企業のどの部門でも当然悩みは絶えませんが、事業のフロントでの売上や利益の悩みを別にして、バックオフィスでも情報システム部門(以下、情シス)の抱える悩みは自他ともに認めるダントツに高負荷なものであることは間違いありません。
「最新の技術をどう取り入れるのか」「適正に予算は確保されているのか」そもそも「IT人材の奪い合いが続く中で、実現することができる体制や人的リソースは確保できているのか」。スタッフ系の他部門が抱える悩みと類似していても、実際には難易度が高いものが多い印象です。また、いざシステム障害が起きた時にはその影響範囲は全社に及びます。そのリスク回避に対しての悩みも尽きません。
そこで、今回の記事では、情シス部門の部門長やマネージャーにとっての2大悩みどころである「予算」と「障害」といった「情シスあるある」と、その解決策についてお伝えします。
【目次】
- よくある悩み①開発の無限ループに陥る日々
- 解決策①経営者に実力とキャパシティを理解してもらい、報告の頻度を上げる
- よくある悩み②システムが老朽化も、目先に必要な開発予算が確保できない
- 解決策②システム改修についての投資対効果や損失を数値で示す
- よくある悩み③システム障害
- 解決策③基本的だが、トリプルチェックなどで人為的なミスを防ぐ
よくある悩み①開発の無限ループに陥る日々
日進月歩のIT技術に自社のシステムを追い付かせるべく、情シス部門を背負う部長やマネージャーなど情シス部門の幹部層の多くは、永遠に終わることのない開発の無限ループに陥っていることかと思います。開発に次ぐ開発で、情シス部門の人的リソースも枯渇し、部下の残業時間もサブロク協定の限界値の突破寸前は日常茶飯事なところ、無慈悲かつ理解のない人事部からの容赦ないけん制に辟易している方も多いでしょう。
またパートナーである開発ベンダーの人的リソースも同じく枯渇し、開発予算を編成出来ていても発注も受けてもらえず、スケジュールを開発ベンダーの事情に合わせて完成時期を後ろ倒しせざるを得ないというような状況もよく起きます。
自社の基幹システムやインフラを熟知していて、いざその基幹システムを刷新するといったビッグプロジェクトを動かそうにも、その既存パートナーベンダーの事情に何も配慮せずに進める事はできません。次の基幹システムの開発先が別の開発ベンダーを想定していても、既存の基幹システムについてヒアリングなり課題の棚卸しなど協力を仰がざるを得ません。
とは言え、パートナーレベルまでの開発ベンダーを今更ながらに新規開拓し、小さな案件から協業体制を育んでいくというような時間的猶予は情シス部門には特に与えられていません。またそんな新たな関係を持てるような開発ベンダー候補に出会うことも希でしょう。必死に探し回ったとしても、コスパが良くかつ自社や自部門にフィットするような、良い協業パートナーにはなかなか簡単には出会えないのが実情です。
開発投資予算が潤沢にあったとしても、使いきれない典型的な状況という情シスのあるあるの悩みです。理解のない経営層なら、これだけ予算つけてやっているのに何をしているのか、と日々の頑張りを報いて貰えるどころの話ではなく、役立たず扱いされることもしばしばです。
解決策①経営者に実力とキャパシティを理解してもらい、報告の頻度を上げる
現状の情シスの実力、キャパシティを越えた開発という悩みに対して、更なる人的リソースの追加や協業可能な開発ベンダーを増やしていくというのが正攻法のように聞こえますが、実際、現実的ではないと思われます。
その歪みは結局、ずさんな開発を招き、要件定義モレで済めば良いところですが、辻褄合わせに使われやすいテスト工期の圧縮のリスクに見舞われることでしょう。
テストが不十分で痛い目にあう事例は枚挙にいとまがありません。悲惨なシステム障害事例となって返ってくることは明白です。
厚労省のコロナ関連アプリのAndroidバージョンが機能していないまま気づかれもせず数ヶ月放置されていた、という報道は、情シスの責任者にとって他人事とは思えない、本当に寒い事例の代表でした。明らかにテスト不足、テストの実施状況や内容の確認不足、テストがテストになっていない、典型的かつ陥りやすいワナに見事にハマった事例でした。
採るべき道は、開発スピードを身の丈に合わせることでしょうか。「出来ないものを出来る」と風呂敷を広げたところで問題を先送りにするだけです。実際、社外から颯爽と情シス部門のナンバー2として着任し、実質、トップの裁量をもらって着任前の体制や人材を批判し「出来る出来る」と経営層に忖度し続け聞こえの良いことだけを報告し続けた結果、二進も三進も行かない状況に自分自身でハマってしまい、現担当のプロジェクトを最後に去らざるを得ないという結末を迎えるといった事例も過去にお聞きしました。
