創業から間もないベンチャー企業やスタートアップ企業のCFOは、就任直後から会社の課題に応じてやるべきことが多岐にわたることが一般的です。バックオフィス関連の仕事はもとより、経営者の視点で事業に関連する業務にも対応していかなければなりません。
また、これまでの経験分野で得意、不得意があるのも事実ですが、CFOを任された以上は、最終的に不得意分野であっても対応して解決していく必要があります。
経験によっては、なかなかそこまでのスキルを持っていない場合も多々あるでしょう。
ではCFOのキャリアを歩むことになった際、厳しい局面を打開していくためには、どのようなことを心掛ける必要があるのでしょうか。
今回の記事では、ベンチャーCFOが抱えるおもな悩みと解決策について紹介します。
【目次】
- ベンチャーCFOのよくある悩み①「分野によってスキルに不安がある」
- ベンチャーCFOのよくある悩み②「カルチャー・年齢のミスマッチでマインドがついていかない」
- ベンチャーCFOのよくある悩み③「手を動かしていく必要があるためにリソースが足りない」
- ベンチャーCFOのよくある悩み④「攻めのタイミングであるにもかかわらず守りに回らなければならない」
- ベンチャーCFOのよくある悩み⑤「資金調達と上場準備を並行して進めなければならない」
- ベンチャーCFOのよくある悩み⑥「マネジメントが十分に発揮できない」
- ベンチャーCFOのよくある悩み⑦「CEOとのより良い関係構築が難しい」
- ベンチャーCFOのよくある悩み⑧「株主やVC、社外役員からの要請が厳しい」
ベンチャーCFOのよくある悩み①「分野によってスキルに不安がある」
これまでは経理財務における十分な経験をしてきたとはいえ、CFOとして実施すべき業務の中には、未経験の分野も少なからずあるでしょう。
例えば、公認会計士として監査法人にて会計監査一筋でやってきた方が、ベンチャー企業のCFOに着任して、予算実績管理を任されたり、さらには管理部門全般業務として採用を任されたりした場合があったとします。
予算実績管理は、予算を立てて差異を明確化してその課題を、数字という観点から洗い出すため、監査に近いとは言わないまでも数字が好きな人に親和性があるでしょう。
また、小規模ベンチャーの場合は人事面接としてCFOが面接に出ることも考えられます。
さらに、採用のKPIの管理として、応募率や採用率を把握しておくこともあるかもしれません。
そのような経験をしてきたスキルと、要請されるスキルに差がある場合はどうしたらいいのでしょうか。
悩み①の解決策
CFOとはいえど「管掌すること全てにおいて、完璧にしてほしい」という要望に応えることは、もちろん現実的ではありません。
まずは全てにおいて自分でやる、という意識を捨てるとともに、担当を配置することも考えなければならないでしょう。
そのためには、CFOの右腕となる優秀な社員やCMOといった別の経営トップ層の採用、補佐役への内部での抜擢、育成などにコミットする必要があります。
悩みにある予実管理、採用ともに、他のメンバーに任せられる場合は、分担してお願いすることが大切でしょう。
メンバーに任せる以上、CFOには任せた責任が伴うため、定期的にメンバーの要望を確認しておかなければなりません。
結果的に、メンバーからの吸い上げにより、CFO自身も業務を学ぶ努力を怠らない姿勢が必要であることはいうまでもないでしょう。
ベンチャーCFOのよくある悩み②「カルチャー・年齢のミスマッチでマインドがついていかない」
ベンチャー企業の場合、CFOがカルチャーにマッチしているかどうかが重要な観点です。
若い人が多いベンチャー企業は、CEOをはじめ、CXOも若い方が多く、その層を中心にボードメンバーが組織構成されることが一般的でしょう。
CFOは経理財務や、場合によっては管理部門全体を見ていくことが要求されるため、予め経験豊かな人材がCFOとして採用されることがあります。
結果として、年齢的に40代や50代といったベテラン層が任される可能性があるのです。すると、30代中心の組織編制に対して「思っていたのと違った」ということにもなりかねません。
