DX(デジタルトランスフォーメーション)時代を迎えた今の企業では、「デジタル」という名称をつけた新部署を、情報システム部とは別に設置する会社も多く見られるようになりました。皆さんも日々の仕事のなかで「デジタル」と名の付く部署の紹介や名刺を貰う機会も増えているでしょうし、実際「デジタル」な部署に既に配属されて働いている方もいらっしゃるかと思います。
今回の記事では、昔からの情報システム部と今の情報システム部では何が違うのか。「今日の」情報システム部門の役割や仕事内容をお伝えします。
【目次】
- 現在の情シスは、DX推進部門の機能「IT技術活用によるビジネスモデル変革」など新しいミッションを与えられている
- DX推進部門と情報システム部門の両方の統括責任者を兼務するケースも多い
- DX推進のための経営戦略・ビジョンの提示
- AIなどデジタル投資に対するリターンの判断
- DXを実現する上で基盤となるITシステムの体制構築
- 全社的なITシステム構築にあたってのガバナンス
- DXの実行のために必要な人材の確保や育成
経営層とDXをつなぐ架け橋としてのポジションである「現在の情シス」
少し前にはなりますが、経済産業省が18年12月に発表した「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)Ver. 1.0」では、DXの実現に向けた基本的な考え方がまとめられています。
このDX推進ガイドラインでは、まずは企業の経営トップがDXの推進に対して強いコミットメントを持って取り組むかどうか、を前提にしています。その上で、経営トップがDXを具現化するための環境整備として、各事業部門におけるデータやデジタル技術の活用の取組みを推進サポートするDX推進部門の設置などの必要な体制を整えているか、について問いかけています。DX推進のための経営のあり方、仕組みについてその重要性を説いています。
DX推進部門は、データやデジタル技術の活用の取り組みを推進サポートするというミッションを与えられています。情報システム部門もそういった一面がありますが、事業部門の現場に対して、より活用を促すという面が強調されているようです。これは「今日の」情報システム部門の役割となっています。
また一方で、DXの実行を担保する事業現場でのデータ活用やデジタル技術の戦略的な応用を可能にする基盤の構築と、それらを相互連携できる全社的なITシステム構築体制の重要性もガイドラインは説いています。
経営レベル、事業部門、DX推進部門、情報システム部門から成る少人数のチームを組成し、トップダウンで変革に取り組んだ先行事例を紹介しています。その際に、情報システム部門がDX推進部門となっているケースがあることに言及しています。
このように、「今日の」情報システム部門は、デジタルトランスフォーメーションを経営トップが推進する際の必須パートナーであり、ITシステムの構築を支えるという過去からの重要なミッションに加えて、DX推進部門の機能とされている、事業現場でのIT技術活用によるビジネスモデル変革の旗振りやサポートという新しいミッションを与えられているのが実情です。
そこで、「今日の」情報システム部門の役割を述べていく上でここでは、DX推進部門と情報システム部門は同一の「今日の」情報システム部門として扱います。期待されるミッションや役割について、DX推進に関連する他の部門とのミッションやKPIの違いなどにも触れ、解説を加えていきたいと思います。
様々なデジタル部門、システム部門の役割や組織機能についてのご理解の一助となれば幸いです。
DX推進部門と情報システム部門の両方の統括責任者を兼務するケースも多い
今日では、デジタルトランスフォーメーションを経営トップが推進する際の準備段階として、経営トップが指し示すべき「経営戦略」や「ビジョンの策定」「全社における推進体制の組織体制案」「人選」といった側面に対して、情報システム部門の活動貢献が求められているのが実情です。
特に「今日の」情報システム部門の部門長に対しては、DX関連プロジェクトへのメンバーとしての参画はもちろんのこと、DX推進部門と情報システム部門の両方の統括責任者として、DX推進のための経営戦略やビジネスモデル変革のビジョン策定についてプロジェクト内でもリーダーシップが求められています。
経営企画部門や事業部長との連携、経営トップとの議論や折衝も自ら率先して進めて行くことを期待されます。
