“CMO(最高マーケティング責任者)”の役割・導入企業・実際のキャリアパスについて

CMO(Chief Marketing Officer/最高マーケティング責任者)は、企業におけるマーケティング活動全般を率いる責任者として、戦略立案と実行を担う存在です。

海外の研究によると、CMOの役割が財務に及ぼす影響を調べたところ、CMOを設置した企業は、設置していない企業より、15%も高いパフォーマンスを発揮したことが示されました。CMOは企業の業績にポジティブな影響をもたらす可能性があると言えます。

参考:日本型 CMO の現状と展望 ― CMO は業績にどの程度貢献しているか ―|日本マーケティング学会

今回は、企業のマーケティング活動において重要な役割を果たすCMOについて、導入企業・設置背景と共に、実際のキャリアパスを紹介します。

【目次】

  1. CMOを設置・採用するに至った背景・各社の設置事例
  2. CMOの求人内容や求められるスキル
  3. CMOになるまで/なってからのキャリアパス

CMOを設置・採用するに至った背景・各社の設置事例

冒頭の研究結果の通り、CMOは企業が業績を出す上で重要かつポジティブな影響を与える役職ですが、昨今は設置数が頭打ちという意見もあります。デジタル・データ関連の事業を担うCDOや、情報システムの最適化を担うCIOの設置数が増える中で、なぜCMOの設置数が伸び悩んでいるという声が出てくるのでしょうか。

現代において企業活動にマーケティングが不可欠だからこそ、トップ人材はマーケティングが「できて当たり前」という風潮が生じている印象があります。つまり一般職・管理職ともに転職市場において、「マーケティングが強み」というだけでは、「マーケティング(当たり前のこと)しかできない人」として相手にされない可能性が出てきているわけです。「マーケティングだけを専門にするCMO」の募集はかからず、デジタルや財務など、直近重要視される他の強みにマーケティングを掛け合わせられる人材が求められていることは、マーケティングスキルを武器としてきた人材にとって無視できない状況です。

CIOやCFOといった他の経営層と比べて報酬が低くなりがちなのも、こういった背景が原因と考えられます。デジタル化社会では、ITシステムを理解し、デジタルスキルが備わった状態で、マーケティングの戦略を立案できることで、初めて採用の土俵に立てるという状況が増えているのでしょう。加えて、経営層目線で数値やデータのみをベースにした資料を作成するだけではなく、現場の人々に行動を起こしてもらえるよう実態を把握し、泥臭くコミュニケーションを取れるCxOとしての人間的な魅力も求められます。実際に、マーケティングの担当者に求められる素養として、営業や顧客との伴走経験を積んだことをあげるCMOもおり、周囲と連携しながらの収益獲得までの苦労を、身をもって知っていることが必要と言えそうです。

緻密な戦略を立案できても実行力に乏しかったり、広告運用の経験が豊富でも企業経営の根幹にまで携わるスキルがなかったりと、CMOに必要な「突き抜けるまで泥臭く努力を重ねられるバイタリティー」を備えている人材が少ないことも、設置数が減っている原因でしょう。

とはいえ、CMOを設置する企業も複数存在しています。設置背景として考えられるのは、たとえば事業のグロースを目指して新規顧客の獲得、既存顧客に向けたCRM施策の立案と実行といったマーケティング戦略の統括者が必要となったケースです。業務としては、市場調査や徹底的なKPI管理に加え、戦略立案・実行・分析を行いながら、組織のマネジメントや、グループ全体のブランドポートフォリオを管理するといった内容が考えられます。さらに状況を、CEOといった経営層へ的確にレポーティングするスキルも含め、高いコミュニケーション力・プレゼンテーション力・経営層としての手腕が求められるため、実態は決して「マーケティングにしか強みがない人」ではありません。実際にマーケティングをツールとして、実績をあげた人材であれば、あらゆる分野の経験者が狙えるポジションと言えます。

実際にCMOを設置している(していた)企業も、パナソニック・資生堂・ソフトバンク系などの大手から、医療系ベンチャーCyMed、Instagramマーケティング関連の事業を手がけるSAKIYOMIなど、規模を問わず多種多様です。

CMOの求人内容や求められるスキル

一言でマーケティングと言っても、内容が多岐にわたるため、当然大手・ベンチャーなど企業規模によって、CMOの業務内容と、応募に必須の条件は異なります。内容が案件ごとに大きく異なる前提で、実際のCMOの求人を参考に、求められるスキルを解説します。

