経営企画部門における目標設定について、セールスやマーケティング部門と異なり、売上やKPI指標等、定量的な目標を持たないこともあることから、どのように設定したらいいのかと悩まれる方も多いでしょう。
経営企画部門は、トップマネジメントからの要請に対していかにスムーズに的確なアウトプットを提供するかの検討や、予実管理、会議体のように全社で必要な事項の取りまとめなど、定性的になりやすい面もあります。
今回は経営企画に従事する方における目標設定のポイント、さらには具体的な目標設定例を紹介します。
【目次】
経営企画の目標設定におけるポイントは?
まず、経営企画の目標設定におけるポイントについて確認していきましょう。
今回は各メンバーが自分で目標設定する方法をイメージしながら紹介します。
経営企画の目標設定におけるポイント①正しい目標設定方法を意識しているか
経営企画の目標設定のやり方については、各企業や部門独自のフォーマットが準備されており、そこに埋めて行く方法が一般的でしょう。
その場合、自分自身で上長とすり合わせながら目標を検討していくことになると想定され、お互いに納得感があるものとして仕上げていく必要があります。
例えば、目標設定の考え方として、SMARTの法則というフレームワークがあります。
SMARTは考え方の切り口における頭文字で、具体的には、立案する目標が以下の基準を満たしているか見ていくものです。
Specific:具体的であり誰にとっても理解しやすいものである
Measurable:定量的で計測可能なものである
Achievable:現実的で達成可能なものである
Relevant:会社や部門が掲げる目標や課題と関連性があるものである
Time-bound:期限が明確になっている
また、ベーシック法として、
目標項目の設定:「向上・強化」「改善・解消」「維持・継続」「創出・開発」の4つの切り口で目標を設定する
目標達成基準:どうなれば目標を達成することになるのかを設定する
期限の設定:いつまでに目標を達成するかを決める
目標達成のための計画:具体的にどうすれば目標が達成できるのかを決める
という考え方もあります。
さらに、OKR(Objectives and Key Results)という手法も活用できます。会社や組織としての達成目標「Objectives」とともに、目標の達成度である「Key Results」を設定し、全社と部門、個人が同じ課題に取り組めるように設定する考え方です。
例として3つの目標設定方法の切り口を紹介しましたが、他にも目標設定の考え方があるので、比較検討しながら個人の目標を組み立てていくことが大切です。
経営企画の目標設定におけるポイント②経営の視点が目標に入っているか
先ほど紹介したSMARTの法則の「Relevant」にも記載がありましたが、経営企画部門の場合は、業務の特性上、部門長からメンバークラスに至るまで、経営に関する視点が目標に入っていることが必要です。
多くの企業では、経営目標が経営企画部門全体の部門目標に直結しており、さらに部門目標に従って、個人の目標を作り上げる形になるでしょう。
経営企画のメンバークラスは、役員や部門長とは違って、必ずしも直接経営に関与する訳ではありませんが、経営の意思決定に関する業務を行うのは事実です。間接的ではあるものの、「経営に関与している」という意識・経営層目線を持つとともに、経営上実現可能かという視点を目標に入れておくことが望まれます。
参考:マネジャー以上のコンサルが、経営企画への「転職前」に身につけておくべきこと
経営企画の目標設定におけるポイント③具体的であり、測定可能な目標設定になっているか
こちらもSMARTの法則の中にあった、「Measurable」という切り口で、測定可能なものであることが望まれます。
定量的な測定可能性は、目標を数値で立案することで、目標に到達したか、未達かが分かりやすいでしょう。
一方、定性的な目標における測定可能性については、目標に対して客観的に見ることができる第三者による評価が行われたかどうかも、一定の判断軸として使えます。
経営企画の場合は、定性的な目標も比較的想定されるのが実態です。例えば、直接評価者ではない担当役員から一定の評価が得られたことや、事業部門からの貢献の声を貰ったことなども評価基準として挙げられます。
また、定量・定性どちらの目標であっても、目標を立てた自分自身に対する、上長からの評価を考えると、双方にとって同じ目線で評価ができる測定しやすい目標にすべきです。
経営企画の目標設定におけるポイント④目標が挑戦的なものであるかと実現可能性のバランスが取れているか
目標においては、少し上を見た挑戦的なものである一方で、それが絵に描いた餅にならないように、実現可能かどうかバランスを取りながら考えていくことが重要です。
経営企画の場合は、自分では到底実現できないような経営に関する目標を立案しても、達成へのモチベーションが湧きづらいことが考えられます。
極端にいえば、今期の時点で100億円の企業で、来期は500億円達成するために経営陣に対してM&Aや新規事業立案を働きかけるというのは、目標としては挑戦的であるものの企業によっては実現可能性が低いでしょう。
また、例えば、「A社のM&Aを実現させる」「上期中に3社のM&Aを実現させる」という目標を立てた場合、自分が相手方に対する交渉をこまめかつ丁寧に行い、さらに経営陣に対して意思決定のための十分な情報を提供したとしても、相手方の反応次第であったり、経営判断によって実施しなかったりすることもあり得ます。
