クオンツとは、高度な数学的知識を用いて、金融の分野で定量的な分析や研究を導入する職業です。
金融のさまざまなセクターに在籍していて、投資銀行でも複数の役割があります。今クオンツに興味がある方は、自分が具体的にどのようなクオンツ関連の仕事に就きたいのか明確にしておきましょう。
そこで今回は、投資銀行におけるクオンツの役割や仕事内容、クオンツになるために求められる経験やスキルについて紹介します。
【目次】
- 投資銀行のクオンツとは金融関連の物事を数学的知見により分析する仕事
- 投資銀行のクオンツ業務が発生する分野
- 投資銀行のクオンツの特徴
- 投資銀行のクオンツに求められるスキル
- 理系で高い専門性がある人は投資銀行のクオンツにチャレンジする価値がある
①投資銀行のクオンツとは金融関連の物事を数学的知見により分析する仕事
クオンツは、もともと米国でNASAの宇宙開発に携わっていた研究者の一部が、主に物理学や数学などの理系的な知見を金融に持ち込んだことで始まった分野です。
Quantitative(定量的な)の派生語であり、転じて金融関連の物事を数学的知見により分析する仕事をクオンツと呼ぶようになりました。
現代ではデリバティブや仕組み債、モデルを活用したシステマティックな取引など、さまざまな金融の分野において欠かせない分野となっています。
アイボリー・タワーとクリスタル・ボール
クオンツは伝統的に二つの役割があり「アイボリー・タワー」と「クリスタル・ボール」と呼ばれます。
「アイボリー・タワー」は主にデリバティブのモデル構築やプライシングを行う仕事です。また、デリバティブが組み込まれている仕組み債のプライシングの役割も担います。
デリバティブの多くや仕組み債は、いわゆる一般の株のように取引所で取引されているものではなく「OTC(相対取引)」といってディーラーや投資家などの取引相手と直接交渉して取引を成立させます。(正確には取引参加者同士を仲立ちする「ブローカー」がいる場合もあります)
そのため、複雑なモデルや数理的知見に基づいて、自社で価格を算出しなければなりません。
もう一つは「クリスタル・ボール」という仕事です。こちらはよりトレーダーに近い仕事で、市場動向の分析やプライシングモデルなどの知識を土台とし、市場の裁定機会や収益機会を見出して、トレーディングを支援したり、トレーディングを実行するための土台となるシステムやモデルを開発したりします。
また、近年重要性が高まっているリスク管理も、どちらかというとこちらに分類されます。ただし、文字通りリスクを取りすぎないよう管理する場合もあれば、与えられた(もしくは規制上の)リスクの制限の中に収まるようにしつつ、積極的にリスクをとって収益拡大を図る役割を担う場合もあります。
分野で見た時のクオンツの種類
伝統的な分け方である「アイボリー・タワー」と「クリスタル・ボール」ですが、少なくとも日本においては、採用や部署分けなどがこれら二つの区分けで行われることはあまりなく、この後の見出しで紹介するように、取り扱う領域や分野などで採用が分かれるケースが多いです。
代表的なものとして次のような領域のクオンツが存在します。
- デリバティブのクオンツ
- マーケットのクオンツ
- リサーチのクオンツ
- リスク管理のクオンツ
- エンジニア
いずれも投資銀行でも存在するクオンツのため、具体的な役割についてはさらにこの後詳しく紹介します。
クオンツは金融機関のさまざまな企業に存在します。また、一部金融以外の領域でもクオンツを採用している場合があります。
【クオンツが所属する or 所属し得る業界の例】
金融機関
- 証券会社
- 投資銀行(主に市場部門)
- 銀行
- 保険
- アセットマネジメント
- ヘッジファンドなど
金融以外
- シンクタンク
- 一部コンサルファーム
- SIerもしくはITコンサルの一部(金融領域を専門に持つ場合)
この記事では、投資銀行でのクオンツに焦点を当てていきますが、このように投資銀行以外でもクオンツの採用や所属部署は存在するということを押さえておきましょう。
②投資銀行のクオンツ業務が発生する分野
投資銀行におけるクオンツ業務は、いわゆるM&Aやファイナンスといった狭義の投資銀行部門(もしくはインベストメントバンキング部門)ではなく、市場部門(もしくはマーケット部門)の部署に複数存在します。
具体的な組織構成は企業によって異なりますが「クオンツ部」といったような個別の部署があるケースは少なく、市場部門のいくつかのファンクションにおいてクオンツ担当の人材やチームが配置されている場合が多いです。ここからは投資銀行において、クオンツ系の人材がいる分野について仕事内容とともに紹介していきます。
デリバティブにおけるクオンツ
投資銀行の市場部門ではデリバティブのトレーディングを活発に行います。デリバティブは日本語で言うと「金融派生商品」と呼ばれるもので、金融工学とシステムを駆使してキャッシュフローのスケジュールや条件を交換する取引のことを指します。代表的なものでは金利スワップやオプションなどが挙げられます。
デリバティブの価格決定やトレードモデルの開発、デリバティブを活用した運用戦略や商品開発全てにおいて、確率や微積分、統計学などの分野の高度な知見が求められるため、クオンツによる分析や、プライシング・トレーディング及びモデル開発が欠かせません。
