今回の記事では、日系企業と外資系企業のそれぞれの「経営企画で必要とされる英語力と活用シーン」を解説します。ただし、経営企画の捉え方が日系と外資系で異なりますので、まず、この点について簡単にご紹介します。
【目次】
外資系企業における経営企画とは
アメリカ資本の外資系企業で日系企業の経営企画にあたるFP&Aで実際に働かれている方にお話を伺いました。外資系企業には日系企業にある「経営企画部」という部署は組織上、配置されていないことが多いとのこと。では一体、日本の経営企画部の業務である、中長期的な経営戦略やビジョンを策定し、推進する役割機能はどこの組織が担っているのでしょうか。
一般的に外資系企業では、管理会計業務を担う、FP&Aという専門職があります。このFP&Aが日系企業の「経営企画」にあたります。FP&Aとは、Financial Planning & Analysis(ファイナンシャルプランニング&アナリシス)の略語で、Financial Planningは財務計画、Analysisは分析を表します。
日系企業では全社戦略や予算は経営企画が主管することが多いですが、外資系企業では機能部門がそれぞれ独立して、戦略や予算を策定します。マーケティング、営業、サプライチェーン、R&D(研究開発)などの機能部門がそれぞれの部門戦略の立案や予算編成をおこない、それを最高財務責任者であるCFOおよびCFO直轄の組織が取りまとめるケースが多いようです。
FP&Aは事業戦略を、予算をはじめとした財務計画に落とし込み、計画と実績との比較やシミュレーションを通じて、経営陣の経営判断の意思決定のサポートとなり得る財務数値をベースにした資料や情報の提供をおこないます。CFOがレポートラインであり、CEO直下のケースが多い日系企業の経営企画とは指示系統が異なります。中期経営計画のような全社戦略は外資系企業ではCEOをはじめとするトップ組織が決め、それをトップダウンで落とし込むことが多いことも背景にあるようです。
下記はFP&Aの職務の一例です。
・予算策定、予実管理
・予算と実績との差異分析
・期中における通期着地見込みの更新プロセスのリード
・事業計画に基づく、将来の収益計画、投資計画、キャッシューフローのシミュレーション
・上記を含めた、財務分析に基づく、経営の意思決定支援
数値のとりまとめやそれらの報告資料作成の実務はあるものの、職務の本質は財務分析に基づく、経営陣の戦略策定や投資判断の意思決定を支援することにあります。FP&Aに配属されるスタッフは会計やファイナンス、経営学を専攻し、MBAや公認会計士など、会計をベースにした高度なビジネススキルを持った人材で構成されることが多いです。
ただ、FP&Aは会計やファイナンスのプロフェッショナルであると同時に、自社のビジネスモデルやサプライチェーンを理解し、事業戦略の各施策が財務的にどのようなインパクトがあり、経営にどのように影響するのかまでも踏まえて、経営の意思決定の質を高めるための提案をすることが求められます。日系企業の経理部が決算をはじめ、過去の視点での業務「守り」が多いのに対して、FP&Aはこれからの事業戦略が財務に与える影響分析や投資分析など、将来の視点で、事業価値を最大化するという意味合いにおいて「攻め」のファイナンスといえるかもしれません。
求められる英語力と活用シーン <日系企業のケース>
日系企業の経営企画部は、国内会社のみで海外法人がない場合は英語を使用する機会はなく、英語力は基本的に求められません。一部、株主に海外の機関投資家がいる場合は英語の資料作成やコミュニケーションが必要ですが、多くは日本語ができるスタッフが対応するか、通訳、翻訳をしてくれるスタッフがつくケースがほとんどで、英語力が求められることは少ないです。ただ、将来的に海外進出をして海外拠点ができるケースや、M&Aで海外の会社を買収するケースはこの限りではなく、後述の日系グローバル企業同様に相応の英語力が求められるでしょう。
一方、日系企業であっても、海外子会社の現地法人がある、いわゆるグローバル企業の場合は英語力が求められることが多いです。企業によってはメールで英語のコミュニケーション対応ができればよいとするところもありますが、多くのグローバル企業では歓迎要件として、英語で議論ができる「ビジネスレベルの英語力」を求められ、企業によっては米国公認会計士の資格保持者が優遇されることもあるようです。この傾向は今後ますます強くなり、グローバル企業では日常会話レベルではなく、ビジネスレベルの英語力を求める企業が増えていくと思われます。ひとつの目安として、TOEICのスコアで700点は必要でしょう。実際にグローバル企業で英語を使う機会が多い企業では、800点をひとつの目安にしている場合もあります。
グローバル企業の経営企画において、海外子会社管理、特に事業計画や予算編成においては英文での資料作成や英語での現地会社とのコミュニケーションが必要です。海外子会社には日本人だけでなく、経営幹部として現地人を配置しているケースも多く、彼らと議論したり、プロジェクト内容を説明したりする上でも共通言語である英語が必要となります。わかりやすい例で、予算編成のひとつのフォーマットであるP/L(損益計算書)の科目や費目は英語表記のため、会計まわりにおける、いわゆるテクニカルターム(専門用語)を理解しておく必要があります。減価償却という科目ひとつにしても、この英単語を理解していなければ、P/Lの数字を正しく捉えることも難しくなります。
