情シスや業務推進部の部長やリーダーポジションを目指す方から、情シスや業務推進部といった部門における上場と非上場での役割や求められることの変化についてご質問をいただく機会が多いです。
そこで今回は、情シスや業務推進部といった部門の立場で上場と非上場にどのような違いがあるのか多面的にご説明します。
ここでは上場から非上場化するMBOのような場合や、上場会社に非上場の会社がM&Aされるというケースではなく、シンプルに非上場から上場に変わる、といった場合を想定します。
【目次】
- 「ログインパスワードの定期的な更新」「リース返却前のハードディスク消去徹底」など手が回っていなかったようなことが義務付けられる
- 資産価値を実際の価値に合わせるという会計処理、減損ルールの適用が忍び寄ってくる
- 受発注まわりは入念に、不完全であると「不正の温床」となってしまうことが懸念される
「ログインパスワードの定期的な更新」「リース返却前のハードディスク消去徹底」など手が回っていなかったようなことが義務付けられる
ご存知の通り、非上場から上場を目指す際に名前を聞くことが多くなるのが監査法人です。 当然、上場前も監査法人は決算などに関わってきてはいましたが、あまり日頃の業務の中で監査法人がどう判断するとか、 監査法人に説明しないといけないとか 、監査法人が認めるか否かがポイントだ、 とかの会話がここまではなかったかと思います。
イメージしやすい会計処理や内部統制といったような事柄にとどまらず、えっと思うようなことまで監査法人の見解の影響が押し寄せてきます。
ログイン時のパスワードを定期的に変えているかどうか、まで監査法人が言ってくるというのは最初は少し驚きを感じるかもしれません。
「投資しても大丈夫な企業であることを保証するのに、パスワードが定期的に変えられていることや、ひとつ前のパスワードは使えないようになっている等のチェックが直接的に結びつくの?」と感じることも多いかもしれません。
ただ、重要なリスクマネジメント、内部統制の一部であるIT統制のれっきとした重要項目にパスワード管理での資産の保全があるため、ITの管掌部門である情シスが責任を持って、定期的なパスワード変更がなされていることを担保しなくてはなりません。
このような細かいチェックが無数に存在します。監査法人様にお墨付きを頂けるようしっかりと全チェックリストに合格しないといけません。
また、コロナの感染が広がり始めた時の自粛ポリス的な立場である「取り巻き」部署の取り締まりに対応することが多くなります。監査法人とのカウンターとなる部署が新設されたり、財務経理や総務の一部隊として「取り巻き」パトロール舞台が編成されたりします。
直接的に監査法人と対峙することはまれ、かと思いますが、その代わりにこの取り巻き部隊から指摘を受けます。
「上場前にはやらないといけないな、ちゃんとしないといけないな」と思っていたけど手が回っていなかったようなことがまさに義務付けられ、監査法人に監督されてしまうというようなことが様々発生します。
今では個人でも当たり前に行っている廃棄前やリース返却前のハードディスクの消去徹底もそれに当たります。
もちろん、リース資産の管理も徹底されていないといけません。社員に貸与するノートPCにも管理ナンバーを割り振って、誰が使用しているかも管理する必要があります。ログインIDのアカウント管理であればシステム的にスマートにこなすところ、意外にこのPC管理の作業がアナログで負担になったりするものです。
当たり前の事で、ちゃんとやっておくべきことだと情シスの誰しも重々頭では承知していますが、「そこまで細かいことの徹底度合いをわざわざチェックされるのか」と辟易することは上場を目指し始めた時から始まる運命です。
セキュリティ周り、といえば格好よくも聞こえますが、どちらかと言うと手付かずで先送りしていたベタベタのアナログ管理系について、情シスが非上場から上場となる際に結構細かく対応しないといけない部類です。
資産価値を実際の価値に合わせるという会計処理、減損ルールの適用が忍び寄ってくる
事業会社の情シスなどで実務をされている方にはベーシックな内容ですが、情報システムにまつわる会計処理についてもお話ししたいと思います。
情報システムの資産計上について、特にスクラッチ開発したものが分かりやすいですが、要件定義から、詳細設計、製造、内結外結、テスト、リリース、の一連の流れでSEやプログラマー、PM、PLなどの総工数分の人月分の支払金額がそのシステムの総投資金額となることはイメージされやすいかと思います。
そのシステムの資産計上ですが、請負契約の場合のオーソドックスな処理でいくと、発注側が受入テストを行って不具合も潰した上で検収し代金を支払った際に発注側のBSに無形固定資産として資産計上を行います。
実際にシステムを利用する前であれば建設仮勘定に計上しておいて、実際に利用し始めた月から適当な償却期間、5年なら5年で60ヵ月の償却をスタートさせていきます。月の償却分は経費として計上し、その無形固定資産の価値が徐々に減っていく、という流れです。
