ITサービスマネージャ試験は、情報処理技術者試験の中で唯一、システム運用管理に関する知識を問う試験区分となっています。システムアーキテクト資格やプロジェクトマネージャ資格については、システム開発やプロジェクト管理に関する資格ですので、SIerに所属するITエンジニアにとって業務との関連性を想像しやすい資格だと思います。
しかし、「システム運用」となると、システム開発プロジェクトが終わった後のフェーズであり、開発業務をメインの業務とするSIerによっては関連が薄い、自分には縁がないと考えるエンジニアの方も多い印象です。
今回の記事では、SIerにおける「ITサービスマネージャ資格」の有用性・価値やその実情、プロジェクトマネージャ資格との違いについてご紹介します。
【目次】
- ITサービスマネージャ資格を取得するメリット・取得後の有用性
- SIerにおけるITサービスマネージャ資格の実情
- ITサービスマネージャ資格を取得すべき人
- ITサービスマネージャ資格とプロジェクトマネージャ資格の違い
- ITサービスマネージャーの求人例
- (参考)ITサービスマネージャの業務内容
ITサービスマネージャ資格を取得するメリット・取得後の有用性
システム運用保守に関する資格であるITサービスマネージャを取得する大きなメリットとして、システムにおける運用保守に関する豊富な知識がある人材と認められ、市場において評価されやすいことが挙げられます。
どのようなシステムであっても、システムを構築する期間より、本番稼働開始から廃棄までの期間の方が長いのが普通です。
しかし、情報システムを持つ企業は、システムの構築に比較的高い費用がかかるのをやむを得ないと考えるのに対し、出来上がったシステムを運用していく費用はできるだけ下げたいと考えがちです。
そのため、IT業界においては、システムを作り上げることには力を注ぐものの、システムが出来上がった後の運用管理については軽視しやすい傾向があります。システム運用管理で実施する作業内容は、要件定義フェーズにおける非機能要件や、設計フェーズにおける運用設計で検討するのが一般的ですが、検討が浅いか全く検討されずに、本番稼働した後にトラブルが発生するという事例が多発しているのが実情です。
非機能要件や運用設計に関する検討漏れトラブルの多さから、IPAも非機能要求グレードについて開示を行うなど、システム運用管理に関する検討漏れを防ぐ活動も近年活発になってきました。
しかし、まだまだ運用保守に関する知識を持たないSE・PGも多く、それらの専門知識を持つITサービスマネージャに注目が集まっています。
さらに、ITILなど、システム運用管理に関する知識体系も整理されている今、ITサービスマネージャ資格を持つ人材にはコンサルティングファーム、SIer、IT系の事業会社(ベンチャー含む)まで一定の需要があるのが実情です。
SIerにおけるITサービスマネージャ資格の実情
今日において一定の需要が見込まれるITサービスマネージャ資格ですが、SIerでの有用性については注意が必要です。SIerはシステム開発業務を行うのがメインの仕事で、ITサービスマネージャの業務は限定的である可能性があります。
開発が終わればクライアントにシステムを納品し、業務は完了します。開発作業はクライアント企業のオフィスの一部にSIerのプロジェクトチーム用に席が用意されており、プロジェクトが完了すれば運用はクライアントに引き継ぎSIerは自社に戻る、いわゆる客先常駐の形がまだまだ一般的です。
非機能要件の定義や運用設計を検討する場面でITサービスマネージャの出番があっても、そこで決めたシステム運用管理に関する事柄は納品を受けたクライアントが担当することになります。
もちろん、例外としてシステム開発が完了した後の保守業務を、そのままSIerで実施するという場合もあります。ただし、それは発注元のクライアントも、受注側のSlerも、比較的大きな企業の場合だけでしょうか。
となると、SIerにおいては、ITサービスマネージャ資格の知識は上流工程の一部のフェーズでしか利用する場面がありませんので、全体体に見ればあまり重宝されないとも言えます。もし取得しても、周りから「どうして取ったの?」という反応をされてしまう可能性もあります。SIerにとっては本番稼働の後のことよりも、本番稼働するまでの開発作業の方が重要ですから、当然と言えば当然でしょうか。
そのような実態はありつつも、資格手当を設定している企業では、プロジェクトマネージャ資格もITサービスマネージャ資格も報奨金については、同等に扱っている場合が多い印象です。
しかし、資格としては同等に扱われるものの、やはり業務上ではプロジェクトマネージャに対してITサービスマネージャの年収や待遇は相対的に低いものとなっています。「マネージャ」という名前がついているものの、高くとも年収600万円あたり、普通のSEと同じぐらいの待遇というのが実情です。
そのため、SIerにおいてITサービスマネージャ資格は、システムアーキテクト資格やプロジェクトマネージャ資格など、システム開発に関する資格との合わせ技で生かしていくのが現実的でしょうか。
ITサービスマネージャ資格を取得すべき人
