今回は「簿記1級と投資銀行での業務内容に関して解説していきます。簿記1級は会計系資格の中でも公認会計士や税理士についで難易度の高い資格として認識されています。
簿記1級は一般的には転職にも有利に働く資格として考えられていますが、投資銀行においても有利に働くかどうかについて考察していきたいと思います。
【目次】
- 簿記1級取得によって投資銀行で役に立つ知識やスキル
- 簿記1級は投資銀行への転職で有利か
- 簿記1級以外で投資銀行への転職で有利な資格と難易度の比較
- 投資銀行で簿記1級の有無で合否が決まるわけではない【知識はある程度役立つ】
簿記1級取得によって投資銀行で役に立つ知識やスキル
投資銀行での業務や職務内容においては、キャピタルマーケット業務(IPOや新株発行、新株等の引き受け業務)のほか、企業の買収や売却アドバイザリーに関するM&Aアドバイザリーがあります。
M&Aアドバイザリーチームでは、会社の株価や財務情報等をベースに財務分析やファイナンシャルモデルの作成、投資家やクライアント向けにプレゼンテーションの作成能力が高いレベルで求められます。新卒でさえ、インターンで顧客向けのプレゼンテーション作成や簡単なバリュエーションの実施等を行うため、その時点で会計や財務の知識が全くない状況だと太刀打ちできないのは間違いないでしょう。
そのため、早い段階で簿記1級と言わずとも簿記2級程度は取得していくことが重要になります。ただし投資銀行の実務で、簿記1級で求められるような細かい会計の知識が論点になることはそこまで多くないのも事実です。
ベンダーDDレポートを読みながらインフォメーションメモランダムのファイナンシャルのセクションを作成する際に、財務諸表分析やサマリーを作成するため必須になるという程度です。
とはいえ、アナリストやアソシエイトと言ったジュニアバンカーの時には必ず知っておきたい知識になります。案件ごとに論点になったポイントを押さえながら進めるのが好ましいでしょう。
入社を狙うにしても、ファイナンスや会計等のハードスキルや知識は高い水準で備えていることが重要になります。これらは主に会社の企業価値評価(バリュエーション)や、ファイナンシャルモデルの作成で活かされます。
ゆえに関連した資格を持っていれば採用の際にも、検討されやすく書類等を突破しやすいでしょう。その意味で、簿記や公認会計士試験合格、税理士試験の合格は一定の評価は得られるであろうと推測できます。
簿記1級は投資銀行への転職で有利か
簿記1級が有利かどうかは、その人のバックグラウンドや応募先の投資銀行の属性によります。一般的に投資銀行でも簿記1級は保有している人が少ないため、投資銀行への就職でも有利に働くと思われがちです。しかし資格で有利に働くかは、新卒か第二新卒か、中途の経験者かどうかで大きく変わります。
有利に働く可能性があるのは、関連するような職務経験や業務経験がある中途採用者です。特に、たとえば第2新卒で20代前半の、簿記1級を取得している人が、コンサルや総合商社で関連する業務経験を積んでいれば、有利に働くと思います。
経験者が投資銀行に入る場合は関連する経験、例えばM&Aアドバイザリーのクローズ済みの案件の実績が最重要になります。その場合は資格の有無は二の次で、簿記1級がある候補者に面接官はそこまで大きな反応をしないかもしれません。
簿記1級の資格がある場合、年齢を問わずアピールできるかどうか
簿記1級の資格がある場合、年齢を問わずアピールできるかどうかですが、この点に関しては年齢が若い方が有利と言えそうです。年齢が高い場合はそれに応じてM&Aディールの経験が求められますので、年齢が20代後半で資格しかアピール材料がない場合は、中途のポテンシャル採用での内定獲得は難しいのが実情でしょうか。
ただし志望する投資銀行のレベルに応じて、採用難易度やアピールの高低は変わるかもしれません。
国内系や外資系のトップティアを除き、中堅以下の投資銀行では昨今の人材不足もあるので若手アナリストのニーズはポテンシャル採用でも十分あると思われます。簿記1級があればそれに越したことはないでしょう。国内系の証券会社では、投資銀行部門でも案件の多さから、それなりに人員は必要であり、先ずは手を動かしてくれる若手を即戦力ないしポテンシャル採用で欲しがっている企業もあります。
ポテンシャル採用であれば、多少の実務経験はなくとも投資銀行業務に必要な知識(会計やファイナンス、法務等)があれば採用検討されることはよくある印象です。
特に、大手の日系証券会社の投資銀行部門や、人員が足りていないブティック系の投資銀行、会計系のファームのFAS部門でM&Aアドバイザリー、コーポレートファイナンスのチームは比較的採用対象になるでしょうか。どピュアな投資銀行とは異なりますがFASのコーポレートファイナンスチームやM&Aアドバイザリーチームでは会計士資格を持ちながら、他の証券会社や投資銀行がやるようなM&Aアドバイザリーの案件を行うことが多くなっているという声も聞きます。会計系のファームであることから会計士の資格を持っている人や簿記1級の資格を持っている等、会計面でエッジのある人材が好まれる印象があります。
