投資銀行における部門毎(M&Aアドバイザリー・ECM・DCM・IPO)の違い【業務内容~スキル~働き方まで】

投資銀行の仕事内容についてどのようなイメージをお持ちでしょうか。M&AアドバイザリーやECM、DCMなどは投資銀行の一機能であり、その他複数の部門があるのが特徴です。

今回は投資銀行の部門毎の業務内容や、働き方、そこで働くメンバーのスキルセット・特徴、転職先について部門ごとにご紹介します。

【目次】

  1. 投資銀行の部門①M&Aアドバイザリー部門
  2. 投資銀行の部門②デット・キャピタル・マーケッツ部門:DCM
  3. 投資銀行の部門③エクイティ・キャピタル・マーケット部門:ECM
  4. 投資銀行の部門④公開引受部門:IPO

投資銀行の部門①M&Aアドバイザリー部門

まずはM&Aアドバイザリーの部門についてご紹介いたします。この部門は一般的なイメージ通り、企業の買収や売却のお手伝いをする部門です。

コンサルファームやM&Aブティックなど投資銀行以外にもM&Aを担う企業もある中、投資銀行のM&Aはこれらと何が違うのか疑問に思う人も多いですが、投資銀行のM&Aの特徴は以下の部分にあります。この記事全般に言えることですが、実際の部門ごとの特徴や業務内容は投資銀行ハウスごとに異なるので、あくまで一般的な傾向として捉えてください。

●買収・売却の契約を結ぶまでを担っており、統合後の組織改革(いわゆるPMI)は行わない
●ディール完結時のフィー水準の多くが買収価格に依存するため大型案件に特化
●エクイティキャピタルマーケッツと「時間差で」協調することで買収に伴う資金調達や財務戦略を一緒に実行することができる

以上が投資銀行で扱うM&Aの特徴です。

3点目について補足しますが、M&A実施時にはエクイティファイナンスによる資金調達が伴うことが多いので、後続に出てくるエクイティキャピタルマーケッツのビジネスに波及させることができます。
ただし「時間差で」と書いたのは、M&Aの潜在的な案件進行はインサイダー取引等の観点からたとえ同じハウス内であっても容易に広めることができないため「ディールの同時進行」は多くの場合できません。一般的にはM&Aの契約締結後など一定程度オープンにできる状況になってからエクイティへのシナジーが発生します。

M&Aの部隊はハウスにもよりますが多くの場合は業種で分かれています。海外志向の強いハウスではクロスボーダー専門の部隊を持っている場合もあります。営業部隊も業種で分かれているので、一旦M&Aに所属すると固定した営業担当者と共同しながら買収案件を発掘したり、進めたりすることが多いです。M&Aは売買先の両方が必要なビジネスなので、状況に応じて買い手・売り手のカウンターパートに当たる企業に対応している部門内のほかのメンバーと協業して案件を進めていきます。

労働環境でいうと投資銀行の中でも激務な部類に入るのがこのM&Aです。ディールの進捗次第で波はありますが、案件が佳境に入ってくると月100時間を超える残業も珍しくありません。以前は、「数百時間になることもある」だったのですが、近年は働き方改革の流れもあり多少マイルドになってきているようです。この埋め合わせは人数の増強か案件の絞り込みで行われています。そういった意味ではいまはM&A部門に入るチャンスである一方、ディールあたりの人数が増える=生産性が下がるので給料が下がるかもしれない、とも推察できます。

ちなみに、いつでも忙しいのかといえばそうでもなく、案件に関わっていない時期や、売買の相手探しなどごく初期の段階ではかなり仕事が少なく、定時帰り・休暇取得などができるタイミングも少なからずあります。メリハリをもって働きたいならばM&Aは投資銀行のなかでおすすめの転職・就職先です。

メンバーの特徴として、転職組には金融以外のバックグラウンドを持っている方も多い印象です。先に挙げたような業務内容の違いはあっても、やはりM&AはM&Aということで、他の業種であろうとM&Aを経験してきた方が転職されます。

プロパーで入る方も、数字には強いものの他の投資銀行と比較しても金融色が薄く「資金を取り扱う」という意識が相対的に薄い傾向があります。その為かプロパーの方がやがて転職するとなった場合も、非金融を転職先として選択する人が多い傾向です。コンサルファームへチャレンジする場合や、事業買収を積極的に行う事業会社の買収専属チームなどに転職する例も多く見られます。

