CLO(Chief Legal Officer/最高法務責任者)は、企業の法務部門のトップであると同時に、経営層でもある役職です。欧米で誕生した役職として、外資系企業ではGC(ジェネラルカウンセル)と呼ばれることもあります。
契約書の作成や新規事業の立ち上げに伴う法務面の整備に加え、経営層として他の経営トップを法律関連の助言で導き、売上増大と健全な企業経営に貢献するのが役割です。
今回はコンプライアンスを遵守した経営をする上で重要な役職・CLOについて、役割・設置背景・求人内容や求められるスキル・キャリアパスを紹介します。
【目次】
CLOを設置・採用するに至った背景
CLOは事業拡大といった局面を迎えた企業に設置されやすいと言えます。たとえばあるベンチャー企業では、シリーズAラウンドの調達に成功したタイミングで、CLOが新たに就任するという事例がありました。このCLOの業務は、中期経営計画と予算策定、組織の方針・体制の構築・検討などであり、単に法律のアドバイザーとしてだけでなく、「経営層として」の手腕が求められることがうかがえます。以前まではインシデント対応やリスクマネジメントに関する業務がメインだったものの、事業拡大に伴い、確実にコーポレート・ガバナンスの整備や検討が必要となっていき、経営に直結する業務が増えていったようです。
ある開発会社では、着実に成長してきたタイミングで新規領域への進出を決め、新たな価値創出を目指すと同時に、CLOの候補となる人材を募集しました。既存事業をさらに成長させつつ、法務面から新規事業創出に貢献する経営層となり得る人材を求め、採用活動を行っているとのことです。
また、通信系企業では、最終的にCLOを目指す人材として、「企業法務」の採用活動を実施。DX化を加速させる中で、インシデントが発生した際に対応する体制の整備が必要となった他、重要案件への法務対応力を強化するため、CLOになり得る人材を求め始めました。採用された人材は、法律に関する高度な専門性のみならず、管理職としてのマネジメント能力を身に付けた上で、CLOを目指していくという流れだそうです。
このようにCLOは、単なる法律のアドバイザーではなく、役員として経営を担う人材です。当然ながら、業務範囲は法務以外にも及び、むしろ経営を軌道に乗せることがメインとも言えます。
「顧問弁護士に法務関連の相談をすれば、わざわざCLOを設置する必要はないだろう」と考える人もいらっしゃるかもしれません。しかし、顧問弁護士はあくまでも社外の法律専門家であり、第三者としてのアドバイザーです。特にベンチャーやスタートアップでは、事業を軌道に乗せていく上で必要な社内チームの一員として、経営にまで深く関与していけるCLOが別途必要になる可能性があります。CLOが生まれたアメリカでは、大半のCLOが弁護士資格を持っているという背景もあり、両者の違いについて分かりにくいかもしれませんが、経営者とアドバイザーという点で、CLOと顧問弁護士の役割は大きく異なると言えます。
また、社外からアドバイスを提供する顧問弁護士とは別に、企業内に属する弁護士であるインハウス・ロイヤーも増えている状況です。インハウス・ロイヤーはCLOと同様、社内のチームの一員ではありますが、法的リスクへの対応策を考え、提案するまでが大きな役割です。CLOのように、リスクに対処しつつすべき行動を判断する点までは担いません。ただインハウス・ロイヤーは、顧問弁護士よりは社内の状況を深く把握しているため、将来的にCLOを目指す人材も多いポジションです。
CLOを設置している企業は、日清食品のような大手企業に加え、世界規模のVTuber事務所「ホロライブプロダクション」を運営するカバー株式会社などがあります。
ただし、CLOは他のCxOに比べると、設置している日本企業は現状、少ないと言わざるを得ません。法務部長以下のポストがわずかであり、インハウス・ロイヤーや顧問弁護士から、CLOをはじめとする役職付きポジションを目指す方には、厳しい状況が続いている印象です。
設置数が少しずつでも伸びている状況下、チャンスは増えてくると思われますが、現状は外資系でGCを目指すことも考慮しつつ、常に情報をキャッチしていくことが不可欠でしょう。
CLOの求人内容や求められるスキルおよび実際のCLO志望者が持つスキル
