ITコンサルタントに必要なスキルセット・知識とは

SEからITコンサルタントへのキャリアチェンジについてご相談をいただく機会が増えてきました。

一方で、一言に「ITコンサルタント」と言えども、ITコンサルタントの仕事内容は多岐に渡り、それぞれに異なったスキルセットが必要です。

今回は、SEや経営コンサルタントなどの隣接職種と共通するスキルセットもありますが、ITコンサルタントの多くが必要とするスキルセットを、役に立つ具体的な場面とともにご紹介します。

【目次】

  1. 経営課題を解決するための「ITの実用的な知識」
  2. 2つのマネジメントスキル:①自分自身を管理するスキル/②プロジェクトを管理するスキル
  3. 顧客に行動を促すコミュニケーションスキル
  4. クライアントの業界や業務内容についての知識
  5. 業界知識やルールの「習得力」
  6. 企業経営と戦略立案のスキル
  7. 「論理化」「言語化」など、ビジネスパーソンの基本スキルセットの高度化

経営課題を解決するための「ITの実用的な知識」

ITコンサルタントが持つべきスキルセットの中で、コンピューターや関連機器、ソフトウェア、通信、セキュリティなどについての知識は最も基本的なものです。スキルの対象範囲はSEと同じですが、スキルの内容は明確に異なります。

SEは顧客から出された要件に沿ってITシステムを開発・導入することで企業を支援するため、技術の実装面のスキルが必要とされます。スキルの具体例としては、機器の操作方法、パッケージソフトのパラメーターの設定方法、ソフトウェアの設計技法、プログラミング言語の使い方などです。知っているだけでなく、対象となるITを実務の場で使いこなす技を伴わなければなりません。

これに対して、ITコンサルタントは、顧客から出された経営課題をITによって解決するため、手段として使うITに何ができて何ができないか、どのような場面で使えるか、コストはどれくらいか、使うことにどのようなリスクがあるか見極めるスキルが必要です。そして、そこには理論的な裏付けを伴っている必要があります。

一例を挙げれば、顧客から、事業所ごとにバラバラな顧客管理を全社統一で行いたいという経営課題を出された場合、ITコンサルタントは、導入候補となるデータベースソフトのインストール手順、操作方法を知っている必要はありませんが、各ソフトの機能、どんなデータベース理論に基づいているのか、導入と運用に必要な人的負荷、コストを正確に把握している必要があります。さらに、導入のマネジメントを行う場合は、起こりうる不測の事態を導入前に具体的に指摘できなければなりません。

また、ITコンサルタントは、技術の最新トレンドにも通じている必要があります。IoT、ブロックチェーン、RPAなど、ITベンダーのセールスキャッチコピーに近い用語も含めて、顧客やベンダー担当者との会話の中で出てきた時に、それがどんな機能、役割を持ったもので、どんな場面で使われるかについて、コメントを求められることがあります。ITコンサルタントはより単価が高く、顧客からITのスペシャリストとして見なされることも多く、「それは知りません」と口にできないプレッシャーを常に受けます。

2つのマネジメントスキル:①自分自身を管理するスキル/②プロジェクトを管理するスキル

ITコンサルタントに必要なマネジメントスキルには2つの種類があります。いずれも組織のマネジメントとは異なった性質のものです。

一つめは、ITコンサルタント自身の仕事を管理するスキルです。ITコンサルタントが単独で顧客と契約することは個人事業主を除いてほぼ無く、顧客からの依頼でプロジェクトが編成され、ITコンサルタントはその一員となって働きます。ITコンサルタントが顧客に出す成果物は、SEが納品して稼働させるITシステムのような目に見えるものはありません。多くの場合、「・・・・・報告書」とタイトルが付いた紙きれです。このため、ITコンサルタントが顧客のために働いたことを顧客に認めてもらい、報酬を受け取るためには、IT業界の他の職種とは異なる作業が必要になります。ITコンサルタントごとの稼働時間管理、顧客への報告と承認のプロセスなどです。多くのコンサルティングファームはこれを行うスキルを組織として持っています。ITコンサルタントは個人で身に付けるのではなく、所属する会社から学んで実行します。

