大手投資銀行と中小投資銀行の違いと転職してできること、できないこと

一口に投資銀行といってもさまざまな企業が存在します。投資銀行というと、しばしば日系・外資で分類される方が多い印象ですが、投資銀行では大手投資銀行と中小の投資銀行で、特徴や転職後に「できる仕事・できない仕事」に大きな差があります。

そこで、今回の記事では、投資銀行を大手・中規模と小規模なブティック系に分けて、その特徴や、違い、できること、できないことについてお伝えします。

【目次】

  1. 規模を軸とした投資銀行の分類とは?
  2. 大手投資銀行、中小投資銀行の違い
  3. 大手・中小それぞれの投資銀行でできること・できないこと

規模を軸とした投資銀行の分類とは?

投資銀行を規模で分類する場合にオフィシャルな決まりがあるわけではありませんが、大きく分けて次のような分類ができるでしょうか。

ü 大手:日系大手5社・外資系の一部
ü 中堅:日系中堅クラス・外資系のその他
ü ブティック系

特徴の違いはこの後細かく触れていきますが、一般的に次のような傾向があります。

ü 大手ほどフルラインナップで投資銀行ビジネスを展開しており、規模が小さいと特定の投資銀行ビジネスに特化する傾向
ü 大手ほど多様なクライアントとのディールをおこなっている一方、規模が小さいと収益性を重視してディールを取捨選別する傾向

就職してできること・できないことを考える上でも、これらの違いが重要になってきます。それでは次の章で、大手・中小の投資銀行それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。

大手投資銀行、中小投資銀行の違い

大まかな規模ごとの投資銀行の分類をおこなったところで、続いては規模ごとの投資銀行の違いを、さまざまな視点から解説していきます。これ以降は、基本的に先に紹介した大手・中堅・ブティック型の3分類に分けてご紹介します。

投資銀行ビジネスのラインナップ

まず、大手と中小では投資銀行ビジネスのラインナップが大きく異なります。先に紹介した「大手投資銀行」はそれぞれ得意分野・不得意分野はあるものの、次に示す投資銀行ビジネスを概ねカバーしています。

ü 有価証券の市場トレーディング
ü M&Aアドバイザリー
ü IPO
ü 株・債券やその他のファイナンス
ü 財務関連のアドバイザリーや流動化・証券化

特に機関投資家向けの市場トレーディングは多額のシステム投資が必要であり、一定程度の取引規模が必要となることから、大手が得意とするビジネスです。市場トレーディングを大規模に展開している企業の場合、同ビジネスで高収益を獲得しているケースも珍しくありません。

中規模の投資銀行は、以上のいくつかのビジネスに特化している傾向にあります。

特に中規模の投資銀行では対応していない、もしくはビジネス規模が小さい傾向あるのは市場トレーディングです。プレーンな株・債券などは1取引あたりの収益は小さいため、多額のトレーディングの執行が市場トレーディングビジネスにおいては欠かせません。しかし、中規模の投資銀行は顧客基盤が小さいため、大規模・高頻度のトレーディングをおこなうことが難しいです。

そのため、中規模の投資銀行で市場トレーディングをおこなう場合は、より1取引あたりの収益性が高い(一方でマーケットサイズの小さい)私募証券やデリバティブなどを活用したオーダーメイドの投資商品の売買に特化する傾向にあります。もしくは、市場トレーディング自体を日本でおこなっていないケースも珍しくありません。

また、債券ファイナンスのディールも大手投資銀行が中心で、中堅以下になるとビジネスは小規模もしくは日本ではほぼ取り扱っていない場合が多くなってきます。プレーンな債券ファイナンスは手数料率が低く、またローンビジネスとのシナジーを活用できる銀行系の投資銀行が強いため、中堅以下で潤沢な収益を上げるのが難しいためです。

これらのビジネスを中心に、中堅の投資銀行ではそれぞれ取り扱っていない、もしくは規模が小さいビジネスがあり、「フルラインナップ」ではない傾向にあります。

そして、ブティック系の場合は、一般的には特定の投資銀行ビジネスに特化している場合が多いです。公募の有価証券を取り扱うと金融庁の規制対応などから社内整備が必要なため、特に公募の有価証券の発行を必要としないビジネスを強みとしている傾向にあります。

特に多くのブティック系投資銀行が手がけるのがM&Aアドバイザリーです。M&Aはスキームによっては株式の移転・新規資金調達など、有価証券の売買や発行を必要とするものの、それらを介さずに提供できるサービスも多様に存在します。

そのため、多くのM&A特化型のブティック系投資銀行は、独自の専門性を活かしながら、ビジネスを展開しています。

カバーしている業種・規模

大手と中堅・ブティック系では一般的にカバーしている業種範囲や規模についても差があります。

日系を中心に大手の投資銀行では一般にほぼ全業種をカバーしています。規模で見ると大企業が中心になるものの、中堅以下と比較するとやはりカバー範囲は広いと言えるでしょう。

営業部隊にあたるカバレッジが業種別に細かく細分化されているのはもちろん、案件数の多いデットファイナンスなどについては、プロダクトチームすら業種別などでチームが細分化されている企業もあります。大手企業の大規模なファイナンスディールでは、円滑に販売する観点から広範な証券取引の顧客を有している必要があるため、大手企業が強みを発揮しやすいと言えます。

