DXレポート2の要点を解説【レポート1からの変化と概要】

2018年に公表されたDXレポートは、企業に対してDXの必要性を強く認識させるものとなりました。一方で、DXレポートはDXに対する誤った認識を企業に与える結果にもなり、DXレポート公表後も企業におけるDXの進捗はかんばしくない状況といえます。

そこで経済産業省は、DXに対する本質的な理解を企業と共有するため、2020年にDXレポート2を取りまとめ、DXが目指すものや、DX実現のために必要な段階的取り組みについて整理を行っています。この記事では、前DXレポートの内容や企業に与えた影響を踏まえつつ、DXレポート2の要点について解説を行います。

【目次】

  1. DXレポート「2025年の崖」のサマリー
  2. DXレポートがもたらした功罪
  3. DXレポート2のキーメッセージとは
  4. DXレポート2が示すDXのためのステップ
  5. DXレポート2の影響

DXレポート「2025年の崖」のサマリー

経済産業省は、2018年9月に「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」※を公表し、海外企業と比較してデジタル化に遅れが見られた日本企業に対して、危機感やDXの必要性の共有を計りました。以降、多くの企業においてDXという言葉が認識されるようになりましたが、そもそもDXレポートとはどのような内容だったのでしょうか。

※経済産業省「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html

DXレポートが伝えようとした危機感とは

DXレポートが伝えていることの最大のポイントは「企業の既存ITシステムには様々な課題があり、それを解消できなければDXの推進はおろか2025年以降には最大12兆円/年という多大な経済的損失が発生する」という点となります。これを、DXレポートでは「2025年の崖」と呼んでおり、企業へ既存ITシステムが包含する課題の克服を呼び掛けています。

それでは、DXレポートでは既存のITシステムにどのような課題があるとしているのでしょうか。具体的には、以下の3点の問題が発生していると指摘しています。

①システムの老朽化・複雑化・ブラックボックス化:

日本のビジネス習慣上、自社システムがベンダーに依存しており、自社内にノウハウが蓄積されていない。また、有識者の退職などにより、古くなったシステムの内容を把握できる人材が減っていく。このような状況から、自社の既存システムに手を付けることができず、いわゆるレガシーシステムとして改善が困難な状況に陥っている。

②システムの保守・運用の肥大化:

システムの複雑化やブラックボックス化を原因として、システムの運用・保守コストが増大している。調査の結果、ユーザー企業におけるIT関連費用の80%が現行ビジネスの維持に割り当てられており、戦略的なIT投資にリソースを割くことができていない。

③企業における組織体制・人員の不足:

経営層はDXの必要性こそ理解しているケースが多いものの、DXのために既存システムを刷新する意思決定をする企業は少ない。また、IT人材もベンダーに偏重しており、ユーザー企業ではIT人材が不足している。よって、DXを実施するためにもベンダーに頼らざるを得ない状況となっている。

DXレポートが示す課題への対応策

これらの問題が存在する結果として、ブラックボックス化した既存ITシステムに存在する有用なデータをDXに活用することができず、また新たな取り組みに利用できる予算も不足しており、DXの実現が困難な状況にあるとDXレポートは指摘しています。

DXレポートでは、前述した課題への対応策として、いくつか対応策を示しています。ここでは、そのうちポイントとなるものを紹介します。

①レガシーシステムの刷新:

クラウドなどのデジタル技術の活用を含め、レガシーシステムの刷新を検討する。実行については経営者レベルでコミットする。

②本格的なDXの実行:

レガシーシステムの刷新を踏まえ、自社データを活用できる状態としつつ、システム刷新により生じた猶予リソースを生かしてDXを推進する。

ポイントとしては、大きくITサイドに位置するDX推進部門にてDXを担っていく人材と、ビジネスサイドに位置する事業部門にてDXを担っていく人材の2種類の人材が必要であるということです。DX推進においてはIT・ビジネスの両方の視点から取り組みが必要であるため、人材面においてもIT・ビジネス両方のポジションにてDXを推進する能力を持った人材が求められます。

DXレポートがもたらした功罪

企業に対して強いインパクトを与えたDXレポートでしたが、その結果には功罪があったといえるでしょう。以下では、DXレポートが与えた効果とDXレポートが生み出した誤解について解説します。

