという思いと、移ってみないとわからないという気持ちもあったので、一度移ってみてから考えようと思いました。
中曽根
分社化に対する不安として、一番大きかったことは何ですか。
T様
業務のシステムやプロセスをゼロから作り直さないといけないということと、メンバーのモチベーションですね。元の会社から新しい会社に移ったときに、ブランド力が下がることで辞めたいと思うメンバーが多くなるだろうという不安が大きかったです。
中曽根
分社化された会社ではどのような職務を担われていましたか。
T様
チーフカスタマーサクセスオフィサーというポジションに就きました。分社化前から担当していた業務に加え、分社化に伴って、今まで元の会社とシェアしていた機能やシステムの移行や分割、新しいプロセスやルールの整備・策定にも携わりました。配下にCIO組織がありましたので、PCやアプリケーションなど、社内ITの移管も行っていました。クライアントの声を拾う部門でもあったので、平常時の満足度調査に加え、分社化に対する反応の収集も行いました。
中曽根
その後、次へのステップを意識されたきっかけは何だったのでしょうか。
T様
分社化による変化が大きな要因でした。元の会社では、他部門と幅広く連携をしながら、クライアントへの提案や問題解決に取り組むことができたのですが、一つの事業部だけがスピンオフしたことで、提供できるサービスの幅が限られてしまいますし、自身のキャリアの選択肢も狭まっていくと感じました。
もともと現場のマネージャーをやっていたときに、他部門と連携しながら、どのようにクライアントにアプローチするかを考えることに面白みを感じていたので、今の環境で現場に戻ったとしても、前と同じやり方はできないと思いました。
中曽根
転職活動はどのように進められましたか。また、弊社の対応はいかがでしたか。
T様
現場に戻りたいという希望はありましたが、具体的に希望する会社やポジションがあったわけではなく、「私のキャリアとしてこのような経歴があります。こういう私でも入れるところはないですか」ぐらいのモードで、中曽根さんには相談しました。
また、「正直、疲れています、少しシフトダウンしたいです」というような、採用の面接では言えないような前向きではないことも率直にお伝えしました。ですが、その背景を理解してくださり、漠然とした聞き方でもアドバイスとキャリアの候補をくださったのは、ありがたかったと思っています。
中曽根
その当時は弊社以外のエージェントにも相談をされていたのでしょうか。
T様
他はなかったですね。直接話を聞いた会社はありましたが、先方が求めている人材と私の経験、キャリアがマッチしておらず、募集要項を読んだだけではなかなか読み取れないことも多いため、あまり効率が良くないと思い、エージェントのお力を借りようと思いました。
中曽根
ご自身が入る会社の状況を知るために、面接中に必ず確かめていたことはありますか。
T様
労働時間は気にしていました。「どれぐらい残業があるか、皆さんのワークライフバランスはどうか」を尋ね、社員の方の在籍期間も確認していました。在籍期間があまりに短い会社は、そんなに居心地がよくないだろうと思ったからです。
中曽根
最終的に、外資系のITサービス企業とファーム両方から内定を獲得され、後者を選ばれた決め手について教えていただけますか。
T様
両者の採用のスタンスの違いがあり、前者は、ある程度ポジションは決まっているものの、具体的なアカウント、仕事、クライアントは絶対に匂わせませんし、オファーの決め手もあまり詳細には教えてくださいませんでした。
それに対して後者のファームは、具体的なクライアントの話もあり、オファーに至った具体的な理由についてのフィードバックもいただけたため、入社後の働き方について具体的なイメージを持つことができました。
どちらに行くべきか、中曽根さんにも相談したところ、「転職は賭けではなくてキャリアアップであって、次のお仕事を建設的に見つけていく活動だから、より自身が自信を持てる方がいいと思う」とアドバイスもいただいて、外資系ファームを選びました。
中曽根
後者のファームがT様に本当に入社していただきたくて、お手紙もくださいましたよね。私自身も納得しましたし、後者のファームに行った方が幸せになれると思いました。
T様
そうですね。中曽根さんは中立なので「こちらをお勧めします」とはおっしゃいませんでしたが、「正直なところ、いかがですか」とお聞きして、アドバイスをいただきました。
焦ることなく、社会貢献できるエリアを長いスパンで探していくという心境
中曽根
現在は外資系ファームでご活躍されていますが、職務内容を教えていただけますか。
T様
現在はシニアマネージャーとして、関西を拠点にした大手グループ会社のインフラ運用プロジェクトの責任者をしています。
中曽根
前職と現職で求められることの違いについて教えていただけますか。
T様
現場のデリバリーをしていても、前のITベンダーではあくまでもITの範囲で、システム運用のデリバリーや提案をおこなっていました。一方で、現在のファームはテクノロジー以外にもさまざまな部門があり、IT以外の領域にも関与していくことが大きな違いだと感じています。たとえばシステムの移行がうまくいかないときには、クライアントのプロジェクトマネジメント力を強化するためのサポートもしますし、人材が足りないとなれば、採用のコンサルやサポートも行います。これまでと比べて、IT領域だけでなく、ビジネスに対する感覚が一層必要とされていると感じます。
中曽根
現在の職場で、転職時の希望はかなえられていますか。
T様
「現場に出たい」という思いはかなえられていると思います。ただ、前職だと、良くも悪くもグローバル標準のようなものがあり、理想的なデリバリーの型を横展開していくというやり方だったのですが、現職のファームではまだそういう「型」ができていない中で、自身の過去の経験をもってどう貢献していけるか、というのが今後の課題です。
中曽根
今後のご自身の展望を教えてください。
T様
現在は、できるだけ長く働いていたいということです。コンサルティングファームにいることで視野が広がる中で、社会に貢献できるエリアをのんびり探していけたらと思っています。
中曽根
最後に、転職をお考えの方にメッセージをお願いします。
T様
ある程度のポジションにいる方は、人生の中での優先順位を考えて転職先を選ぶと思います。
ポジションかもしれないし、影響力かもしれないし、もっと地に足の着いた仕事かもしれません。転職先の会社名やポジションだけを見て考えるのではなく、自身を振り返って、自身が大切にしたい価値観は何なのかを整理したうえで、自分の価値観に対してより合うのはどの転職先かを考えるのがよいのではないかと思います。検討にあたって、エージェントや第三者の手を借りるのも効果的な方法だと思います。
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