M&Aにおける交渉のポイントを内容や事例とともに解説

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今回は、M&Aにおける交渉のポイントについて解説していきます。M&Aの現場ではバリュエーションのみならず、弁護士やバンカーを通じて多くの交渉が、契約書のサインに至るまでに行われます。

【目次】

    1. M&Aの交渉内容
    2. M&A交渉時の注意点と心構え
    3. 実際のM&Aの交渉における成功例と失敗例
    4. M&Aの交渉を成功させるために必要なこと

M&Aの交渉内容

M&Aの局面では買い手と売り手の双方で買収価格の合意と契約書に関するタームシートの完成、そして契約書のサインが求められます。

問題なのは、これらの契約書の構成が迷路のように入り組んでいる上に、M&Aの交渉プロセスは投資銀行のプロや弁護士がリードするものなので、外から見て分からないことが多いという点です。

交渉は単に、買収価格の合意を取り付けるプロセスと誤解されがちですが、実際には違います。
最終的な契約の交渉で発生する法的枠組みは、交渉プロセスの構造的な土台を作るもので、主に4つの目的を果たすように交渉が進みます。

(1)当事者間のビジネス理解を詳細な法律用語で記載

(2)買収に関するリスクを配分

(3)価格調整

(4)ディールがうまくいかなかった場合に各当事者にもたらされる結果を定める

法的枠組みは主に2つのフェーズに分けることができます。第1フェーズは、意向表明書(意向表明書)(タームシートまたは覚書とも呼ばれる)を包含し、第2フェーズは、確定契約(DA)と、交渉プロセスを導くための事実(財務含む)を調べるデュー・デリジェンス・プロセスを含みます。

意向表明書提出に到達する前に、売り手・買い手双方が示すべきことは、潜在的な取引がそれぞれの戦略目標に合致しているという確信と、経営陣同士の相性の良し悪しだけです。(多くはプロセスの序盤に行われます)

意向表明書の目的は、取引の主要条件(価格、支払い形態、ストラクチャー)を定めることです。また、双方の理解を確認し、取引へのコミットメントを表明する手段としても機能しています。

M&A実務家の中には、時間とコストの節約を理由に、このフェーズをスキップして直接フェーズⅡに移行することを選択するケースもありますが、本来であればデュー・デリジェンスの実施と最終契約の交渉という長くてコストのかかるプロセスに飛び込む前に、主要条件について合意があることを確認するために、時間と労力をかけて意向表明書を起草し、交渉することを推奨されます。

意向表明書がどのように交渉されるかは、買い手と売り手にとって重要な結果をもたらします。特に、売り手は、実質的な経済価値よりも高い金額で売りたいというインセンティブがある一方、買い手はDDで価値の減額要因になる点も考えつつM&A取引から去ることもあるかもしれません。

このようなことが起きるとディールが破談になるので、M&A当事者は意向表明書の交渉と起草について、専門家の助言を求めるべきでしょう。なお意向表明書にはバリュエーションの前提になる事項や、運転資本やデットの前提になる事項を、添付書類で記載していることもあります。

M&A交渉のポイント

交渉力を高めるために取引の様々な段階で交渉レバレッジを利用することは、専門家のアドバイスがいかに効果的な交渉を保証するかを示すことになります。

意向表明書の交渉で重要なポイントは、M&A取引サイクルが進むにつれて交渉力がどのように変化するかを理解することです。
売り手は、意向表明書が交渉されているときに最大のレバレッジを発揮し、その時点からディールサイクルにおいて売り手のレバレッジは低下し、買い手のレバレッジは上昇することになります。

意向表明書が締結された後は、通常、売り手は1社(多くても2社)の買い手と独占交渉を行うことになります。そのため前述のプロセスにおける競争的環境がソフトになります。

さらに、時間の経過に伴い、次のような状況が一つ以上発生する可能性があります。

例えば、
(1) 意向表明書の内容や条件が漏れたり、いくつかの複雑な事態が生じたりする可能性がある
(例えば、従業員が神経質になり、他の買い手企業を探し始める可能性。顧客が新しいオーナーが価格を上げるのではないか、同じレベルのサービスを提供できないのではないかと不安になり、他のプロバイダーを探すようになるかもしれない)
(2)売り手が売却のアイデアに感情的になり、売却代金の使い道や投資方法を考え始めたり、オーナー経営者であれば他の活動(引退を含む)に移ったりする可能性がある