まずAIをはじめとしたデジタル化が加速する近年では、SaaSやクラウドなどデジタル関連の知識・実行経験があると有利に働きやすく、IT系業界でのマーケティングの実務経験もあると有効でしょう。またコンサルタントとしての立場から、IT系業界でのマーケティング支援に携わった経験も評価される可能性があります。

IPOを見据えるAIアプリの開発会社では、グロース経験のある人材をCMOに望んでいました。資金調達後の体制強化に向けて、CEO・COO・CFOと共に事業成長を担う人材として、CMOを募集。採用活動の時点では、全社戦略のポートフォリオを適正化することと、新規・既存の投資家とのコミュニケーションによって資金調達を実現することが事業課題でした。CMOはこれらの課題を踏まえて、BtoCマーケティングをメインとして、複数の部門の管掌をする責任を担うポジションです。事業会社の経験が少ない経営陣をカバーするため、前職までに数十億規模の事業のグロース経験がある人材を希望したということでした。このようなケースでは、特にマーケティングの側面からグロースを支えた実績を、成果の証しとなる数値と共に定量的に説明できると有効でしょうか。

BtoCのEC事業を展開する企業では、ECでの売り上げ向上に貢献できる人材としてCMOを募集していました。デジタルチャネルの成長に向けた継続的な戦略構築と実現に加え、EC事業の責任者というポジションから、リーダーシップを発揮できることが必須条件です。このようなケースでは、ECをはじめIoTやAIといった最新技術、SNSや広告などの広報的な知識、物流などの幅広い知見が求められ、実店舗がある場合は店舗でのオフラインマーケティングとデジタル戦略の両方を実行するスキルもあると有利でしょう。特に実店舗とECのいずれにも偏らず、両方の戦略を立案・実行するだけの力と、事業責任者としての組織構築力やマネジメント経験を磨いておくことが重要と言えます。

SDGs関連のベンチャー企業でも、オンラインとオフラインの施策を統括する人材としてCMOを募集し、グループ経営の高度化を目指していました。必須条件はBtoCサービス関連の事業会社で、CMOに匹敵するリーダーのポジションから、マーケティングによって事業成長を実現させた経験を持つことです。リーダーとして事業の成長をリードしたことが重要ということなので、少なくとも10名以上の組織をマネジメントした経験や、チーム横断でプロジェクトマネジメントを担った豊富な経験があると評価されやすいでしょう。

中には、該当ポジション自体を新設するため、メンバーがいないケースも想定されます。この場合、CMOがチームの立ち上げから担う必要があるため、新規事業の立ち上げ経験があると有利でしょう。また当然ではありますが、これまで述べてきたBtoCのみならず、法人顧客を抱える企業ではBtoBマーケティングの責任者としての経験が求められ、海外企業との折衝も考えられるため、ビジネスレベルの英語力も必要です。企業によっては開発部や経営企画部に近い業務を担う場合があり、エンドユーザー向けの商品を企画・開発して、その商品のマーケティング活動の統括と、国内外の企業に向けたPR活動を担う可能性もあるでしょう。

結局のところ、CMOに求められるのは、自ら手を動かして戦略を立案し、サービスを企画するスキルだけでなく、オンライン・オフライン、EC・実店舗などを問わず、あらゆる形態でのサービスのマーケティング活動を軌道に乗せる実行力と、それによって事業を成長させる経営層としてのリーダーシップと言えます。

DX推進や人員増強のための採用など企業が投資すべきアジェンダが増えてきており、マーケティング予算も限られているため、CMOの仕事の難易度は上がってきており、限られた資金で幅広い事業を成功させるのは至難の業です。そのような状況下でも、CEOから期待を掛けられ続け、その期待を上回らなければならないため、プレッシャーに耐えながら確実に実績をあげるメンタルも求められます。

このような状況において、CMOとして成果をあげて、生き残っていくためには何が必要なのでしょうか。まずマーケティング活動を実行するだけでなく、ビジネスへの影響を客観的に分析し、必要な場合は経営層と対話してリソースを確保する冷静さが不可欠でしょう。経営層と必要な戦略を練った後は、現場スタッフを納得させ、彼らを巻き込みながら戦略を実行するコミュニケーション力も求められます。事業成長に必要なマーケティング活動を仕組み化するスキルこそが、成果を出すCMOに必要な最たるものと言えそうです。