英語の取得技能の分類で、一般的に「四技能」といわれる「聞く」「話す」「読む」「書く」が求められます。
経営企画における英語の活用シーンは
① 予算や事業計画書をはじめとした英文資料の理解や資料作成
② 海外拠点とのメールや電話でのコミュニケーション
③ 会議やプレゼンテーション
④ M&Aやアライアンスをはじめとした交渉業務
この4つに大別され、④に近いほど、英語の運用力が求められます。グローバル企業においては、海外子会社管理の中で、現地法人の予算コントロールをしますので、①の英文資料の理解や資料作成ができるレベルの英語力は必要です。業務の中で、意識的に英語の使用機会をつくり、また、社外の自己研鑽でも英語に触れる機会をつくることで、英語の運用力を高め、より高度な業務にタッチできるように努めることが大切だといえます。
求められる英語力と活用シーン <外資系企業のケース>
外資系企業のFP&Aは同僚や上司をはじめ、レポートラインのCFOは外国籍の場合が多く、日常会話レベルの英語力では業務に支障をきたします。ビジネスレベル・ハイビジネスレベル、よりネイティブに近い英語力を求める外資系企業も多いようです。TOEICで900点を目安に、「読み」「書き」に加え、「聞く」「話す」の運用力も相応にないと、採用試験で課される英語面接(インタビュー)を通過すること自体が難しくなるでしょう。
外資系企業でも部署によっては日常会話レベルで、業務遂行に支障がないケースもありますが、経営企画にあたるFP&Aは全社横断的な業務も多く、CFOが常駐している本国の本社との会議もあり、コミュニケーションを取る意味において、ビジネスレベル以上の英語力が求められることがほとんどです。
特に対面ではないメール、電話、テレビ会議など、ジェスチャーが伴わないシーンでのコミュニケーション場面で、英語力が不足していると困るケースがあるようです。最近ではテレワークも増えている最中、対面コミュニケーションではなく、非対面の会議などが増えつつあるため、英語力はさらに求められるでしょう。
英語を使うシーンは上述したFP&Aの職務の一例にある、予算を例にとりましょう。おおよそ、予算編成から予実分析の流れは下記のようになります。
① 過去の複数年の予算書をレビュー
② 今期の予算策定において、CFO・事業部門とコミュニケーション
③ CFO方針に基づき、事業部門と協同で予算を策定
④ 承認のための資料作成、経営会議体で予算承認
⑤ 事業がスタート後、予算と実績を管理し、差異分析のレポートを作成し、事業部門と協議
⑥ 予実の差異分析結果と次月の対策をCFOにレポート
予算編成~分析レポートまでの流れの一例ではありますが、これらの資料が全て英語で、メンバーの多くが外国籍の社員とのコミュニケーションが前提となることが多いです。最初から全てできることは求められないかもしれませんが、「自身の英語力を磨き、これらをカバーできる英語運用力までレベルを高める」という目安がないと、業務遂行上、正確性やスピードの点において、支障が出てくることもあるようです。
加えて、FP&Aという職務の性質上、数字を扱う機会が多く、ヒアリング力が相応にないと、例えば社外との交渉の場面で、数字の聞き間違いにより、大きな損失を会社に与えるリスクがあるでしょう。これらのことから、ビジネスレベルの英語力がスタートラインで、そこからどれだけ英語の運用力を高め、ネイティブとコミュニケーションを取れるかが、FP&Aの仕事の質を上げることにもつながります。
外資系企業において、もうひとつ英語に関するトピックがあります。それは英語の略語です。社内のコミュニケーションや業務連絡でメールやメモに、長い単語ではなく略語が記されることが多く、日常的に使用します。
<ASAP>
こちらは日本人同士でも比較的使うことが多い略語です。
as soon as possibleの略語。「なるべく早く」「できるだけ早く」の意味
ではみなさん、下記はご存じでしょうか。
<FYI>
for your informationの略語。「ご参考までに」という意味で、メールのタイトルにFYIと入っていたり、メモの冒頭に添えられたりします。
<TBA>
to be announcedの略語。「追って通知します」の意味。会議やイベントの詳細などが未定のときによく使用されます。よく似た表現で、<TBD>(to be determined:後ほど決定)もあります。
<IMO>
in my opinionの略語です。意味は「私の意見では」。私見を述べるときに使うカジュアルなビジネス略語です。主に職場内の同僚の間で使用します。
これら以外にもビジネスシーンで使う略語はたくさんありますが、特に職場内でのコミュニケーションをスムーズにするためにも、慣れておく必要があるでしょう。