投資銀行では、主に機関投資家に対してデリバティブのトレーディングやカウンターパーティとなるサービスを提供しています。足元は金融庁の勧告などによりやや数は減らしているものの、仕組み債に組み入れられるデリバティブの提供、一部の投資信託やファンド運用に活用されるデリバティブの提供なども行っています。
これらのビジネスを円滑に、そして投資銀行が健全なリスクテイクのもと充分なリターンを獲得するうえで、クオンツは重要な役割を果たしているのです。
トレーディングにおけるクオンツ
投資銀行によっては、自社でリスクをとって証券やデリバティブなどのポジションを運用しています。金融危機以降リスクを取りづらくなりましたが、純粋に収益拡大のためのディーリングを行っている場合のほか、株のバスケット取引や相対取引に対応する目的でポジションを持っている場合もあります。
こうしたポジションの管理においては、しばしば価格モデルに基づく取引や、システムを活用した高頻度取引などを行うため、有価証券のトレーディング部門にクオンツの人材が配置されているケースも少なくありません。
定められたリスクの範囲内で、かつ自社の収益目標や顧客の売買ニーズの充足を達成するためにシステム開発やトレーディングモデル、価格モデルの構築などを行い、日々のトレーディングに役立てていきます。
リサーチやアナリストのクオンツ
投資銀行のリサーチ部門にもクオンツが配備されている場合があります。
デリバティブを含むさまざまな金融市場の動向について、金融工学の知見に基づいて分析や予測を行い、その内容をレポートとしてまとめて世の中に発信したり、機関投資家や一部の富裕層などに対して、リサーチ結果に基づいて情報提供・営業活動のサポートを行なったりします。
過去の市場データや価格推移をはじめ、世の中のさまざまなデータをもとにモデル構築や価格推移の予想などを立てて、情報発信を行います。
基本的には「クオンツ」の本分である定量的な分析を土台とするものの、世の中や顧客の役に立つ上では、自身のアイデアの発信や実用性・実効性といった部分にも気を配って差別化することも大切です。
リスク管理におけるクオンツ
金融機関のリスク管理は時代とともに高度化、厳格化しているため、近年においてはリスク管理部門でもクオンツの知見が活用されるようになってきています。今では投資銀行全体のリスクを統合して、過大な損失が発生しないよう規制及び自社ルールによって管理されています。
その中では、ストレステスト(厳しい環境が発生した時の損失リスクや生存確率の予測など)や統計学の検知から損失規模と確率を分析するVaRの算出などを行います。そのためには数学や統計学、金融工学の知識が必要になるため、クオンツが重要な役割を果たすのです。
③投資銀行のクオンツの特徴
続いては、投資銀行のクオンツの働きぶりや、所属する人のバックグラウンドなどについて紹介していきます。今後クオンツとして投資銀行で働きたいと考えている人は、ぜひ参考にしてください。
優秀な理系出身者がほとんどで海外大学出身者も
クオンツは全般的に高度な数学や統計学、金融工学を使用する仕事なので、圧倒的に理系の出身者が多いです。特に就職・転職において難易度の高い投資銀行においては、海外の有名理系大学の出身者も多数います。
他の部署や職種と比べると、修士や博士課程まで進んで高度な研究実績、成果などを持つ方が多くみられます。分野がやや異なるものの、理学や物理学といった分野の出身者でも、数学を活用して高度な研究のスキルと経験があれば役立つことから、理系であれば必ずしも数学・金融系の分野出身とは限りません。
外資系ということもあり欧米やインド・中国などから来た外国人が比較的多いのも特徴です。東京大学など日本の最難関クラスの学歴よりもステータスの高い大学や研究所にて、高度な研究を行ってきた層が、しばしばクオンツとして日本で働いています。
クオンツの年収は投資銀行並かそれ以上
投資銀行のクオンツの年収は、一般的な投資銀行マンと同様で、日本全体で見ればかなりの高年収となるケースが多いでしょう。自身の取引実績や全社の業績により年収が上振れやすいフロント部門に属するケースが多いことから、成績が良ければ億円単位の年収を実現できる可能性もゼロではないかもしれません。
特に高年収となる可能性があるのは、フロント部門、すなわちデリバティブや証券のプライシング・トレーディングに関わる部署です。彼らの成績は投資銀行の市場部門の損益に直結することから、収益と収入の連動性も高い分、高年収を得るとよく耳にします。
トレーディングに直接関わる人材は投資銀行の中でも限られているので、市場環境と条件によっては他の投資銀行の人材すら凌駕する年収に到達するチャンスもあります。
市場部門におけるミドル・バックに当たるリサーチやリスク管理の部署はフロントには及ばないものの、日本全体で見ればかなりの高収入となることに変わりありません。それぞれの分野で実績を積めば、20代のうちに年収1,000万円を超え、30代の早いうちに2,000万〜3,000万円に到達することは可能だと思われます。
投資銀行の中では激務ではない
仕事量については、投資銀行としては比較的少ない方となります。そもそも投資銀行=激務というイメージはM&Aや一部のファイナンス案件を手掛ける部門によるところが大きく、市場部門はそもそも市場が活発でない時間帯にできることが限られているため、仕事量は決して多くありません。
