CDO(Chief Design Officer/最高デザイン責任者)は、デザイン関連の業務の責任者であると同時に、経営幹部に該当する役職です。プロダクトのデザインや、自社のブランディング、SNSやWebを含む広告のクリエーティブに携わりながら、経営層として企業の運営に貢献します。
従来、CDOは決して多くの企業に設置されてきたわけではないものの、その重要性は増している状況です。2018年に、経済産業省と特許庁が公表した「デザイン経営」宣言において、日本がグローバル競争の環境下で強みを発揮できないのは「経営者がデザインを経営手段として扱っていないことにある」という趣旨のことが述べられていました。他の企業にはない差別化ポイン今回は、直近で重要性が増しているCDOについて、設置・採用するに至った背景、設置事例、導入企業・求められるスキル・実際のキャリアパスを解説します。ト・ブランド価値が生まれるには、デザインによるイノベーションが効果的と言えます。デザインによって人々のニーズを掘り起こして、事業化していくことの重要性は見過ごせません。
参考:経済産業省・特許庁『「デザイン経営」宣言』(2018, p.1)
https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/kenkyukai/kyousou-design/document/index/01houkokusho.pdf
経営層にデザイン責任者・CDOが存在すれば、デザインを自社の競争力強化に結び付けるために、企業は大きく前進できるでしょう。
今回は、直近で重要性が増しているCDOについて、設置・採用するに至った背景、設置事例、導入企業・求められるスキル・実際のキャリアパスを解説します。
※CDO(Chief Digital Officer/Chief Data Officer/最高デジタル責任者)は以下をご参照ください。
デジタル専門の経営人材「CDO(Chief Digital/Data Officer)」の設置背景・役割(CIO/CTOとの違い)・年収・キャリアパスについて
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/cdobackground
【目次】
CAOを設置・採用するに至った背景・各社の設置事例
冒頭で紹介した「デザイン経営」宣言が公表されて以降、デザイン思考による経営が重視される中、日本ではスタートアップを中心に、CDOが設置され始めている状況です。
エムスリーでは、2020年4月より「プロダクト志向な組織作り」を目指して、デザイングループの担当役員CDOを正式に設置するべきという考えに至りました。
そもそもなぜ「プロダクト志向な組織」が求められるかと言うと、エムスリーでは医療関連のプロダクトを扱っており、現場の医師の声に応えるべく、プロダクトを前進・改善させる必要がありました。実際のユーザーである医師が本当に満足できるプロダクトを作ると同時に、開発チーム全体が自分の作るものに愛着を持てるようなデザインも実現させることで、チームメンバーが仕事に誇りを持って、前向きに活動できる結果、売上・経営にも好影響が出ることに気づいたのです。
しかしユーザー・開発者がともに満足できるほど高品質なプロダクト作りを加速させるには、デザイナーが不足していました。デザイングループを改革し、デザイン組織を拡大させることで、デザイン経営を実現するために、CDOの設置は必須だったということです。
※参考:デザインの力で医療を前進させる!古結隆介がビズリーチからエムスリーに帰ってきた理由
https://www.wantedly.com/companies/m3_inc/post_articles/252081
このように昨今では、多くの企業で⾼度デザイン⼈材が必要とされ始めています。時代背景に目を向けると、デジタル化の進展が加速し、チラシや看板などのオフライン広告ツールだけでなく、SNSやWebなどデザインの対象が広がったことも大きな要因でしょうか。またSNSの普及によって、企業が一方的に商品・サービスを売りつけるのではなく、顧客が中⼼となって商品・サービスを選ぶ時代に入ったことから、ユーザーが快適に使いやすいデザイン(UI)の重要性が増し、デザインがそのままマーケティングツールとなったことも大きいと言えます。
デザイナーが「ユーザーに寄り添うこと」を軸にデザインを行っていることからうかがえる通り、製品開発にデザイン思考を取り入れ、デザインによって企業のミッションを達成するという考え方が一般的になったことがうかがえます。しかし、経営者⾃⾝にデザインの感性とは言わないまでも、デザインによるビジョンの実現への具体的な方法を把握する意欲がなければ、なかなか実効性のあるデザインを生み出すことは難しいかもしれません。そのため経営層に、デザインを使った理念の実現を達成できるCDOを取り入れることが望ましいでしょう。
参考:経済産業省『⾼度デザイン⼈材育成ガイドライン』(2019, p.66)
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kodo_design/pdf/20190329_02.pdf
