投資銀行(IBD)と資産運用会社(アセマネ)の違い【両セクターの経験者に訊く】

金融業界を志望している方の中で、投資銀行(IBD)と資産運用会社(アセットマネジメント)を比較して検討している方が比較的多い印象があります。特に外資系企業を志望している方には顕著にこの傾向が見られます。背景の一つに、これら二つのセクターは日本では外資系企業が多くビジネス展開しているということが挙げられるでしょうか。

また、投資銀行と資産運用会社は、同じ金融業界でも、労働環境、必要とされるスキルセット、業務内容が大きく異なるというイメージを持たれていることも、比較対象とされやすい要因となっています。

そこで今回は、投資銀行(IBD)と資産運用会社(アセットマネジメント)双方で働いたことがある方のお話も参考にしながら、投資銀行と資産運用会社の違いをリアルに紹介していきます。

【目次】

  1. 「瞬時に見栄えの良いストーリーを組み立てる」投資銀行に対し、「じっくり考え抜く」資産運用会社
  2. 投資銀行の方が年収は高くなる傾向にあるものの、資産運用会社は給与に安定性がある
  3. 投資銀行は「狩猟型ビジネス」、資産運用会社は「農耕型ビジネス」
  4. 投資銀行は「イメージほど忙しくない」、一方で外資系の資産運用会社では「投資銀行と労働時間に大差ない」という声も
  5. 「投資銀行の方が転職意欲は高く、業界も多岐にわたる」、一方「資産運用会社の方が一か所に長くとどまる傾向」

「瞬時に見栄えの良いストーリーを組み立てる」投資銀行に対し、「じっくり考え抜く」資産運用会社

投資銀行と資産運用会社の社員を比較した時にまず言えるのは「社員のスキルセットや能力に明確な優劣はない」ということです。後続でも紹介するように、年収が相対的に高い傾向にあるからか、一般的に「投資銀行の社員のレベルの方が高い」という先入観を持っている方が少なからずいます。しかしながら多くの経験者にお聞きしたところ「実際のところは業界間で社員の質には遜色はない」という意見が大半を占めました。

また、スキルや能力には差がないものの、「社員のタイプは投資銀行と資産運用会社でやや異なる」という意見も聞かれました。
どちらかというと投資銀行は短時間で顧客に見栄えのする資料や説明をまとめることに長けている傾向にあるようです。これは仕事の仕方によって培われた、もしくは「そもそもそういう素質を持った人材が採用されやすい」ためです。また、プロダクトや部門によって差はあれども、「概して投資銀行の方が短時間勝負の傾向がある」とのことです。例えば、少し極端な例で言うと「明日までに30ページのパワーポイント資料を作って、顧客にプレゼンに行く」という具合の仕事内容も珍しくありません。つまり、こうした仕事のスタイルにあった人材が必然的に生き残っていくとも言えます。

他方、資産運用会社は「じっくり時間をかけて理路整然としたロジックを組み立てることに長けている社員が多い」ようです。資産運用会社は、大抵は長期投資で着実に収益を積み上げていく運用スタイルが多く、個人投資家のように短期売買で儲けるような会社は少ないでしょうか。またファンド営業についても、数か月、時には数年かけて提案が進められていくのが一般的です。
こうしたところで求められるのは、瞬時に見栄えの良いストーリーをくみ上げることではなく、簡単には破綻しない強固なロジックであり、従って「運用者にしろ、営業にしろ、じっくり考え抜ける人材が集まる」傾向にあるようです。

※資産運用会社(アセットマネジメント)と投資ファンドの違いは、資産運用会社が株や不動産などのあらゆる資産を投資家の代行として管理する要素が強いのに対し、投資ファンドは投資家から集めた資金を運用し、リターンを分配する点にあると言えます。

投資銀行の方が年収は高くなる傾向にあるものの、資産運用会社は給与に安定性がある

一般的に「投資銀行の方が年収は高く、資産運用会社の方が低い」と言われがちですが、これはある程度事実でしょうか。それぞれセクター内の企業間でも大きく年収に差はある点は留意しておく必要がありますが、平均を取れば、同年代や同ポジションで比較した場合には投資銀行の方が高い傾向にあります。

国内金融機関の場合、メガバンク系などのように、一つの金融グループの中で資産運用会社と投資銀行部門双方が存在することもありますが、この場合も、同グループ内では投資銀行の方が、年収が高いことが多いです。

この差はなぜ生じているかについては様々な見方がありますが、最も大きな理由は投資銀行の方が、給料の業績連動性が大きい、というところにあります。

投資銀行は、特に賞与において業績の連動性が大きいため、好況時には賞与が年収の大部分を占めてしまうような社員も出てきたりします。日系ではそこまではいきませんが、それでも「年収の1/3以上が賞与だった」というような程度の事例はしばしばお聞きします。

逆に不況時については、ただ賞与が減るだけでなく、解雇になるリスクが充分あります。外資系であればこの傾向はより顕著に見られます。このように業績に対してリスクが高いことに対し納得感を与えるため、平均的な年収は高めの水準に落ち着いているといえます。

対して資産運用会社ですが、「ファンド運用者が収益を上げれば多額の賞与が手に入る」というイメージを持っている方も少なからずおりますが、先にも紹介した通り、近年は長期に安定運用を行うことが要求されることが多いので、極端なインセンティブは少なくなってきています。

また、資産運用会社といっても実際のところ、運用を直接行う部署にいる人間はごく一部で、大半はオペレーションや営業などの仕事をしております。そういった職種については更に業績連動性は低く、平均年収は投資銀行と比較して下がるものの、比較的安定した年収を得られる傾向にあります。

