コンサルのプロジェクトにおいて業務プロセスの改善がメインテーマとなるケースは多くあります。そのような業務改善プロジェクトにおいて有効なフレームワークにECRSがあります。
ECRSは元々製造業の業務プロセス改善のために構築されたフレームワークですが、製造業以外にも応用が可能です。今回はECRSの基本的な考え方や、具体例を紹介します。
【目次】
- ECRSの基本的な考え方
- Eliminate(除外する)
- Combine(結合と分離)
- Rearrange(入れ替え・代替)
- Simplify(簡素化)
- ECRSを導入するうえでのポイント
- ECRSで最大限効果を発揮する業務プロセス改善を提案しよう
ECRSの基本的な考え方
ECRSは業務プロセスの改善のアプローチ方法を4つに切り分けて考えるフレームワーク。次の4つのアプローチの頭文字を取って名づけられたものです。
- E・・・Eliminate(除外する)
- C・・・Combine(結合・分離する)
- R・・・Rearrange(入れ替え・代替する)
- S・・・Simplify(単純化する)
業務プロセスの改善を闇雲に進めようとすると、特定の手法にかたよってしまうリスクがあります。ECRSをうまく導入することで、多面的なアプローチを検討し、業務プロセス改善の効果を最大化することが可能です。
なお、ECRSは基本的にこの順序で検討を進めていくのが有効です。ここからはECRSそれぞれの要素について詳しく紹介します。
Eliminate(除外する)
まず「除外」を検討します。業務フローの中から、除外しても問題のない業務内容を洗い出していきます。
- 複数の部署間で似たタスクが重複している
- 慣例化しているが業務における必要性が不明
社内で検討するだけでは、なかなか業務をまるごと削減する判断はしにくいものです。コンサルタントが客観的な視点で助言することで、不必要なタスクをうまく減らしていけば、大きな工数削減につなげることができます。
Eliminateの具体例
Eliminateでしばしば改革案に取り入れられるのは次のようなポイントです。
-
- 「日報」「レポート作成」などを排除
営業日誌、会議レポートなど日々定例で作成しなければならない書類が複数ある例は珍しくありません。しかし、こうした書類の作成自体が目的化していて、実は業務において特段必要とされていないケースも。不要な書類の作成プロセスを排除することで、1日数十分は作成者の工数を削減できます。 - 「会議」の排除
定例でおこなう会議があっても、実質的に現状を報告するだけで、会議において何の成果も出ていないケースはよくあるものです。会議は関連するメンバー全員の参加が必須であるケースが多く、全体を見ると大きな工数がかかっている可能性があります。その分、廃止できれば削減効果は意外なほど大きくなります。 - 買い出しをやめる
定例的に近くのスーパーや雑貨店・文房具店でスタッフが買い出しをおこなっていたところを、ネット注文に切り替えることで買い出しに要する工数を削減することが可能です。
- 「日報」「レポート作成」などを排除
Combine(結合と分離)
続いて検討すべきなのが結合と分離です。現在は複数部署にまたがっておこなわれている似たような業務を一元化したり、プロセスが分離しすぎている業務を、1つの部署で一気通貫でおこなったりして効率化できるケースはよくあります。
逆に無理に一元管理しているタスクを、各部署や現場での判断に任せて進めてもらうことで、かえって効率化につながる場合もあります。各部署のタスクを洗い出して横断的にチェックすることで、効率的なタスク配分ができるようになるはずです。
Combineの具体例
例えば次のような改善案がCombineの軸の中から考えられます。
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- 仕上げと検品を一貫対応するプロセスに
検品だけ独立した場所でおこなわれている製造業において、仕上げと検品を同じ場所でおこなうことで、製造工程のリードタイム短縮を見込める場合があります。 - 会議を複数部署の同時開催に
関連する2つの部署において、部署ごとに別々の会議がおこなわれていても、実際には両部署の情報交換や意見のすり合わせに会議以外のところで時間がかかっているケースも。両部署の合同会議とすることで、情報共有や意見交換の手間が軽減する場合があります。 - 発注作業をまとめて実施するように
原材料などのカテゴリごとに発注対応者が分かれているために、担当者が互いの発注状況を知らずに発注量に過不足が生じたり、細かく分離した発注伝票ができ上がったりして非効率のもととなるケースもあります。このようなケースでは、発注作業の一元化が業務の効率化につながります。
- 仕上げと検品を一貫対応するプロセスに
Rearrange(入れ替え・代替)
業務プロセス自体の削減や統合などを終えたら、次は工程の順序や作業場所、担当者などの調整を検討します。プロセスの削減ほどは短期的には効果は見込めないものの、日々のちょっとしたリードタイムの削減が、長期的に見ると大きな効果を発揮するケースもあります。
また、業務プロセス自体はなくならないため、改革を実行する際の社内調整が相対的に軽く済む傾向があるのもポイントです。入れ替えが効く要素を余すところなく探っていきましょう。
Rearrangeの具体例
Rearrangeでは次のような改善策が考えられます。
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- マネージャーのチェックタイミングの前倒し