投資銀行の部門②デット・キャピタル・マーケッツ部門:DCM

続いては債券での資金調達をサポートするデット・キャピタル・マーケッツの部門をご紹介します。略してDCMと称される場合も多いです(名称が長いため、ここからはDCMと呼びます)。

実は業種によって社債での資金調達は頻繁に行なわれており、DCMは必然的に案件数も多い部門です。一つのファイナンスを完了させる、一つの買収を完了させることをディールと表現しますが、その単位で考えればDCMは投資銀行の中で最もディール数が多い部門だと言えます。

特に日系の投資銀行や大手外資系投資銀行の場合、DCMは収益の大きな部分を占めていることも少なくありません。一方で1ディールあたりの手数料水準自体は投資銀行の各部門の中で最も低く、資金調達金額あたりで1%もありません。時には0.1%に近い場合もあるでしょうか。それでもDCMが収益源となる背景は、社債を出す企業は少なからず「定期的に出す」傾向にあり案件が増えやすいことと、一つ一つのディールが短期間で終わる傾向にあるためです。
初めての社債発行の時でもディールは数ヶ月もあれば完了し、手慣れたクライアントでは発行の提案から条件決定まで1週間程度で完結します。手数料は低いですが、高速で多数回転させることで収益を得るのがDCMのビジネスモデルです。

働き方の特徴としては「極端ではないが相応に多い残業がずっと続く」というケースが多いです。大手ほどディールの数が増えるのでこの傾向が顕著になります。同時に複数本のディールを一人で回すことも珍しくありません。ただ、ディール一つ一つの負担は他の部門と比べれば圧倒的に小さいです。

社債の調達はほぼ毎月どこかのタイミングで行う機会はあり、多くの企業では一人のDCM担当で多数の企業や公的機関を対応するので、そのなかのどれかしらのディールが走っている状況がずっと続きます。「ものすごく辛いわけではないが、休みにくい」というのがDCMの働き方の特徴でしょうか。

働くメンバーの特徴として、M&Aアドバイザリーとは対照的に金融機関のバックグラウンドを持ったメンバーが多い傾向にあります。負債調達は銀行ビジネスとも親和性が高い為、銀行系の投資銀行では銀行からの出向者が多くなる傾向にあります。プロパーでも「金融機関」との位置付けで投資銀行に入り、金銭を扱うビジネスを行うことを望む方が多いです。また、恒常的に「そこそこ忙しい環境」は、言い換えればてきぱきやれば自分の時間がなんとか作れるレベルの忙しさであるため、資料作成などをサクサク進められる器用な人が重宝され、またキャリアアップできる傾向にあります。

転職組には同業他社か、もしくは市場部門で「債券」を扱ってきた方も多いです。「債券」独特の商品性や市場慣行に慣れていることが付加価値となりやすく、逆に債券から離れると、同じであったとしても金融でもこの付加価値はあまり活かせないため、会社・仕事は変われども債券に生きると決めた方が多く見られます。DCM経験後の転職先でも同業他社や債券を取り扱う市場部門、もしくは資産運用会社などが選択される傾向にあります。

投資銀行の部門③エクイティ・キャピタル・マーケット部門:ECM

次は株式の調達部門(エクイティ・キャピタル・マーケット)、略称ECMについて解説します(こちらでも以降はECMと記載します)。同じ有価証券でもECMは株式、DCMは債券を扱っているのが特徴です。ECMは株を調達する部署のため、「証券会社の王道は株である」という考え方も根強く、特に投資銀行業内部では、投資銀行の花形であると考えている方は少なからずいます。ECMで働いている方々にも、そういったマインドの方は多い印象です。

株式調達はしばしばM&Aの後の資金調達として活用されたりすることがあるため、M&Aとルールの範囲内で協働することもありますが、情報共有に制約があり、営業部隊を挟んで共有可能な情報のみ仕入れたり、契約の締結後などに情報共有をしたりとM&Aからファイナンスに直結する場合は様々な規制を守りながら進められます(これはDCMでも同様なのですが、M&Aに際して負債比率を高めるファイナンス選択はあまり好まれない傾向にあるので、事例が多くありません)。後続で紹介しますが、公開引受(IPO)においても、上場させた株式の販売を担当するのは、基本的にはECMです。