実際のCLOの求人を参考にしながら、求められるスキルと、実際にCLOを志望される人材が持つスキルについて解説します。前提として、法律の知識が必要であることは自明ですが、「単なる法律のアドバイザーではない」限り、より重要なのはそれ以外のスキルです。
まず志望企業の経営状況や業界動向、競合と比較した場合の立ち位置などをしっかりと把握することは他のポジション同様に必須であり、会社の経営に必要なこと・解決しなければならない問題には、果敢に向き合っていくマインドが求められるでしょう。また、他のCxOと協力し合えるコミュニケーション能力に加え、法律の観点からCEOへの定期的な状況報告を行うためのプレゼンテーション能力、チームメンバーに対する目標の伝達スキルなど、高い話術と資料作成能力も備えなければなりません。「法律の知識さえあればいい」と自己完結せず、周囲と協力して事業を円滑に回していくためのスキルを持つことが大切でしょう。そのためには、すべてを法律の観点から解釈しようとせず、あらゆる物事にアンテナをはる柔軟性と、幅広い知識をアンラーンしようとするくらいの意欲も不可欠です。実際のCLOの方によると、自身の役割を限定するよりも、変化の多い経営状況と向き合いながら、その都度必要なことを行う臨機応変さが大切だとのことでした。各CxOやチームメンバーが、おのおのの強みを発揮しながら、確実にミッションを実現するため、自身に必要とされている役割を正しく見極める力が求められそうです。
実際、ある通信系企業では、将来のCLOになり得る法務人材を募集したとき、法務の業務をこなすのに不可欠な論理的思考力に加え、臨機応変に対応しながら物事をやり抜く力と、他者と円滑にコミュニケーションを取る能力を重視。年齢層は30~40代前半で、実案件を中心に対応してきた現場主義の人材を好んでいました。
CLOの実際の業務では、法的な業務を淡々とこなすのではなく、最前線のメンバーをまとめながら、事業を統括することが求められるケースがあるとうかがえます。場合によっては、組織作りやセールスも担う他、クライアント企業の法務部へ実際に赴き、課題をヒアリングしながらソリューションを提供するシーンも想定できます。オフィス内で法律の知識を活用しながら提案資料を作成するというよりは、自ら現場に足を運び、最前線で問題を解決するだけの泥臭さも求められると言えるでしょう。
BtoCサービスを提供する、ある事業会社では、CLO候補の必須要件に、事業会社で契約関連の業務を担当した経験か、法律事務所での企業法務の経験をあげていました。弁護士資格は必須ではなく歓迎条件であり、エクイティファイナンスの経験や上場準備、M&Aなどの経験があれば有利という印象でした。
別のゲーム関連企業でも、やはりCLO候補には契約法務経験に加え、新規事業の法務DDか、事業会社での法務組織の管理経験を求めていました。体系的な法律の知識さえあれば、司法試験合格といった高いハードルを越えることは、CLOの採用活動において必ずしも求められないことがうかがえます。
総括すると、45歳程度までに、事業会社で法務部門の責任あるポジションを担当し、プロジェクトマネジメントスキルやリーダーシップ、新規事業で求められる主体性を発揮した経験があると評価されるでしょう。「法律の知識はあって当然」であり、より重要なのは、ビジネス面への強い関心と経営者マインドと言えそうです。
現役CLOの業務について話をうかがうと、経営アジェンダの整理・経営メンバーへの評価体制の整備・執行役員の体制の検討・権限委譲の設計などがあるそうで、非常に経営に近い業務が山積みであると感じられます。業務内容は会社により異なるため一概には言えませんが、高いスキル・キャリアを持つCLOといえども、初めて取り組む経営レベルの業務に戸惑うことも想定できます。前向きにアンラーンしつつ、周囲にも頼りながら、目指す方向へと経営チームを導いていける人望と忍耐強さも確保しておくことが大切でしょう。
CLOになるまで/なってからのキャリアパス
実際にCLO、CLOと同等の業務に携わり、活躍されてきた方の経歴を紹介します。
A氏:
法科大学院を修了・司法試験に合格後、司法修習を経て弁護士登録
→法律事務所に勤務し、コーポレート・ガバナンスや会社訴訟、M&Aなどに従事
→マッチング事業を手がけるスタートアップに転職し、法務やコンプライアンスに加え、新規事業の企画や検討も担当
→同社のCLOに就任。
B氏:
弁護士登録後、3年ほど法律事務所に勤務し、M&Aや紛争案件をはじめ、企業法務全般に携わる