さらに、経営企画が行う事業部門に対しての業務の目標であっても、自分自身の動きではなく事業部門の影響により達成か未達かが明確になってしまうことは、目標として考えるのは難しいでしょう。
このようなことから、目標は相手方の判断で左右されるものになると、努力が実らない可能性があったり、逆に運よく達成できたりすることも考えられます。
したがって、自分自身が動いて努力した結果、達成か未達か判断できるような、実現可能性があるものが望ましいでしょう。
経営企画の目標設定の手順
経営企画における目標設定の手順は、どのような手続きを経ればいいのでしょうか。
まずは自分自身で目標を立案し、上長や人事との面談を通じて目標を決め、半年や年度に一定の時期に評価を行う、目標管理制度による場合を想定してみます。
経営企画の目標設定の手順①全社ビジョンやミッション、目標を確認する
目標設定を行うにあたって、全社がどのようなビジョンやミッション、さらに目標等の経営指標のもと動いているのか、経営企画部門として改めて確認しておく必要があります。
全社の経営指標は単年度、または中期経営計画として数年度単位で設定され、全社員に通知されることも多いでしょう。
社内広報やIR活動等、社内外に対する経営指標の周知についても、経営企画部門が担うことも多いことから、どの会社の経営企画部門においても、頭に入っていると考えられます。
そして、個人の目標設定を行うにあたって、改めてこれらを確認しておく必要があるでしょう。
経営企画の目標設定の手順②経営企画部門のビジョンやミッション、目標を確認する
全社に続いて、経営企画部門のビジョンやミッション、目標等の指標を確認しておく必要があります。
経営企画のメンバーであれば、部門が達成すべき指標を拠り所として日々活動していると考えられます。
もしくは、部門長や管理職だけではなく、メンバーも部門の指標策定に参加していることも考えられますが、その場合は、次に紹介する個人の目標も部門目標ができ次第、流れで作成することもあるでしょう。
経営企画部門の部門指標も明確にしておくことで、個人の目標と紐づけて考える必要があります。
経営企画の目標設定の手順③個人目標を検討する
全社と部門の目標指標が明確になれば、個人への落とし込みを検討します。
個人の目標は、会社によってどのような手順で立案するかは会社独自のフローも想定されますが、一般的には、上長と面談等を通じてすり合わせをしながら、具体的な目標に落とし込むこととなるでしょう。
目標をまず考えるのは、上司や会社ではなく、メンバー自身になることが普通です。
特に目標管理制度を取り入れている会社においては、上長と擦り合わせつつ目標に対する自分自身の納得感を持って取り組み、部門や会社への成果に結びつける必要があります。
そのため、自分自身の目標は自分が定めて認めたものであり、人から与えられたものではないものとなるので、その点は会社や部門、上長と齟齬がないように進める必要があるでしょう。
【対策】全社や部門のビジョンやミッション、目標が明確でない場合に経営企画がやること
仮に上述した会社や部門のビジョンやミッション、目標が明確でない場合は、社員としてどのように目標設定をしたらいいのでしょうか。
経営企画部門であれば、率先して会社や部門の指標作成をまず行うように、経営陣に働きかけることも考えるべきでしょう。
それが最優先ではあるものの、難しい場合はせめて部門の目標をどのようにすべきか、上長に掛け合ったうえで作成したいものです。
それでも目標に対する評価のために先に個人目標を作る必要があるなら、半年や1年先、自分自身がどのような動きをするのかという観点から、上長と擦り合わせるところから始めなければなりません。
将来自分が経営企画メンバーとしてどのような状態になっていることが望ましいか、何ができるようになっていればいいのかを明確にして、実現できるよう目標に落とし込んでいくことが考えられます。
経営企画の目標設定における具体例の紹介
具体的に経営企画の目標は、どのように掲げるのが望ましいのか、業務別に例を挙げてみます。
冒頭の経営企画の目標設定におけるポイントで紹介した、SMARTの法則を今回の具体例に当てはめながら、KPIに該当する目標イメージを作成しました。
経営企画のKPI・目標設定例①経営計画業務の場合
まず、経営計画業務を行う場合における目標例を挙げてみます。
仮に、全社計画を3ヶ月後の3月までに策定する場合を考えてみます。
目標例:3ヶ月後の3月末までに、全社計画を事業部門と連携しながら取りまとめ、経営陣に対して提出を完了する。
S(具体的である)の視点:全社計画を事業部門と連携して取りまとめる
M(定量的である)の視点:経営陣に対して提出を完了する
A(現実的である)の視点:3ヶ月後に計画を取りまとめて提出するのは企業であれば現実的な業務内容である
R(会社や部門目標・課題との関連性)の視点:全社目標であるため会社とは関連性があるものである
T(期限)の視点:3月末
定量的な面は、経営陣への提出を完了するとして、未提出か提出完了かという、ゼロかイチという点を挙げましたが、数値にできない場合はこのように「期日に間に合わせて完了する」という点も考えられるでしょう。
本来なら、「経営陣に対して提出を行い、承認を得る」というところまで折り込めれば良いですが、「承認を得る」という点は、経営陣の判断になり、目標を立てたメンバーの力では及ばない可能性があります。
