仕事の忙しさは一年を通じて一定とは限りません。
会社などの組織では、業務量の季節的な変動により、一年の中で忙しい時期と忙しくない時期があります。業種や部署による違いはありますが、時期によって業務負荷は異なり、繁忙期と閑散期が存在することは珍しくありません。
公認会計士が所属する監査法人も例外ではなく、一年の中で繁忙期と閑散期があります。監査法人では繁忙期と閑散期で業務量の違いが非常に大きく、繁閑の差が激しい点は大きな特徴です。
今回は、大手監査法人でマネージャーとして活躍され、その後事業会社で監査を受ける立場に転身された公認会計士の方に、監査法人の繁忙期についてお聞きしました。
情報を踏まえて本記事では、監査法人の繁忙期やその乗り越え方などについて詳しく解説します。
【目次】
監査法人の年間スケジュール
監査法人の業務としては、会社法や金融商品取引法にもとづく法定の監査業務や任意の監査業務、各種コンサルティング業務やアドバイザリー業務といった非監査業務があります。そのうち、監査法人の主たる業務である「監査業務」に焦点を当てて、年間スケジュールについて説明します。
監査業務の進め方
そもそも監査業務とは、会社の貸借対照表や損益計算書などの財務諸表を対象に、財務諸表が適正であることを公認会計士が確認する業務です。監査の対象となる財務諸表は会計期間単位で作成されるため、監査業務もその会計期間で一通りの業務が一巡します。
一会計期間は一年間であることが多く、その会計期間の最終日が「決算日」です。日本の多くの会社の決算日は3月31日で、4月1日から3月31日の一年間を会計期間と呼びます。ちなみに、海外では暦どおりの1月1日から12月31日の一年間を一会計期間としている会社が多いです。
監査業務は体系化されていて、徐々に段階を踏みながら各業務を実施していきます。監査業務は一般的に以下の3つのフェーズに分けられます。
(1) 監査計画の策定
(2) 監査業務の実施
(3) 監査意見の表明
また監査意見には以下の4種類があり、監査を実施した結果に重要な問題がなければ、①の無限定適正意見が付されます。
①無限定適正意見
➁限定付適正意見
③不適正意見
④意見不表明
監査業務の集大成として、監査意見を表明することにより、一年間の監査業務が終了となりますが、さらに、一年間の監査業務を振り返り、改善すべき事項等を整理して、次期の監査計画を策定するという一連の流れが繰り返されていきます。
監査法人の繁忙期は4~6月
前述のとおり、監査法人の監査業務においては、各段階があります。それに応じて繁忙時期も異なります。一年の中で特に忙しい時期は、監査業務の実施段階と監査意見の表明段階です。
監査業務の実施段階では、期末監査の実施時期が一番の繁忙期となります。3月決算会社の場合には、4月から3月期の決算作業を実施して決算数値を確定させ、4月下旬から5月上旬にかけては決算発表を行い、6月に株主総会を開催します。
そのため、3月決算会社の期末監査業務としては、4月~6月において業務が集中します。また、監査意見の表明については、会社法監査の監査報告書を5月に発行し、金融商品取引法監査の監査報告書を6月に発行するために、監査業務の結果を検討、精査した上で、監査意見を確定させます。このように監査計画から始まった監査業務の集大成となる時期であり、一年で最も忙しい時期となります。
繁忙期の一日
3月決算会社の監査業務においては、3月31日の決算日に向けて、内部統制の検証手続を実施しつつ、期末監査の準備作業を進めます。4月以降は財務諸表の監査に始まり、会社法計算書類のチェック、有価証券報告書のチェックなどと、監査で実施する業務は多岐にわたります。
繁忙期の一日はというと、朝から夜まで仕事です。最近はコロナ禍でテレワークが当たり前になっていますが、昔はクライアントオフィスに朝から出向いて、夜まで仕事をするのが通常でした。上場会社などの大きいクライアントでは、「監査部屋」と呼ばれる、監査法人専用の部屋が用意されているケースが多く、往査時にはそちらに直行して業務を行います。一人の公認会計士が複数のクライアントをかけもちしている場合も多く、あるクライアントの監査部屋から他のクライアントの監査部屋へと移動する時もあったり、監査法人の事務所へ移動してそちらで仕事する時もあったりします。
