ITアーキテクトは、IT関連職の中ではITコンサルに次ぐ、平均年収800万強(ITコンサルは900万円弱)と、DX時代においてニーズが高まっている職種の一つです。実際に、エンジニア(SE)の方からは、「いつかはITアーキテクトになりたい」というご相談をいただく機会も増えています。
しかし、一方でITアーキテクトに対して「肩書のインフレ」と揶揄される声も中にはあるようです。本来の役割を果たしていない、本来の役割を果たすだけの能力がないものの、会社からITアーキテクトという称号を与えられているという声を採用担当などからお聞きするケースもあります。
しかし、すべてのITアーキテクトが当てはまるわけではなく、企業がデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)を実現するには本物のITアーキテクトが必要で、平均年収の高さにも表れているように、そのような人材は枯渇していると言えます。
そこで、今回は、「”今”求められるITアーキテクト」について、ITアーキテクトからCxOへのキャリアパスの実例等をもとに、必要なスキルや経験、求められる仕事内容など踏まえてお伝えいたします。
【目次】
- “今”求められるITアーキテクトに共通するスキルは「経営感覚」と「デジタル」
- CxOへのIT戦略・投資に関する提言機会が増えるため、”経営感覚”が重要になる
- DXやIT化の遅れが企業存続の致命的な要因になる中、DXの広大な定義を「自社の定義」に置き換えられるスキルが必要
- 少なからず経営者はITアーキテクトを専門職と捉えているが、キャリアを築くには専門外のことにもチャレンジする姿勢が必要
“今”求められるITアーキテクトに共通するスキルは「経営感覚」と「デジタル」
結論から言えば、求められるITアーキテクト人材は下記の2つのケイパビリティを持つ方です。
- 経営感覚を持った人
- その会社のDXを描ける人
企業にとってITアーキテクト職は重要なポジションでもあり、外資系IT企業などでは年収1,000万円も視野に入ります。高年収を得られる方に共通しているのが、IT領域だけでなく、経営感覚を持ち、収益にまで貢献できる方。
そして、最新のデジタルを通して、新しい方法でのプロダクト開発の設計が可能な方です。
CxOへのIT戦略・投資に関する提言機会が増えるため、”経営感覚”が重要になる
求められるITアーキテクト人材の資質として、経営感覚の獲得が最も高い壁になるでしょうか。
ITアーキテクトの職位が上がるにつれ、社長にIT投資といったITの重要性を提言していく責務を負います。そして提案したIT投資を確実に業績につなげていかなければなりません。
経営感覚を持ったITアーキテクトとしてキャリアを築いた方の実例をご紹介します。三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)のCEOに、2020年4月に就任した亀沢宏規氏です。
エリートだが主流ではなかった
亀沢氏は東京大学理学部数学科出身で、三菱銀行(現、三菱UFJ銀行)に入行したての若いころは、債券の売買システムの開発などを手掛けていました。
亀沢氏は、エリートには違いないものの、当初はエンジニアでありコンピュータの専門家に過ぎませんでした。行内の評価も「部署のなかで重要な人」というレベルにとどまっていたそうです。
メガバンクで主流派になるには、法人営業やプロジェクトファイナンス、各種市場取引などで好成績を残す必要があり、亀沢氏はそこから遠い存在でした。
それは銀行業界全体の風潮であり、亀沢氏まで、理系出身者でメガバンクのトップに就いた人はいませんでした。
ニューヨークの経験から「真理を見抜く力」を身につけた
亀沢氏が普通のITアーキテクトから本物のITアーキテクトになるきっかけを得たのは、2014年のニューヨーク勤務でした。
英語が得意でない亀沢氏にとって、初の海外勤務です。しかも役職は米州副本部長という重責。さらに、亀沢氏が着任してすぐに、重要任務を担っていたアメリカ人の役員が退職して、その仕事を引き継がなければなりませんでした。部下は1,200人もいます。
亀沢氏はこの難事業を無事乗り切ることに成功するのですが、それは氏が、徹底的に「真理を見抜く力」を磨いたからでした。具体的には、現地の人の話を聞く、部下に指示するのではなく示唆する、ブレーンストーミングを重視する、といったことを続けました。
経営とITアーキテクト業務をリンクできる人材だからこそ異例の人事が敢行された
もし亀沢氏が「IT職を卒業」して、従来の銀行経営の習得に専念したのであれば、このサクセスストーリーは、ITアーキテクトを目指している現役のIT職にとって参考にならないでしょう。
しかし亀沢氏は、ITアーキテクトとしての仕事と経営をリンクできたからこそ、トップに就くことができました。なぜなら世界の金融業界がITで動いているのに、MUFGは必ずしもIT化が進んでいるわけではなかったからです。
つまり、亀沢氏が唯一、経営とITアーキテクト業務をリンクできる人材だったからこそ、MUFGは異例の人事を敢行したのです。
亀沢氏はMUFGの社長に就任した直後に、次のようなビジョンを示しています。
- リテール(個人・中小向け)事業を立て直すために、デジタル化によって顧客の利便性を高めながら、損益分岐点を下げていく(つまり、コスト安体質にしていく)
- スマホ・アプリを活用することで、支店を減らしていく(不動産コストと人件費を減らす)
- 事務作業のデジタル化によってペーパーレス化を進める
- デジタル通過「COIN(コイン)」のサービスを2020年度後半には始める
これらはどれも重要な経営方針であり、すべてにITが関係しています。