SIerにおいては、なかなか活用の場面が少ないITサービスマネージャ資格ですが、取得すべきなのはどのような志向を持つ人でしょうか。
一般的には、
・事業会社・ユーザ企業における情報システム部門(社内SE)
・インターネット事業会社
・クラウドサービス企業
などに所属してシステム運用管理業務を行う担当者やリーダ・マネージャ、もしくはその立場に転職したい方に有効な資格と言えます。
システム運用管理の担当者、かつITサービスマネージャ資格を保有しているような人であれば、要件定義フェーズにおける非機能要件や、設計フェーズにおける運用設計においてシステム開発業務に参画することができます。
もし自社で開発作業を行わず、SIerなどに開発を依頼する場合でも、システムの求める非機能要件について適切に伝えることができますので、トラブルの少ないシステムを構築することに一役買うことができるでしょう。
SIerにおいては、システム開発に関する資格と比較して重要度の低いITサービスマネージャ資格ですが、システム運用管理業務にはシステム開発業務にはないメリットもあります。
システム開発業務は、納期が近づくと稼働が高くなることも珍しくありません。そして開発が完了した後は次の案件が決まるまで、逆に稼働が下がるということを繰り返します。もしくは、仕事ができる人であればあるほど、休まず次のプロジェクトに投入され、息つく暇もないということも多々あります。
対して、システム運用管理業務は障害対応などで一時的に稼働が上がる場合があるものの、それ以外は比較的稼働が安定しているというメリットもあります。
年収や待遇を取るよりも安定した稼働というメリットを重視して、転職も見込んで職種を選択するというのも、ひとつの考え方でしょうか。
ITサービスマネージャ資格とプロジェクトマネージャ資格の違い
ITサービスマネージャの取得を目指される方が、よく比較される資格として「プロジェクトマネージャ資格」が挙げられます。
ITサービスマネージャ資格はシステム運用に関するマネジメントの知識を問う、多肢選択式(四肢択一)・記述式・論述式の試験です。サービス運用チームのリーダーにふさわしい人材として、安全かつ信頼できるサービスを顧客に提供し、サービスの改善やハードウェア・ソフトウェアの導入、カスタマイズ、保守や修理までもができるか確かめます。
参考:ITサービスマネージャ試験|IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
一方、プロジェクトマネージャ資格は、システム開発におけるプロジェクトマネジメントの知識を問うのが特徴です。
ご存じの通り、一口にシステム運用といっても、主に保守開発業務と運用保守業務の2種類があります。前者が既に本番運用が開始されているシステムに対して改修や機能追加を行う開発業務であるのに対し、後者はSLAの設定、サービスデスクの運用や、変更管理やリリース管理、本番運用に入ったシステムの障害復旧対応や保守開発部門へのエスカレーションなどの業務を行うことです。
プロジェクトマネージャ資格は、システムを新規に作り上げる際のプロジェクトマネジメントと、保守開発業務のプロジェクトマネジメントを行う知識が問われます。どちらもプログラム改修を伴う開発作業に関するマネジメント業務です。
対して、本番稼働した後の運用保守業務に関する知識が問われるのがITサービスマネージャ資格です。同じ「マネージャ資格」であっても、システム開発業務のマネジメントと、システム開発後の運用業務のマネジメントですので、問われる知識はまったく異なります。
最後に参考までに、よくITサービスマネージャ資格とITILの違いについても質問を受けます。ITILはITサービスマネージャ資格よりも上位の、意思決定者に向いている資格です。現場寄りなら ITサービスマネージャ、より上位の統括リーダーであれば ITILを検討すると良さそうでしょう。
ITサービスマネージャーの求人例
※大手IT系企業
<職務内容>
システム運用関連技術を活用し、サービスレベルの設計を行い、クライアントと合意されたSLAに基づき、システム運用リスク管理の側面からシステム全体の安定稼働に責任を持つ。
システム全体の安定稼働を目指し、安全性、信頼性、効率性を追求する。また、サービスレベルの維持、向上を図るためにシステム稼働情報の収集と分析を実施し、システム基盤管理も含めた運用管理を行う。
【プロジェクト想定】
・業務アプリケーションの企画、構築(AI/IoT活用)
・老朽化した業務アプリケーションのマイグレーション
・構築、提供したソリューションの維持開発、運用保守
・サービス提供型ソリューションのフロント、バックエンド開発”
【入社後のキャリアパス想定】
システム運用設計、システムの維持保守、運用管理の経験を積み、ITサービスマネージャーとしてチームマネジメントしていく立場、またはプロジェクトマネージャーとしてプロジェクトの責任者へのキャリアアップを期待しています。
<採用要件>
・ITサービス業務経験(3年以上)
・顧客やチームメンバーとのコミュニケーション能力
・顧客とのネゴシエーション力
(参考)ITサービスマネージャの業務内容