クオンツもリリース時期の決まっているシステムやモデルの開発が切羽詰まると、一時的に長時間労働を強いられる場合はあるものの、頻度は少ないのが特徴です。投資銀行全体で見れば、労働環境はマイルドといえます。
ただし、海外市場を主に扱う仕事を担うと、時差の関係から労働時間が不規則になる場合もあります。特に米国時間の市場価格の動きなどを見なければならない場合は、昼夜が逆転する生活になることもあるでしょう。
④投資銀行のクオンツに求められるスキル
投資銀行のクオンツになるには、理系の数理分野の高い知見や修了実績、金融工学に対する深い理解が求められます。
クオンツ全般で言えば、これらの知見があれば30代・未経験でも転職のチャンスを掴める可能性もありますが、全体的に人材のレベルが高い傾向がある投資銀行では、未経験からの転職は20代が中心になるでしょう。
数学・物理学や金融工学を中心とした理系の知識
クオンツとして働くために必要な国家資格などはないのですが、強いて言えば理系の高等教育の「卒業実績」が事実上必須です。モデル構築やデータ分析、プライシングいずれをとっても高度な数学への理解と、論立的に突き詰めて研究する力が求められ、理系の学問を修了した人でなければ転職は困難でしょう。
最も適切なのは金融工学を理系の大学から修了した人ですが、日本では理系の金融分野が必ずしも発達していない(そもそも金融の分野は文系の商学部・経済学部に属することが多い)ため、数学を積極的に扱う理系学部であれば転職する上でアピール材料とできるでしょう。
また、たとえ理系でも、学部卒レベルでは東大でも決して有利には働きません。修士、中には博士課程まで修了している方、理系の研究所や経済・金融分野の研究所での研究実績がある方などが転職する上では優位に働きます。
外資系の場合は海外の有名な高等教育の修了者も少なくないので、国内の教育機関で「ここなら安泰」という学歴はありません。
プログラミングやデータ分析のスキル
クオンツは与えられたツールをそのまま使用するだけで業務が完結しないケースも少なくありません。自分でモデルや分析プロセスを構築して、それをシステム化しなければならないシーンがしばしばあります。プライシングするためのツール構築の一部をクオンツが行う場合もあるでしょう。
以上のプロセスは、現代ではコンピュータ上で全て行われるため、クオンツはプログラミングへの知見が求められます。
ただし大学時代にも高度な統計・確率などを活用した研究を行っていれば、同様にプログラミングを行うシーンは少なからずあります。ITコンサルやSIerになるわけではないので、これまでの研究や学習にて使用した経験があれば事足りるケースが多いでしょう。
金融工学と経済学への知見
理系の大学を出ていると、金融工学関連の専攻をしていない限り、むしろ金融市場や経済に対する知見が足りていない可能性があります。
投資銀行のクオンツに入るような人材になると、たとえ大学の専攻分野ではなくとも、金融工学や経済を独学で学び、選考を受ける時点では高い知見を持っている人が多くいます。
また、大学時代の専門性とは異なっていても、社会人になってからコンサルや金融などの仕事に就き、これらの知見を補っているケースも見られます。もし理系の知見はあっても金融や経済に触れた経験があまりないという人は、この部分では選考を受ける前にキャッチアップしておく必要があるでしょう。
英語力
外資系金融や投資銀行全般に言えることではありますが、英語力は高いレベルが求められます。特にフロントのトレーダーはブローカーや取引のカウンターパーティ、時には同僚が外国人というケースも多く、日常的に英語が飛び交っています。
市場が動く中でトレードを行わなければならず、難解な内容で素早くコミュニケーションを取る必要があるため、投資銀行の中でもとりわけ高い英語力が求められます。こうした観点から、結果的には海外大学卒業者や留学経験者、帰国子女などは選考を優位に進めやすいでしょう。
⑤理系で高い専門性がある人は投資銀行のクオンツにチャレンジする価値がある
クオンツは「定量的」という日本語からもわかるように、高度な数理系のスキルを活用してさまざまな業務を行います。
一口にクオンツと言っても所属部署はさまざまで、デリバティブのトレーディングやプライシング、株の高速取引といったフロント最前線にいる場合もあれば、リサーチやリスク管理といったミドル・バックにもクオンツが存在します。
クオンツは大学時代からのアカデミックな経験が求められるため、チャレンジできる人は限られていますが、その分理系で高度な知見をもつ人の付加価値は高く、投資銀行の中でも高待遇を掴むチャンスも豊富です。
今回紹介した働き方やスキルセットを踏まえて、自分にマッチしていると感じた方は、ぜひチャレンジしてみてください。
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投資銀行を目指すコンサルタントからよくある質問と回答例【年収面から採用まで】
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今回の記事では、投資銀行におけるクオンツの役割や仕事内容、クオンツになるために求められる経験やスキルについてお伝えしました。
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