一般的に日系であれ、外資系であれ、卒業大学に関しては高学歴の方が多く入社します(簿記の資格の有無を問わず)。たとえば日本のトップクラスの大学(例:東京大学、京都大学、一橋大学、慶應義塾大学、早稲田大学等)を卒業しており、日本語、英語に加えて中国語等の3か国語を操れる人というのが新卒で採用される人の一般的なイメージでしょうか。
簿記1級以外で投資銀行への転職で有利な資格と難易度の比較
簿記1級以外で転職に有利な資格は必然的に難関な資格です。具体的には公認会計士、弁護士、USCPA、MBA等があるでしょう。いずれの資格や経歴も簿記1級に比べると取得や合格に係る時間は長く、合わせて独学での取得は難しいのが現実です。予備校に通う等のアクションは必要になるので、コストのかかる資格になります。
とはいえ、資格を持っているからそれが即投資銀行への就職に有利になるという考えは持たず「なぜ投資銀行業界を目指したいのか」を明確にすること。そのうえで、自分の目指すキャリアの延長線上に資格取得が含まれていれば、相手にとっても理解しやすいストーリーになるでしょう。
投資銀行への転職で役立つ資格:弁護士、司法試験合格
投資銀行への転職で有利と目される資格に弁護士資格が挙げられます。弁護士資格の取得には司法試験に合格後、司法修習や、人によっては司法試験に受かるために有名大学の法科大学院に通い、予備試験を免除されたうえで弁護士になる人もいます。
投資銀行でのM&Aアドバイザリー業務ではコーポレートファイナンスや会計、バリュエーションに関する知識や経験以外にも、特に契約書の交渉において法務の知識が役立ちます。M&A等のディールでは数字の分析以外にも、契約書の交渉等のフェーズも非常に重要になるためです。
そのため司法試験の合格者にとって、投資銀行でM&Aアドバイザーになることは、親和性の高いキャリアになるでしょう。
実際、弁護士には、司法試験合格後に入社する人だけでなく、大手法律事務所のM&Aチームから大手投資銀行への出向者もいるようです。特にM&AにおけるSPA,SHA,JVAの契約書の交渉に関する案件に関与していた人は非常に高いニーズがあるでしょうか。
M&A契約書の交渉の場面では、売手のアドバイザーとして売り手のSPAのドラフトを作成する際に、売手にとって有利な契約書の条文や条件、構成等を考えるのがM&A Lawyerの役目です。投資銀行のプロフェッショナルでもこの局面には関わりますが、弁護士として契約書の構成を理解しながら交渉上有利な条文を考えるスキルはバンカーとしても非常に役立つと言えそうです。
将来的にPEファンドへのキャリアを考える弁護士は、自身の法務への知見や契約書の交渉経験といった強み+会計やファイナンススキルを生かし、投資銀行等でM&Aアドバイザリーの経験を多く積む人もいます。もちろんプライベートエクイティファンドのみならず、事業会社のCFOになるような弁護士出身者もいるので、キャリアの参考になるとは思います。プライベートエクイティファンドへ転職することも考えると、このようなキャリアパスを描くことも現実的だと言えるでしょうか。
投資銀行への転職で役立つ資格:公認会計士試験
簿記1級にもっとも近く、投資銀行での業務に役立つ資格として、公認会計士も挙げることができます。
公認会計士試験は短答式試験と論文式試験の合格をもって国家試験の合格、修了考査の合格をもって公認会計士の登録を終えることができます。
修了考査に合格してから投資銀行に入る人もいますが、投資銀行業務の性質を考えると若いときに入った方がいいかもしれません。公認会計士の試験に合格した後に20代で投資銀行に入り、その後色々な案件を経験して言った方がより早く実務経験が身に付くなど、トータルでプラスになるでしょうか。
会計士試験の試験科目は財務会計論・管理会計論・企業法・経営学・経済学・監査論・租税法・民法・統計学です。短答式試験は各科目で40%を下回ると、自動的に不合格になる可能性があります。合格のラインは標準偏差52を超えていればOKと言われているようですが、とにかく各科目の苦手な箇所をなくすことが最重要です。
参考:金融庁
投資銀行への転職で役立つ資格:USCPA(米国公認会計士)
簿記1級の次に役立つ資格は米国公認会計士(USCPA)です。これは日本の簿記1級や公認会計士ほどの難しさではないという声が多いですが、英語で会計用語や会計基準を理解しているという点で評価される可能性が高いです。
