KPMG FASの事業領域について、ご存知でしょうか。
「あずさ監査法人系列」というイメージは思い浮かぶものの、実際にKPMGグループ会社は8社と多いため、「KPMG FASがどの領域を担当しているのか分からない」と感じる方は多いかもしれません。
M&A業界に詳しい方であれば、KPMG FASを知らない方はいないと思います。実際にKPMGはリフィニティブ発表の2020年第1四半期 M&A市場リーグテーブル(日本企業関連 中規模市場 公表案件)にて6位にランクインしており、M&A領域においては有名です。
しかし、KPMG FASのM&Aアドバイザリー以外の業務については認知度が低く、フォレンジックなどM&A以外の業務をやっていることはあまり知られていません。
また、KPMGジャパングループは巨大組織である故に、「グループ内で協業はあるのか?仲は良いのか?」といった内部事情が気になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回はKPMG FASの事業領域についてご紹介するとともに、KPMGジャパン内での協業の実情についてもご説明したいと思います。
【目次】
- 来年で設立20年を迎えるKPMG FASの成り立ち
- KPMGジャパンにおける、KPMG FASの位置づけ
- KPMG FASの5つの部門:M&Aアドバイザリーに加え、不正調査など幅広いサービスを提供
- KPMGジャパン内で協業の機会はあるが、売上面におけるジレンマも:営業活動ではKPMG FASへ問い合わせる機会が最多
来年で設立20年を迎えるKPMG FASの成り立ち
まずは、KPMG FASの成り立ちについてご説明します。
KPMGは、1987年に Peat Marwick International(PMI)、Klynveld Main Goerdeler (KMG)、およびそれらのメンバーファームの合併により誕生しました。KPMGという名は、主な創設メンバーのイニシャルに由来します。
日本国内での歴史は、1949年にKPMGの前身の1つであるPMM(ピート・マーウィック・ミッチェル)が日本事務所を開設し、監査業務を開始したことから始まりました。
1954年には、PMM日本事務所に国際税務部門を開設しました。1987年には、PMMとKMG(クラインフェルト・メイン・ゲーデラー)が、国際的な合併をしてKPMGとなりました。
そして、2001年にKPMG FASは設立されました。ちなみに、その後2003年にあずさ監査法人、2004年にKPMG税理士法人が相次いで設立されています。
(参考:https://home.kpmg/content/dam/kpmg/jp/pdf/jp-our-story-2017-18.pdf)
KPMGジャパンにおける、KPMG FASの位置づけ
KPMGジャパンは、下記の通り、「監査、税務、アドバイザリー」の3つの分野にわたる8つのプロフェッショナルファームに、8,616名の人員を擁しています。
KPMG FASはアドバイザリーを担当する4社の中でも、M&Aに関するフィナンシャル・アドバイザリーサービスを提供する会社に位置づけられています。
〇監査
・有限責任 あずさ監査法人
〇税務
・KPMG税理士法人
・KPMG BRM株式会社
・KPMG 社会保険労務士法人
〇アドバイザリー
・株式会社KPMG FAS
・KPMGコンサルティング株式会社
・KPMGヘルスケアジャパン株式会社
・KPMG あずさサステナビリティ株式会社
KPMG FASの5つの部門:M&Aアドバイザリーに加え、不正調査など幅広いサービスを提供
KPMG FASには主に5つの部署(トランザクションサービス・コーポレートファイナンス・経営戦略・リストラクチャリング・フォレンジック)が存在します。各部署の幅広い担当業務についてご説明します。
〇トランザクションサービス
案件オリジネーションからクロージング、取引後のポストM&A統合プランニングに至る幅広い領域において、M&Aに関するデューデリジェンスを中心としたサービスを提供します。
具体的には、下記メニューを提供しています。
・バイサイドM&Aアドバイザリー
・セルサイドM&Aアドバイザリー
・デューデリジェンス
・バリュエーション(取引目的・会計目的)
・統合支援(PMI)アドバイザリー
・買収後のリスク診断支援
・バリューチェーン統合
・IT・オペレーション統合
・資金調達アドバイザリー
・インフラ/資源プロジェクトアドバイザリー