2017年10月3日には、イベント「スタートアップにCDOが必要な理由 CDO Night #1」(TECH PLAYデザイナー部)が開催され、スタートアップの経営者が多く来場しました。同イベントには、livedoor・DeNAなどでの新規事業立ち上げや、デザインファーム「Basecamp」の立ち上げの実績があるdelyの坪田朋氏(2024年現在、同社CPO)が登壇。スタートアップ企業には最初から「デザイナーがいた方がリターンは大きい」と語りました。当初から事業に精通しているデザイナーがいなければ、市場背景や調査結果を都度説明しなければならず、その後のデザイナー採用が難しくなる可能性があるためです。そのため組織全体を作り上げる段階で、CDOを設置し、ブランドデザインやリソース設計を初期から可能にすることが、長期的なリターンにつながるとのことでした。
参考:Goodpatch Blog『スタートアップにCDOが必要な理由 CDO Night #1レポート【オープニングトーク編】』
https://goodpatch.com/blog/cdonight-01-opening
このようにCDOの設置はスタートアップで重要と言える一方、海外では大企業でもその価値が注目され、デザインファームの買収が相次いでいます。IBMやアクセンチュアなどもデザイン会社の買収に踏み切っており、デザイナーやクリエイターの知見を集結させ、デザインの力によるビジネスの拡大を目指していることがうかがえます。
世界的にCDOの重要性が増す状況下において、あるCDOの方は、デザインは「ビジネスの競争優位性」を確立する上で効果的なものであり、経営チームにデザイン責任者を設置し、開発の最上流工程にデザインを入れることの重要性を述べていました。
別の執行役員CDOの方は、経営にデザインを取り入れ、デザイン組織そのものを強化することに加え、プロダクトデザインの品質向上、ブランディングの最適化を目指しているとのことでした。
このように「経営×デザイン」という概念が拡大する中、実際にCDOを設置している企業の事例は、先ほど紹介したエムスリー(エムスリーエンジニアリンググループ)の他、ビズリーチ、マネーフォワード、プレイドなど、ベンチャー・スタートアップが多く確認できます。
CDOの求人内容や求められるスキルなど
事業を加速させるため、デザイン組織を強化して経営へと直結させていけるCDO人材を求める企業が増えている中、経営陣としっかりコミュニケーションを取ることが可能なデザイナーは高く評価されるようになるでしょう。モノ作りとマネジメントをいずれもこなしながら、ゼロイチで仕組みを構築したり、新規事業や組織を作り上げたりするスキルを養うことが重要でしょうか。
情報サイトを運営する、ある企業では、経営とデザインを強力に接続するため、デザイナー出身者がCDOを務めています。別の情報産業企業でも、CDO候補の人材に対して、5年以上のWebデザイン経験や、大規模サイトを一定数以上制作した経験を必須としていました。デザイン・制作経験に加えて、デザインチームのマネジメント経験も同様に必須としており、単に手を動かすだけでなく、リーダーとしてチームを管理しながら制作物を完成させた経験が重要であることがうかがえます。さらに、既存のWebメディアを修正するだけでなく、ゼロからデザインを制作し、そのクオリティーを維持しながらサイト改善を続け、結果的にグロースにまで貢献した経験があれば評価されるでしょう。完成に至るまでに、事業やプロダクトの要件を的確にヒアリングして、ワイヤフレームを作成した経験もアピールポイントになり得ます。
コンサルサービスを提供する人材企業では、CDO候補に対して、やはり5年以上のデザイナー経験と、デザイン組織を立ち上げられるレベルのマネジメント志向を求めていました。歓迎条件としては、Webサイトやアプリのデザインシステムを構築した経験や、Sketch・Figmaといったデザインツールの導入意欲があげられています。したがって、日頃から最新のデザインツールにアンテナをはり、実際に使用しながら制作物を作った経験があれば、CDO採用において有利になるかもしれません。また可能な限り大規模な開発案件で、ディレクターとしてマネジメントした経験があればなお可でしょう。CDO自体の経験がなくても、経営層と同じ目線で、ビジョンの実現に必要な施策を取り入れることに意欲的であれば、CDO候補にふさわしい人材と評価される可能性があります。
ある人材系企業では、CDO室に所属するプロジェクトマネジャーを募集。デザインではなく、プロジェクトリード経験と論理的思考力、課題分析のスキルを必須としていました。このように、CDO直下のポジションの場合、デザインのスキルは必須ではないケースもありますが、高度なマーケティング・マネジメントの能力が求められるため、磨いておくことが必要です。
実際、CDO室ではデザインのスキルはあって当然、マーケティングやマネジメントの方が重要という可能性もあります。あるCDOの方は、経営とデザインを結び付けるべく、当初は人事戦略・ブランディング・フィロソフィーの確立などに注力されていました。これによって組織の方向性が定まったタイミングで、モノ作りを重視したデザインチームを推進していると言います。経営ありきのデザイン組織ですので、まずは土台を整えるために、ブランディングスキルや管理能力を鍛えることが重要でしょう。
別のCDOの方も、ビジネスやテクノロジーといった、デザインに直結しないように思える領域の経験が重要だと明言されていました。「自分はあくまでデザイナーだから」とデザイン以外のものに対して意欲を示さない姿勢では、経営層としてのCDOに求められるスキルを得られず、デザイナーとしての活躍の機会を損失することにもつながります。例えば、まずは事業戦略に携われば、そこで培った経営者目線やスキルがバックボーンとなり、売上につながるデザインの考案にも生かせることがあります。
