投資銀行のM&Aアドバイザリー業務においては、様々な知識や複数の分野にまたがる知識が重要になり、常に勉強によるインプット、仕事でのアウトプットが連続します。そのため、異なる業界から転職された方は、事前のインプットが非常に重要と言えるでしょうか。
そこで今回の記事では、投資銀行を目指されている方向けに、投資銀行で働かれている方々にお聞きした、「実際にキャリアで役立った本」を複数ご紹介します。
どのようなシチュエーションで役立ったのか、業務において本をどのように使用したのか等もお伝えします。
【目次】
- バリュエーション:McKinsey編
- コーポレートファイナンス 戦略と実践:田中・保田編
- M&A実務のすべて:有限責任監査法人トーマツ編
- M&A統合型デューデリジェンス:デロイトトーマツFAS編
- M&Aの契約実務
バリュエーション:McKinsey編
バリュエーションに関しては、マッキンゼーの企業価値評価(バリュエーション)の本をお勧めに挙げる方が多い印象です。
内容は、エクセルを使った実務というよりはコーポレートファイナンスの理論を基礎に説明しています。特に最近では「多様な事業を抱える企業の評価法」「スタートアップの企業の価値評価」等の様々な類型のケースが含まれており、網羅的に学習できる良書のようです。
アマゾンでも入手可能ですが、CDROMでマクロデータも入手可能であり、「値段は高いものの網羅的に事例が含まれており良書」と評判が高いです。実務で悩む論点が出てくる都度参照するのが望ましいでしょうか。
「エクセルを使用してモデルをどのように組むかは、色々な過去事例のモデルや、研修用のモデルをベースにしながらスキルをアップさせることが重要になるので、実務でのエクセルワークと理論的なバックグラウンドを本書により補うということが若手~中堅のバンカーのポイントになる」というパートナークラスの声もありました。
コーポレートファイナンス 戦略と実践:田中・保田編
「M&Aのみならずコーポレートファイナンスの実務を総括的に、かつ実務家の目線から記載した良書」とのことです。特に他の書籍には記載の少ない「株主還元の考え方」や簡単な「LBOモデルの紹介」は若手のバンカーにとっては非常に役立つ内容になるでしょうか。
この本の著者の田中氏・保田氏はともにUBS証券の出身であり、UBSが日本のM&Aアドバイザリーで数多くの実績を残していた時代に活躍されたバンカーです。
最近出版された本ですが、説明されている内容はケーススタディも豊富で非常に分かりやすいという声が多く、かつ実務の内容に沿ったもので、加重平均資本コスト(WACC)の計算やDCFの計算をエクセルでどのように行えばよいか分からないという方は、非常に明快に理解できるようです。本も口語体で記載されており、親しみの湧きやすいテキストでしょうか。
M&A実務のすべて:有限責任監査法人トーマツ編
M&Aアドバイザリー業、デューデリジェンス。PMI等総合的なM&Aのプロセスや必要な知識を網羅的に記載しています。M&Aアドバイザリー業務に携わるようになった初心者から中級者向けの本と言えるでしょうか。
「M&A実務のすべて」では、ストラクチャー、バリュエーション、財務デューデリジェンス、PMI等のステップに分けて説明しています。「投資銀行の実務で常にこの本を参照するというよりは、アナリスト時代のまだ多く案件を経験していない時に空いた時間で読み進めていました」という声もありました。
一方で、「PMIはコンサルティングファームが関与することが多いため、投資銀行の実務ではあまり関わらないので読み飛ばしていました」という意見や、「M&Aのプロセス概観や、バリュエーション、デューデリジェンス、ストラクチャーの箇所は、投資銀行からプライベートエクイティファンドに転職しても読んで役に立った」という声もありました。
また、バリュエーションに関しては実務的な内容というよりも、やや理論的な背景が書いてあります。実際の投資銀行の実務ではエクセルを利用したバリュエーションの実務は外部の研修教材を使用し、実務で何度も使用して身に付けるものですので、この本に記載されているバリュエーションの内容は概要を理論的に理解するという時に助かるもののようです。
デューデリジェンスについても、「財務デューデリジェンスで必要な分析項目(正常収益力・ネットデット・設備投資分析・キャッシュフロー分析)を総合的に理解するには非常に心強い本になった」という中堅バンカーの声もありました。