インテグレーション案件の各M&Aフェーズは、プラニング→事前調査→交渉・締結→統合初期・事業安定化フェーズ→統合後中長期的成長フェーズという流れです。
また、セルサイドサービスにおいては、意思決定→計画・準備→入札→交渉・クローズという流れで進めます。
KPMG FASでは、原則として上記全てのプロセスにおいてサービスを提供可能です。
〇コーポレートファイナンス
M&Aや資金調達に関する財務アドバイザリーサービスを提供します。
具体的には、下記メニューを提供しています。
・M&Aアドバイザリーサービス
・バリュエーション
・投資価値の検討(プライシング)における事業計画、財務モデル作成支援サービス
・インフラストラクチャー、プロジェクト関連サービス
・資金調達関連アドバイザリーサービス
全部署の中でもクロスボーダー案件の割合が最も高いため、多くの外国人職員が在籍しています。
〇経営戦略
事業計画策定・事業性検証の支援を中心としたサービスを提供しています。その前提として策定に必要な外部・内部環境分析、計画実行時に具体的施策の実行をサポートしています。
具体的には、下記メニューを提供しています。
・中期経営計画・事業計画の立案
・事業ポートフォリオの再構築
・新規事業、市場戦略の立案
・M&A戦略の立案
・グループ経営体制の構築
・事業計画、オペレーティング、財務モデル作成支援
・不動産関連アドバイザリー
・コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)の推進支援
近年は海外案件が増加しており、海外市場参入支援・海外投資支援のプロジェクトの実績が豊富です。
〇リストラクチャリング
企業・事業のライフサイクルのあらゆるステージにおける課題に対し、財務とオペレーション、再生、変革、M&Aに精通した専門家が、自力での改革から、M&A(買収、JV、売却など)、すなわち他力の活用まで、状況に応じて最適なチームを組成し、一気通貫でのサービスを提供します。
具体的には、下記メニューを提供しています。
・フィナンシャル・リストラクチャリング
・オペレーショナル・リストラクチャリング
・経営不振企業・事業(ディストレス)のM&Aアドバイザリー
・法的整理(会社更生・民事再生)サポート
・事業撤退サポート
・債権売却・管理サポート
金融機関や事業会社などが主なクライアントであり、国内案件が中心です。また、1年を超えるような長期案件が多いことも特徴的です。
〇フォレンジック
多様なバックグラウンドを有する経験豊富な専門家で構成されており、不正・不祥事に関するアドバイザリーをワンストップで提供します。
日本国内に限らず、KPMGのグローバルネットワークを通じて、世界中のフォレンジック専門家と協力し、多くの国・地域での支援に対応します。
具体的には、下記メニューを提供しています。
・不正調査・危機対応支援
- 不正会計の調査
- 海外法人に対する不正調査
- 製品データ偽装の調査
- サイバー攻撃に関する調査
- 情報漏えいに関する調査
- インサイダー取引の調査
- 時間外労働・残業代の調査
- デジタルフォレンジック
・不正予防支援
- 不正リスク管理体制の構築支援
- グローバル・コンプライアンス体制の構築支援
- M&Aプロセスにおける不正リスク管理体制の構築支援
- グローバル行動規範の策定支援
- 外国公務員等への贈賄防止体制の構築支援
- 競争法・独占禁止法の遵守体制構築支援
- サイバー攻撃への防御体制構築支援
- デジタルフォレンジック
- 個人・企業の背景調査
・不正の早期発見支援
- M&Aにおける不正リスク発見支援
- データ分析による不正リスク発見支援
- 従業員アンケートによる不正リスク発見支援
- 電子メール監査による不正リスク発見支援
- サイバー攻撃の発見支援
- デジタルフォレンジック
・訴訟・仲裁支援
- 訴訟関連サービス(係争支援における証拠収集・損害賠償に係る各種算定)
- e-Discovery(e-ディスカバリー、電子情報開示)
- 社内ディスカバリー支援サービス
- デジタルフォレンジック
・金融機関向けサービス
- マネー・ローンダリング(資金洗浄)防止関連サービス
- 損害保険向け査定・調査支援サービス
・法令・契約順守等の支援
- 知的財産・契約遵守サービス(ロイヤリティ監査・ソフトウェアライセンス監査)
- ソフトウェア資産管理サービス
昔は国内案件が中心でしたが、近年はクロスボーダー案件も数多く取り扱っています。また、近年は情報漏洩など不正事例が多く発生していることもあり、案件数が増加しています。
