「N期」における「経営企画」のミッションとToDoリスト

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上場準備におけるN期とは、上場準備の最終段階で当該事業年度に上場することを計画している事業年度です。

経営企画部門には上場準備だけではなく、上場決定後や上場後を想定しながら事業を進めていくことが求められます。

今回はN期において、経営企画部門がどのような事業を進めていくのか解説します。

【目次】

  1. N期の概要
  2. N期の経営企画のミッション・役割
  3. N期の経営企画の仕事リスト(ToDo)
  4. N期によくある失敗事例・注意事項

N期の概要

まずN期の概要として、どのような事業を進めていかなければならないのかを確認してみます。

上場審査対応

最重要事項は「上場を想定している証券取引所に対する審査」です。

多くの企業が上場するのは、かつてはマザーズ、現在はグロース市場がある東京証券取引所が想定されますが、それ以外にも札幌、名古屋、福岡にも証券取引所があります。

新興市場では、札幌はアンビシャス、名古屋はネクスト、福岡はQボードとそれぞれ上場区分があります。

ベンチャー・スタートアップ企業の多くは東証グロース市場への上場を目指しますが、地域特性や上場のしやすさ等を考慮し、他の証券取引所を選択することも考えられるでしょう。

ただし、株式の流動性という点では東証が一番高く、売買が活発に行われる傾向があります。

上場に備えた社内整備

N-1までの上場準備のための社内管理体制から、経理における決算開示や機関投資家に対するIR、取締役会運営におけるコーポレートガバナンスの強化等、上場企業としての社内管理体制の整備が必要となります。

上場準備の段階でこれらを運営していく組織体制が固まってきているため、N期においては運営が実施されている前提となっていますが、N期以降は主幹事証券に指摘されなくても、自ら継続的に回していくことが必要です。

上場承認後の対応

N期においては、具体的にいうと上場後の対応も含まれることとなります。

上場日においては、「東京証券取引所グロース市場への上場に伴う当社決算情報等のお知らせ」という、適時開示情報を必ず出すこととなります。

決算開示の場合は、経理における四半期決算の締め作業や、その後の決算短信等の開示の準備、適時開示事項のタイムリーな準備等、社内の一連のチェックフローも重要になってくるでしょう。

とりわけ決算短信を開示する前においては、取締役会の決議において決算を開示することとなり、取締役会における事前の準備や会計監査対応等、事前に対応すべき事項がこれまでと全く異なってきます。

N期の経営企画のミッション・役割

N期における経営企画部門のミッションや役割にはどのようなものがあるのか、確認していきます。

証券取引所審査への対応

まず、経営企画部門の一番のミッションとして挙げられるのが、上場承認のために証券取引所審査を通過することでしょう。

N-3期からの上場準備の中で、失敗は許されない最重要のミッションとも言えます。

証券取引所の審査官から、「上場させても問題ない」というお墨付きを貰わなければならないため、予行演習として実施した証券審査以上の丁寧さと迅速性、柔軟性が必要になってくると考えられます。

また、管理体制に不備がないかどうかの心証を与えるのも、経営企画部門の対応次第となります。

不備がないように、主幹事証券と綿密に打ち合わせをしながら審査対応に臨んでいく必要があるでしょう。

また不安な点がある場合は会社独自で判断せずに、ノウハウがある主幹事証券と十分に相談して資料を提出したり、質疑応答したりすることも重要です。

ただし、面談やヒアリング時は自ら回答しなければならないため、これまで対応してきたあらゆる情報を思い出し、洗い出して対応していくことが重要でしょう。

公募価格の検討

取引所審査が順調に進んでいくのと並行して、事前に上場した段階で、いくらぐらいで自社株を売り出すかの公募価格を検討しなければなりません。

まず仮条件を決定することとなりますが、主幹事証券とともに業績や事業内容、類似企業のマルチプル、さらに機関投資家の意見等を踏まえて判断します。

上場承認後のロードショーやブックビルディング期間を経て、需給等により公開価格が決定されます。

上場前後の流れは決まっているため、経営企画部門としては主幹事証券からまとめられた公募価格についての妥当性を確認する役割を担います。

N期の経営企画の仕事リスト(ToDo)

N期においては、経営企画部門として上場申請の資料作成とともに、上場承認後の業務が入ってくることとなります。

具体的にこの段階で対応していくと考えられる業務について紹介します。

上場申請書類の作成

経営企画部門が上場準備の一連の業務をやる場合において、最終的な業務になってきますが、有価証券届出書や目論見書の作成とともに、これらの提出や配布等が出てくることとなります。