従来は「設計→制作→マネージャーによる確認・許可→修正→完成」というプロセスで進めていたものの、実は制作まで到達した後のマネージャーによる差し戻しが、工数の増加要因となっていることも。
そこで「設計→マネージャーによる確認・許可→修正→制作→完成」の順に変更。マネージャーの指示による修正を制作前に取り入れることで、生産のリードタイムと工数の大幅な削減につながります。 - 営業ルートの見直し
営業ルートをトータルの移動時間が短くなるように再構成。日々少しずつ営業にかかる手間が削減され、年間で見ると大きな削減効果が期待できます。
- マネージャーのチェックタイミングの前倒し
Simplify(簡素化)
最後に検討すべきなのは簡素化です。ここでいう簡素化はプロセス自体を減らすことではなく、自動化・マニュアル化・パターン化などによって業務の難易度を下げたり、負担を軽減したりすることをさします。
特に近年では、クラウドサービスやシステムを活用してタスクを自動化することで、簡素化を達成するケースが多いです。
簡素化では、単純に工数を減らすだけでなく、担当者ごとのクオリティの較差を減らすことで、品質の安定化を図ることもできます。
Simplifyの具体例
Simplifyでは次のような具体策が考えられます。
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- 報告の簡素化
これまでメールでおこなっていた各種報告をLINEやSlackなどのアプリに一元化。コミュニケーションを簡素化することで、情報共有が迅速化します。 - データ入力項目を簡素化
従来は多くの数値を手入力しなければならなかったところを、エクセルやツールなどを導入して、1つ入力すれば自動計算される仕組みに。入力箇所が減り、手間が削減されるとともに、入力ミスの予防にも効果を発揮しました。 - テンプレートを標準化
見積書、請求書、企画書、報告書などあらゆる書類をWeb上でテンプレート化。また全てWeb上で申請を完了できるシステムにすることで、書類作成の時間が短縮されます。システム上で入力不備を検知できる機能を備えれば、入力ミスも予防できます。
- 報告の簡素化
ECRSを導入するうえでのポイント
ECRSでうまく業務プロセスの改善を推進するためには、次のようなポイントに留意する必要があります。事前準備をしっかりとして、ECRSで効果的な改善策を見出していきましょう。
各部署の業務プロセスを洗い出しておく必要がある
ECRSで適切に検討を進めていくためには、各部署の業務プロセスを洗い出しておくことが大前提となります。業務プロセスの洗い出しとECRSでの検討が同時進行してしまうと、見落としや複数回似たポイントを検討しなければならないなど、無駄が多くなってしまうものです。
コンサルとしてECRSを応用する場合には、まずその前に業務プロセスの洗い出しのフェーズを設けることをおすすめします。
長期的な目標を定め、社員に共有する
ECRSで見出される改善策は、短期的に成果を発揮するものばかりではありません。事前に長期的な目標を定量面で定めましょう。例えば残業時間を〇時間削減する、管理コストを〇%削減する、など数値で図れる目標とするのがおすすめです。
また、定めた目標は社員にしっかりと共有することが大切です。業務プロセスが変わったり、担当していたプロセスがなくなったりするのは、社員にとって負担やストレスとなることもあります。
長期的な目標をしっかりと共有し、全社員の協力を得ることが、業務プロセス改善の効果を実現するうえで重要です。
関係部署間の連携を徹底する
ECRSの業務改革は、複数部署が連携しておこなうものです。一部署の判断で取り組める改革には限界があっても、コンサルが入り部署横断で取り組めば、意外な改善ポイントが見つかるケースがよくあります。
しかし部署間の連携が取れていないと、改革案は出てきても実行するフェーズで思うように改革が進まないことも。事前に部署間の連携を徹底すべく、社内調整を完了させておくことが大切です。
属人的なプロセスを担う人材の扱いに注意
ECRSでの着目点となりがちなポイントの1つが、マニュアル化されていない難易度の高い業務。こうした業務はベテラン社員や高いスキルを持つ社員が属人的に扱っているケースが多いです。
全社的に見ると、こうしたプロセスこそ業務上のボトルネックになりがちです。しかし責任感を持って、これまで「他の人にはできない業務」を遂行してきた社員は、こうした業務を手放してマニュアル化・自動化することに抵抗感を抱く場合があります。
彼らの失敗によって配置転換をおこなうわけではないので、彼らの考えをよく聞きながら、代替となる業務やポジションなどの手配を怠ってはいけません。
ECRSで最大限効果を発揮する業務プロセス改善を提案しよう
ECRSは部署横断で全方位的な業務プロセス改善の方策を検討するうえで有効です。
コンサルに依頼が寄せられるプロジェクトでは、自社だけでは推進が難しい、大きな効果をもたらす改善案を期待されます。そのため、ECRSはコンサルタントが業務改善プロジェクトに応用するうえで、適したフレームワークといえるでしょう。
今回の記事を参考にECRSの基本とポイントを押さえておき、業務の事前の洗い出しや、部署間の調整など、事前準備をしっかりしたうえで、ECRSを取り入れた業務プロセス改善案の検討を進めましょう。
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