二つめは、ITコンサルタントが、プロジェクトマネージャやPMOとして、ITシステム開発・導入プロジェクトに参画する場合に必要なスキルです。具体的には、PMBOK(プロジェクトマネジメント知識体系)に代表される、プロジェクトを成功に導くための管理手法、共通用語です。解説書や教本の類はたくさん出回っていますが、文字情報を読むだけでなく、システム開発・導入プロジェクトに参画して得た経験値が加わってこのスキルを身につけることができます。開発プロセス、モデリング、設計手法、品質評価などに関する知識があると、マネジメントスキルはさらに強化されます。

顧客に行動を促すコミュニケーションスキル

コミュニケーションスキルはすべてのビジネスパーソンに必要不可欠ですが、ここではITコンサルタントに必要なスキルセットに特有な部分に絞ってご紹介します。

ITコンサルティングは顧客が抱える経営課題に対して、解決策を考えてその実行を支援する仕事のため、その第一歩は課題を聞き出すことになります。顧客が課題を正しくストレートに述べてくれるとは限りません。ヒアリング相手に拒否反応を示されることもあります。モヤモヤした発言の中から、経営課題とその原因を明確に言語化する役割がITコンサルタントに求められます。ここで必要なのは情報を引き出すスキルです。言い換えれば、上手に話してもらうスキルです。話術だけでなく、この人になら話したいと思わせるオーラを漂わせている必要もあります。心理カウンセラーに近いスキルと言ってもよいでしょう。

もうひとつは、顧客に行動を促すコミュニケーションスキルです。ITコンサルタントが、経営課題に対する解決策の実行フェーズに関与することは多いですが、ITコンサルタントは支援するのであって、IT実装など実施する主体は顧客です。顧客の担当者が自ら進んで解決策を実行するような環境作りもITコンサルタントの仕事です。上司が部下に対する場合と同じように思えるかもしれませんが、ITコンサルタントと顧客の間には指揮命令関係はありません。そのため、顧客の担当者の性格、組織内の位置づけなどを考慮に入れたうえで、適切なコミュニケーション方法を選択しなければなりません。権威主義的に臨むことが有効な場合もありますが、多くの場合、顧客の担当者が自分の意志で実施したかのような錯覚を持たせるくらいにその気にさせるほうが、IT実装はうまく捗ります。解決策やその実施方法の提示におけるITコンサルタントの顧客への報告は完璧に論理的であることが必須ですが、顧客の担当者とのコミュニケーションは感情にうったえることも時には有効です。

クライアントの業界や業務内容についての知識

業務プロセスをITによって改善するプロジェクトに携わるITコンサルタントは、当該業界や業務内容についての知識を備えている必要があります。詳細はクライアントの担当者にヒアリングするのですが、ある程度の業務知識を持っていないと、担当者の話についていけません。また、ヒアリングはできても分析と解決策作りに支障をきたします。

例えば、ITコンサルタントがSCM(サプライチェーンマネジメント)に携わる場合、材料調達、生産管理、物流、販売に至るまでのビジネスプロセスはどうあるべきかを知っておく必要があります。このビジネスプロセスの理想像を顧客の現状と対比することによって、顧客の現状業務の問題点を抽出し、改善策を作ることができます。さらに業界ごとによくある問題点の例を知っていれば、業務分析がさらに楽になります。

ITコンサルタントが、生産、営業、経理などの機能ごとに分かれた顧客の業務プロセスを深く理解し、どこに課題があるのかを見極めるためには、分析の立脚点(ベースライン)が必要です。それにあたるのが業界、業務ごとの標準プロセスです。この標準は、コンサルティングファームがベストプラクティス集の中に蓄えていることもありますが、ITコンサルタントの所属ファームにそれがなければ、ITコンサルタント自身が業界ごとのケーススタディを行い、自分のスキルとしなければなりません。

業界知識やルールの「習得力」

ITコンサルタントは、顧客が属する業界の商慣習、法規制、業界内の多くの企業で使われているITシステムなどを把握したうえで、プロジェクトに臨む必要があります。顧客から、単価の高いコンサルタントだから何でも知っているはずだという先入観を持たれることもあり、業界についての顧客の話に適切な反応ができないと、信頼を失いかねません。