またバナー制作や営業資料の手直しなど、クリック率・開封率の改善といった、数値で可視化できる実績を積むことで、マーケティングスキルが身に付き、アピールポイントも手に入れられます。読みやすさや分かりやすさを重視したバナー・資料を整えていくことも、デザイナーにとって重要な経験であり、実際に成果を得られれば周囲からの期待が高まり、キャリアアップにもつながっていくでしょう。
このようにデザイン以外の領域のスキルを高めることは必須ですが、注意したいのは、例えばマーケティングに取り組もうと決めた後、むやみにマーケティングをやればいいというものではないことです。とりわけスタートアップのCDOに求められるのは、不要な施策を切り捨てて、必要な施策に絞って確実に成長へとつなげることと言えます。「今のフェーズでは、デザインに対してこの投資は不要だ」と判断し、ロゴ・サイト・ホワイトペーパーなど、都度必要なタイミングで必要なクリエーティブだけに投資できる見極め力が、まずは不可欠でしょう。
CDOになるまで/なってからのキャリアパス
A氏:
通信販売会社でEコマース事業の立ち上げに携わる
→インターネット関連企業に入社し、複数の企業のプロジェクトを推進
→Eコマース事業を展開する企業に入社し、デザインの統括や新規事業のプロダクトマネジメントを経験。人事にも携わる
→人材関連企業のデザイン本部を作り上げ、本部長兼CDOに就任
B氏:
大学院博士課程を中退後、ベンチャー企業に入社
→フリーランスとしての活動を経て、臨床研究関連の企業に入社
→グループ内でプロダクトマネジメントに従事
→グループ会社の取締役に就任後、医療系企業を創業し、執行役員 VPoEとなる
→グループを横断的にまとめ上げ、デザイングループの統括も経験し、CDOに就任
C氏:
インターネット関連サービスを提供する企業に入社し、CEO室に勤務。広報やブランディング、事業戦略などに従事
→米国でアートを学んだのち、フリーランスデザイナーとして活動
→帰国後、デザイン事務所の代表に就任
→上場企業にてデザイン戦略グループのリーダーを務め、CDOに就任
D氏:
家電や自動車などをメインとしたデザイン手法開発を経験
→DX推進を行う企業に入社し、新規事業の開発で幅広いデザインを担当
→同社のCDOに就任
→社内においてデザイナーの上位職に認定され、デザイン戦略をリード
E氏:
マークアップエンジニアやWebデザイナーとしての経験を重ねる
→ブランドマーケティングを展開する企業にて、ブランドサイトのWebデザインやディレクションを担当
→UXデザインの専門会社を立ち上げる
→SaaS企業に入社し、UIデザインを担当
→同社CDOに就任。
以上のような例があります。
一般的には、デザイナーとしてスキルを磨くと同時に、新規事業の立ち上げや、フリーランス・起業に関心が強く、実際に経験されている方が多い印象です。どの方もデザイナー時代から、自ら事業を回して、経営を軌道に乗せたいという意識が強く、仮に無意識であっても、経営層であるCDOとしての手腕を早くから鍛えてきたのだと考えられます。クライアントワークでは限界を感じるため、「デザイン工程のより深部にまで携わりたい」という強い意志も素養と言えるでしょう。当初はそのような意識がない方も、デザイナーとして活動する中で上昇志向が生じ、ディレクターやプロダクトマネジャーとなって、CDOのスキルに直結するディレクション・マネジメントの手腕を磨くというケースもあります。
中には、コンサル出身の方もいらっしゃいます。デザインファームで家電のUIや機器の提案に携わり、「新たなデザイン」を考えられる環境を整備することにシフトしていきました。失敗が許されない空気が強い昨今において、失敗のリスクも取りつつ「やってみなければ分からない」という“実践力”を重視されている方で、とにかく「挑戦→失敗→失敗の分析→成功」という流れを作りたいとのことです。こういった実践重視のデザイン思考を企業が実現させるには、経営層を動かす必要があります。「失敗をも楽しめる」組織設計の企業を生み出すという動機から、自らCDOとして経営を動かす道を選ばれたのは、当然の流れと言えるかもしれません。別のCDOの方も、「作ることを楽しむ」ことを重視されていました。「楽しむ」ことは、デザイナーからCDOへの流れの中で、ぶれない軸を持つ上で重要な考え方と言えそうです。
最後に、CDO後のパスとしては異業種や他社のCDOが考えられる他、D氏のようにデザイナーのトップとして、経験と知識を生かしたデザイン戦略を推進するリーダーとなるケースがあります。
E氏のように自身の会社の経営経験がある人材であれば、CEOや代表取締役のキャリアパスもあり得るでしょう。
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マネジャー以上のコンサルのキャリアに関する記事
“CMO(最高マーケティング責任者)”の役割・導入企業・実際のキャリアパスについて
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/cmo-career
“CSO(最高戦略責任者)”の役割・CEO/COO/CFOとの違い・年収・キャリアパスについて
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/CSO
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今回の記事では、“CDO(Chief Design Officer/最高デザイン責任者)”の役割・導入企業・求められるスキル・実際のキャリアパスについてご紹介しました。
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