年齢が原因でミスマッチが生じるケースについて、どのように考えていけばいいのでしょうか。
悩み②の解決策
これまでは違う道を歩んできたCFOが、簡単にカルチャーに馴染むことは難しいかもしれませんが、会社の成長のために自分を変えていくことが重要です。
ベンチャーにおいては、頻繁にある全員参加の会社行事には必ず参加するとともに、自分と違った年齢層の社員とも積極的にコミュニケーションを取って、自分の考え方を調整していくことが必要でしょう。
若い世代が中心となっている場合は、ベテランCFOにとって考え方、普段の生活からくる価値観などの世代間ギャップがあることは埋めがたい事実です。
横柄な態度や、上から目線などはご法度。若者と同じような目線でのコミュニケーションを体験しながら、彼らを理解していく努力が必要です。
長年の人生経験の中で培ってきた自分の価値観を簡単に変えることは難しいため、まずは自分より若い世代が何に関心を持っていて、何に課題感を持っているのか、またそこに貢献できることはないのかを絶え間なく考えていくことが大切でしょう。
ベンチャーCFOのよくある悩み③「手を動かしていく必要があるためにリソースが足りない」
決算業務を一部手掛けていく必要があるため、毎月の月次の決算締め業務に当たらなければならない場合もあり得るでしょう。
CEOやCXOからの要請、部門メンバーへのフォロー、また事業部門課題の解消などに取り組む中、ベンチャーCFOのリソースが足りなくなるのは共通の悩みごとであると考えられます。
リソースが足りない場合の工夫はどのように行えばいいのでしょうか。
悩み③の解決策
まず、CFOがメンバーに対して実施するような、リソース管理を自分自身でも行う必要があります。業務の棚卸や見える化を実施し、捨てられる業務や後回しにできるものを検討していくことが必要でしょう。
やらなければならないと分かっていても、業務を全て実施するとなると、当然限りあるキャパシティに限界を来し、やらなければならない優先業務もできなくなってしまいます。
そして、他のメンバーに対するリソース配分も徹底しなければなりません。
ベンチャー・スタートアップは慢性的にヒトやカネのリソースが不足しており、不足している分はCFOがフォローしながら対応することが必要です。
メンバーが忙しい時は肩代わりし、リソースに少し余裕がある時はお願いする、そのような関係値を築いていくことが重要でしょう。
またメンバーの負担を軽減するための選択肢として、例えば決算業務なら外部の業者を活用することも考えられます。
管理部門の業務はシェアードサービスを使った業務効率化も今では一般的になってきています。
一時的に費用支出を伴うものの、結果的に業務効率化や費用圧縮への寄与、メンバーへのモチベーション向上にもつながり、経理財務部門における組織強化になることも考えておかなければなりません。
ただし、上場準備などで「内製化が必要」と指摘事項があった場合には、元の体制に戻せるように段取りを考えておくことが必要です。
ベンチャーCFOのよくある悩み④「攻めのタイミングであるにもかかわらず守りに回らなければならない」
事業成長を志向するためにCEOやCOOは、拡大に向けてあらゆる手段を取っていくことでコミットしています。
一方でCFOが上場準備に入っている場合には、コンプライアンスやガバナンスの強化という守りも必要ということが非常に多いでしょう。
そういった局面においては、どのような立ち位置でいればいいのでしょうか。
悩み④の解決策
極論を言えば、攻めも守りもCFOの仕事ですので必要ですが、どちらを優先するかは会社課題にフォーカスして考える必要があります。
この攻めと守りのバランスを取っていくことが、ベンチャー・スタートアップにおけるCFOの役割として特に重要で、守りを固め過ぎて攻められない状態を作らないようにしなければなりません。
逆にCEOやCOOに守られると、特にスタートアップ・ベンチャー企業は、成長が阻害されてしまうので、CFOとしては「CEOやCOOには、何としてでも攻めにコミットしてほしい」と考えるべきです。
攻めが必要な場合は、CEOやCOOにはそこに徹してもらい、CFOは守りを重視することで、バランスの良い企業経営を志向しなければなりません。