中堅についても、状況によってさまざまな業種・規模の企業のディールを取り扱いますが、常に全方位的にカバーしているのではなく、収益性の見込める案件を取捨選択して取り組む傾向にあります。組織についてもクライアントの業種などによる細かいチーム分けをおこなっているケースは稀でしょうか。

ブティック系についてはさらに取り扱う業種・規模が絞られてきます。特に顕著なのは規模で、非上場で規模の大きい投資銀行では収益的に取り組みにくいような個別案件を、収益性と照らし合わせながら受注する傾向にあります。 組織が小さい分、人数やシステム・設備などのランニングコストが低いため、小規模の案件にも取り組むことが可能なのです。

大手・中小それぞれの投資銀行でできること・できないこと

続いては、大手の投資銀行と中小の投資銀行に転職した場合それぞれで、「できること・できないこと」をまとめてお伝えします。

大手の投資銀行だからこそできること

まず、大手の投資銀行だからこそできるビジネスは以下の通りです。

ü 異なるプロダクトへの移動(債券→株など)
ü 公募の債券ファイナンス
ü 大型のクロスボーダー案件

一つ目は日系に限りますが、専門職の色が強い投資銀行でありながら、日系の投資銀行では通常の大企業と同様にプロダクト間の異動が普通にあります。「債券→M&A」「株式→債券」といったキャリアの積み方は、日本の大手投資銀行ならではと言えるでしょう。

また、日本における公募の債券ファイナンスは日系と大手外資系が非常に強い傾向にあります。大手企業となれば、債券発行の多くは公募でおこないますが、大手の投資銀行では、こうした公募ディールにさかんに携わるチャンスが生まれやすいです。

最後にクロスボーダー案件についても触れていきます。小規模なディールであれば中堅外資でもチャンスはありますが、誰もが知るようなグローバル企業の案件となると、やはり主体的に関わるチャンスが大きいのは、名の通った大手投資銀行が中心になります。

実は大手投資銀行ではできないこと

フルラインナップの大手投資銀行なら何でもできるのかと思いきや、必ずしもそうではありません。次のようなビジネスは、大手投資銀行に入って携わるチャンスは少ないでしょう。

ü 自己資本を用いた投資案件
ü IPO以外の中小企業向けディール

リーマン後、大手の投資銀行では自己資金で直接投資をおこなうビジネスは敬遠する傾向にあります。投資先が破綻などした際に、深刻なダメージを受けるリスクを避けるためです。このため投資銀行においても直接投資によるファイナンスディールなどは稀です。こうした案件はブティック系の投資銀行が強みを発揮できる分野となります。

また、中小企業のディールについては、上場準備にあたるIPOについては大手でも比較的盛んにおこなわれますが、それ以外の投資銀行ビジネスは少ない傾向にあります。投資銀行ディールは資金調達の規模と手数料が比例することが多く、規模が小さいと収益性が小さくなるため、大手投資銀行は敬遠しがちなのです。

中小の投資銀行だからこそできること

続いては中小の投資銀行だからこそできることを紹介します。

ü 自己資金を注入することによる企業再生・付加価値創造
ü 小規模企業のオーダーメイドの財務サポート

先ほど紹介したところですが、クライアントへの投資の一環として自己資金を投入するディールはブティック系投資銀行を中心に、比較的規模の小さい投資銀行が得意としています。

中には投資銀行ビジネスに合わせて自己のファンド運用も実施するブティック系投資銀行も。こうしたブティック系投資銀行では、クライアントへのファイナンスソリューションを提供する投資銀行としての側面と、投資により収益を得るファンドの側面を合わせ持っているのです。

また、小規模企業への財務関連のオーダーメイドのサポートができるのも中堅以下の投資銀行ならでは。大手企業と異なり、小規模企業は公募市場にアクセスしづらいからこそ、資金調達や財務リストラクチャリングなどについて、それぞれの状況に合わせて柔軟に投資銀行ディールを提案できるのです。

中小の投資銀行ではできないこと

先にも紹介した通り、大手投資銀行が得意とするビジネスは多いですが、特に携わるのが難しいのは次のようなビジネスです。

ü プレーンな有価証券の機関投資家向けトレーディング
ü 公募債券のファイナンスビジネス

機関投資家向けのトレーディングに対応するためには、瞬時に価格を提示して、莫大な金額の売買を高速執行できるインフラが必要。多額の設備投資を中規模以下の投資銀行が賄うのは困難であるため、市場トレーディングビジネスの規模は小さいか、もしくは全くおこなっていない傾向にあります。

また、投資銀行プロダクトの中では、公募債券のファイナンスディールについては特に大手に集中しています。中規模の投資銀行でもディール頻度はかなり下がってしまいますし、ブティック系に至っては全く取り扱っていない投資銀行の方が多いです。大型の債券ファイナンスにチャレンジしたい方は、大手の投資銀行を目指した方が良いでしょう。

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>投資銀行のキャリアに関する記事

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投資銀行は大手・中堅・ブティック型でそれぞれ異なる特徴を持っています。当然のことながら、それぞれの投資銀行で、できること・できないことも異なってきます。

そのため、投資銀行へのチャレンジを検討している方は、まず自分が投資銀行でどのようなビジネスに携わりたいのかイメージすることが肝要です。
その上で、そのビジネスを得意としている投資銀行に入社できれば、自分の思い描く投資銀行のキャリアの道が拓けるでしょう。

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