→法人の顧問弁護士を経てスタートアップに転職し、同社の取締役CLOに就任
また、CLO経験者ではありませんが、近い領域である法務マネジャー経験者のキャリアも、参考までに紹介します。
C氏:
大学卒業後、観光業の企業でM&A案件の法的検討や、デューデリジェンスに携わる
→大手通信会社のグループ企業に転職し、契約書の作成や著作権処理などに携わる
→東証一部上場のメーカーに入社。法務マネジャーとして、コンプライアンスガイドラインの制定や、会社法内部統制システムの整備・運用に従事
執行役員であるCLOが経営を担うのに対し、法務マネジャーや法務部長は、法務部門の管理・運営を担うのが役割です。
CLOと兼任されるケースもあり、企業によっては同等のキャリアとして扱われる可能性もあります。上記のようなポジションを担当された方は、CLO候補としてのチャンスが多いかもしれません。
参考:『現在の企業法務部の役割と機能 法曹養成制度改革連絡協議会説明資料』法務省(2022, p.7)
https://www.moj.go.jp/content/001376731.pdf
以上のような例があります。
一般的には、弁護士資格を取得後、企業の法務、特にM&Aや新規事業などに携わるうち、より深く経営に関わるため、スタートアップに転身するケースが多い印象です。「弁護士としてできる枠内」を超えて、自身の可能性を広げるべく、起業家やCEOなどと交流するほどのアクティブさがあると有利でしょうか。
実際にCLOを務める方のお話によると、法律事務所に勤務していた頃から、クライアント企業の経営に関する仕事に携わった経験が、CLO就任後も役立つとのことでした。経営には会社法・労働法・個人情報保護法といった、あらゆる法律の知識が不可欠です。特にベンチャー・スタートアップでは、自分たちで一からルールを作っていく中で、危機管理やコンプライアンスも意識しなければなりません。これらの感覚は、弁護士時代から培っておくと、CLO転身後に即戦力になりやすいでしょう。
究極的には、CxOのxの部分は、あくまでその人の専門性として認識し、他の強みを持つ経営層と共に「経営チーム」として一丸となる協調性が求められます。それぞれの強みを発揮できる環境を作ったり、法務だけにとらわれず経営の核心に近い仕事をこなしたりと、経営トップとしての器の大きさ・高いコミュニケーション力を備えることが重要でしょう。逆にこの点をカバーできれば、必ずしも弁護士資格を持っていなくても、チャンスはあります。
また、コンサル出身の有名CLOは現状、見当たりませんが、コンサルティングファームでクライアントの経営層を納得させ、事業拡大に向けた打ち手を提案した能力・経験があれば、これもかなり有利になるかもしれません。ただし、現場目線と協調性も重要なため、理詰めになり過ぎないよう注意したいところです。
最後に、CLO後のパスとしては、他社の取締役に就任する他、新規事業に携わった経験を生かして起業するか、CEOに就任するケースも考えられるでしょう。今後、CLOの設置数が増えてきた際には、同業他社のCLOとして声がかかる可能性も高まるかもしれません。
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マネジャー以上のコンサルのキャリアに関する記事
“CSO(最高戦略責任者)”の役割・CEO/COO/CFOとの違い・年収・キャリアパスについて
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“CFO(最高財務責任者)”の役割・CEO/COO/CAOや経理・財務部長との違い・求められるスキル・キャリアパスについて
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“CIO(最高情報責任者)”の役割・導入企業・CTO/CISO/CDO、CIO候補/コーポレートIT部門/情シスとの違い・実際のキャリアパスについて
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今回の記事では、「“CLO(Chief Legal Officer/最高法務責任者)“の役割・設置背景・求人内容や求められるスキル・キャリアパス」についてご紹介しました。
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