DXやIT化の遅れが企業存続の致命的な要因になる中、DXの広大な定義を「自社の定義」に置き換えられるスキルが必要
若手のIT職の方が、いきなりMUFGのトップをイメージすることは難しいかもしれませんが、しかし今日、一定規模以上の企業であれば、MUFGと同じ道を歩まなければならないでしょう。それは業種を問いません。MUFGが進んでいる道とは、DXです。
今後あらゆる企業から求められるITアーキテクトになるには、その企業のDXを描けることが大切でしょうか。
今求められるITアーキテクトの仕事とは、「DXの定義」を「自社の定義」に置き換えること
「DX」と「IT化」の定義は似ており、どちらも要するにビジネスをITやデジタルで進めていく取り組みです。
しかしDXという言葉には、IT化という言葉からイメージされるものより大きな概念が含まれています。経済産業省はDXを次のように定義しています。
- 文書の単なる電子化から脱却して、ITとデジタルを徹底的に活用して、手続きを圧倒的に簡単・便利にするもの
- 生産性を抜本的に向上させるもの
- データを活用することでニーズにマッチした戦略を実行できるもの
- 仕事のやり方を変革するもの
- 新しいデジタル技術を使って、これまでにないビジネスモデルを展開すること
- 企業の競争力の維持・強化に寄与すること
これらの定義は大きすぎて、このまま自社に導入することはできません。
つまり今求められるITアーキテクトの仕事とは、この大きな定義を「自社の定義」に置き換えていくことであり、それを実践していくことになります。
DX時代のITアーキテクトの仕事に立ちふさがるハードルは、「DXを進めるための環境整備と社内改革」
自社のDXを進めるなかで、ITアーキテクトに求められる仕事には、大きくわけて次の2つがあります。
●仕事A:具体的なDXの推進(業務の徹底的なIT化)
●仕事B:DXを進めるための環境整備と社内改革
仕事AについてはIT職の本業の話になるので、ITアーキテクトになろうとしている人ならイメージしやすいでしょう。より難しい仕事はBです。
組織や制度や権限や業務プロセスを変えようとした際のハレーションを鎮め、淡々とDX化できる方が必要
DXを進めるための環境整備と社内改革がどれほど重要で、どれほど難しいことか、想像できるでしょうか。
IT職は合理的な考えをする方が多いので、DXの合理性と利便性と生産性と効率性を社内の人が理解すれば、導入はスムーズに進むはずだ、と思うかもしれません。
しかし現実はそう簡単には進みません。それは、亀沢氏までメガバンクに理系出身トップがいなかったことからもわかるはずです。亀沢氏のトップ就任は、大きな経済ニュースになったほどです。
経営者や管理職のなかには、DXの重要性はおろか、IT化の遅れがどれほど自社の業績に悪影響を及ぼしているのか気がついていない人がいるのが実情です。
そのため、IT職がITアーキテクトに就任したとき真っ先にやらなければならないのは、経営者や管理職の意識改革だと言えます。なぜなら、DXを推進するには、組織も制度も権限も業務プロセスも変えていかなければならないからです。コストをかけてDXを導入する目的は、組織と制度と権限と業務プロセスを劇的に変えて、劇的に生産性を高め、イノベーションを起こすことです。
組織や制度や権限や業務プロセスを変えようとすると、大きなハレーションが起きるでしょう。ITアーキテクトは、その騒動を鎮めながら、着々と、かつ徹底的に業務のIT化(仕事A)を進めていかなければなりません。そのためには、ITアーキテクトは、ビジョンを描き、ビジョンを社長以下全社員に説明し、ビジョンに賛同してもらわなければなりません。
少なからず経営者はITアーキテクトを専門職と捉えているが、キャリアを築くには専門外のことにもチャレンジする姿勢が必要
少なからぬ経営者は、社内のIT職を専門職と考えています。ITという便利道具を自在に操ってくれる人、という認識です。また、少なからぬIT職も、自分の仕事は社内の業務の利便性を高めることと認識しているのではないでしょうか。しかし、そのような会社のそのようなIT職がITアーキテクトという肩書をもらっても、それはIT職のトップに立っただけ、になります。
銀行だけでなく、自動車メーカーも、アパレルも、医療ですら、DXが経営を左右する時代に突入しています。その状態では「引く手あまた」の、今のDX時代に求められるITアーキテクトになれる可能性は低いでしょうか。アーキテクトは「設計者」という意味ですが、今では業務を超えて会社全体をITの知見を活かし、設計することが求められます。
また、今求められるITアーキテクトを目指すIT職は、「この会社でITを使ったイノベーションを起こす」ぐらいの意気込みと、それを実現できるキャリア形成への意識が必要になるでしょうか。
※ITアーキテクトに関する参考記事:
AWSソリューションアーキテクト資格を取得したエンジニアのキャリアパス【転職事例含む】
ITアーキテクトの需要(ニーズ)と職位毎の仕事内容・求められるスキルについて
「ITアーキテクト」と「ITコンサルタント」の違い【年収~スキル・経験~キャリアパスまで】
=================
今回の記事では、”今”求められる「ITアーキテクト」について実例等をもとにご紹介しました。
キャリアでお悩みの方は、ぜひアクシスコンサルティングにご相談ください。
アクシスの求人のうち、
約77%は非公開。
平均サポート期間は3年です。
各ファームのパートナー、事業会社のCxOに定期的にご来社いただき、新組織立ち上げ等の情報交換を行なっています。中長期でのキャリアを含め、ぜひご相談ください。