投資銀行は報酬水準が高い業務ですが、その理由の一つとして、業務の専門性の高さが背景にあります。従って、投資銀行で確実にキャリアを築いていくためには、自己研鑽=勉強が必要になります。
投資銀行ビジネスに携わる上で必要な勉強には、転職前に勉強しておくべきことと、転職後にキャッチアップすべきものがあります。今回の記事ではそれぞれの勉強しておくべき内容や参考となる本についてもご紹介します。
尚、投資銀行マンとしての専門性を高める上で必要な学習にクローズアップします。例えばエクセル・パワーポイントを使いこなせるようになることや英語力の向上なども重要なポイントですが、この記事では割愛します。
【目次】
- 投資銀行の入社前に勉強しておくべきこと①初歩的な企業財務の知識
- 投資銀行の入社前に勉強しておくべきこと②コーポレートファイナンスの知識
- 投資銀行の入社前に勉強しておくべきこと③そもそもの投資銀行の業界知識
- 投資銀行に転職後にキャッチアップすべきこと①金融商品取引法の習得
- 投資銀行に転職後にキャッチアップすべきこと②自分が携わるプロダクト・業界の知識の深掘り
- 入社後の勉強はディールが進めながら行うようにするのが重要
- 投資銀行にチャレンジすると決めたその時から継続的な勉強が必要
投資銀行の入社前に勉強しておくべきこと①初歩的な企業財務の知識
まずは、投資銀行に入社する前に勉強しておくべき主なトピックを紹介していきます。
投資銀行で働く人間は基本的に「お金」特に企業財務のエキスパートです。実際に公認会計士などの資格を持っている方も珍しくありません。
いざ投資銀行に入社してディールを進めようとすると、企業財務を理解しておくことは必須要件になります。ハイレベルな知識はプロダクトや担当業種によっても異なるので、入社後に対応するにしても、一般的な企業財務の知識は習得しておく必要があるでしょう。
まず基本的な財務諸表の読み方など、企業財務を理解する基本知識を得るという意味では、簿記の習得が最も適しています。中でも財務諸表の知識が項目に入っている「簿記2級」を習得しておくとスムーズです。どうせ勉強するなら、アピール材料にするために資格を取得しておくのもいいかもしれません。
一般的な簿記2級の問題集や参考書で勉強していけば問題ないですが「サクッとシリーズ」や「未来と過去の問題集」などはコンパクトにまとまっていて扱いやすいと思います。
ただ、企業財務は簿記だけでは不充分。なぜなら投資銀行では財務分析の知見も重要なためです。ただ財務諸表の意味がわかるだけでなく、そこから企業の財務状況を分析できなければなりません。これも実務に耐えられるレベルまでスキルアップするのは入社後の話になりますが、初歩的な分析は四則演算の公式を覚えていけばある程度できるものであるため、入社前に覚えておいた方がいいでしょう。
例えば「企業分析シナリオ」(西山茂 著)では定性的な情報と財務データを結びつけて、企業の分析をおこなう手法が紹介されています。実際に投資銀行の現場で求められるのは数字の情報から企業の定性的な実態を把握することでもあるので、このような本を精読しておくと財務分析の知識を高めることができます。
投資銀行の入社前に勉強しておくべきこと②コーポレートファイナンスの知識
投資銀行ビジネスの基本は企業のファイナンスをサポートするところにあります。M&Aのイメージが先行すると、企業を買収して成長をサポートするのが投資銀行の責務であるように考えがちですが、実際の投資銀行業務はもっと広く、企業のファイナンス全体がビジネスチャンスになります。
細かいファイナンスの知識は入社後に所属するチームに応じて対応するにしても、まずはコーポレートファイナンス全般の知識を習得しておくことは投資銀行で働く上で必須であるといえます。
尚、コーポレートファイナンスは、そもそも企業財務を理解していなければ習得が難しいので、基本的に順序としては先に紹介した財務知識の習得の後に、こちらのコーポレートファイナンスの勉強に入るのをおすすめします。
例えば、以下に紹介する「経営戦略とコーポレートファイナンス」(砂川伸幸, 川北英隆, 杉浦秀徳, 佐藤淑子 著)を読み込むと、比較的深い視点で経営戦略とコーポレートファイナンスを結びつけながら知識を習得できます。
