投資銀行では、外資系はもちろん日系でも人材流動性が高い特徴があり、転職者が頻繁に発生します。いますぐ転職するとは限らない、という方でも、常に転職案件をチェックしながら働いているケースも珍しくありません。
では、投資銀行マンは具体的にどのような業種に転職して行くのでしょうか。転職する際は同業他社でない限り辞めるハウスに転職先を告げないことが多いので、投資銀行で働かれている方自身も、自分にどのような選択肢があるのかよくわからないという声をよくお聞きします。
そこで、今回の記事では、投資銀行で働かれる方のよくある転職先や、転職先で活かせるスキル・経験等をご紹介します。
【目次】
同業他社(投資銀行)
最も事例として多いのはやはり同業他社への転職でしょうか。
投資銀行では部門ごとに専門性の差が大きいため、傾向として多いのは「部門も同じ」転職であり、M&A部門から他社のM&A部門へ、デットキャピタルマーケットから他社のデットキャピタルマーケットへ、といった具合です。この転職は自身の専門性を最も活かせるので、転職先でも活躍しやすいでしょう。
他部門の転職もないわけではないですが「新しいビジネスを行う」度合いは異業種の転職と感覚があまり変わらないという声が多いです。
それでも、株式を扱うエクイティキャピタルマーケットからM&A、IPOやその反対といった転職は比較的みられます。債券を扱うデットキャピタルマーケットと株系を扱う他の3部門は特に業務の断絶が大きいので、事例は特に多くないのが実情です。その代わりデット→デットの転職が非常に多く、また転職後の成功事例も多い印象です。
さて、転職先のハウスですが、実際には日系→日系、日系→外資系、外資系→外資系、外資系→日系全てのパターンがあります。日系はメンバー人数が多く、また外資系の転職案件自体が日系と比較して少ないので、件数で見れば日系→日系が多いでしょうか。
日系→日系、外資系→外資系の場合は同部門であればキャリアアップの一環であることが基本なので、年収アップもしくは役職アップはマストというスタンスで転職する方が多いです。これは別に困難な要求ではなく、実際に日系同士の転職でも10〜20%年収が上がったという事例はしばしばあります。
また、日系→外資系は大抵の場合年収が大幅アップします。一方で役職は下がることがしばしばあります(役職が下がるので年収が充分上がらない限り転職を避ける投資銀行マンが多いとも言えます)。足元では日系→欧州系で同部門転職なら20〜30%アップ、日系→米系では1.5倍近くなる例もあります。
反対に、外資系→日系は同じ職階での転職となれば年収が下がることが多いです。一方で、元の職場でしっかりした実績があると、高い役職で日系に受け入れられる場合もあり一概に年収が下がるとも限りません。長期的に投資銀行でキャリアを積みたいという志向の場合、案件が豊富で解雇リスクの低い日系の方が良い、という考え方もあります。従って外資系→日系の転職もまた珍しいものではありません。
同業他社の転職メリットは年収を上げやすいこと、経験・スキルをスムーズに活かせることです。年収を上げやすいのは、先に説明しましたが、一方スキルを活かしやすいという点も重要です。投資銀行はハウス間の違いより、部門間の仕事内容の違いの方がずっと大きいため、同部門の同業他社転職は比較的新天地に馴染みやすいというメリットがあります。
部門が異なる場合は転職後に少し慣れが必要ですが、株のファイナンスに関するノウハウはM&A、IPOでも活かせる部分が多いです。また、投資銀行特有の資料作成スキルやプレゼンスキルは当然新天地でも活用できますが、同業他社転職を検討する方の多くはそうしたベーシックスキルよりも各部門で培った専門スキルを強みとすることを念頭において転職します。
一方、同業転職のデメリットの一つに、今いるハウスとの軋轢が発生しやすいことが挙げられます。実際は同業他社転職も多い一方で、この業界では同業他社への転職を嫌う傾向があります。投資銀行はディール案件を取り合う競争の激しい業界なので、ライバルハウスへの移籍は快く思われないことが理由です。また、当然ながら各ハウスとも多くの機密情報を持っているため、その情報を新天地で利用されることを警戒されます。この不正利用を防ぐために、ハウスによっては転職先での業務を一定期間制限する条項をかけることもあります。この条項がついた場合は、数ヶ月間転職先で出来ることが限られるため、キャリア形成上不利になることも多く、注意が必要です。
資産運用会社やPEファンド
ここからは異業種への転職についてご紹介します。異業種の転職で比較的よく聞く事例がアセットマネジメントやPEファンドといった資産運用関連の企業です。
候補となる企業は非常に多く、大手銀行系の大規模な資産運用会社から、メンバーが全部で数十人の小規模なファンドまで様々。強みとしている資産や運用コンセプトなど様々な面で特徴があり、投資銀行時代に経験した部門との親和性を鑑みながら転職先を検討されます。
投資銀行のどこかの部門にある程度属していれば、少なくとも資産運用会社にチャレンジするに足る何かしらの専門知識は付いていることが多い印象です。