特に外資系投資銀行もしくは日系の投資銀行で日米案件を扱う場合には、US-GAAPの知識が必要になる局面もあるようなので重宝されるでしょう。具体的には日米のM&A案件で米国の子会社を売却する際、対象会社がUS-GAAPを採用している場合には、対象会社が有するリース債務、資産の取り扱いやキャッシュフローへの影響、EBITDA調整項目におけるUS-GAAP独特の調整項目等を理解しておくことが大事だと言えます。
ただし、投資銀行でも日系/外資系問わず仕事をしながらUSCPAをとる人は比較的多いので、この資格に合格していることで採用上かなり有利になるわけではないと言えそうです。とはいいつつも、USCPAは簿記1級と並んで、ないよりはあったほうがマシな資格ですので、未経験で投資銀行への転職を希望される若手のプロフェッショナルは、合格していて損はないでしょうか。
投資銀行への転職で役立つ資格:CFA
次に評価される可能性がある資格に、CFAがあります。CFAは厳密には証券アナリストとは違いますが、米国版の証券アナリストに近いものです。
CFAはLevelが1-3の3段階で分類されます。それぞれのランクの試験は、合格率はそれなりに低いと言えるでしょう。投資銀行よりも、アセマネ等の業界で価値のある資格ですが、外資系投資銀行のジュニアクラスでもCFAを持っている人がある程度いるようです。
日本人でも最近は、CFAの試験を受ける若い人は増えてきているようですが、受験にかかるコストがそれなりに高いので、会社の補助やサポートなしで受ける人は少数派だと思います。
M&Aアドバイザリーの業務に役立つというよりは、バイサイドで必要な資格です。簿記1級よりも英語力やファイナンスの知識等を示すにはいい資格ですので、外資系にアプライする場合にはそれなりにアドバンテッジになるでしょう。
他の有利な資格と比較した場合の簿記1級の難易度
簿記1級は会計系の資格では公認会計士や税理士についで難易度が高く、一般的な就職試験でも注目に値するものです。しかし実情としては、簿記1級をそのまま狙うよりも、公認会計士試験や税理士試験の受験勉強の中で実力試しという位置づけで受験し、合格する人が多いと思われます。簿記1級は具体的には商業簿記・工業簿記・会計学・原価計算という4セクションからなります。
各セクションには記述問題もありますが、25点満点で、1科目でも4割を下回った場合には、他の科目がどんなに良くても自動的に不合格になってしまうという採点基準です。
また合格の基準は総得点の70点以上というのがハードルになりますので、要約すると各4科目のセクションに関して、4割を下回らないようにまんべんなくスコアを獲得。合計のスコアは70点以上を取るように苦手科目をなくすことが先決です。
簿記1級のスコアは公認会計士試験に最も近いと言えるかもしれません。短答式試験における最低スコアの基準(各科目の40%)、かつ総合計点の70%を目安として合否を決定する点に非常に酷似しています。
そのため、公認会計士試験の試験勉強の中で会計学のレベルを一定以上に保つために、簿記1級に合格しておくことは非常に重要です。また、実際に簿記1級を受験することで短答式試験の感覚も分かることになります。
投資銀行で簿記1級の有無で合否が決まるわけではない【知識はある程度役立つ】
投資銀行の簿記1級の資格を有していることそのものが投資銀行の採用活動において合否を決めるわけではないということは覚えておいた方が良さそうです。
とはいえ、資格の勉強を通じて、バリュエーションの実務に生かせるファイナンスや会計の知識等が身に付いていきます。その面で簿記1級は、転職活動における自己アピールの支えにもなる資格でしょう。
もちろん資格だけでなく、入社後にM&A案件や提案の案件にアサインされた場合には、ディールのエグゼキューションや顧客向けの提案の実務で、自らの財務や会計の知識を活用しながら資料作成やプレゼンテーション/顧客とのやり取りを行うことも重要になります。このように簿記1級のような難関の資格に依存せずにキャッチアップすることで業務に邁進できるものと言えそうです。
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>投資銀行で求められるスキル・資格に関する記事
外資系投資銀行への転職に有利な各資格を解説
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/investmentbank_qualification
投資銀行業界への転職にMBA取得が与える影響と有利性
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/investmentbank_mba
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今回の記事では、投資銀行への転職で簿記1級が有利に働くかについてお伝えしました。
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