企業経営においてリスクマネジメントの概念が特に近年クローズアップされてきた背景として、千葉商科大学のセミナーで言及されている通り、2000年代前半の内部統制システムの整備の必要性が挙げられます。
さらに、未曽有の災害が発生した場合に、企業としてどのような対応をするかという観点から、事業継続計画(以下、BCP)の重要性も考えられるでしょう。
前者の内部統制システムの整備については、企業内部要因で発生したもので現時点では問題には繋がらないものやまだ見ぬ潜在的なもの、さらには明るみに出た問題について、今後は発生させないようチェック機能を固めていくという考え方です。
後者のBCPについては、企業の不祥事で社会的問題に繋がるものや、震災や大雨、台風の襲来等による被害への対策が考えられます。
さらに、海外でビジネスを展開している場合の対象国の為替変動、政治情勢、紛争等のカントリーリスク、伝染病の流行など、自社にとって対応が難しい外部要因も考えられます。
これらのリスクに対する事前、もしくは事後対策としてのリスクマネジメントは、将来的に不確定要素が多い経営上のリスクとして検討しておく必要があり、とりわけ経営企画部門においては業務上、関与することとなるでしょう。
今回はリスクマネジメントをテーマとして、経営企画部門において対応すべき事項や、知っておくべき内容等について、企業が取り組んでいるリスクマネジメントの実例も取り挙げながら解説します。
【目次】
リスクマネジメントとは
リスクマネジメントは、中小企業白書にある通り、直訳するとリスクに対する管理という意味です。ただし定義は団体や規格によってそれぞれ異なります。
例えば、ISO規格によるリスクマネジメントの定義は、「組織がリスクを識別し、評価し、そして制御するプロセス」として捉えられています。
ISOに準拠する場合であれば、まずリスクを特定し、そのリスクを分析、評価を行う手続きが必要です。
さらに、リスクを評価し、リスクの対処のための計画と対応策を実施し、最終的にリスクに関するレビューを行い、再評価することとなります。
①リスク発見
②リスク分析
③リスク評価
④リスク対策
⑤リスク対応
参考:JIPDEC 一般財団法人 日本情報経済社会推進協会「ISO31000-2018年版:リスクマネジメント-指針の経営への活用」
また、リスクの分類の一つに、純粋リスクと投機的リスクという考え方があります。
純粋リスクは、災害、事故など企業に損失のみを与えるリスクですが、投機的リスクは、ビジネスリスクともいわれ、損失だけではなく、製品開発や為替、金利変動等により利益を生む可能性もある事象です。
企業においては純粋リスクだけでなく、投機的リスクも追求しながら成長を志向する必要があります。
リスクマネジメントは、これらのリスクに対するPDCAサイクルを絶え間なく回していくことが必要で、終わりがない取り組みとなります。
手続きの紹介だけでは抽象的であるため、具体的に経営企画部門におけるリスクマネジメントの具体例を考えてみましょう。
経営企画部門におけるリスクマネジメントの具体例
上場企業を中心とする大手企業においては、持続可能な社会の実現に向けて取り組んでいる内容を報告するサスティナビリティレポートや有価証券報告書のなかで、リスクマネジメントについて触れている会社が比較的多くあります。
その中からリスクマネジメント体制や仕組みを構築している企業3社を取り上げ、経営企画部門がおもに関与する取り組みを紹介します。
ライオン株式会社の取り組み
まずは、日用雑貨製品大手であるライオンのリスクマネジメント事例を紹介します。
同社は、リスクマネジメントの基本的な考え方や基本方針、損失の危険の管理に関する規程等の体制を構築しつつ、被害の最小化と業務の継続を図るための体制づくりのためのBCPを定めています。
また、経営企画部の役割として、リスク統括管理担当取締役には経営企画部担当役員を任命し、経営企画部において同社グループ全体のリスクを網羅的・総括的に管理する体制です。
さらに、環境、品質、事故・災害に関するリスクを管轄する会議に、経営企画部特命担当部長を参加させることで、適時適切な対応が図れているか、客観的・俯瞰的にチェックできる体制をとっています。
このように、同社においては経営企画部が主体的にリスクマネジメントにかかわることとなっています。
TPR株式会社の取り組み
続いて、自動車部品や、アルミ、ゴム、樹脂製品などを手掛けるTPR株式会社の取り組みの紹介です。
全社におけるリスク管理の仕組みとしてリスク管理規程を定めるとともに、実効的かつ効率的にリスクマネジメントを推進するためのリスク管理委員会を設置しています。
さらに、情報セキュリティ管理の強化や事業継続マネジメントにおける目的/基本方針を定め、大規模災害等の緊急事態への対応に備えています。
また、リスク管理活動は同社の経営企画室が総括し、経営企画室がリスク項目ごとに主担当の部門を定め、リスク管理活動の実行を指示する役割を担う体制です。
株式会社うかいの取り組み
関東を中心としたうかいブランドの高級飲食店でも有名な、株式会社うかいのリスクマネジメント事例について紹介します。
うかいのリスクマネジメント体制は、有価証券報告書の事業等のリスクの項目に詳しく紹介されています。
具体的には、取締役会の下に、社長を委員長としたリスク管理委員会を設置し、経営リスク、労務・安全衛生、コンプライアンス等、8つのテーマに沿った分科会があります。
分科会では、個別リスクの具体策を検討・実行するために、実務担当者から選出、選定される仕組みです。
リスクの設定については、リスク候補の検討を通じてリスクを特定したうえで、リスクの評価を経て、リスクに対する統制活動を決定します。
さらに、リスク対策の実態やリスクの発生を把握するモニタリング活動を通じ、リスクの再評価・改善を行い、リスクの解消に繋げていくフローです。
リスク管理委員会においては、事務局長を経営企画室長とし、非常任委員に経営企画室と管理部のメンバーが加わっています。
経営企画志望者が知っておくべきリスクマネジメントに関するスキルとは?