ITサービスマネージャ資格は、システム運用管理に関する資格試験ですが、「システム運用管理」とはいったい何をすることなのでしょうか。
システム運用管理では、開発プロジェクト完了後に本番稼働したシステムを利用していくにあたり、業務上必要になることを定義します。そして、定義したプロセスを実行し、適宜改善します。代表的な定義項目について下記にご紹介します。
サービスデスク管理
本番稼働したシステムの使い方が分からないユーザは、業務システムでも、インターネットに公開されているサービスでも、通常はサービスデスク(ヘルプデスク、お客様問い合わせ窓口など)へ問い合わせします。
現在では、電話、メール、SNSなど、様々なコミュニケーション方法がありますので、どのように問い合わせを受け付けるかを事前に決める必要があります。例えば、サービスデスク担当者の経験則だけで回答してしまっては、サービスデスクは属人化してしまうため、受け付けた問い合わせに対し、どのように回答するのかといった、運用方法のルール化が挙げられます。
想定回答集(FAQ)のようなものを準備する場合もありますし、過去に受けた問い合わせと回答内容をデータベース化し、サービスデスク担当者が検索できるようにすることも必要でしょうか。
データベースでもFAQでも分からないことや、障害やバグの問い合わせがあることも想定できます。そのような場合に備えて、開発部門へのエスカレーションルートを決めておかなければなりません。
これらのように、エンドユーザからの問い合わせ窓口であるサービスデスクを運営するにあたり、必要な事柄をあらかじめ決めておき、運用していくのが「サービスデスク管理」業務です。
変更管理
システムが本番稼働に入った後も、システムの改修は行われます。当初のシステム開発プロジェクトでスケジュールや費用の都合で搭載できなかった機能を追加することもあれば、本番稼働後に判明した不具合を改修することもあります。ユーザからの要望により、プログラム改修を行う場合もあるでしょうか。
プログラムの変更ではなくとも、インフラ面でOSのバージョンアップもあるでしょうし、セキュリティパッチを当てることもあるかと思います。
それらの変更作業が原因でトラブルを発生させないよう、どの変更をどのようなスケジュールで行うかを管理するのが変更管理です。
まず、発生した変更要望や変更作業に対し、管理番号を割り振り、優先度を決定します。変更対応を行う部門や協力会社と協議し、費用やスケジュールを確認します。場合によっては、対応しないという判断もあるかもしれません。
対応すると決まった変更については、プログラム修正やパッチ適用テストの完了後、リリース作業を行います(リリース管理については次項目にて説明します)。リリース完了後、問題点や追加で必要な作業がないかを確認し、問題なければクローズします。
それら変更作業の対応判断や適用ステータスについて管理していく業務が「変更管理」です。
リリース管理
変更管理にて対応が承認されたプログラムやセキュリティパッチなどについては、リリース計画を立てて本番環境に適用します。リリース管理を行う理由は、安全にシステムの変更作業を行うためです。
日中サービスを行なっているシステムでは、夜間のリリース作業となるケースが多く、他システムとの連携の都合上、停止しなければならないバッチ処理があるかもしれません。そのような前後の処理の調整も含め作業スケジュールを決め、対応計画を立てる業務が「リリース管理」です。
リリース後、不具合などの問題が発見された場合、どのようにリカバリするのかについても計画を立てておきます。システムを一時的に停止して改修の上で再リリースを行う前方復帰対応を行うのか、それとも旧リソースに戻す後方復帰対応を行うのかをあらかじめ決めておくのもリリース管理の対応内容に含まれます。
これらは、ITサービスマネージャが行う「システム運用管理」の業務の一部です。システムは作り上げるだけではなく、稼働した後も様々な作業が必要になるため、その領域をマネジメントする任務を引き受けます。
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「受託型・SIerエンジニア」からのキャリアパス
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「開発業務と比べて、運用業務は作業のイメージがつきにくい」「スキルアップがしにくい」というイメージを持つ方も少なくありません。
しかし、一度構築したシステムは、そう簡単に廃棄されることはありませんので、システム運用管理を担当するということは、長く面倒を見るシステムをどのように運用管理していくのかデザインでき、腰を落ち着けて技術を身につけることができる業務であり、そういった仕事が合っているという方も多い印象です。システム開発業務は短距離走的な筋力、システム管理業務はマラソン的な筋力が求められるとも言えるでしょうか。
今回の記事では、SIerにおける「ITサービスマネージャ資格」の有用性・価値やその実情、プロジェクトマネージャ資格との違いについてご紹介しました。
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