さらに、提出までの時間が比較的タイトなことやカラー印刷で冊子化する必要があることから、スピーディな準備が必要になってきます。

また、有価証券届出書の提出に関する、管轄する財務局への事前相談も行っておかなければなりません。

有価証券届出書については、ブックビルディング実施後の発行価格の決定時に訂正届出書として提出するため、対応が必要になるでしょう。

株式売出しに関するプレマーケティング

公募価格の目途が立った段階で、今後のブックビルディングに向けてのプレマーケティングを行っていきます。

プレマーケティングとは、上場する企業が機関投資家に対するロードショーを行うことで、主幹事証券会社が価格の妥当性や、申込予定数に対してヒアリングを行うことです。

またブックビルディングとは、株式を引き受けてくれる機関投資家等に対する需要を把握することで、マーケットにあった公募価格を決定するプロセスのことです。

上場会社としては、上場時の需給を見極めることによって、ある程度の初値に落ち着くことが重要でしょう。

特に上場時に新株発行を行う場合は、調達額に影響するとともに、出資先VCの売りが想定される場合は、売り注文により大きく下落することから始まってしまうことも考えられます。

企業としては、既存株主の出口戦略にも配慮しながらも、新たな株主に対する需要に応えていく必要があり、プレマーケティングを行うことは重要なプロセスであると言えます。

IR対応の準備

上場前は機関投資家に対するプレマーケティング的な位置づけでしたが、上場後はIR対応となります。

経営企画部門がIRを直接実施する場合と、広報IR部門として経営企画部門ではない別の部門が対応することも想定されます。

どちらの場合においても、会社の今後の戦略や事業計画を伝えていく重要事項であることから、IR資料の作成や作成サポート、チェック等は経営企画部門の役割と言えるでしょう。

また、機関投資家との1on1ミーティングへの出席や、問い合わせ対応についても、担当部署によりますが直接的、間接的に関わっていくこととなります。

とりわけ社長が投資家とのミーティングに出席する場合は、戦略面や数値面に関するヒアリングが多いことから、同席することも多くなるでしょう。

N期によくある失敗事例・注意事項

とりわけN期において失敗すると上場準備において致命傷を被りかねないため、慎重を期して臨む必要があります。

以下、失敗や注意事項を確認しておきます。

上場審査に通過できない

3〜4年の間、上場準備してきた中で非常に残念な結果ですが、実際には考えられる事例でしょう。

レポート「JPX 自主規制法人の年次報告 2022」によると、2021年度において、192銘柄の株券の審査を実施したと記載されています。

すなわち、192社の新規上場申請が東証に対して行われたということとなります。

その中に「上場審査結果の状況」という記載もあり、2021年度の東証において新規上場が行われた銘柄が160銘柄とのことです。

2021年度は32社が上場承認を得られなかったということで、承認率は約83%となります。

主幹事証券の審査を経て、満を持して東証に上場申請をしたものの、なんらかの理由で上場できない企業が存在するということになります。

形式要件と実質審査基準

ベンチャーが目指すグロース市場の場合、形式基準には以下のようなものがあります。
・株主数150名以上
・上場時の見込流通株式1,000単位以上
・時価総額5億円以上
・流通株式比率25%以上

事業継続年数としては、1年以上前から取締役会を設置し、継続的に事業活動をしていること等が挙げられます。

また実質審査基準として、企業内容、リスク情報等の開示の適正性、企業経営の健全性、企業のコーポレートガバナンス及び内部管理体制の有効性、事業計画の合理性等が求められます。

N-2期以降、これらの条件を満たすために、社内体制を構築していくのですが、実際に上場審査の段階でこれらの基準に照らして細かく審査されることとなります。

証券審査はクリアしたものの、取引所による上場審査をクリアできないことがあるため、前述のような上場承認が得られない可能性も出てくるでしょう。

証券取引所の審査次第ですが、経営企画部門を含めた上場準備プロジェクトにおいては、取引所が質問をしてくる、想定される全てのことについてクリアにしていく必要があることは言うまでもありません。

上場承認後の上場延期

取引所から上場承認を得たものの、その間においてとりわけ実質審査基準において再検討すべき課題が出た場合には、上場を一旦取りやめる、もしくは延期することもあります。

市場環境の変化が急激に出てきていたり、株式市場全体が低迷して上場時のバリュエーションが適正に付かない可能性があったりする等で取りやめることも、場合によっては考えられます。

上場のためにやるべきことをやってきた経営企画部門としては、上場承認後の環境変化は打ち手がなく、難しい立場に立ちますが、仮にそうなった場合には改めて仕切り直しをして再出発することになるでしょう。

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>経営企画に関する記事

「上場を控えた」ベンチャー経営企画の役割と今入社するメリット
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経営企画部の仕事は本当に「花形」なのか?【生の声】
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申請期であるN期において、経営企画部門として対応すべき事項について紹介しました。

経営企画部門は、事前準備を含めてN-3期からN期まで丸4年程度は上場準備に関わるため、業務の大半はそこに割かれることとなります。

場合によっては上場準備室というプロジェクト編成も考えられますが、そのような場合であっても、経営企画部門は上場準備には必ず携わらなければなりません。

上場準備に関する一連の業務が学べるため、経験した方の中には上場準備の専門家として活躍される方が多いのも事実であり、非常に遣り甲斐のある業務と言えるでしょう。

上場を目指すベンチャー企業や、経営企画のキャリアをお考えの方は、ぜひアクシスコンサルティングにご相談ください。


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