例えば、投資銀行においてIPOを行なっている方は、非公開企業・中小企業の分析能力が身に付いているため、スタートアップを支援するようなPEファンドやVCで活躍しやすい傾向にあります。
デットキャピタルマーケットでは債券の知識が身に付くため、債券運用に強い運用会社や、チームに転職しやすいでしょうか。また、エクイティキャピタルマーケットでは株の知識が身に付きます。資産運用業界では株や財務分析のノウハウが活かせる場面も多く、エクイティキャピタルマーケットで経験された方は、様々な資産運用会社に転職するチャンスが多いと言えます。
次に、投資銀行から資産運用会社に転職するメリットですが、まず「労働量」と「ビジネスモデル」が挙げられます。労働量は平均的には投資銀行よりも少なく済む傾向にあります。投資銀行の激務にいまは耐えられる人でも「それを10年〜20年やりたいかというと別の話」という方も多く、長期的に安定して働きやすい資産運用会社を魅力的に感じる方も多いです。
また、資産運用会社のビジネスモデルに魅力を感じる方も多いでしょうか。投資銀行の収益はディールごとに支払われる手数料が主のため、案件を獲得しなければすぐさま収益が減ります。特に景気後退局面などではファイナンス案件が減り、大赤字を出さざるを得ない局面も少なくありません。収入の急変動や解雇、左遷リスクも相応に高いです。
一方で資産運用会社は基本的に資金を預かっている投資家からの定期的なフィーで収益が成り立つモデルです。こちらも景気変動により資金フローの出入りはありますが、投資銀行のビジネスと比較するとマイルドと言えるでしょうか。当然ながら、自身の収入や解雇リスクの低減にもつながります。
資産運用会社へ転職するデメリットについて触れると、一番多いのはスキルマッチしないリスクでしょうか。特に多くの方の戸惑いの原因となりがちなのがクライアントの違いです。資産運用会社では投資家がクライアントのため、重視されるのは常に「どのような戦略で、リターンがどれほど出る運用手法なのか」になります。投資銀行は投資家を直接クライアントとしないビジネスのため、このポイントを上手く捉えて提案・報告を行えるようになるというキャッチアップが求められます。
また、強いて挙げれば年収でしょうか。資産運用会社も業種全体で見れば年収水準は非常に高いものの、投資銀行が金融業において最高峰の年収水準であるため、多少のダウンしてしまうケースが多いです。特に日系投資銀行→日系アセマネでは良くても横ばい〜小幅ダウンになる例が多いです。一方で日系投資銀行→外資資産運用会社の場合は、数百万年収アップになる例も多く、年収のダウンを気にされる方は、企業選びの際に一工夫することが重要です。
コンサルティングファームの戦略~財務~金融チーム
コンサルティングファームという選択肢を取る方も少なくありません。コンサルティングファームの中でも、財務関連もしくは戦略系のプロジェクトに参画するチームに転職する事例がしばしば弊社でもみられます。財務関連・戦略系のチームでは、投資銀行におけるファイナンスの知識を動員してプロジェクトに貢献することが可能です。
その他にも、金融法人向けのコンサルを行う専門部隊に転職し、クライアントとして保険会社・銀行・証券会社などの課題解決にあたるというケースもよく見られます。この場合は投資銀行というよりは「金融法人にいた経験」を勘所にプロジェクトにあたることになるようです。
具体的には、戦略系プロジェクトについてはM&AやIPOの経験者が前職で培ったスキルを発揮する例をしばしば目にします。投資銀行におけるM&AやIPOはファイナンスに重心が置きつつも将来的な企業価値の向上を念頭にディールが進められます。戦略領域のコンサルプロジェクトでもそのノウハウを発揮して活躍される方が多いです。また、企業価値評価や企業分析といったスキルも活かせます。
財務系プロジェクトでは、エクイティファイナンスを専門に行うエクイティキャピタルマーケットの経験者が活躍される傾向にあります。企業財務を考えるときには必然的に株で主に構成される資本の分析が欠かせないため、エクイティの知識や経験が活かせます。
尚、金融法人経験を活かして金融法人の専門チームに転職した場合は、日ごろから金融機関でのビジネスにおける課題意識や問題意識をプロジェクト解決に役立てることになります。但し、これは投資銀行固有の強みでは無く「金融機関に勤めている強み」と言えるでしょうか。
さて、コンサルに転職するメリットとしてよく転職された方からお聞きするのは、「将来の選択肢が広がる」という考え方です。投資銀行は必然的に「ファイナンス」関連のビジネスに限定されてしまうため、専門性は深まる一方で、ビジネススキルの多様性は期待しづらいという声をお聞きすることがあります。一方で、コンサルであれば多様な業種に対する様々なタイプのプロジェクトに参加するチャンスがあります。例えば、最初は投資銀行のスキルを活かしやすいプロジェクトから始めて、徐々に自分の志向にあったプロジェクトに参画することでITやデジタルといった多様なビジネス課題に対応できるケイパビリティが身に付く可能性があります。