エクイティファイナンスのディールは恐らく、一人当たりで見ればDCMの次に多いと思われます。とはいえ、DCMよりはグッと減るのが事実です。ディールを実施できる時期の制約自体はDCMと大差ないのですが、株式調達というのはクライアントとしても大イベントという位置付けであり、そうそう頻繁に行われるものではないためです。

ちなみに、少々コアな話になりますが、株と債券の区分けとして「転換社債」まではECMが発行します。それより負債性の強い劣後債や資本性債券になるとDCMの担当になります。「社債」とありますが転換社債は「転換したら株になる」ということで株と同じようなものとして扱われます。業種にもよりますが、ピュアな増資より転換社債の発行が意外に多いという場合もあります。

ECMはディールが少ない分手数料はDCMより高く、資金調達金額の1〜5%以内にとどまるといったところです。企業側も増資となると新聞などにも掲載されることが多く失敗できない分、投資銀行には高いフィーを払います。また、ディール一つが長期化しやすいのもECMのフィーが高い背景にあります。エクイティファイナンスの提案を行なった後から実際の投資家への販売に至るまで短く見ても数ヶ月〜半年程度はかかるでしょうか。

余談ですが、部門を平均的に見ると、日系投資銀行マンとして海外に出張をしたり、海外と関わるといった機会はECMが多いです。日本の株式は海外投資家の割合が高いため、投資家を集めるための販売促進活動として、投資家に訪問して増資理由や企業の魅力などをアピールする「IR」という活動において海外に行くチャンスが多いためです。海外の投資家の市場調査やIRのサポートなどでECM絡みの海外駐在を置いている場合もあります。

M&A、DCMでも海外に関わるチャンスはもちろんありますが、M&Aですとクロスボーダー案件は専門のチームがあるケースも多く、その場合はそのチーム以外はあまり関わりません。またDCMの場合は、外資系であれば海外投資家向けに販売される外債発行の案件比率が高いので海外IRが発生する期待値が高まります。一方、国内系投資銀行ではやはり外債は専属チームが置かれることが多いので、そのチームに属していない場合は、海外に触れる機会は少なくなります。

ECMのディールは一本あたりの労力はDCMより多く、ディール過渡期には残業時間が長期化することも珍しくありません。ただし、M&Aやこのあと紹介するIPOほどではなく、また案件数がDCMのようには多くならないので、最もワークライフバランスが取れているプロダクトであるという方もいます。

さて、ECMのメンバーのバックグラウンドですが、比較的物事をじっくり考えて取り組むことを得意とするメンバーが好まれる仕事内容です。ディールの期間が長い一方、M&Aほど事務作業に忙殺される割合が低いからです。また先に挙げた理由から海外志向のメンバーが配属されることもあります。転職で入社する場合は、まず株を取り扱ったビジネスをやったことがある人が好まれます。債券と比較すると株式を触る機会は証券会社のリテール、運用会社、本部市場部門とおおいので、DCMと比較するとバックグラウンドが多彩な傾向にあります。意外にもM&A、IPOでもエクイティファイナンスが絡む機会が多いため、これらのバックグラウンドから異動・転職してくる方も少なからずいます。

また、ECM経験者の転職先も比較的多彩で、同業他社や株式を取り扱う金融各種はもちろんですが、M&Aブティックやプライベートエクイティなどの投資会社などに転職する例も少なくありません。理由はM&Aとの親和性と同様で、これらのビジネスもエクイティファイナンスの素養があることが好まれるためです。

投資銀行の部門④公開引受部門:IPO

続いて紹介するのは公開引受、いわゆるIPOです。IPOとは、株式を上場させるビジネスを指します。ご存じの通り、上場されていない株式は「非公開株式」、上場されている株式は「公開株式」と呼ばれ、IPOでは株式を公開(=上場)し、公開した株式を最初に販売させる(=引受)ので公開引受といいます。

M&Aを共通項に投資銀行とコンサルは「似ている」と思われる方も多いですが、実際に投資銀行の中でコンサルに最も「近い」のは、実はこのIPOという部門でしょうか。コンサルからIPOに転職する方も少なからずいます。

IPOでは先に書いた通り、東証といった様々な株式市場に上場させることがミッションです。一般的に一つのディールの長さが最も長期化するのはこのIPOであると言われます。IPOのディールは1年〜数年かかるのが当たり前です。ジョブローテーションがある日系投資銀行の社員ですと、在籍中に1ディールで終わってしまったなどという例も珍しくありません。