DXレポートの効果

2025年の崖として最大12兆円/年の経済損失が生じるというメッセージは、「2025年の崖」という言葉のインパクトも相まって、企業に強い危機感を与えました。DXレポートにより、多くの企業ではDXの取り組みに目が向き始めたといってよいでしょう。

経済産業省でも、DXの取り組みの指針となる「DX推進ガイドライン」※1の整備や、そのガイドラインの観点に基づいた「攻めのIT経営銘柄」(及び継続した取り組みであるDX銘柄)※2の指定、デジタル技術を活用する上で必要なガバナンスについて示した「デジタルガバナンス・コード」※3の発表と、デジタルガバナンス・コードに対応した企業を認定する「DX認定制度」※4など、幅広い取り組みが行われました。これらの取り組みにより、企業のDX推進も活発化したといえるでしょう。

※1経済産業省「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」
https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181212004/20181212004.html
※2経済産業省「DX銘柄/攻めのIT経営銘柄」
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/keiei_meigara/keiei_meigara.html
※3経済産業省「デジタルガバナンス・コード」
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc.html
※4経済産業省「DX認定制度」
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-nintei/dx-nintei.html

DXレポートが与えた誤解

一方で、DXレポートの「DXのために必要なのはレガシーシステムの解消である」という主張は、企業に「DX = レガシーシステムの刷新」であるというイメージを与えてしまうことにもなりました。

本来、DXはその名称が示す通り、データやデジタル技術を活用した既存ビジネスモデルの刷新や新規事業創出などを含む、「デジタルを活用した変革」の取り組みです。しかしながら、DXレポートのメッセージを誤解した企業においては、あくまでDXの前段でしかないシステム更改の取り組みに留まることとなってしまいました。

また、特にトップランナーなど現時点で競争力を確保している企業においては、DXの取り組みは自社にとって不要なものという印象を与えることにもなりました。

DXレポート2のキーメッセージとは

経済産業省は、上述したようなDXレポートの誤解を解消し、より本質的にDXを推進していくために、企業のDX推進状況やコロナ禍による事業環境の変化状況も踏まえつつ、2020年12月に「DXレポート2」※を取りまとめます。このDXレポート2では、2018年に公表されたDXレポートと比較してどのようなメッセージが発信されているのでしょうか。以下で解説します。

※経済産業省「『DXレポート2(中間取りまとめ)』」
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004.html

DXレポート2の目的

DXレポートは、DXという言葉を企業に浸透させ、何らかのアクションの必要性を認識させる効果がありました。一方で、DXレポート2でも示されている通り、2020年の段階において全体の9割以上の企業がDXにまったく取り組めていない「DX未着手企業」レベルか、散発的な実施に留まっている「DX途上企業」レベルである状況であり、本質的なDXの実現には至っていない状況といえます。

DXレポート2では、この原因をDXレポートのメッセージが企業に正しく伝わっていないことにあるとしています。上述の通り、「DX=レガシーシステム刷新」や「現時点で競争優位性が確保できていればこれ以上のDXは不要」といった誤解が企業に広がってしまったことを踏まえ、DXレポート2では、より具体的かつ本質的なDXの取り組みについて示されています。

DXレポート2が示すDXの方向性

DXレポート2では、DXの本質を「単にレガシーなシステムを刷新する、高度化するといったことにとどまるのではなく、事業環境の変化へ迅速に適応する能力を身につけると同時に、その中で企業文化を変革する(=レガシー企業文化から脱却する)こと」と示しています。つまりは、DXとはITやシステムの分野に留まる取り組みではなく、DXの最終目標は企業そのものの変革にあるということです。

また、DXレポートの反省も踏まえ、DXレポート2ではDXの最終目標に至るまでのステップを「直ちに取り組むべきアクション」「短期的な対応」「中長期的な対応」の3つに分け、段階別かつ具体的に示しています。

DXレポート2が示すDXのためのステップ

以下では、DXレポート2が示す、「直ちに取り組むべきアクション」「短期的な対応」「中長期的な対応」の3段階の取り組みについて紹介します。

ステップ1:直ちに取り組むべきアクション

DXレポート2では、コロナ禍などを踏まえて企業が直ちに取り組むべきアクションとして、以下の4点を挙げています。これらはいずれも、コロナ禍による事業環境の変化対応のために、またDX推進のための基盤づくりの観点からも、重要な取り組みといえるでしょう。