これまで、外資系企業のFP&Aにおいて求められる英語の運用力と活用シーンについて、実際に働かれている方にお聞きしましたが、本国で勤務するのか、グローバル拠点のひとつである日本で勤務するのかにより、働くメンバーの国籍の構成が異なるため、求められる英語力も一律ではありません。また国内の外資系企業においても、かなり日本的な組織風土の企業もあり、FP&Aであっても「読み」「書き」がある程度できて、日常会話ができれば問題ない場合もあります。
とはいえ、ジュニアポジションでの勤務・採用と、マネージャーポジションのそれでは求められるレベルが異なり、ポジションが上にいくほど、本国の本社の関連部署とのやりとりや経営メンバーとの対話も増えるのが一般的です。やはり、英語の運用力を常に高め続けることがFP&Aの業務の質向上につながるでしょう。
(補足)外資系企業とは
外資系企業とは、よく用いられる経済産業省の定義では、「外国投資家が株式又は持ち株の3分の1超を所有している企業」となっています。国内における外資系の企業数は約3,000社で、国内の全企業数の0.1%未満程度です。
参考:経済産業省「第54回外資系企業動向調査(2020 年調査)の概況」
外資系企業は日系企業とキャリアの捉え方も異なります。一般的に外資系企業は職種変更が少なく、ポジションに必要なスキルや経験を重視し、採用や育成をおこないます。いわゆる、スペシャリスト採用と育成です。例えば転職においても、採用ポジションの役割や求めるレベルも明確で、職務定義書というものがあり、複数回の面接ですり合わせをおこない、ポジションに応じたスキルセットや経験を備えているか、細かく確認をおこないます。
日系企業の採用では「人柄」に重心を置いており、人間性や組織協調性を重視する傾向が強いですが、外資系企業はそれよりも、求めるポジションにおけるスキルや経験を重視して、採用するのが一般的です。
このような採用の背景からも、バックオフィスのファイナンス部門で入社した人が営業に異動するのはかなりレアケースで、日系企業がゼネラリストを好む傾向であるのに対して、外資系はスペシャリストを重視し、ひとつのポジションの専門性を強く求める傾向があります。
(補足)経営企画とは
「経営企画」と聞いて、どのような部署なのか、どのような業務に携わっているのか、イメージがわくでしょうか。日系上場企業における経営企画の役割について少し解説したいと思います。
経営企画の一番のミッションは「長期的、全社的な視点をもって、持続的に企業価値を上げるために、社長(CEO)を中心とした経営の意向を受け、中長期の経営戦略を策定し、施策を含め実行の舵取りを、現場部門を巻き込んでおこなうこと」です。一言で表すと、経営陣をサポートし、経営戦略をつくり、推進する組織です。
もう少し具体的に、日系企業の「経営企画」の役割を説明します。経営企画は、会社の中でもっとも経営陣と距離が近く、コミュニケーションも密に取ります。そのため、素養として、コミュニケーション力や傾聴力、自身の考えを経営陣に示す機会も多く、論理的思考力やプレゼンテーション力が非常に大切です。
上記の通り、経営企画の最大のミッションは会社の中長期的な成長戦略・ビジョンを策定し、現場部門も巻き込んで、実行施策を推進していくことです。経営企画は「企画」という名が表す通り、計画や企画が業務のウェイトを占めます。中長期の経営戦略や単年度の経営戦略をはじめ、経営戦略に応じた中長期の予算や単年度の予算を策定することもあります。また、会社によっては全社のマーケティング戦略や広報戦略の策定を担うこともあり、全社視点での経営戦略をはじめとした「戦略」の類は経営企画が集約することが多いです。
もう一つの役割が全社視点での資源配分です。経営資源である人材や資金を効率的に配分し、限られた経営資源で最大の効果が出るように、部門や事業部の全社の組織編成をおこない、全社の課題(経営課題や事業課題)を解決するために部門横断のプロジェクトの事務局として推進することもあります。
このように経営企画は全社的な位置づけで、経営陣の参謀的な役割を果たしますが、実際の業務内容は会社によって異なります。下記は一例です。
・中期経営計画の策定
・全社ビジョンの策定
・全社組織編成
・年次予算編成
・グループ子会社管理
・全社マーケティング、広報戦略策定
・新規事業開発
・M&A
・アライアンス
・海外進出
・株主総会事務局
・取締役会、経営会議事務局
など、非常に業務範囲が広く、会社により求められる業務や優先順位が異なります。また、企業によって経営企画部という名称ではなく、「企画部」「社長室」「経営戦略部」など、部署の呼び方も異なりますが、職務内容の本質に大きな違いはありません。
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>経営企画へのキャリアに関する記事
経営企画部の仕事は本当に「花形」なのか?【生の声】
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経営企画部の業務に役立つ「資格」とは【おすすめの理由と実用方法・事例付き】
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/corporateplanninglicence
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