CMOになるまで/なってからのキャリアパス

実際のCMOのキャリアには、以下のような例があります。

A氏:
外資系コンサルティング会社でコンサルティング経験を積み、外資系広告代理店で戦略プランニングに従事
→大手インターネット関連企業でプロダクトマーケティングをリードし、さまざまなハードウエア事業の立ち上げに従事
→ ITインフラ企業の事業立ち上げに参画し、CMOとして企業のブランディングや新たなマーケティングモデル確立に貢献
→ アプリのグローバルマーケティングをリードし、BtoC・BtoB、下流上流などを問わず幅広いサービスのマーケティングに携わっている

B氏:
インターンを経てスタートアップ企業に入社し、法人営業を担当
→同社のCMOに就任し、0から立ち上げたBtoBマーケティング事業の責任者として、1年間でリード数約40倍以上を達成

C氏:
大学卒業後、商業施設の運営やファッション関連事業を展開する大手企業に入社し、広報・宣伝活動などに携わる
→ウェディング事業会社に入社し、営業企画や事業戦略に加え、マーケティングを担当。マーケティング部長に就任
→集客支援のプラットホームを提供する企業に入社し、マーケティング部長を勤めたのち、取締役CMOに就任
→新規事業を立ち上げ、代表取締役CEOに就任。あらゆる業界の企業において経営を支援し、企業成長に多大な貢献をしている

D氏:
新卒でインターネット広告会社に入社し、進行管理業務や広告枠の仕入れ、広告企画などを担当
→戦略子会社の立ち上げに参画し、営業や受発注の管理などを担当。別の子会社のマネージャーも兼任
→IT系ベンチャー企業にデジタルマーケティングを担うゼネラルマネージャーとして入社。翌年に同社のCMOに就任

以上のような例があります。

一般的なパターンは、事業会社で営業・企画・広報といった業務を担い、培ったスキルを武器に、自ら新規事業を0から立ち上げた経験を持つ人材が登用されるというものです。

コンサル出身者の場合、コンサルティング経験に加え、戦略立案を経験している人材がいらっしゃいます。マーケティング活動を企業の一要素ではなく、企業全体を変革させるためのツールと考え、「実際に変革を促したい」という思いから、マーケティングの責任者のポジションを目指すという流れでCMOにまで登り詰めました。

実際のCMOのキャリアからは、やはり単にマーケティングが理解できるだけではなく、ビジネス・売り上げ・経営目線を常に意識し、「全社を成長させるために変革を起こそう」と考え、行動できる人材が、CMOにふさわしいことがうかがえるでしょう。逆に、いくらマーケティングに詳しくても、企業全体のグロースと結び付けて考え、実行する力に乏しい場合、CMOどころか、いちマーケターとしてのキャリアも危うい時代であることは念頭に置きたいところです。

実際にCMOを務められる方によると、何よりも大切なのは、「自分の領域はマーケティングだ」と仕事に線引きをしないことだそうです。事業の成長に求められるものを懸命に考え、必要なことであれば領域を問わず自ら実行する姿勢が大切と言えます。

最後に、CMOのキャリアパスは、同業他社・異業種他社のCMOが考えられるほか、実際にCMOとして成果を出したノウハウを生かし、代表取締役CEOとして新規事業を立ち上げた方がいらっしゃいます。多様な業界の経営支援に取り組んでいることから、マーケティングのノウハウ自体はジャンルを問わず生かせるでしょう。

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マネージャー以上のコンサルのキャリアに関する記事

“CSO(最高戦略責任者)”の役割・CEO/COO/CFOとの違い・年収・キャリアパスについて
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/CSO

“CFO(最高財務責任者)”の役割・CEO/COO/CAOや経理・財務部長との違い・求められるスキル・キャリアパスについて
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/cfo

“CIO(最高情報責任者)”の役割・導入企業・CTO/CISO/CDO、CIO候補/コーポレートIT部門/情シスとの違い・実際のキャリアパスについて
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/cio

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今回の記事では、経営層であると同時にマーケティングの最高責任者である「CMO(Chief Marketing Officer)」の設置背景・求められるスキル・キャリアパスについてご紹介しました。

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