繁忙期には、夕食後も業務が続きます。審査やレビュー直前などの山場では終電間際まで働き、終電に間に合うように急いで帰り支度をして帰宅することもあります。繁忙期の一日は以下のようなイメージです。
繁忙期の一日
時間 |
内容 |
8:00~9:30 |
起床、出勤 |
9:30~12:00 |
監査クライアント集合、業務 |
12:00~13:00 |
昼食、昼休み |
13:00~19:00 |
業務 |
19:00~19:30 |
夕食 |
19:30~22:00 |
業務 |
22:00~23:00 |
帰宅 |
23:00~25:00 |
風呂、家事等 |
25:00~ |
就寝 |
監査法人は一年中忙しいのではないかと思われるかもしれませんが、そうではありません。3月決算会社を担当している場合は、7月~9月は閑散期となるため、そこで長期休暇をとる人たちも多くいます。この時期に一度立ち止まって休息をとり、心身ともにリフレッシュして、また次年度の監査に進んでいくための英気を養うことも重要です。
監査法人の閑散期のスケジュール
監査法人の業務には季節的な変動があり、繁忙期があることは前述したとおりです。その一方で、比較的業務量の少ない閑散期と呼ばれる時期が存在します。
監査法人の閑散期は決算の繁忙期以外の時期となります。3月決算の上場会社を例にとると、第1四半期のレビューが終わる夏が休みをとりやすい時期になります。8月上旬のお盆前くらいから8月末までが一年でも一番業務負荷が少なくなる時期で、2週間まとめて休みを取る人もいて、中には3週間程度の休みをとって長期の旅行に行く人もいます。
閑散期の一日はというと、ほぼ残業はありません。お昼も混む時間を避けてゆっくり食べに行ったり、帰宅してからも自由にできる時間が増えたり、睡眠時間も長くなり、「人間的な」生活が可能となります。閑散期の一日は以下のようなイメージです。
閑散期の一日
時間 |
内容 |
8:00~ |
起床 |
9:30~10:00 |
事務所に出勤 |
10:00~13:00 |
業務 |
13:00~14:00 |
昼食、昼休み |
14:00~18:00 |
業務 |
18:00~19:00 |
帰宅 |
19:00~20:00 |
夕食 |
20:00~24:00 |
風呂、家事、自由時間等 |
24:00~ |
就寝 |
閑散期に、監査法人に所属する公認会計士は休息をとり、監査法人にとっては内部の業務改善の時間として活用されます。業務の効率化などの改善活動、組織体制の見直し、社内研修といった内部での各種施策を実施することも多いです。新たなビジネスやサービスの開発に取り組むための時間にもなります。
閑散期は、監査法人にとっても、監査法人に所属する個々の公認会計士にとっても、将来の業務に向けて体制を整えて様々な準備を行う重要な時期といえます。
監査法人の繁忙期の乗り越え方
働き方改革の影響で、最近は監査法人の職場環境が改善されているという話も耳にしますが、今でも繁忙期に業務時間が長くなることは珍しくありません。所属する公認会計士が抱えるストレスも大きくなります。以下では、監査法人の繁忙期を乗り越えるための方法を紹介します。
(1) 事前の計画と管理
監査業務の進め方で、事前の計画策定が重要であることを説明しましたが、監査業務を実施する過程でも常に事前の計画を見直しながら、その計画に従って順序立てて業務を進め、適時に軌道修正していくことが大切です。
繁忙期においては業務が集中するため、優先順位をつけて効率的に業務を進めていかなければなりません。そのため、繁忙期に入る前に、業務計画の再確認と必要に応じた見直しを行います。タスクごとに適切な業務時間を設定して、効果的に時間が使えるように計画を立てます。
繁忙期に入ってからはその計画に従い業務を遂行しながら、計画どおりに業務が進んでいくよう管理することがポイントです。監査チームの各担当者が担当する業務の進捗を自ら管理した上で、現場責任者であるマネージャーや主査がチーム全体の進捗を管理します。
(2) コミュニケーション
監査は監査法人の公認会計士だけでは完結しない仕事です。第三者の立場から、クライアントの財務諸表が適正であることについてお墨付きをつけるため、クライアントとの良好な関係構築は非常に重要です。
繁忙期においては特にクライアントとやりとりをする機会が増えます。会計処理に関する質問、財務諸表や注記の開示内容に関する質問、資料の依頼等々。このやりとりがスムーズに進まない場合はボトルネックとなり、監査業務の効率化が阻害されてしまいます。
