投資家から集めた資金の価値向上を追求するファンドビジネスに魅力を感じて新卒入社や転職を目指す志望者は多数います。投資先企業の成長や再生に携われるPEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド)は、そのなかでも人気の事業のひとつといえるでしょう。
一方で、PEファンドと一見よく似たファンド形態に「バイアウトファンド」があります。転職志望者のなかには混同している方もいらっしゃるかもしれませんが、バイアウトファンドはPEファンドの一形態であり、バイアウトファンド=PEファンドではない点に注意しましょう。
今回の記事では、PEファンドとバイアウトファンドそれぞれの特徴や違いについて紹介します。違いを明確に知ることで、ご自身が最も活躍できるファンドを見つけるヒントを得られますので、具体的な志望先を絞り込むうえでの参考になさってください。
【目次】
- PEファンドとは資金投資で資産の拡大を目指すファンド
- バイアウトファンドとは企業の株式を売却して収益を作るファンド
- 転職ではどのファンドを志望すべき?①スキルセットで考える
- 転職ではどのファンドを志望すべき?②キャリア志向から考える
- PEファンドとバイアウトファンドそれぞれの特性を見極めて転職先を検討しよう
PEファンドとは資金投資で資産の拡大を目指すファンド
PEファンドとは、投資家から集めた資金を「未公開株(未上場株)」へ投資して資産の拡大を目指すファンド全般が含まれます。「PE」とは「Private Equity(未上場株)」の略語です。
PEファンドの投資家・企業における役割
PEファンドの仕組みにおいては、投資先から収益が得られれば、運用者の報酬を差し引いたうえで、投資家に利益を還元します。日本で言えば東証などでリアルタイムに売買できる上場株式と異なり、未上場株は流動性が低く機関投資家といえどもアクセスする機会は限られているため、PEファンドは投資家に対して貴重な投資機会を提供しています。
一方で、まだ上場に至っていない企業は、信用力や実績の観点から資金調達手段が限定されがちです。資金調達が難しければ、事業を成長させるのも容易ではありません。PEファンドは、そのような成長が期待できる企業の資金調達先として重要な役割を果たしています。
PEファンドへの投資
PEファンドの投資家は、主に富裕層やプロの機関投資家です。一般の個人で投資する機会は限られています。上場株式のように日々売買できるものではないため、ファンド自体も投資信託のように柔軟に売買はできません。
ファンドの方針にもよりますが、あらかじめ定められた一定期間にわたって解約(売却)ができない設計になっているケースが多いです。成長期の企業がほとんどで、上場企業ほどは事業の安定性が確保されていない場合が多いため、上場株への投資よりリスクは高い傾向があります。
その分、M&Aによる売却やIPOなどのイグジットまで順調に完了すれば、高い利益を得られるチャンスがあるのも特徴です。
PEファンドの種類
本来は、未上場株式を主な投資先とするファンド全般を指すのがPEファンドです。大まかに分けて、未上場株に投資するファンドには次の3つがあります。
・ベンチャーキャピタル:創業期の企業に投資
・バイアウトファンド:成長期の企業に投資
・事業再生ファンド:不振に陥る企業を再生する目的で投資
今回の記事の主題でもある「バイアウトファンド」は、このようにPEファンドの一種とみなすことができます。一方で「バイアウトではないPEファンド」も存在するため、両者はイコールではありません。バイアウトファンドについては、次の見出しにて詳しく紹介していきます。
バイアウトファンドとは企業の株式を売却して収益を作るファンド
バイアウトファンドは、文字通り「バイアウト」を通じて投資するファンドのことを指します。
バイアウトとは、投資先企業をファンドで買収して経営権を持つことです。資本取引の実務上は、その企業が発行する株式の過半数を取得することにより成立します。
バイアウトファンドでは、ファンドの運用者がしばしば役員や経営トップとなって、買収先企業の経営をリードします。事業が拡大して市場価値が向上したタイミングで企業の株式を売却もしくはIPOによりイグジットして、実現した収益を投資家に還元するのが基本的なビジネスモデルです。
買収先は未公開株なので、バイアウトファンドもPEファンドの一種であることは確かですが、PEファンドの全てがバイアウトを通じて投資するとは限らないため、PEファンド=バイアウトファンドではありません。
成長期にある企業が基本的なターゲット
バイアウトファンドの典型的なターゲットは成長期にある未上場企業を支援して、上場やM&Aによる買収、ほかのファンドや投資家への売却を目指す手法です。
投資先を選定する担当者やファンドの方針にもよりますが、事業基盤はある程度構築され、黒字化を達成済みもしくは達成の目処がかなり立っている状態の企業へ投資するケースが多いと言えます。