解決策としては、身の丈に合った開発スピードによるプロジェクト推進のプランニングを行い、経営トップとコミュニケーションをしっかり取ること以外に道はありません。
実力とキャパシティを理解してもらい、「出来ないことは出来ない」と格好を付けずに理解を得ることが重要です。焦りと課題の先送りがより悲惨な事態を招くことは前述の通りです。
また、経営トップとのコミュニケーションはしっかりと適切な頻度で行うことも大切です。多忙な経営層にとって4半期も過ぎて仕舞えばもう数年前くらいの感覚であることは意識しておきましょう。少なくとも月次進捗はマスト、ベターは隔週で報告と相談、出来ることであれば毎週少しの時間でも確保できればベストです。障害の報告の詳細も説明出来る場面があることはとても有用でしょう。
DX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれる今、経営トップも自らITに関する自社の状況について少なくとも把握しておかないといけない、と課題意識も高いはずです。もしくは幾ばくかやらねば、と思っているはずですので、恐れずドアを自ら叩いていくことが情シスの部門長やマネージャーに求められます。
よくある悩み②システムが老朽化も、目先に必要な開発予算が確保できない
先ほどは予算が消化できない例をご紹介しましたが一方で、全く逆の状況もあり得ます。これも違う意味で情シス部門の部長やマネージャーとしてはやるせない悩みの日々が続くパターンです。全く必要な予算が確保できないという悩みです。
既存システムの大半が老朽化してしまい、保守切れを迎えるものの目先の使える予算がない、下手をすると運用保守に関するバジェットもきり下がる一方といった状況で、出来るものなら情シスの部門長やマネージャーとすれば一刻も早く逃げ出したい、という更に深刻な悩みです。経営層を説き伏せ、一刻も予算化し進めるべきところですが管掌の役員も自分も含めて力不足という状態です。
クラウド化が進めきれておらず、現在利用しているデータセンターの物理サーバーのの保守も切れ、なんとかサードパーティの保守先を見つけ切り替え延命してみたものの、オフィシャルに部品生産も中止され中古品からの交換部品確保が可能かどうかに頭を悩ます状況です。綱渡りのメンテナンスに頭を抱えながら、なんとか恐ろしい障害が起きないよう無事を祈る日々でしょうか。
老朽化対応が出来ない、というのは極端なハナシとしても、目先に必要な開発予算が確保できないという悩みも多いことでしょう。なぜそのような投資が必要なのか、理解を得られていないという状況です。
事業や業務の現場からは、なぜ自社のシステムがこんなに古臭いのか、使いにくいのか、なぜシステム同士が連携していないのかなど言いたい放題です。情シス部門が立ち遅れている、機能していない、など無能扱いを受けます。
古き良き時代かどうかはさておき、過去20世紀後半においてはコンピューターは業務利用で会社にしかないもの、という時代がありました。パーソナルコンピューターとして一人一人に与えられる、もしくは個人で所有するというようなことが一般化していなかった時代とは打って変わり、現在では個人のスマホやタブレット、PCなどで一般エンドユーザーが触れるGAFA、GAFAM提供の技術が企業導入のIT技術より先行してしまうという時代です。
それこそITの世界的先進企業が巨額の投資と一流の人材を目一杯注ぎ込み、全速力で競って開発するプラットフォームに非IT企業のシステムやUI・UXが勝てる見込みはわずかも残されていません。
古参の管掌役員や部門長は、先端を走っていた昔を懐かしむ一方でDXの必要性を自社の経営トップに説得できていません。
解決策②システム改修についての投資対効果や損失を数値で示す
解決策は、同じく経営層へのコミュニケーションです。必要性をアピールし、説得し続ける以外にありません。何をおいても予算を確保することを先んじないと何も出来ることはありません。正面から臨む以外の手法は存在しません。
では、頑なな経営層へはどのようにアプローチすれば良いでしょうか。経営者のタイプにもよりますが、いくつかの現実的な手法を試してみる、または合わせ技などを試みることが常套手段です。