時間がかかる背景ですが、上場手続きそれ自体に時間がかかるわけではありません。上場手続きは、極論を言えば書類を一式整えるだけなので、少なくとも投資銀行の世界において他のプロダクトと比較して特に時間がかかるということはないのが実情です。IPOのディールが長くなるのは、上場手続きを行える「上場審査」に通過するために、クライアントとなる上場予定の企業を整備する必要があるためです。

ご存じの通り、証券の上場は企業であれば誰でもできるわけではなく、証券取引所ごとにさまざまな制約があります。その制約は一般的にはメジャーな市場ほど厳しく、日本なら東証一部の上場が最もシビアでしょうか。この審査に通過するためには、まず資本金などの数値面の実績を作ることが第一歩になりますが、これは加工できるものではないので投資銀行の役割というよりは、クライアント企業自身の努力となることが多いです。

数値面での条件を満たしたクライアント企業には投資銀行のIPOメンバーが参画して、上場審査に耐えられるように企業の変革をサポートします。経営管理能力や人事・労務管理、会計管理、事業計画など、企業の根幹のあらゆる側面においてブラッシュアップしていきます。時には定款や社則などを法務に従って整えていく必要もあります。この作業がコンサルの組織改革プロジェクトなどに近しいものがあるのが、実際にコンサルとIPOが比較的近いと考えられる所以です。

ただIPOを行うという意味では最低限上場審査に通れば良いのですが、実際にはIPOで上場したのちに、その投資銀行が上場した株式の販売も行います。つまりただ上場するだけでなく、投資家から政党に需要が集まる状態に企業を整えておかなければなりません。そのためには社内のガバナンスのほか、経営計画や成長戦略などの企業の将来性を訴求できる情報を整える必要があります。これらの策定・対外的なアピール方法についても投資銀行のIPOがアドバイザリー業務を行います。

IPOのフィーは、上場指導料としては大体1000万円前後になります。年間◯百万円、上場に成功したら成功報酬を上乗せ、といった形式になっています。高いと思われるかもしれませんが、ディールにかかるリードタイムを考えると、IPOは投資銀行の中で最も労働生産性の悪いビジネスとも言われます。

IPOのフィーが安く設定されている背景には、IPOの主幹事が当面のエクイティファイナンスの主幹事に直結するためです。IPOの際には当然市場に流通する分の株式を発行します。この部分はECMが対応することが多いですが、エクイティファイナンス相当のフィーが別途発生します。また、IPOを行なった企業は、粗相でもない限り当面は主幹事として上場へ導いてくれた投資銀行を厚遇します。つまりIPOを一度行うと、後続のECMディールに関われるチャンスが増えるということになります。いわば将来への投資を兼ねているので、IPO自体については割安なフィーで対応しているという構図になっているようです。

多くの投資銀行で働かれている方にお聞きすると、実はIPOがM&Aアドバイザリーを抑えて最も激務になる部門であるとも言われます。特に、企業の改善箇所が多岐にわたる場合などは、上場審査まで非常に遠い道のりとなるリスクがなる分、極端な残業量になるリスクはIPOの方が高いと言えます。

さて、IPOのメンバーは最も「コンサルタントのスキルセットに近い」方が多く在籍している印象です。クライアント企業の課題を洗い出し、その解決策を考え、クライアントに提案し、一緒に実行していく。いわゆる課題解決能力とロジカル・シンキングが求められます。

転職される方のバックグラウンドを見ても、元コンサルの比率は高い印象です。そのほかに、PEなどハンズオン型のファンド経験者もみられます。

逆にIPOのあとの異動・転職先としては、同業に近いところでは同じIPO、エクイティファイナンスを受け持つECMなども多いです。あとはコンサルティングファームや企業再生ファンドなど、コンサル色の強い異業種にチャレンジされる例も多く見られます。

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<投資銀行へのキャリアに関する記事>

コンサルファームから投資銀行(IBD)への転職後、活躍できるコンサル・できないコンサルの違い
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/postconsulinvestmentbank

投資銀行(IBD)と資産運用会社(アセマネ)の違い【両セクターの経験者に訊く】
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/investmentbankassetmanagement

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