CEOやCOOに対して、攻めが必要な時は一緒に攻める、また守りが重要な時は守りに回る、ということをコミットしていくと公言することが大切でしょう。
例えば、労務上の課題を外部から指摘されたにもかかわらず、攻め一辺倒で、時間外労働が慢性的に継続する状態であってはならないことはすぐに理解できます。
その場合はCFOは労務管理という守りに徹し、CEOやCOOに対して手綱を引きながら攻めていくことも重要な役割です。
労務上の課題が解決すれば、改めて手綱を緩めれば良いわけですので、バランス感覚を保持しつつ企業運営を心がけていく必要があります。
ベンチャーCFOのよくある悩み⑤「資金調達と上場準備を並行して進めなければならない」
ベンチャー企業においては、資金調達や事業投資を強化しなければならないタイミングであるにもかかわらず、上場準備も並行して実施する局面を迎えます。
特にシリーズBやCの段階では、N-2やN-1期のフェーズと重なるため、尚更ハードでしょう。資金調達、上場準備ともに、CFOの全リソースを使わなければならない非常に大切なイベントです。
資金調達の場合は、VC・CVCとの折衝や契約でもフロントに立たなければなりませんし、上場準備は監査法人や主幹事証券に対するフロントに立つ必要があります。
2つを並行して考えていくとなると、営業時間内にCFOが物理的に回らない可能性も生じます。
ベンチャー企業でも求人によっては、IPOや資金調達などの検討スキルをWANTとして求めつつも、MUSTではないという場合もありますが、期待値を超えることでCFOとしての責務を全うするためには、同時並行という局面は念頭に置いておきたい点です。
悩み⑤の解決策
CFOのリソース的にどうしても難しい場合は、資金調達または上場準備のどちらかにおいて、自分と同等かそれ以上に動ける外部専門家の活用が考えられます。
社内リソースが枯渇しているベンチャー企業のために、CFOとして経験豊かな人材を貸し出すサービスや、資金調達支援を行うコンサルティング会社も出てきています。
資金調達、上場準備の双方ともできなかったという事態は絶対に避けるべく、CFOはどちらか得意な方に集中し、もう片方を信頼できる専門家に任せることで乗り切っていくことを考えなければなりません。
また、管理部長や経理財務リーダーなど、CFOの相棒となるメンバーが社内にいる場合は、CFOが全面フォローする前提で、責任者としてアサインすることも考えられます。
その場合は、任せきりではなく、CFO自身もフォローに入る姿勢が大切です。
適任がいない場合で、採用する時間やコストが許すなら、CFOの右腕としての管理部長やリーダー層の採用は不可欠であると考えられます。
ベンチャーCFOのよくある悩み⑥「マネジメントが十分に発揮できない」
リソースの関係で、朝から晩まで会議や資料作成、取引先対応で、メンバーマネジメントが十分に機能しないことがあるでしょう。
もしCFOがばたばたし過ぎていて、コミュニケーションや指示出しが的確に行えていない場合は、メンバーからの信頼感の醸成も懸念されるため、早期に解消が必要と考えられます。
マネジメントを円滑に回すためにはどのような手段や考え方が大切でしょうか。
悩み⑥の解決策
そもそもマネジメント能力がない場合はCFOへの着任は難しいため、ある程度力を発揮できる前提で記載します。
CFOにとって、メンバーがいない場合は除きますが、担当する部門メンバーに対するマネジメントは必須業務です。
メンバーとのコミュニケーションにより、認識の齟齬がないようにすることが非常に大切で、時間を必ず取り、状況把握に努めなければなりません。
このメンバーとの時間は固定化して、やむを得ない場合を除き、商談や会議を入れないようにすることがポイントです。
それぐらい、CFOは社内マネジメントに目を光らせるべきでしょう。
メンバーとの間で決算業務の振り返りミーティングを毎月設定し、良かった点や課題を洗い出すことや、定期的にメンバーとの1 ON 1面談の時間を設定することはCFOのマネジメントにとって重要です。