各企業の事例にあるとおり、経営企画部門としてリスクマネジメント委員会への参加等、リスクを検討するプロジェクトにおける要職を担うこととなります。
そのために、経営企画職はリスクマネジメント業務を担う可能性があると考えておいた方がよいでしょう。
そのような場合に備え、経営企画職を志望する方が知っておいた方がよいリスクマネジメントに必要なスキルを、具体的に紹介します。
リスクを評価するためのスキル
各社のリスクマネジメントの取り組みでも紹介しましたが、リスクマネジメントのフローの中では、洗い出されたリスクに対して、企業に重大な影響を及ぼすのがどの程度かを評価する必要があります。
対策案を提示するのは、事務局や委員長である経営企画部門の責任者かメンバーになる可能性が高いことを考えると、リスクを評価するスキルを身に付けておくことが重要です。
具体的には、リスクに対応した企業のケーススタディやリスク評価手法を学ぶことで、リスク評価に対する関心や感度を、日頃から上げていくことが大切でしょう。
リスクに対応するための戦略構築スキル
リスクについて、企業として対応すべき必要があるものについては、具体的な対策を検討していく必要があります。
その対策案を提示するのも、経営企画部門の業務となることが想定されます。
具体的には、自社の戦略に対して、どのような課題が発生する可能性があるのか、リスクを洗い出すスキルを身に付けることです。
そのためには、競合企業のリスクマネジメントを学ぶことはもちろん重要ですが、競合に限らずリスクマネジメントに強い企業を洗い出し調べておくことで、その企業が自社の戦略を達成していくためにどのような対策を講じているか、理解しておくことも重要です。
さらに、今回紹介した企業事例の中でも挙がっていたBCPを、取締役会やリスクマネジメントに関する分科会等を通じて構築していく必要があります。
BCPの旗振り役は、経営全般について精通している経営企画部門がその役割を担うことが多いです。計画策定のための考え方も、「中小企業と小規模事業者のBCP導入マニュアル」のような書籍やセミナー等を通じて、積極的に身に付けておく必要があるでしょう。
リーダーシップやコミュニケーションスキル
経営企画部門の責任者やメンバーにとって、リスクマネジメント担当者に限らず必要なスキルが、リーダーシップやコミュニケーションスキルです。
また、プロジェクトが発生した場合においては、誰かが推進していく必要がでてきます。
今回のような全社で行うべきリスクマネジメントに関するものであれば、現場よりも全社の状況を把握しやすい経営企画部門の責任者や担当者が、率先して旗振り役になっていく必要がでてくるでしょう。
また、リスクマネジメントに関する業務を担当する場合、本来の業務以外でもコミュニケーションを取る必要があるメンバーが多く発生することとなります。
上下関係なくどのようなメンバーであっても、円滑にリスクマネジメントに関する情報を的確に伝え、またはリスクについても吸い上げられるような高度なコミュニケーションスキルが重要になってきます。
普段から各部門に対して興味・関心を持つことと、各部門の課題認識の把握や業務上のリスク共有などにおいて、部門長や担当者とコミュニケーションを取っておくことも必要となるでしょう。
法規制やコンプライアンスに関するスキル
リスクマネジメント全体として、自社や所属する業界における法規制や、労務や税務・会計に関する各法や諸規則、セキュリティや個人情報関連法などを理解しておく必要があります。
普段から自社事業に関連する法律に関しては、経営企画部門としても最低限理解しておき、他部門から法規制やコンプライアンスに関する問い合わせが来た場合には、法務部門と連携しながら的確に対応することも重要です。
専門的な内容であれば、弁護士や税理士等の専門家とも連携し、社内で速やかに対応できる体制も必要となるでしょう。
経営企画においてリスクマネジメントは業務上不可欠
経営企画として知っておくべきリスクマネジメントに関するスキルを、各社の取り組み事例も交えながら紹介しました。
リスクマネジメントは定義によって異なるものの、おおむね企業として対応すべき点は共通する要素も多くなります。
とくに経営企画職においては、リスクマネジメントの取り組みは業務上不可欠になることが想定されます。
普段から自社におけるリスクマネジメントを理解しつつ、常にあるべき姿を構築していくことが重要であると言えるでしょう。
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今回の記事では、経営企画におけるリスクマネジメントの具体例と必要なスキルについてお伝えしました。
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