デメリットは、こちらも資産運用会社同様に、転職時に年収が上がりにくい点です。世間一般では年収が高い業種のイメージがあるコンサルですが、多くの場合投資銀行には及ばないのが実情です。コンサルはパートナークラスになると年収が高くなりますが、若手〜中堅では外資系コンサルでも日系投資銀行にすら及ばないこともしばしばあります。
また、金融業ではない完全な異業種転職となることから、年収・役職交渉も不利になりがちです。あくまで全体的な傾向としてですが、転職前後では資産運用会社への転職以上に年収が下がりやすい印象です。
また、自分にマッチしたプロジェクトがあるとは限らないというリスクもあります。コンサルは必ずしも投資銀行で得たノウハウを活かせるプロジェクトばかりとは限りません。特に近年はIT関連の素養を必要とするプロジェクトが多くなっており、その場合は良い意味でも悪い意味でも全く知見のない領域に着手することになります。選考時点で始めにどんなプロジェクトに参画するかも明確にしておくとリスクは低減されますが、自分に合ったプロジェクトがそもそも走っていないという場合もあります。「ファイナンス関連の知見を活かすと面接で言っていたのに、資産運用部門のシステムプロジェクトに入ってしまった」という事例も実際にありました。
スタートアップ・ベンチャーなど事業会社のCFOや経営企画室長
事業会社への転職を考えられる方も多いです。実際に、投資銀行からスタートアップ・ベンチャーや中小企業のCFOなどの役員、経営室長などに迎え入れられるケースもあります。これはIPOや投資銀行の営業であるRMを中心に見られる転職先です。これらの部門は企業全体的な経営戦略も踏まえてディールを提案・実行することが多いため、必然的に全社的な経営戦略を考えるセンスが身につき、さらに経営的なセンスが培われやすく、転職先でも横移動でスキルセットを活かしやすいのが特徴です。
大企業では組織も大きく勝手が異なることから、シニアクラスでない限り役員クラスへの転職はなかなかありませんが、スタートアップや中小企業では、投資銀行の中堅クラスの社員が役員や経営室長、監査部長として引き抜かれる例も珍しくありません。
この転職のメリットは何と言っても「CxO・役員経験者」というステータスが手に入ることでしょうか。幹部クラスとなって全社的な経営に携わる経験はなかなかできるものではありませんので、大きなメリットと言えるでしょう。転職後はいくつものスタートアップを渡り歩いてビジネススキルを磨き、最終的にはCEOにまで上り詰めるというパターンもあります。
デメリットとして、スタートアップやベンチャーではいきなり結果が求められやすく、スピーディなキャッチアップが必要という点が挙げられます。
【投資銀行出身のCFO事例】
澤田裕貴 氏:
大和証券SMBCやUBS証券で投資銀行業務を経験後、医療系ベンチャーのメドピアに入社。経営企画部長を経験し、その後AI系ベンチャーのオープンエイトにてCFOに就任。
起業
最後に紹介するのは「起業」というパターンですが、実は投資銀行から起業というパターンはさほど多くありません。ファイナンスの知識がつくので起業しやすいイメージがあるのかもしれませんが、投資銀行で身につくファイナンスのノウハウは証券による直接金融での資金調達です。起業黎明期に必要な能力はどちらかというと融資を受ける間接金融のノウハウですので、一から起業する場合には、ファイナンス自体のノウハウは必ずしもすぐに活かせるという訳ではありません。
どちらかというと、一度スタートアップなど黎明期の企業の役員クラスを経験し、IPOやRMなどで身についた企業全体の経営センスを活かしてビジネスを立ち上げるというパターンの方が多い印象です。
また完全に盗用することはもちろんできませんが、投資銀行時代に黎明期のビジネスに触れることから起業アイデアの着想を得るというパターンもあります。ただいずれにしても、1回でビジネスを成功に導くことは簡単ではなく、投資銀行からいきなり起業し上場まで導いたというケースは稀でしょうか。
【投資銀行出身のCEO事例】
岡島礼奈 氏:
東京大学院在学中にReveal Laboratoryを起業。卒業後にゴールドマン・サックス証券戦略投資部にて、債券投資事業、PE業務等に従事。その後、2009年に新興国ビジネスコンサルティング会社を設立。2011年には宇宙系ベンチャーのALEを創業。
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投資銀行からPEファンドへのキャリアパス【転職後活かせるスキル】
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コンサルティングファームと投資銀行(IBD)の違い【両者の経験者に訊く】
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