投資銀行は「狩猟型ビジネス」、資産運用会社は「農耕型ビジネス」

年収にも関連する部分でもあるのですが、一般的なイメージとして「投資銀行の方が業績悪化やパフォーマンス不調な社員が解雇されやすい」という印象を持っている方も多いです。これについては、ある程度事実で、投資銀行の方が解雇リスクは高いでしょうか。背景には、投資銀行と資産運用会社のビジネスモデルの差異があります。

投資銀行は「狩猟型ビジネス」とよく言われますが、収入の大部分はディールが成立した際の手数料に依存します。このビジネスモデルは、景気変動の影響を受けやすいという特徴があります。不況時には必然的にディールが落ち込み、収益が得られなくなってしまいます。

資産運用ビジネスについても、もちろん景気変動の影響を受けますが「農耕型ビジネス」とも例えられるように、一度顧客として資金を受ければ一定程度の収益が定常的に入ってきます。資産運用会社は、収益の多くの部分は預かり資産に応じて掛けられる手数料率によって決まります。

つまり例え世間が不況になろうと、顧客が資金を運用ファンドから引き上げなければ、収益は安定して入ってきます。もちろん不況時に運用が不調となって顧客が離れる、あるいは顧客の資金繰りがつかなくなることで資金が引き上げられることはありますが、投資銀行の手数料収入のような極端な減少は起きにくいといえます。

このビジネスモデルの差異の結果、投資銀行の方が不況時の収益落ち込みのリスクは高いことから、よりドラスティックに人員整理行う必要があるため、解雇リスクが高くなります。資産運用ビジネスは、収益の落ち込みリスクが相対的にマイルドであるため、解雇リスクも低くなります。

投資銀行は「イメージほど忙しくない」、一方で外資系の資産運用会社では「投資銀行と労働時間に大差ない」という声も

その他、一般的によくイメージされる「投資銀行の方が激務でワークライフバランスが取れ、資産運用会社の方がまったりしていてワークライフバランスが取れる」という点については、「ある程度事実だが、イメージほど極端ではない。特に『資産運用会社=まったり』というのは当てはまらない」ということでした。

背景には二つのポイントがあるようです。まず投資銀行が以前よりワークライフバランスを意識するようになったことが挙げられます。現代社会、こと日本においては「働き方改革」の名目のもと、押しなべて残業時間を減らそうとする動きがみられます。この潮流の中で、投資銀行でも以前の「月数百時間」にも及ぶような残業は稀になってきているようです。

また「例外的に残業がかさんだ場合には、別の時期に休みや短時間勤務を行うことで、バランスを取る」ようになってきているようです。例えば、「繁忙期の一月に残業を100時間して、次の閑散な月に残業ゼロにする。そうすれば双方の月の平均残業時間は50時間になるので、まだ多いものの、極端な残業量ではないという風に見える」といったケースもあります。
各業界を並べれば、尚も、投資銀行は激務な部類には入りますが、以前ほど突出した存在ではないと言えそうです。

一方、資産運用会社は、特に外資系の場合は期待するほどワークライフバランスが取れていない場合もあるようです。特に若手の場合は、投資銀行とさほど労働量が変わらない場合もあります。今回参考にお話を聞いた方曰く「深夜残業も休日作業も普通にある。ファンドのレポート作成や営業の提案資料作成などが重なると、必然的に激務な時期が少なからず出てくる」とのことでした。

まとめると、確かに比較すれば、投資銀行の方が相対的には激務ではあるが、一般的にイメージするほどは大きな差はない、といえます。とくに資産運用会社を「まったり」と期待して転職しようとしている方は、注意した方がよいでしょうか。

「投資銀行の方が転職意欲は高く、業界も多岐にわたる」、一方「資産運用会社の方が一か所に長くとどまる傾向」

最後に、投資銀行と資産運用会社の社員のキャリアプランの差についてご紹介します。傾向として、投資銀行で働かれている方は転職意欲は高い傾向があり、業界も多岐にわたる一方、資産運用会社の方が一か所に長くとどまる意向を持っていることが多く、また転職するとしても同業が多いでしょうか。

そもそも投資銀行自体が「解雇リスクが高い」ということが念頭にあるので、長期間投資銀行でキャリア形成ができることを期待していることが少なく、必然的に異業種(投資銀行以外の金融も含む)も検討対象になりやすいことが挙げられるでしょうか。ビジネススタイルにもつながるところですが、ディール獲得の競争が激しいため、同業他社への転職の風当たりが強い、ということも背景にあります。

一方資産運用会社については、解雇リスクの低さから、転職せずに安定的なキャリアを築くことがまず優先順位として高くなる傾向にあります。また、投資銀行と比較すると、ベテランになるまで同業でキャリア形成を行う余地が大きいため、「無理に異業種に転職するより、培ったノウハウ生かして同業に転職する方が効率的」という考えの方も多くいらっしゃいました。

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<投資銀行、資産運用会社のキャリアに関する記事>

コンサルファームから資産運用会社(アセマネ)への転職後、活躍できるコンサル・できないコンサルの違い
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/consultanttoassetmanagementfirm

コンサルファームから投資銀行(IBD)への転職後、活躍できるコンサル・できないコンサルの違い
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/postconsulinvestmentbank

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今回は、実際に両セクターで働いた経歴を持つ方のお話も参考にしながら、投資銀行と資産運用会社の違いを、一般的に持たれているイメージとも比較しながら紹介しました。

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