以下では、DX推進のための経営のあり方、仕組みのプランニングへの参画が求められる「今日の」情報システム部門の部門長に求められる役割について、部門の役割機能というよりはむしろ、部門長自身にスポットを当てて解説を進めます。
DX推進のための経営戦略・ビジョンの提示
経産省のDX推進ガイドラインにあるDXの定義は、
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
とあります。「今日の」情報システム部門の部門長には、経営トップと同じ目線で、企業や企業を取り巻くビジネス環境全体を俯瞰できることが明確に求められています。
一方、実際にDXを実現するITシステムの構築、特に現場が活用するアプリケーションの構築を進める上では、経営トップが把握する以上に現場業務そのものに精通し、その変革ポイントを特定した上で製品やサービス、ビジネスモデル変革に繋がるまでのプランの提案が求められます。
またIT技術の応用のポイントや応用の限界に通じる識者として、実現出来ることや出来ないことの見極め判断も求められます。
また技術的に実現できるとしても、その投資に見合ったリターンが得られるか、経済合理性の面でもDX推進における経営戦略やビジョンの実現可能性に対し、高いレベルでのアドバイスが求められます。
IT導入での陥りがちな失敗ケースとして事例にもよく取り上げられるのは、経営者が明確なビジョンや戦略があるわけでもなく、AIを使って何かやれ、と丸投げするといったあるあるのケースです。AIの技術自体についても、活用事例についても、経営トップ自身それほど知見がない場合にとりあえず、「何か出来るんだろ?AIはなんでも出来るんだろ?」とイメージトークを先行させる場合です。
経営者からのミッションがAIを導入することだけに先鋭化してしまい、手段がいつの間にか目的になり代わってしまって誰にも止められないまま進んでいってしまうことが事業会社におけるDX推進の最悪のパターンです。
経営者の間違ったプレッシャーの下で、とりあえず導入しないと収まらないから、と不幸にも進んでしまい、経営トップ判断のプロジェクトでそれなりの金額の投資も実行され、使われない、役に立たない塩漬けシステムが構築されまてしまいます。
「今日の」情報システム部門の部門長には、DX推進においてこのような事態が回避されるように、常に適正なコミュニケーションや議論をリードする責任が課されます。
AIなどデジタル投資に対するリターンの判断
ここに例として、AIの活用限界について簡単に少し述べます。AIの技術そのものの特性による限界として、AIを育成する、使えるように学習させるにあたっては、教材となるデータ数を十分に確保出来ないと上手く機能しない、という大きな制約事項があります。
AIの機械学習アルゴリズムには、正確にタグ付けされた大量のデータが必要な上に、その準備データのタグ付け作業である前処理工程のアノテーションには、多大な労力が必要となります。
AIを応用したい領域において、自動判別させたいものがそもそも曖昧で正確にタグ付けできなかったり、タグ付け出来たとしてもAIに対してサンプルデータを学習に必要な量を準備できなかったりするとうまくAIは学習しません。
正確なタグ付けをするアノテーションの作業自体が難しく労力がかかり過ぎて現実的でないなど、AIを導入活用するにはクリアすべき前提があります。
AI技術の応用によって製品やサービス、ビジネスモデルを変革出来るか否かの見極めも「今日の」情報システム部門の部門長に判断が求められます。
一部のシステム投資には、投資に対するリターンを正確に測りにくい、事前に想定しにくい、といった課題がいつの時代も付きまといます。
難しい判断ですが、「今日の」情報システム部門の部門長には、導入したいという業務現場の声や事業部長のビジネス感覚に基づくシステム開発要請に対し、一定の距離を持って冷静にかつ前向きに対応する必要があります。
その現場からの声を聞き分けて実行するか否かを決定する経営判断を経営トップが下す際にも、「今日の」情報システム部門の部門長には、責任を伴うアドバイスが求められます。定量的なリターンやその確度ばかりを求めて保守的になり過ぎることも良くない上に、投資をしないことでデジタル化するマーケットから押し出されるリスクも勘案する必要があります。コストのみならず、ビジネス全体に与えるプラスの直接間接のインパクトも想定しつつ失敗を恐れてないもしない呪縛に囚われないようにすることが重要です。
この面からの情報システム部門のKPIは、DX推進における事業現場のビジネスモデル変革の利益インパクトと考えられます。事業部門へのシステム投資とランニング費用含めたコストリターン、ROIが分かりやすいのではないでしょうか。実際には、他部門との貢献度の仕訳は難しい部分があるでしょうか。