(参考:https://home.kpmg/jp/ja/home/about/fas.html)
KPMGジャパン内で協業の機会はあるが、売上面におけるジレンマも:営業活動ではKPMG FASへ問い合わせる機会が最多
KPMGジャパンにおいて、他法人との連携の機会はあります。しかし、売上を分割する必要があることから、積極的には連携が行えないジレンマも存在します。
まずは、どのような場面で協業するのかご説明します。
一般的にはマネージャー以上になり、営業活動を行う立場になった時に、KPMGジャパン内の他法人と協業する機会が増えます。
営業活動の際には、監査法人の担当者がクライアントからFASサービスに関する相談を受けた時に、FASの担当者に問い合わせることが最も多いです。
その後の流れとしては、監査法人担当者がFAS担当者と共に、クライアント先を訪問します。最終的にFASサービスを受注した場合は、FAS内のエンゲージメントとして案件を進めることになります。
KPMG FASの担当者が、監査法人担当者からの紹介を受ける際には、1点留意すべきことがあります。
監査を担当しているクライアントに対しては、独立性保持の観点から提供できるサービスに制限が発生します。これはKPMG限定ではなく、全監査法人において共通のルールです。監査先に対しては、下記のようなサービスは提供できません。
・会計記録及び財務諸表の作成
・バリュエーションサービス
・税務業務
・内部監査業務
・ITシステムサービス
・訴訟支援業務
・法務業務
・人材採用業務
・コーポレートファイナンス業務
最近はKPMGジャパン全体でインダストリーに特化した人材の育成に注力をしていることもあり、KPMG FASにおいてもインダストリーに知見のある人材が増加しています。よって、あずさ監査法人が社内に知見が不足している業界に対して営業する際には、「〇〇業界に詳しい人」ということでKPMG FASからメンバーが参加することも増えています。
ここまで読んだ方は、「KPMGジャパン内は各社協力しあっていて、仲が良い」という印象を持たれるかもしれません。しかし、実際に協業は難しい側面もあります。なぜなら、自社の売上が減少してしまうからです。これが章の初めにお話しした、「協業のジレンマ」です。
例えば、あずさ監査法人1社で仕事を全うすれば当然100%あずさ監査法人に売上があがります。しかし、あずさ監査法人とKPMG FASの2社で協力して案件を担当した場合は、2社で売上を2分の1ずつ分割することになります。
KPMGジャパンという大きなくくりでみれば、売上は1社であろうが2社であろうが変わりません。
しかし、各社の売上でみれば、売上は2分の1になってしまうわけです。各社は売上目標を掲げているだけに、売上が減少してしまうことは痛手です。職員レベルにおいても、他法人と協業したために自分の売上が減少してしまうことは評価にも影響するため、悩ましいという意見をよく聞きます。
この協業のジレンマはKPMGだけの話ではなく、Big4の各社で起こっていることです。企業によっては「売上が減るから、絶対に監査法人は巻き込みたくない」といったコンサルティング会社やFAS会社も存在します。そのような他社と比べた際には、KPMGジャパンはグループ内協業の風土がある企業でしょうか。
<KPMGジャパンに関する記事>
【独自取材】KPMGコンサルティング株式会社の働き方(残業時間、激務度、社内制度、ワークライフバランスまで)
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/kpmgworklifebaiance
【インタビュー】KPMGコンサルティング株式会社/「テクノロジー×グローバル」を実現する多国籍チームGTT
https://www.axc.ne.jp/media/companyinterview/kpmggtt
【インタビュー】有限責任あずさ監査法人/「我々の上場アドバイザリーの役割は『主治医』。専門性を組み合わせ、最適なソリューションの提供が求められる」
https://www.axc.ne.jp/media/companyinterview/azusaass2
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今回の記事では、KPMG FASの事業領域、グループ内連携についてご説明しましたについてご紹介しました。
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