金融初心者にはややレベルの高い本ではある一方、読み込んでおけば入社後に実際のビジネスの理解・キャッチアップが早まりますので、企業財務をあらかじめ勉強した上で、チャレンジすることをおすすめします。
投資銀行の入社前に勉強しておくべきこと③そもそもの投資銀行の業界知識
初歩的といえばそうなのですが、意外に多いのが投資銀行=M&Aのようなイメージでチャレンジする方です。投資銀行の本分は企業のファイナンスをサポートすることにあります。M&Aは確かに重要なビジネスではありますが、そのほかにも投資銀行には様々なビジネスがあることを忘れてはいけません。あくまで印象レベルですが、「投資銀行=M&Aでしょ」という態度は一般的に選考において好まれない傾向にあります。
株式ファイナンス・債券ファイナンスなどをM&Aで必要な資金の調達手段として提案する場合もあるなど、たとえM&Aを志望している場合でも、資金調達関連のディールについて最低限知っておく必要があります。
例えば、「投資銀行の仕組みがよくわかる本」(野澤澄人 著)などはここまで紹介した本と比較して気軽に読める平易な内容になっているので、一度読んでおくと良いでしょう。
投資銀行に転職後にキャッチアップすべきこと①金融商品取引法の習得
ここまで入社前に勉強しておくべきことを示しましたが、投資銀行マンは入社後も勉強の連続です。ここでも、特に投資銀行マンとして成長していくために必要な知識に絞って2つのトピックを紹介します。
金融商品取引法など、投資銀行ビジネスに密接に関連する法制度について「事前に勉強しておくべき」という意見もありますが、実は投資銀行入社後に勉強した方が効率的です。
まず、入社において、これらの知見の有無がハードルになることはありません。(ただしリーガルなど法制度への知識を活かして転職する部署は除きます)そして、金融ビジネスに知見がない中でこれらの法律を読み込んだところで、その知識の応用ができず、時間をかけた割に効果が薄くなる可能性もあります。
文章を一語一句覚えるよりも、自分が携わるディールに関わる法制度を重点的に学びながら、応用できる形で知識を培っていく方が効率的でしょう。本としては下記に紹介するような「金融商品取引法入門」(黒沼悦郎 著)などは、投資銀行ビジネスを進める上では必要となりうる同法に関する情報が網羅されています。
ただし、入社後にこちらを精読するほどの時間は取れないと思いますし、一語一句覚えるのは効率的ではないので、一読したのちはディール内容に応じて必要な部分を確認するための教科書のように活用するのがおすすめです。
投資銀行に転職後にキャッチアップすべきこと②自分が携わるプロダクト・業界の知識の深掘り
最後に自分が携わるプロダクト・業界の知識の深掘りです。こちらについては必ずしも市販されている本が適切とは限りませんし、読むべき本もケースバイケースなので、本の紹介は省略します。
まず、プロダクトについては、M&A、株式、債券(スワップなどの金利市場やデリバティブも含む)、IPOなどがあり、カバレッジに配属されない限り、どれか特定のプロダクトに配属することになります。カバレッジの場合は特定のプロダクトの専門性を深める必要は必ずしもないかもしれませんが、プロダクトに配属された場合は、入社前に習得した知識だけでは付加価値を発揮することはできないでしょう。
それぞれのプロダクトに沿った知見を深堀していく必要があります。それぞれに特化した高度な専門書は市販されている一方で、業者で契約しているからこそ読める専門のレポートや、社内の資料などを活用する方が効率よく専門性を深められます。
日常的にレポートや社内資料でキャッチアップしつつ、休日など時間のある時や通勤時間中に専門書にも手をつける、といった要領で勉強を進める方が多いです。
また、基本的にディールにおいてはクライアントとなる企業がおりますが、クライアント企業の業界のトレンド、市場動向などが企業のファイナンス方針に大きな影響を与えます。従ってそのときのディールのクライアント企業の業種に関する情報を常にキャッチアップしていく必要があります。