DXを実現する上で基盤となるITシステムの体制構築
経営視点にたったDX推進という新しいミッションに対し、以前から担う情報システム部門の役割も継続します。
DXを実現するビジョンや具体的な経営戦略が固まったとしても、実現できなければビジネスでの成果を享受できません。しっかりとトランスフォームできるデジタル基盤があってこそのDXです。
全社的なITシステム構築にあたってのガバナンス
DX推進の実行フェイズになると、事業部門のニーズから様々なアプリケーションの開発が同時並行的に進んでいきます。開発するアプリケーションに採用するIT技術への造詣の深さや、オーダーするタイミングで開発キャパシティ確保が可能であったかなどでどうしてもマルチベンダー体制でDXは進んでいくことは不可避です。その交通整理や交通ルールを定めるITシステム構築に向けたガバナンスの確立が情報システム部門には求められます。
検証環境の適正な割り当てや、新しく開発したシステムの本番環境へのリリースの手順を明確化し周知徹底することも必要です。また新しいアプリケーションが使用する共通基盤のシステムリソースの使用量を事前に把握し、基盤側での負荷想定から必要があればオートスケールを設定するなど、システム全体の運用管理や様々な手順の明確化といった全社的なITガバナンスが必要です。
DX推進において最も重要なITガバナンスは、新システムのリリース判定です。当初の要件定義を満たした機能開発がなされているか、システムテストは十分になされ問題なく機能し、連携するシステムにもデータが疎通し、またシステム負荷にも問題がないか。十分にチェックされることが必要です。
またシステムを利用する側のシステム教育も十分になされ、習得レベルも問題ないレベルか。またシステムを活用した業務についても問題はないか。利用部門の事業部長はそのシステム導入と利用に関して問題ないと太鼓判を押しているかどうか、といった点検項目です。
導入を急ぎテストが形骸化して憂き目を見ることのないように、情報システム部門が自己を律する、もしくは相互牽制が働く体制をどう構築するかはDXの成否を実は握っていたりします。
ITシステムの構築からITガバナンスを含めて情報システム部門のKPIは、全社利益に対するシステム総投資とその減価償却費、運用保守にかかる総コストと管理人員コストや活動費の合計のコストリターンではないでしょうか。管理会計上でシステム利用に対する社内売上と部門利益を管理することが意外に早道です。他のスタッフ部門に比べて、明確に社内売上を設定できることは管理上のメリットと言えるでしょう。
DXの実行のために必要な人材の確保や育成
DX推進にあたって、それを担うデジタル人材の確保や育成、外部調達は非常に重要です。「今日の」情報システム部門にはその人材確保や育成に関するミッションも課されます。
様々なタイプのデジタル人材が要請されます。
事業現場の業務に精通しつつ、デジタル技術の応用で何が出来るかを理解して、現場のDXを主導できる人材、業務企画、事業企画、経営企画のスキルを持ちながらITシステムをデザインしその構築を進めることができる人材、主にDXの推進に携わる人材です。
一方、DXを実現するためのITシステムを構築するにあたってそのアーキテクチャ全体をデザインできる人材、また現在のアーキテクチャやアプリケーションに精通し、老朽化したシステムを生かすもの、廃棄すべきもの、に仕分けランニング費用の観点からも全体をリデザインできる人材が必要です。主にITシステム構築に必要な人材です。開発ベンダー自体も当然ここには含まれます。
いろいろな形態でのバーチャルチーム組成となりますが、いずれの場合も情報システム部門が要となります。特に「今日の」情報システム部門の部門長にはその目利きと小回りの効く人材調達のスキルが求められます。自社社内での配置転換から育成もあれば、自部門でのキャリア採用や開発ベンダーやコンサルティングファームからのヘッドハンティングもあるでしょう。また一時的にプロジェクトメンバーとして人月単価を支払ってアサインすることも一般的です。
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今回の記事では、”DX時代における”情シスの役割・仕事内容の変化についてご紹介しました。
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