メンバー各々の目標について目線合わせを行い、達成できるようにリーダーシップを発揮していく必要があります。
時には、会社のビジョンやミッションに合わせて、部門のミッションや目標を掲げて率先して前に進んでいかなければなりません。
組織として成果を挙げるために、最善の努力が必要であることはいうまでもないでしょう。
ベンチャーCFOのよくある悩み⑦「CEOとのより良い関係構築が難しい」
CFOはCOOとともにCEOに対する最大の理解者でいる必要があります。
しかしながら、中途で入社した場合は、お互いに働いてきた環境や経験業界も違うため、一朝一夕に関係値を構築するのは並大抵のことではありません。
それでもCFOはCEOやCXOとシンクロすべく、価値観を統一していくことが望まれます。
関係構築に向けてより良い方法にはどのようなものが考えられるのでしょうか。
悩み⑦の解決策
CEOのタイプにもよりますが、自分自身の分析とCEOや会社の価値観やビジョンを理解することが必要です。
そのためには、CEOとのコミュニケーションを密にして、お互いを理解することに時間を割いていくことが大切でしょう。
CEOとの定期的な面談や会議、またインフォーマルでフランクな会話も日頃から行うなど、オープンな関係をCFOの側から働きかけていく必要があります。
さらに、オーナーCEOにありがちですが、他のCXOや部門責任者がCEOに意見しにくい環境に対して、積極的に具申していく役割も重要でしょう。
社外役員や株主からの意見は比較的あるものの、社内からなかなか意見がもらえず、軌道修正ができない環境になるのも、企業成長の足かせになってしまいます。
「その役割を社内で果たしていくのはCFOである」と、恐れずに腹を括って対応していく必要があるでしょう。
ベンチャーCFOのよくある悩み⑧「株主やVC、社外役員からの要請が厳しい」
株主やVC、社外の役員クラスとのやり取りは、CEOが対応する場合もありますが、CFOが窓口として対応することが多いでしょう。
また取締役会や株主報告会をはじめとした普段のコミュニケーションを通じて、業績や成長について厳しい要請や、課題を提示されることも少なからずあります。
しかしながら、目標対比で業績が芳しくないと、このままでは上場準備も先送りになる可能性すらあります。
このような株主やVCからの要請に対して、どのように応えていくべきでしょうか。
悩み⑧の解決策
スタートアップ・ベンチャー企業であれば、ほぼどこの会社も同様の悩みがあり、CFOが対処に苦しんでいる所かと想定されます。
VCにとってはファンドの期限やLPに対する運用責任もあり、出資先企業が計画通り成長をしているか、株主報告会や経営者面談により、随時把握していくことになっているでしょう。
その際に今後の対策を厳しく指摘されることは一般的です。
解決策は、VCや株主とともに壁打ちしながら考えていくことになり、CEO、CXOとともに早期に打ち出すことが必要です。
CFOはそのための働きかけを遅滞なく行い、解決案をVC側に打ち返していく柔軟性が必要です。
CFOが1人でなやむことがないように、CXOとのコミュニケーションを取りながら、進めていかなければなりません。
要請や課題は、株主から企業に対する成長のためのアドバイスとして受け取りつつ、これらのステークホルダーに対して、協力的になってもらえるような関係値を、CFOは常日頃から積極的に構築していくことが期待されます。
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CFOには社内外から経営課題が降り注ぎ、それについて悩むことが非常に多く出てきます。今回ご紹介した内容以外でも、企業独自の課題から悩みが生じるでしょう。
とりわけ、CFO1人で解消できないような悩みは、CEOをはじめとしたCXOや、社外役員、または株主や監査法人にも相談して、協力してもらう必要があります。
CEOはもとより、CXOや株主、社外役員、監査法人、主幹事証券に至るまで、企業成長のためにベンチャー企業という船に乗り共に航海する一員です。
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