より黎明期の企業に投資するベンチャーキャピタルは、まだ事業の不確実性が高く、さらに経営者自身が会社をコントロールしていきたいという意志を持つケースが多いため、出資比率はバイアウトファンドと比べて低い傾向があります。
企業再生ファンドについては、状況によりバイアウトの仕組みを取り入れて事業再生の専門家が経営に乗り出すケースも少なくありません。
しかし、バイアウトはあくまで投資戦略のひとつという位置付けであるため、事業再生ファンドをバイアウトファンドの一種と捉えることは少ないでしょう。(そもそも、事業再生ファンドの投資先の基本的な定義は「経営不振に陥っている企業」なので、上場企業を支援する例もあります)
転職ではどのファンドを志望すべき?①スキルセットで考える
ファンドの違いを紹介したものの「自分はどのタイプに向いているのか?」と疑問に思う方も多いでしょう。まずスキルセットや経験の面から、PEファンドのうちどのファンドに向いているのかを考えてみましょう。
なお、どのファンドも求められるスキルセットに極端な違いはありません。現在のスキルセットだけでなく、この後紹介するキャリアプランやニーズも踏まえたうえで、志望するファンドの形態を考えてみてください。
ベンチャーキャピタルと相性の良いスキルセット・経験
ベンチャーキャピタルは、次のような業務経験者に相性が良いと考えられます。
・投資銀行(ファイナンス・M&A)
・FAS
・戦略コンサルティングファーム
・総合コンサルティングファーム
ベンチャーキャピタルでは、企業経営はあくまで起業家に任せて、ファンドは大口投資家として経営を支援する立場です。ファンドとしては黎明期ながら将来有望な企業を選定して価値を評価し、適切な価格で投資をしたり将来の期待収益率とリスクを判定したりする分析が重要となります。
この辺りは、資産価値評価を行うFAS、債券・株式やその他ストラクチャードファイナンス系の経験と相性が良いと言えます。また、大口投資家として経営に関するサポートやアドバイスは行うため、戦略コンサルティングファームからの転職もチャンスのあるファンド形態といえるでしょう。
同様に、総合コンサルティングファームでの経験も有効です。特に、事業支援や業務効率化、DXなどの経験があれば投資先の価値向上を支援するうえで役立つでしょう。
バイアウトファンドと相性が良いスキルセット・経験
投資先の経営に参画するバイアウトファンドと相性が良いのは、次のようなキャリアの経験者です。
・投資銀行(M&A・IPO)
・事業会社の経営企画やIPO準備室
・戦略コンサルティングファームのうち経営支援やM&A関連のプロジェクト
バイアウトファンドでは、最終的なイグジット手法としてM&AかIPOを検討するケースが多いと言えます。投資銀行のキャリアを経由する場合は、いずれかのプロダクト経験者、もしくはRMとしてM&AやIPOディールの経験があれば有利と言えるでしょう。
そのほか、事業会社出身でも転職するチャンスが多分にあります。事業会社の中で企業経営の方向性を主導する経営企画は、投資先の経営に参画するときに経験を活かしやすいでしょう。また、企業サイドとしてIPO準備に携わった経験なども役立ちます。
戦略コンサルティングファームの場合は、企業の経営を支援するプロジェクトやM&Aに関わった経験があれば特に強みとなります。
事業再生ファンドと相性の良いスキルセット・経験
事業再生ファンドについては、次のようなスキルや経験が役に立つと期待できます。
・投資銀行(M&A・ファイナンス)
・戦略コンサルティングファーム(特に事業再生に関連するプロジェクト経験)
・総合コンサルティングファーム(特に事業再生に関連するプロジェクト経験)
事業再生においては、採算性の低い部門のM&Aによる売却や資産の流動化などが実行されるケースがしばしばあります。また、状況があまりに深刻であれば、本体が別の企業に買収される場合もあるでしょう。これらの資金調達戦略やM&Aの戦略を実行するうえでは、投資銀行の経験や実務スキルが役立ちます。
ただし、IPOは経営不振の環境下で実行するケースが想定されにくいため、バイアウトファンドやベンチャーキャピタルのほうが相性はよいでしょう。
コンサルティングファームについては、全般として強みを発揮するチャンスはありますが、特に事業再生に関連するプロジェクトに参画した経験があれば強みとなります。
戦略・総合問わず、不振企業の業績改善や業務効率化、不採算事業の整理などをゴールとしたプロジェクトは少なからず存在し、これらのプロジェクト経験があれば強みとなるでしょう。
転職ではどのファンドを志望すべき?②キャリア志向から考える
求められるスキル・経験については、ファンド間で大きな段差はなく、特にコンサル経験者であれば複数のファンドにチャレンジする余地がある方も多いでしょう。
そのため、経験やスキルセットに加えて自分のキャリア志向・ビジョンをふまえて検討するのも有効です。そこで、それぞれのファンドがどのような考え方にマッチしているのか整理しました。
ベンチャーキャピタルが向いている人
ベンチャーキャピタルが向いている人は、次のような方だと考えています。