こうした状況はすべて、意向表明書締結後に買い手からの要求に抵抗することが難しくなるため、売り手の影響力を低下させディールブレークのリスクを高めることになります。

M&Aの交渉におけるアドバイザーの価値

M&A実務家は、交渉プロセスの各段階において、どのように交渉レバレッジが変化するかについて独自の洞察力を持っています。例えば投資銀行はこれまでクローズした案件に関して交渉上の論点やポイント、スムーズにエグゼキューションを進めるためのノウハウを蓄積しているので、クロスボーダー案件を行う際に投資銀行ならではのナレッジやアドバイスを提供してくれることが期待されます。弁護士もプライベートエクイティ案件やクロスボーダー案件など、それぞれの分野に強みのあるプロがいるため、弁護士起用の際の参考になります。

事業会社やファンドの立場としては上記のプロフェッショナルを起用し、最良の結果を得るためにその洞察力を活用するのが良いでしょう。例えば、買い手は、意向表明書を短く、より一般的なものにし、重要事項の交渉を、自分たちのレバレッジ・レベルが高まる確定契約の段階に先送りするよう試みる等です。
逆に売り手は、意向表明書を可能な限り詳細かつ包括的なものにし、最適な交渉ポジションをプロセスの早期から活用できるようにすべき等です。

ほとんどの場合、拘束力のない意向表明書とは対照的に、確定契約には拘束力があり、取引の完了に関連するすべての詳細が定められています。

なお確定契約(DAといいます)は、

(1)追加情報を入手し、リスク・エクスポージャーを配分するのに役立つ

(2)取引中および取引後の当事者の行動を形成する

という2つの重要な目的を果たします。

M&Aの交渉における契約書に関して

情報の開示とリスクの配分:表明保証(または「レップ」)は、対象企業に関する事実の表明であり、保証(または「ワラント」)は、売り手が開示した事実が真実であることを約束するものです。交渉の場面ではレプワラともいわれます。

第一に、デュー・デリジェンスをいくら行っても企業に関する全ての情報を明らかにすることはできないことを認識した上で、企業に関する追加情報を提供することが重視されます。売り手は、買い手がデュー・デリジェンスの目的で依拠できるような、会社に関する記述的な陳述を求められることもあります。

第二に、デュー・デリジェンスは、企業価値を低下させる可能性のある既知または未知の事情のリスクを、当事者間で分散させることが必要です。
例えば、典型的な表現として、売り手には係争中の訴訟はないというものがあります。
これは、このネガティブな出来事、すなわち係争中の訴訟のリスクを売り手に転嫁するものです。なぜなら、取引完了後に買い手が実際に係争中の訴訟があったことを発見した場合、買い手は損害賠償を請求し、購入価格の一部または全部を回収する法的根拠を有するからです。

調印からクロージングまでの間の行動の形成:誓約事項(コベナンツ)

これは通常、調印からクロージングまでの間の会社とその経営陣の行動について言及するものです。
この期間は複雑です。というのも、一方では買い手は(クロージング条件が満たされない限り)クロージングする法的義務を負いますが、他方では買い手はまだ会社を所有していないからです。その結果、買い手と売り手は、この期間中の会社の運営を規定する一連の誓約書に合意することが求められます。

M&A交渉時の注意点と心構え

M&Aの交渉理論は長年にわたって発展してきました。アメリカでは特にそれらが顕著です。
最初の学派は、1979年にハーバード交渉プロジェクトが結成されたことに始まります。

ハーバード交渉では、交渉に関する理論での中心的な前提は、「感情的な脳は、より合理的で共同的な問題解決の4つの考え方によって克服できる」と提唱しています。

(1)人の基本的な衝動を問題から切り離す
(2)相手の立場ではなく、相手の関心に焦点を当てる
(3)行動を決定する前にさまざまな可能性を考え出す
(4)結果は客観的基準によるべきことを強調する

これらの可能な解決策を評価するための合意基準を確立するというアプローチが有効です。これらはM&Aだけでなく、日常生活でも役立つノウハウでしょう。

M&A実務家は、私たちが「合理的な行為者」であることを前提とする必要があります。交渉プロセスでは、相手側が自分の立場を最大化しようとして合理的かつ利己的に行動していると仮定し、「さまざまなシナリオでどのように対応すれば自分の価値を最大化できるかを考えること」が目標とされます。投資銀行のバンカーは、交渉の矢面に立ちバリューを出す重要な存在です。

では、交渉の相手が「不合理な獣」のように感じられた場合、いったいどうすればいいのでしょうか?
この場合では、相手があなたの要求を受け入れる確率を高めるために、否定的な基本的衝動を中和し、肯定的な衝動を活用することを主な目的とし、相手の習慣的傾向を観察し理解することが求められます。行動を予測することは難しいものの、習慣は非常に予測しやすいからです。また交渉の最初の数日間、相手の習慣的傾向を観察し、この洞察を有利に活用できるようにするのも一案です。

交渉のプロセスでは最初の条件やその後の変更に対して、相手がどう反応し、どう反論するかを観察することが重要です。これこそ、本当に重要なこと、つまり相手のトレードオフに関する洞察を引き出す最善の方法です。例えば、ある案件の交渉が終盤に差し掛かった頃、デュー・デリジェンスを通じて、ターゲット企業の重要な収益源であり、かつ我々の予測の重要な構成要素がリスクにさらされていることが判明したらどうしたらいいでしょうか?