ITコンサルタントの頭の中にこれらがすべてインプットされていれば理想的ですが、業界特化型のITコンサルタントを除いては、ITを軸にして複数の業界のプロジェクトに携わりますので、すべてを覚えておくのは無理があります。実際は、プロジェクトへのアサインが決まってから、短時間で集中して業界についての知識を仕入れることになります。

そのために必要なことは、普段から自分が担当している業界だけでなく、日本国内あるいはグローバルに産業社会で起きている事象にアンテナを高くし、背景を含めて広く浅く知っておくことです。分析する必要はありません。ITコンサルタントとして、知らない業界の概要を把握するための基盤を頭の中に作るということです。業界知識の習得力と言ってもよいでしょう。フルマラソンを走るために日頃からランニングを欠かさず持久力を鍛えるのに似ています。

企業経営と戦略立案のスキル

ITコンサルタントは企業経営に係る問題解決に取り組みますので、企業経営と企業戦略に係る一般的な知識が必要です。これは経営コンサルタントと共通するスキルセットです。

戦略立案においては、顧客の経営層から示される目標にたどり着くためには何が課題かを見極め、課題解決のための案を複数作り、どの解決案が最適かを考え、実行プロセスとともに立案します。経営課題に向き合うコンサルタントのお作法とも言えるもので、これがITコンサルタントにも基本となります。経営戦略、マーケティング、管理会計、人材組織などの経営管理の知識、SWOTや3Cなどの各種の分析手法も基本スキルのひとつです。

どのITコンサルタントもこのような分析手法を駆使しますが、業界における常識や社内で言われている耳触りの良い言葉や単語を並べただけの報告をしないように注意しなければなりません。そのためには、情報を収集・分析し論理的に考えることに加えて、ある種の創造性が必要です。全く新たな解決策を考え出すのではありません。経営課題とそれに対する解決策の組み合わせを過去の実例から探し出して、目の前の案件に適用するのです。ITコンサルティングプロジェクトのケーススタディをどれだけストックしているかも、ITコンサルタントの戦略立案スキルの一部になります。

「論理化」「言語化」など、ビジネスパーソンの基本スキルセットの高度化

ここまでは、ITコンサルタントという職種に特有のスキルセットをご紹介しましたが、ITコンサルタントは、ビジネスパーソンの誰もが必要なスキルセットを高度化して身につけなければならないということを忘れてはなりません。論理的かつ明確にものごとを述べるスキル、業務の流れを言語化するスキル、情報を評価するスキルなどです。

見逃されがちなのがリスク察知スキルです。スキルと言うより、危機を察知するマインドセットと言ったほうがよいかもしれません。ITコンサルタントは、経営課題に対する解決策を実施する段階まで関与するとは限りません。解決策を提示する時点で、実施に伴うリスクを抽出して、明確に顧客に伝えなければなりません。また、プロジェクトマネジメントに携わるITコンサルタントの重要な任務は計画段階でリスクを読み切ることです。後々になって、リスクが顕在化してしまった場合、リスクを顕在化させた担当者だけではなく、リスクを予見できなかったITコンサルタントも非難の対象になります。

そして、最も重要なのは学び続けるマインドセットです。ITコンサルタントが扱うIT技術は日進月歩で、数年で陳腐化してしまう技術もあります。また、ビジネスモデルの流行り廃りは早く、次々と新しい製品、サービス、業態が市場に登場します。ITコンサルタントとして生きていくには、常に自分のスキルセットをアップデートしていかなければなりません。

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ITコンサルへのキャリアに関する記事

SEとITコンサルが言う『上流工程』の違いと特色
https://www.axc.ne.jp/column/axis-column/se_cous/02.html

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https://www.axc.ne.jp/column/axis-column/2018/0227/se_cous.html

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今回はプライベートエクイティファンド(PEファンド)のワークライフバランスの実情についてご紹介します。また、投資銀行やコンサルティングファームと比べた際の残業時間や激務度についても具体的にご説明します。

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