・まだマイナーな技術や商品を世に広めたい人
・事業支援により高い当事者意識を持って取り組みたい人
・投資/資産運用の専門性を身に付けたい人
ベンチャー企業が手掛ける商品やサービスは、有望ながらまだ普及していないケースが多いです。こうした将来性のあるビジネス成長の加速をサポートしたいと考えている人は、ベンチャーキャピタルで有望な企業を支援するのが良いでしょう。
コンサルティングファームや投資銀行経験者では、より高い当事者意識を持って企業を支援したい、成長をサポートしたいと考える人もベンチャーキャピタルが適しています。ベンチャーキャピタルでは、投資家からの評価やファンドの報酬が投資先企業の業績に左右されるため、より投資先と同じ方向を向いて仕事ができます。
最後に、投資や資産運用としてのファンドビジネスでの専門性を高めたい人にもおすすめです。この後紹介するファンドは、投資先の買収がしばしば絡むため、資産運用より実務は事業経営に近い部分もあります。
ベンチャーキャピタルはあくまで経営は起業家に任せるため、ファンド運用者は投資先の価値評価や収益性分析などいわゆるファンド実務に近い業務の比重が多くなる傾向があります。
バイアウトファンドが向いている人
バイアウトファンドは次のような志向を持つ人に適しています。
・さまざまな事業への投資に携わりたい人
・自分の意思決定で投資先の成長を実現したい人
・企業経営のノウハウを身に付けたい人
ファンドにいる中でさまざまな事業への投資にチャレンジしたいなら、バイアウトファンドの方が適しています。バイアウトファンドは、一企業への投資期間がベンチャーキャピタルと比べると短めで、かつバラつきが少ない可能性があります。そのため、複数のファンドや投資に関わるチャンスは相対的に大きいでしょう。
参考:PE ファンド等による投資に関する実態調査 中小企業庁|経済産業省
バイアウトファンドでは、ファンド関係者が役員や経営者となって投資先の経営を行います。実質的に事業経営を行うのに近いことから、資産価値の向上というより、自らの意思決定で企業をリードしていきたい方に適しています。同様に、将来起業したい、経営者を目指したいなどの理由から、企業経営の経験・ノウハウを高めたい方にもおすすめです。
事業再生ファンドが向いている人
事業再生ファンドに向いている人は、次のような志向を持つ方です。
・危機的な企業をサポートするビジネスに興味がある人
・企業財務に関する経験・スキルを身に付けたい人
今回紹介しているほかのPEについては、基本的に企業の成長を加速させることを目的としているケースがほとんどです。一方で、事業再生ファンドは「厳しい状況に置かれた企業を支援する」のが主な目的となります。投資先企業の状況の違いをふまえて、自分にあったファンドを選びましょう。
また、企業財務について特に触れる機会が多い傾向があるのが、事業再生ファンドです。事業再生ファンドでは、財務分析をしたうえで、資産の整理・流動化や子会社の売却など、実際にファイナンス領域に絡む施策を積極的に実行します。
財務分析や財務戦略の分野で専門性を高めたいなら、事業再生ファンドが適しているでしょう。
PEファンドとバイアウトファンドそれぞれの特性を見極めて転職先を検討しよう
PEファンドといってもいくつか種類があり、バイアウトファンドのなかのひとつです。もし、いずれかのファンドビジネスに直結するスキルや経験がある場合には、その強みを活かして転職志望先を絞るのが得策でしょう。
一方で、いずれのファンドも求められる経験やスキルに大きな段差がありません。もし自分のキャリア志向をもとに特定のファンドに魅力を感じるのであれば、そのファンドにチャレンジするのも一つの方向性と言えるでしょう。
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>PEファンドへのキャリアに関する記事
PEファンドのマッピング|プライベート・エクイティ日本市場の最新業界実態を解説
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/private-equity-fund-mapping
PEファンド・VC・CVCの違い【ビジネスモデル・投資サイズ・採用要件など】
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/pefund_vc_cvc
“コンサル”と”PE・VCファンド”の違い【年収からキャリアパスまで】
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/consulfundcom
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今回の記事では、PEファンドとバイアウトファンドの違いや、転職でキャリアとして目指すうえで知っておきたい点についてお伝えしました。
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