日本の公認会計士を合格している人でなくても、投資銀行で働くのであれば財務的な素養は非常に重要でしょうか。そのため、M&Aの財務分析で大事なポイントをテキストベースで理解しておくことも重要です。
他にもM&A等の組織再編に関する税制も全体的に漏れなく説明されており、非常にテクニカルな内容になりますが、一度読んでおいて損はないでしょうか。特に税制適格のストラクチャー、繰越欠損金の使用制限の有無等はテクニカルではありますが、非常に重要な論点になるため、案件に入る前にこの本を通じて総合的に理解しておくと、その後のスムーズなキャッチアップに繋がります。
M&A統合型デューデリジェンス:デロイトトーマツFAS編
少し古く2010年ほどの出版ですが、財務デューデリジェンスに携わる方からも、投資銀行で財務分析を行うバンカーからもよくお聞きする本です。
財務デューデリジェンスのレポートで論点になりうる項目、正常収益力やネットデット、設備投資やキャッシュフロー分析の方法が概括的に記載されており、知識を体系的に整理するにはおすすめの本と言えそうです。
投資銀行ではバンカーが実際に財務デューデリジェンスをすることはないですが、セルサイドのアドバイザリー業務でインフォメーションメモランダムを作成する際は、対象会社の初期的な財務分析を行う際に(デスクトップではありますが)、財務デューデリジェンスに近い正常収益力分析、ネットデット分析等を行うため、対象会社の財務上の論点を峻別するのに役立つようです。
ベンダーデューデリジェンスを行っているセルサイド案件の場合は、会計士が作成したベンダーデューデリジェンスレポートを正確に読み込む必要があります。他にもセルサイド案件ではなく、バイサイドのM&Aでも買手として財務デューデリジェンスレポートを読むことは多いため、レポートを読む際に何が論点かを把握してバリュエーションや契約交渉に響いていく論点を把握するために役立つようです。
またこの本は、文章による説明だけではなく、エクセルによる分析を表示しているため、実務で財務分析をする方からも好評です(正常収益力分析やネットデットの調整表等)。
M&Aの契約実務
「M&Aの契約実務」は、M&Aアドバイザリー業務におけるSPA(株式譲渡契約書)の交渉の際に必要な知識や論点を包括的に記載しています。
株式譲渡契約書の交渉における、表明保証の論点、補償の内容、アーンアウト条項や、価格交渉の際に論点になる財務上の項目を包括的に記載してあり、実際には本書を読みながらシニアバンカーである上司と協働しながらクライアント・および弁護士と連携して交渉サポートを行うケースもあるようです。
法律の専門的な勉強をしていない限り、M&Aにおける(特に英文による)契約交渉は特殊な英文が使われることも多いでしょうか。そのため、日本語の株式譲渡契約書でも契約書のドラフト、カウンターパート(売り手もしくは買い手)から入ってきたマークアップを理解するにはこのような本を読んでから総括的な理解をして臨むことが良いようです。
実際に、「セルサイドアドバイザリー業務を行った際に買手候補から提出された株式譲渡契約書に記載されている交渉上のポイントをまとめた際に、この本を参照しながら仕事を進めた」という声をお聞きしました。
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>投資銀行のキャリアに関する記事
投資銀行(IBD)と資産運用会社(アセットマネジメント)の違い【両セクターの経験者に訊く】
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/investmentbankassetmanagement
投資銀行からPEファンドへのキャリアパス【転職後活かせるスキル】
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/peinvestmentbank
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今回の記事では、投資銀行を目指されている方向けに、投資銀行で働かれている方々にお聞きした、「実際にキャリアで役立った本」を複数ご紹介しました。
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