そのため、このような場合は上長と相談のうえ、納得してもらった後でどうするか決めていくことが重要です。
経営企画のKPI・目標設定例②予算実績管理業務の場合
次に、予算実績管理業務の目標例です。
仮に、現時点で会社において予算実績管理の差異要因が明確になっていない状況を想定します。
目標例:現在明確になっていない予算実績管理業務における差異要因を、半年後の6月末までに経営陣に提出した際に、経営企画担当役員から理解が得られるレベルに仕上げる。
Sの視点:予実管理における差異要因を経営陣に提出し、とりわけ経営企画担当役員の理解が得られるものである
Mの視点:経営企画担当役員からの納得を得る
Aの視点:現在明確になっていない差異要因を明確化するという点では、社内関係者へのヒアリングや調査を含め、要因分析を深く実施すれば必ずしも不可能な目標ではない
Rの視点:全社目標が関わる予算実績管理は部門でも主業務である
Tの視点:6月末
この目標の場合は定性目標になりますが、第三者である経営陣に提出して、経営企画担当役員の納得が得られるものに仕上がっていれば、評価に値するという考え方です。
経営企画のKPI・目標設定例③市場環境分析業務の場合
続いて、市場環境分析業務の目標例です。
目標例:自社が属する市場において環境分析を行い、経営課題として考える事項を部門長の承認も得ながら3つ抽出し、6月末までに経営陣に提案する。
Sの視点:市場環境分析を行い、結果として自社に当てはまる経営課題を抽出
Mの視点:経営課題を3つ抽出
Aの視点:経営課題を3つ抽出するものの、それが経営における戦略・解決策に当てはまるかは別である。自分の努力次第で抽出と部門長の承認を通じた提案は可能
Rの視点:経営課題は将来の成長を見据えていくために解決していかなければならない事項
Tの視点:6月末
3つという具体的な数値を挙げた目標ですが、単に経営陣へ直接提案するのではなく、部門長の承認を経て提案することとなります。
そのため個人ではなく、経営企画部門として考えた経営課題案と扱われるのが特徴です。部門長を上手く巻き込むことによって、一定のハードルはあるものの提案実現の可能性は十分あるでしょう。
こちらもメンバークラスであるため、経営課題を提示して解決することまでは記載していませんが、「6月末までに経営陣に提案し、経営会議で1案以上が承認される」等を入れることも要検討です。
経営企画のKPI・目標設定例④管理職向けのプロジェクト推進の場合
これまで挙げた3つは経営企画メンバー目線の目標でしたが、最後に経営企画部門の管理職が掲げる目標例を紹介します。
仮に、経営課題として新規事業の立ち上げが急務である中で、プロジェクトリーダーの就任を要請されている場合を想定してみます。
目標例:現在経営課題として挙がっている次の成長事業発掘のためのプロジェクトを2月までに立ち上げ、プロジェクトリーダーに就任する。半年後の6月末までに1案以上、1年後の12月末までに3案以上の新規事業企画案を取りまとめ、経営会議に出席して自ら提案する。
Sの視点:リーダーとしてプロジェクトを推進して、新規事業案を取りまとめる
Mの視点:6月末までに1案以上、12月末までに3案以上
Aの視点:プロジェクトリーダー就任を通じて、自身のリーダーシップで企画案を取りまとめることは、管理職としては現実的な目標である
Rの視点:経営課題は会社として解決すべき重要事項
Tの視点:6月末と12月末の2回期限が設定されている
経営会議に出席して良質な提案をすることで、経営陣から「進める」という意思決定が得られることがベストでしょう。
しかしながら、今回の例はリーダーとして取りまとめて経営会議に提案するまでとなり、経営判断に左右される所は目標として挙げていません。
会社の方針や、経営企画部門の社内での立ち位置によりますが、管理職である自分ができる範囲を超える目標は、運が良ければ達成するものの、運悪く経営陣の判断として企画案を実行しない場合もあります。
その場合、目標設定に入れると「Aの視点」が難しくなる可能性があります。
どうしても企画案の承諾まで入れたい場合は、「仮に経営会議で承諾された場合」として、その後の新規事業立ち上げの取り組みを自ら行っていくことを、追加で入れておくことは考えられます。
なお今回の例で挙げたプロジェクト推進は、プロジェクトを通じて企画案を具体化して、可能性がある良質な企画を経営会議に提案する所まで実施することから、メンバークラスでは難しく、管理職であっても一定のハードルがある目標かもしれません。
経営企画では「頑張れば達成可能」という現実的な目標設定を
経営企画における目標として、設定のポイントや手順、具体的に目標を掲げる場合の例を紹介しました。
今回、設定例ではSMARTの法則を例に挙げましたが、他にも目標設定の方法が考えられます。
経営企画であれば、経営ビジョンやミッション、経営計画に関連したものであり、定量的で現実的なものが多く、期日を決めつつ実施していくことが望まれます。
とりわけ、「頑張れば達成可能」という現実的な目標を、上長と擦り合わせて、お互いに納得して進めることが大切です。
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今回の記事では、経営企画の目標設定について、ポイントの解説と具体例をお伝えしました。
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