あるあるの話ですが、情報システムのプロジェクトのいくつかは途中で頓挫してしまうものも実際ある話です。例えば要件定義は終わったけど実際に詳細設計や製造に進まない、また製造まで進んだけれども、現場の業務要件が大きく漏れていて業務とGAPがあり、テストに入る前でプロジェクト打ち切りといった場合です。
当然ながらプロジェクトが中止となっても開発に携わったベンダーには人月分の支払いを行いますが、その投資金額分の中途半端なままのシステムの無形固定資産も同時に発生し、使えないまま、使わないままBSに建設仮勘定に計上したまま、未償却で何年も先送る状態となります。
決算に余裕があるときに、もう使わないと意を決してそのシステムを捨てる、そのシステムの無形固定資産分を一気に除却するという会計処理を行い、BSを軽くするといったことが行われます。
非上場の時は、社内でCFO的なポジションの役員と情シスで決めて自由なタイミングで除却したり、赤を出す余裕がない時は先送ったりと、ある程度自由裁量がありました。上場後ではシステムの除却のルールも、非上場までとは少し勝手が異なるようです。
ここにも監査法人の影がチラついてきます。資産価値を実際の価値に合わせるという会計処理、減損ルールの適用が忍び寄ってきます。使っていない資産イコール、使えない資産、すなわち価値がない資産を帳簿上で価値があると計上し続けていることに指摘が入ります。
赤を出さずに先送るにはなんだかんだと言い訳して、頓挫したプロジェクトでも再開の見込みがあると伝えて、監査法人またはその取り巻きに具体的に説明する必要があります。このように情シスのいわゆる暗部にも監査法人のメスが入ってくるところが大きく上場非上場の違いとなって現れてきます。
受発注まわりは入念に、不完全であると「不正の温床」となってしまうことが懸念される
情シスで対応すべき、もしくは業務推進部など現場業務を所轄するようなセクションと共闘して立ち向かわないといけない最大のものとして、不正取引への対応があります。上場後に引き起こしては絶対にマズいもののひとつです。
受注や発注、商品の移動、お金のやり取りの記録がシステムに履歴として、きっちり整合をとった上で矛盾なく、もれなく捕捉しておくことが重要です。これが不完全であると不正の温床、となってしまうことが懸念されます。
また社員の誰が関与した取引なのか、また承認プロセスはどうであったかなどワークフロー的なシステムとの連携がなされることも推奨されます。
上場を機に業務点検するべきマストな内容でもあり、また基幹系システムの刷新時にはできていない部分があれば、受発注や商品移動の記録や承認プロセスのあたりのカバーをしておくべきです。
粉飾決算のもととなる売上や資産の水増しで利益を大きく見せるというのが常套手段ではありますが、複数社間での架空取引、循環取引などでぐるぐると帳簿上だけで取引を回し、売上を過大に見せる手法などが典型例です。
循環取引の場合も、実際に商品を動かさなかったり、倉庫に商品を隠したりといったところから発覚することも多いので、システム上で商品移動を伴わない売上計上を出来ないようにすることや、システムを介さずには何も出来なくしてしまう、という業務とシステムのルール整備が必要です。
システムでカバーできない期間はどのように統制管理するかなど、業務を所轄する業務推進部などでそのフローを練り、かつ情シスと連携して半アナログでも記録、けん制できる仕組みを作ることが非常に重要です。
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>情報システム部・業務推進部へのキャリアに関する記事
【実話】SIerのSE・PMから情シスやDX推進部への「転職後のよくある落とし穴」と「対策」
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/sepmcareerchangetips
【情シスあるある】マネージャーが抱える「よくある悩み」と「解決策」
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/informationsystems_commonthings
業務推進部とは?【仕事内容・役割・必要なスキル/英語力】を解説
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/businessdevelopmentworks
「DX推進」人材とは?【フェーズ毎に求められるスキル・経験】
https://www.axc.ne.jp/media/change-jobs-knowhow/dx-capability
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このように、上場することで市場からの資金調達が容易になる、という一方でさまざまな管理コストの増大もあるのが実情です。
特に情シスでは内部の統制管理という点で出番が増えてしまうことでしょう。会計システムが出す数字が正しいとか正しくないという点というよりも、正しい企業活動のもとで行われた結果数値である、という保証に情報システムが機能しているかどうか、という点に力点が置かれると理解するのがベターです。
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