企業内部において「社内システムの使い勝手が良かったら」「手間が掛からないようになれば」と考えることがあるのではないでしょうか。
サービスを利用する顧客側としても「もう少しツールが使いやすければ」と思うことが、普段の生活においても数多く存在するでしょう。
DXを通じてこれらの課題を解消することで、一定の経済効果も見込まれると考えられていますが、一方で中々DX導入が進まないことも多いのが実情です。
今回は特に、社内におけるDXを進めるために経営企画部門がどのような役割を果たしていけばいいのか、進め方や課題とその解決策について紹介します。
【目次】
DX推進の手順と経営企画部門による関与
経済産業省が提示しているDXの指標に近づいていくためには、企業として具体的にどのようなDX推進を行っていけばいいのでしょうか。
大企業においては、専門組織またはプロジェクトとして、DX推進部やDX推進プロジェクトを発足し、全社から選抜されたメンバーが推進することが考えられます。
一方で中堅・中小企業においては、専門的な組織化はリソース上難しく、プロジェクト組織か、経営企画部門や情報システム部門が推進役となったり、外部の専門家が参加したりするプロジェクトが想定されるかもしれません。
今回は特に経営企画部門が中心となってDXを推進する場合を想定しながら確認していきます。
DX推進のための手順
経済産業省の『デジタルガバナンスコート実践の手引き(中堅・中小企業向け)』には、DXの進め方についての解説があります。
資料全体として、中堅・中小企業向きとありますが、大企業や上場企業を含めた多くの企業で採用可能な一般論として紹介されています。
具体的にDX推進に向けたプロセスとして挙げられているのが、1.意思決定、2.全体構想・意識改革、3.本格推進、4.DX拡大・実現の4つです。
参考:経済産業省の『デジタルガバナンスコート実践の手引き(中堅・中小企業向け)』pp.14-15より
この資料を参考に、各プロセスにおける、経営企画部門の関与の仕方について紹介します。
意思決定プロセス
このプロセスでは、まず経営層による戦略策定が必要であるとされています。
トップダウンによる意思決定や、DX推進チームの設置がおもな対応事項となります。
経営層の関与が重要になってくるプロセスであるため、経営陣の参謀である経営企画部門は、DX実現において意思決定のための準備やDX推進チームの設置準備、人材候補、役員間の調整など、経営陣の要請に対して稼働していくことが求められるでしょう。
もちろん、経営企画のメンバーは、何かしらの形でDX推進チームと連携していることが望ましく、さらにDX推進メンバーの一員であることが望まれます。
また、DX推進チームの責任者が経営企画部長や、経営企画部門の管理職など、一定のリーダーシップを持って動けるメンバーであれば、全社への巻き込みも実施しやすくなるでしょう。
さらに、このプロセスにおいて関与すべき人材は、CEOやCIOであり、とりわけ中堅・中小企業においては、経営陣ではなくても経営・技術の両方に精通する人材が必要とされています。
そして、経営企画部門が果たしていく役割として、経営陣からの課題に直接あたっていくことが中心となります。
特に大企業に比べて不明確になりやすい中堅・中小企業においては、自社の理念や企業としての存在意義であるパーパスを明確にしたうえで、5年、10年先の将来的な経営ビジョンをしっかりと描き、方針の計画を立てていくことが必要です。
将来像を明確にしておくことにより、「DXが今流行っているから当社も入れよう」「AIを使うと便利になりそうだ」など、技術主導で導入目的が不明確になってしまうことを避けることができます。
したがって、推進チームの編成や、理念、パーパスなどに関与することに長けている経営企画部門の活躍領域は、非常に大きいと言えるのではないでしょうか。
全社構想・意識改革プロセス
このプロセスでは、全社を巻き込んだ変革準備として、社内に存在しているアナログデータをどのようにしてデジタル化していくのかに焦点が当てられます。
また、データ化したものをどのように利用していくかも検討しなければなりません。
さらに、DXを推進していくチームやメンバーと、事業部門の協力が欠かせないフェーズでもあり、連携によって成功事例を生み出していくことが重要となります。
そのため、DX推進メンバーとなっている経営企画メンバーが事業部門との連携を密に図り、時には忙しい事業部門の支援をしながら推し進めていくことが欠かせないでしょう。
この段階においても、意思決定プロセス同様、リーダーシップをもって全社で推し進めていく必要があることから、関与すべき人材はCEOやCIOであり、中堅・中小企業においては、経営・技術の両方に精通する人材とされています。
経営企画部門としては、全社の意識を変えていく動きとして、DX推進プロジェクトの全社浸透や協力体制の構築なども重要になってくると考えられます。
本格推進プロセス
このプロセスにおいては、社内のデータ分析・活用が重要となり、これまでの経営陣が主導となっていたフェーズから、現場により近くなってきます。