①業務環境のオンライン化:

コロナ禍によるテレワークの一般化に伴い、事業継続の観点から業務をオンラインで実施するためのITインフラの導入を行う。

②業務プロセスのデジタル化:

押印に代表されるようなこれまで紙で実施していた業務について、ペーパレス化の推進やOCRを用いた電子化、オンラインバンキングの導入、RPAを用いた業務自動化などを行う。

③従業員の安全・健康管理のデジタル化:

遠隔でも従業員の安全・健康管理を行うために、活動量計やパルス調査ツールの利用、人流の可視化などを行う。

④顧客接点のデジタル化:

対面での販売機会が減少していることも踏まえて、ECサイトの解説やチャットボット等による自動対応化・オンライン化を行う。

ステップ2:DXのための短期的な対応

DXレポート2では、DXのために必要な短期的対応として、以下の3点を挙げています。いずれも、DXを実現するためのベースとなる取り組みといえます。

①DX推進体制の整備:

DXの推進のために経営層・事業部門・IT部門の間で共通理解を形成し、協働できる体制を整える。また、CIOやCDXOといった役職を設置し、経営層の役割を明確化する。

②DX戦略の策定:

前例の踏襲や細かい個別ルールなどを見直し、業務プロセスを再設計する。コロナ禍以前の、人が作業することを前提とした業務プロセスを改め、デジタルを前提としたプロセスとし、生産性向上や価値創造を目指す。

③DX推進状況の把握:

DXの推進指標を活用し、DXの進捗状況を関係者間で認識共有し、次の段階に進むためのアクションを明確化する。

ステップ3:DXのための中長期的な対応

DXレポート2では、DXのために必要な長期的な対応として、以下の3点を挙げています。これらの取り組みにより、デジタル社会を前提とした「デジタル企業」として自社を変革していくことがDXの最終目的となります。

①デジタルプラットフォームの形成:

IT投資の効果を高めるために、業務プロセスの標準化を行い、SaaSやパッケージを活用する。また、企業間をまたがった共通的なプラットフォームや特定の地域に根差した地域プラットフォームの導入も検討する。

②産業変革のさらなる加速:

変化に強いシステムを構築するために、これまでのウォーターフォール型の開発から、アジャイル型の開発に移行する。そのためにも、ユーザー企業とベンダー企業は対等な関係であることを目指し、場合により内製化も検討する。

③DX人材の確保:

コロナ禍でのテレワーク環境においても機能しやすいジョブ型人事制度の導入を検討する。また、常に学び続けるマインドセットを持ったDX人材を自社内に確保し、ベンダー任せのシステム開発から脱却する。

DXレポート2の影響

DXレポート2は、前DXレポートの反省も踏まえ、DXの最終目標と、その目標に至るまでの段階別取り組みが具体的に明記されました。DXレポート2により、各企業は自社内でDXに関する共通認識を持ちやすくなり、結果としてDX推進の具体的な取り組みに着手しやすくなったといえるでしょう。今後、DXレポート2に沿った施策が企業で実施されていくことで、日本企業におけるDXの取り組みが加速していくことは間違いない方向性といえます。

また、経済産業省は2021年8月にDXレポート2を補足する形で、「DXレポート2.1」※を公表し、DXレポート2が示すところの「デジタル企業」「デジタル産業」とは具体的にどのようなものであるか、顧客やチャネル、商流や収益構造など様々な観点から整理しています。DXレポート2.1でもデジタル社会の到来は未来の話ではないとしており、DXによる変革により自社がどのようなデジタル企業になっているかをイメージしたうえで、DXを推進していく必要性が企業に理解されていくことになると思われます。

一方で、DXレポート2にも示されている通り、DXを推進するための人材は不足している状況が継続しています。デジタル技術に関して理解しており、かつ継続的に学習していく革新的なマインドセットを持った人材は、今後も重要なものとなり続けるでしょう。

※経済産業省「DXレポート2.1(DXレポート2追補版)」
https://www.meti.go.jp/press/2021/08/20210831005/20210831005.html

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>DXに関する記事

コンサルティングファームの”DX成功事例”と”現状の課題”
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/dxconsultantcase

“DXコンサル”とは何か?仕事内容~必要なスキル・経験~案件事例まで解説【保存版】
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/dxconsultant

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今回は、DXレポート2の要点を解説いたしました。
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