クライアントだけでなく、一緒に仕事をするチームメンバーとの信頼関係も重要です。監査法人では複数のジョブが並行して稼働しますが、一つのジョブの短時間の中でチームメンバーとの距離を縮めて、信頼関係を構築していかなければなりません。そのためのコミュニケーションはとても重要で、特に繁忙期は業務が重なり集中するため、監査チーム内での円滑なコミュニケーションがポイントとなります。
(3) リラックス
繁忙期はストレスがたまりやすい時期であるため、ストレスの管理は欠かせません。仕事一色になりがちですが、適度に休息をとり、好きな時間を過ごしてリフレッシュすることが大切です。
3月決算会社の上場会社を監査する場合は、4月から6月までの3か月間繁忙期が続きます。こまめにリフレッシュする機会をとらないと、最後まで業務が継続できなくなる恐れがあります。実際に繁忙期で働き過ぎて体調を崩したメンバーが、監査チームから離脱するケースもありました。監査法人のリソースは限られていて、特に繁忙期は追加アサインの余裕はなく、離脱者が増加してしまうと監査法人全体のリスクとなります。
繁忙期は夜遅くまで業務が続くこともありますが、睡眠時間はきちんと確保して、心身の健康を維持しないと乗り越えられません。
(4) モチベーションの維持
繁忙期は残業が多くなるため、管理者ではないシニアスタッフやスタッフの担当者は残業代が非常に多くなります。月間の残業時間が100時間を超過する場合もあり、担当者レベルでも、管理者のマネージャーに迫る、もしくは超える給料となるケースも十分あり得ます。
もちろん健康を維持することが前提ですが、健康に留意して無理のない範囲で頑張った分の対価を受け取ることができるという点は、前向きにとらえてモチベーションを保ちたいところです。
また、繁忙期を乗り越えたという経験は、公認会計士としての確かな実績であり、貴重な経験となるため、意識して業務に臨むことでモチベーション維持につながります。
繁忙期を乗り越えるためには、上記の方法を組み合わせて、バランスの取れた働き方を心がけることが重要です。
繁忙期では夜遅くまで仕事をして、土日も普通に仕事をしているものです。そのおかげで長時間労働ができるだけの基礎体力が鍛えられる側面もあります。大きいバッグにPCと資料を入れて毎日持ち歩くことで、足腰の筋力が強化されて、純粋に体力も鍛えられます。
「若い時の苦労は買ってでもしろ」という言葉もありますが、長時間労働を経験していたことで、自分の可能性や限界を客観的に把握でき、困難に直面しても「あの頃に比べたら、たいしたことはない」という考え方もできるようになるかもしれません。
監査法人の繁忙期は事前の準備と息抜きで乗り越えられる
本記事では、監査法人の繁忙期について解説しました。
繁忙期は非常に忙しく、ストレスがたまりやすい時期ですが、事前の計画と管理、コミュニケーション、リラックスなどに意識して取り組むことで乗り越えて、監査業務を成功に導くことができます。一方で、閑散期においては十分に休息をとって心身ともにリフレッシュする充電期間としつつ、将来への準備を行う時期と位置づけて、一年を通してバランスのとれた働き方が実現できると理想的です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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「経理職から監査法人(公認会計士)へ転職して驚いたこと」とその違い【実話】
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/accountingcomparison
監査法人の仕事内容<監査業務編>
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/audit_firm_audit-services
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今回は、監査法人の繁忙期のスケジュールや乗り越え方についてお伝えしました。
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