具体的な推進内容としては、データ分析の前提となる業務プロセスの見直しや、新たな価値を産むデータはどのようなものであるのか明確化し、またそれを活用することで具体的に価値を提供することが挙げられます。
さらに、データインフラのためのシステム構築もこの段階に入ってくるでしょう。
メンバーもデータ分析者やシステム実装や安定稼働のためのデジタル技術者、さらにはサイバーセキュリティに長けている人材の配置が必要になってくることが想定されます。
とりわけ、これまでの考える業務から、システム開発やテストなど手を動かすところが業務の中心となってくるため、経営企画部門としては、DXシステムの進捗状況や、プロジェクト進行管理などの役割を果たす必要があると考えられます。
DX拡大・実現プロセス
最後のプロセスとして、顧客の接点を変えつつ、サプライチェーン全体を変えていくという展開となります。
サービス業であれば新たなシステムを導入し、顧客に使用してもらうこととなり、製造業であれば経験や勘で行っていた、人に紐づいた作業を、データ化により効率化、標準化ができるようになることもあるでしょう。
さらには、成功事例を蓄積すると、次への拡大のための新たな投資と意思決定を行うこととなります。
その場合においては、経営企画部門は現状の導入状況をモニタリングし、新たな事業拡大や顧客への価値提供、効率化に寄与できないかを検討することとなります。
またDX投資にいくら必要で、売上増やコスト減でどれぐらいの効果が見込まれるのか精査しなければなりませんが、まさにここは経営企画部門の本業といえるところでしょう。
DX推進の重要性
DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を聞かない日はないぐらいになっています。
業界問わず、また企業内外問わず、さらに顧客の立場であっても重要な概念となっています。
DX推進が重要である前提
2018年、経済産業省が出した報告書『Dレポート〜ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』において、DXを推進しなければならない理由として、2025年の崖という見解を出しています。
これは、2025年までに既存のレガシーシステムのブラックボックス状態を解消しつつ、データ活用が出来なかった場合には、それ以降、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性があると警鐘を鳴らしているものです。
もしデータ活用がしきれずにDXを実現できなかったら、市場の変化に対応して企業のビジネスモデルを柔軟に変更することもままならず、デジタル競争の敗者になることを示しています。
また、システム維持費の高額化や、IT技術者の担い手不足による対応の遅れ、サイバーセキュリティや事故・災害によるリスクの高まり等による影響も発生します。
逆に、2025年までに必要なものについて刷新してDX化を実現することにより、2030年には実質GDP130兆円超の押上げが実現できると試算されました。
そのため、影響する大企業から中小、ベンチャー企業にいたるあらゆる企業がDX推進の取り組みを行っています。
そもそもDXとは
経済産業省は「『DX 推進指標』とそのガイダンス」(2019 年)において、DXを以下のように定義しています。DXは、本来、データやデジタル技術を使って、顧客視点で新たな価値を創出していくことである、そのために、ビジネスモデルや企業文化などの変革が求められる。
引用:経済産業省『「DX推進指標」とそのガイダンス』p.5より
データやデジタル技術を顧客視点で活用することによって、企業においても新たな提供価値を出していくことが重要とされています。
それらを行うためには、将来的な経営ビジョンを描きつつ、本来のビジネスモデルを変革する、さらにはこれまでの古き悪しき企業文化の変革も求められてくることになるでしょう。
DX推進とは
DXの推進においても、経済産業省が推進のための指標を定めて、どのような形になればよいのかを具体化しています。
一部ご紹介すると、DX推進の成熟度を6段階で評価する定性的な指標として、次のような指標を挙げています。
レベル0『未着手』:経営者は無関心か、関心があっても具体的な取組に至っていない
レベル1『一部での散発的実施』:全社戦略が明確でない中、部門単位での試行・実施にとどまっている
レベル2『一部での戦略的実施』:全社戦略に基づく一部の部門での推進
レベル3『全社戦略に基づく部門横断的推進』:全社的な取組となっていることが望ましいが、必ずしも全社で画一的な仕組みとすることを指しているわけではなく、仕組みが明確化され部門横断的に実践されていることを指す。
レベル4『全社戦略に基づく持続的実施』:持続的な実施には、同じ組織、やり方を定着させていくということ以外に、判断が誤っていた場合に積極的に組織、やり方を変えることで、継続的に改善していくということも含まれる。
レベル5『グローバル市場におけるデジタル企業』デジタル企業として、グローバル競争を勝ち抜くことのできるレベル。レベル4における特性を満たした上で、グローバル市場でも存在感を発揮し、競争上の優位性を確立している。引用:経済産業省『「DX推進指標」とそのガイダンス』p.9より