業界知識については社内資料と、市販されている業界に特化した専門書などを併用して知見を深めていくのが基本です。プロダクト部門の場合はディールが変わればクライアントが変わるのが常なので、ディールごとにクライアントの業界知識を常にアップデートしていかなければなりません。
一方、カバレッジの場合は、一般的に業種でチーム分けされている場合が多いですが、その場合は特定の業種の知見を深めて行けば大丈夫です。ただし、カバレッジバンカーはそれぞれ特定業種の専門性を高めているケースが多いため、その中で付加価値を発揮するためにはとりわけ深い業界知識が必要になるでしょう。
入社後の勉強はディールが進めながら行うようにするのが重要
しばしば疑問に上がるのが「投資銀行マンは激務な中で勉強する時間があるのか?」という点です。実は、投資銀行マンの中で、一日○時間家で必ず市販の本で勉強するという方は少ないと思います。
理由は本を読みたくても激務すぎて家で読む暇があまりないためです。それでもなんとか時間を捻出して勉強した場合は、通勤や出張時の移動中などの時間を有効活用して読書に充てているという方が多いです。
また、投資銀行のディールでは常にその時々の必要な情報を調査して、その内容をディールに応用していくことが求められます。調査においては専門の本やレポートを参照して、自分なりに吸収した上でアウトプットにつなげていかなければならないので「常に仕事をしながら勉強もしている」という状態になることが一般的です。
専門性が高い情報ほど、同時に機密性も高くなるため、社外に持ち出すことが難しくなります。従って、まさにディールに直結するような専門性の高い知識になればなるほど、社内でインプットするしかなくなるのです。投資銀行の業務は他業種と比較して勉強と業務の垣根が小さいといえるでしょう。
投資銀行にチャレンジすると決めたその時から継続的な勉強が必要
投資銀行はその専門性の高さゆえに勉強しなければならないことが山ほどあります。その多くは入社後にキャッチアップしていくわけですが、選考を勝ち抜くため、そして投資銀行業務に短期間のうちに慣れ、活躍していくためには入社前から勉強を開始しておくことが重要です。
いざ投資銀行に入社したのちは、外でまとまった勉強時間を確保するのが難しいため、いかに社内でディールの中で専門性を高めていくかが、投資銀行マンとしてのキャリアを成功させるカギとなります。
闇雲に勉強をすると余分に時間がかかってしまうので、投資銀行の入社前・入社後それぞれにおいて勉強すべき内容を明確に棲み分けた上で、効率的に勉強を進めることをおすすめします。
尚、キリがないので今回は割愛しましたが、一般的なビジネスマンにも望まれる英語力、Microsoft Officeの主要3ツールの活用、ロジカルシンキングやコミュニケーション能力などについても高いレベルが求められるのが投資銀行です。以上のトピックの中で自分に足りていないスキルがある場合は、今回紹介した勉強内容に加えて、合わせてブラッシュアップを進める必要があります。
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>投資銀行へのキャリアに関する記事
投資銀行におけるタイトル毎の「年収・スキル・働き方」
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/investmentbank_title
投資銀行におけるエクセル仕事術【必要なスキルから多用する関数まで】
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/investmentbank_excel
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今回は、投資銀行ビジネスに携わる上で必要な勉強を転職前後に分けてお伝えしました。投資銀行へのキャリアをお考えの方は、ぜひアクシスコンサルティングにご相談ください。
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