経営者への説得に有効な手段は、数値で示す、ことです。経費削減でも粗利改善でもなんでも使ってそのシステム改修についての投資対効果を示すことです。まさに正攻法ですが、なかなか出来る人材がいないのも事実です。本当に投資して効果が営業利益としてリターンとして返ってくることを設計し進めることが出来れば、経営層やパートナーへの道も開かれることでしょう。
投資対効果としてプラスメリットを示すことが難しいのであれば、少しブラックな手法にはなりますが、この投資をしないことで損失の可能性がある、安全性が保てない、事業継続にリスクとなるなど脅しをかけることでしょうか。特に老朽化対応が必要ということに関してはこれに尽きます。商品が出荷されない、受注データが消える、法令対応が履行できないなど様々なやりくちはあることでしょう。ただあまり使いたくない手法ですが、やむを得ない場合もあるでしょう。穏便に進めたいものですが。
現場の声、従業員の声というのも有効な手段でしょう。どうしようもないシステムだとか、日頃受けている罵詈雑言を定量的に可視化して経営層に届けることです。
競合他社に対して遅れを取っているとか、新卒採用した新人が学校で使っていたシステムよりもはるかに遅れていると幻滅しているだとか、二重インプットの無意味な作業負荷でモチベーションが下がっているなど、システムの未整備に関する現場の生の声を経営層に届け、現実を直視させることです。
お客様の声、お取引先様の声も有効でしょう。顧客にエンゲージメントするシステムが存在する場合、その未整備な状況に対する不平不満の声や他社への流出など売上の低下に直結している事実を白日のもとにさらす、ということも有効でしょう。システムの立ち遅れ、特に顧客との接点となるものに課題が山積していることを示すこと、その改修が喫緊の課題であることを営業セクションなどを巻き込みながら声を大きくしていく活動が必要でしょう。
よくある悩み③システム障害
情シス部門の慢性的な悩み、分かりやすい悩みといえばシステム障害です。雑な開発やテスト、本番移行などでの発生もあれば、外敵による悪意のあるセキュリティへの攻撃によるものもあるでしょう。また老朽化による事象も起こり得ます。
ここで述べておきたいのは、避けられるシステム障害は意外と多いということです。情シス部門の部長やマネージャーにとって、外的要因やシステムの故障による障害発生の全てを回避することは不可能でしょう。しかしながら、障害発生の多くは人的ミスによるものも多いという事実です。
解決策③基本的だが、トリプルチェックなどで人為的なミスを防ぐ
ともすればアジャイル的な開発がスポットを浴び、ウォーターフォール型の開発が古臭いように見られる風潮も感じますが、決してそのようなことはありません。運用保守の中で、システム作業として手順を踏んでパラメーターをセットしたり、重要なマスタを更新するなどの作業については入念な段取りやダブルチェック、トリプルチェックが必要です。これは時代が進んでも変わらない事実です。
冒頭に述べましたが、システムテストやユーザー受け入れテストの想定シナリオの甘さ、ストレスの掛け方の緩さなども結局は人為的なミスと言えるでしょう。手順をしっかりと基本に従って踏む、ということが重要です。
人と人で読み合わせる、手順通りかどうか確かめる、そもそも作業に対する手順書がちゃんと準備されているかなど馬鹿にすることなく実直に行うこと、行われるようにマネジメントすること、行われたかどうか確認することを嫌がられても上長がきっちり行うことが大惨事を避けることにつながります。
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>情報システム部のキャリアに関する記事
“DX時代における”情シスの役割・仕事内容の変化とは?【保存版】
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/dxinfrastructure
【実話】SIerのSE・PMから情シスやDX推進部への「転職後のよくある落とし穴」と「対策」
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/sepmcareerchangetips
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今回の記事では、情シス部門の部門長やマネージャーにとっての2大悩みどころである「予算」と「障害」といった「情シスあるある」と、その解決策についてお伝えしました。
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