また、定量的なものとしては、自社がDXによって伸ばそうとしている定量指標を自ら選択して算出するとされていますが、以下のようなものが各組織機能において例示されています。
研究開発:製品開発スピード
マーケティング:新規顧客獲得割合
調達・購買:支出プロセスにおける効率性
会計・経理:決算処理スピード、Cash Conversion Cycle(資金繰りに関する指標として、仕入れから販売に伴う現金回収までの日数)、フォーキャストサイクルタイム(予算見直しをアジャイルに行っているか)参考:経済産業省『「DX推進指標」とそのガイダンス』p.27より
DXを推し進めていく結果、定性、定量両面での効果が表れているのか、定期的に計測していく必要があると言われています。
これら全体を見ていくのは、各機能の役割を果たす部門単位ではなく、横串で全体を見ていくことができる経営企画部門や、DXを推進するプロジェクトでなければ難しいと考えられます。
経営企画がDX推進する際の課題と考えられる解決策
最後に、経営企画がDX推進する際の課題や、その場合の解決策を確認します。
DX推進が企業としての価値の創造になっていない
前述の「意思決定プロセス」のところでも少し触れましたが、「今流行っているAIで何かできないか」など技術先行の発想になっているか、将来の危機感が共有されておらず、変革に対する関係者の理解が得られない点などが挙げられます。
また、全社的にDX推進のための号令は掛かるものの、実現するために経営としての仕組みの構築が伴っていない点などもあるでしょう。
これらの事象が考えられる場合においては、DXの導入目的である、企業としての価値を創造することを改めて認識し、何のために導入するのかを今一度確認する必要があります。
もしかすると一部の経営陣が理解していない場合もあるかもしれません。その場合は、DX推進という立場とともに、全社の経営参謀部門としての経営企画がサポートしつつ、繰り返しメンバーに重要性を浸透させていくという、必要不可欠な役割を果たさなければならないでしょう。
全体最適化の意識が難しい
比較的大きな企業にあるのが、部門間の壁であるセクショナリズムの問題です。
自分たちの部門は、現在のシステムでも十分に機能するので、改めてDX推進を行う必要がない、または自部門の業務を優先的に考えてしまい、変更することによる手間が掛かるから実施したくない、などが挙げられます。
その場合、現場だけでは組織の論理をぶつけ合うことに終始する可能性があり、中々DXを進めていくのにも苦労する可能性があります。
DX推進を担う経営企画部門を中心に、時には上長である役員やプロジェクト担当役員なども積極的に参加して、企業として全体最適の重要性をプロジェクトメンバーに伝えていくことが重要です。
また、全体最適やDX推進の重要性を理解してもらうためには、企業としてのパーパスやビジョンに随時立ち返りながら進めていくことが不可欠でしょう。
トップの方針と現場との認識が合わない
DX推進は、経営陣の考え方をもとに進めていかなければならない点は、前述の「意思決定プロセス」でも触れましたが、経営陣と経営企画などを中心として編成すると、現場とのギャップが発生することとなります。
現場に落とし込む際に、現場を取りまとめているリーダー層と連携して実施することが不可欠です。
このリーダーを味方にして進めていく必要があることから、繰り返し対話を行うとともに、メリットを伝えつつ課題も共有し、トップと現場の意識統一を図っていく必要があります。
現場ではエンジニアが開発面で稼働することとなるので、経営者やDX担当役員、そして経営企画部門が一定の技術や開発を理解しておくことも重要であり、基本的な開発の考え方や専門用語を理解しておくことが望まれます。
また、最初はトップダウンで始めるものの、「本格推進プロセス」や「DX拡大・実現プロセス」で実際に動くのは現場です。
そのため、経営側と現場側の双方が上手く動けるように推進していくことが、ハブ役でもある経営企画部門の役割として重要であると考えられます。
経営企画はDX推進に適任
DX推進は、経営陣が考える企業としてのパーパスやビジョンを起点として、企業の価値を高めていくべく現場への導入まで一貫して進めていかなければならないものです。
ツールを選定して、現場で導入して使ってもらうだけでは終わらない、企業としても継続すべき一大事業といえるかもしれません。
そのため、全社を束ねる役割を果たす経営企画部門が推進することが適任とも言え、重要な役割を果たすこととなるでしょう。
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コンサル出身で活躍できる経営企画(業務)、できない経営企画(業務)の違い
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DXを成功に導くPoCの「プロセス」と「ポイント」
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