この新しい情報を武器に我々は対象会社の買収価格を引き下げることを伝えるのが定石でしょう。売り手やターゲットは理解してくれたものの買収価格のどの要素に柔軟性があるのかについては何も示してくれなかったとします。
その結果、我々は売り手やターゲットが価格交渉の柔軟性を持ちうる要素にたどり着くまで、1つずつ根気強く交渉する必要があります。
提案とカウンターを提示するための形式とチャネルを注意深く検討することは大事です。提案の提示方法は、それがどのように受け取られるかに重要な影響を及ぼします。

同じ例で言えば、買収価格を引き下げるという知らせをターゲット企業に伝えるために、どのような形式とチャネルを使うべきかを慎重に考える必要があります。まず、「面子を保つ」ために、グループではなく、リード・ネゴシエーターにプライベートで会ってもらうことにするなどは有効です。

形式的には、「会話の冒頭でディール中に発見したことを詳しく説明し、対象会社のキャッシュフローがより不確実になった。価格はそのままでいいのだろうか?」という揺り動かしです。一見たとえ理不尽な要求であっても、即座に「ノー」とは言わず、「私に何ができるか考えさせてください」と言い換えることもテクニックの一つです。

M&Aのような長い交渉プロセスでは、信頼感と共感を築くことが不可欠です。この場合、基本的な衝動は、人間は話を聞いてもらい、受け入れてもらえると感じたいという普遍的に当てはまる前提を利用します。
この戦術は、売り手もしくは買い手が物事をうまく進めることに全力を尽くしていること、そして相手の立場に立って物事を理解することを、相手の脳に感情的に刻み込むという点でかなり効きます。
難しく見えるM&Aの交渉現場でも、結局は人間の感情を利用したテクニックを多用することが有効でしょう。

実際のM&Aの交渉における成功例と失敗例

実際の交渉の例はバンカーや弁護士しか知り得ない情報ですが、キャリアコンサルタントとして知り合った方の体験談として、以下があります。

M&A交渉の成功例

人気のないアセットをどうしても売りたい顧客がいました。アセットの性質的に同業他社への売却以外は考えられませんでしたが、興味を示す先をなんとかして見つけます。幸いその買い手はかなり意欲的でどうしてもその会社を買収したいというスタンスでした。
そのため売り手は、交渉上の優位性を維持するべく、限定的に買い手候補にアプローチしつつ競争環境を醸成し、結果的に高い価格を引き出すことに成功。
契約書の交渉もハイピッチで進み、こちらの希望売却価格を飲み込み無事にクローズしました。

M&A交渉の失敗例

ある企業を売却したい会社がありましたが、M&A経験のない人ばかりでした。売却希望価格も特にないということでしたが、DDが終わり、契約書の交渉に差し掛かったときに担当者の変更があったそうです。
その担当者は今までの経緯を理解せず、売却価格の下限を急に意識し始め、結果として買い手が出してきた価格に満足せずディール中止となりました。

M&Aの交渉を成功させるために必要なこと

交渉を成功させるにはアドバイザーや弁護士と、プリンシパルである売り手や買い手の会社の連携が不可欠です。事業会社の人でも全くM&Aの交渉が分からない状況では、ディールも進みません。
事業会社側に決めてもらう交渉事項も多く、スタンスやポジションがないと膠着してしまうこともあります。

他にもアドバイザーとして起用する投資銀行や弁護士も経験豊富なメンバーが必須です。投資銀行が交渉時にバリューを発揮するのは価格交渉ですが、運転資本の調整や契約書に記載されているデットの範囲等を売り手と買い手の間で合意するなどのテクニカルな論点も頻繁にあります。

これらの会計や財務が絡む交渉事項は財務DDを行った会計士等の協力も必要なので、ファイナンシャルアドバイザーである投資銀行と会計士が緊密に連携して最適なポジションを提案するのも重要です。

相手方と交渉が上手くいかないときは、先ほど紹介したような、感情に訴えかけるアプローチも有効でしょう。

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>キャリアにおいてM&Aに関わる可能性がある人に向けた解説記事

M&Aアドバイザリーとは?仕事内容・年収・スキルまで解説【保存版】
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/MAAdvisory

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今回の記事では、M&Aにおける交渉のポイントについてお伝えしました。

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