今回の記事ではPEファンドのマネージャー(ディレクター、パートナー)クラスの日常業務を解説していきたいと思います。
今回は投資チームとバリューアップチームが分かれておらず、投資からバリューアップまで一貫して対応しているファンドを前提に記載をしていきます。
大きくわけて、下記の業務が年間を通じて発生しますが、業務のフェーズに応じて当然1日の時間配分は異なります。それぞれの項目ごとにどのような業務が発生するのか、説明をします。
【目次】
案件ソーシング
PEファンドの業務は集めたお金を投資してリターンを最大化することが目的ですが、投資対象が無ければファンドは運営できません。投資案件のソーシング活動は、PEファンドにおいては最重要業務であり、投資対象となり得る質の高い案件の獲得ができるプレイヤーが高く評価される傾向にあります。
多くのファンドでは、アソシエイトクラスを卒業しマネージャーに昇格(ファンドによってはアソシエイトクラスから)するとソーシングに関してノルマが与えられ、どのような案件の紹介を受けているか、週次で確認が行われます。当然、PEファンドやM&Aアドバイザーを経験していないプレイヤーにとっては、ソーシングルートそのものをゼロから開拓することになるケースが多いため、徐々に独自のルートを構築していくことが求められます。ソーシング手法はファンドによって異なりますが、事業承継案件であるならば、中堅・中小企業のオーナーに直接アプローチし、カーブアウト案件については上場会社へのアプローチが考えられます。一方、上記、中堅・中小企業や上場企業と既にネットワークを持っている銀行や証券会社を経由するケースや、近年ではM&A仲介会社が規模を拡大していることもあり、アプローチを直接ではなく、間接的に実施する方も多いです。ゆえに、日々、外部のM&Aプレイヤーとコンタクトをとりながら投資案件候補の紹介を待ち、アプローチを実施しながら、並行して他の投資業務や投資先管理を進めていく、という業務がマネージャークラスにとって一般的です。投資組み入れに追われている時期であれば、とにかく投資推進を進めるために、案件のソーシング活動に時間を割いていくことになります。
投資先候補の検討
案件のソーシング活動の結果、投資対象となり得る案件が獲得できた場合であっても、本当に投資ができるのか否か、1件1件丁寧に検討を実施していくことになります。ファンドによって異なりますが、投資採算がとれるか否か、バリュエーションや事業性、事業計画を丁寧に検討していくことになります。財務モデリングスキルを使ったプロジェクションの策定は、アソシエイトクラスの仕事であることが多いですが、マネージャークラスであってもメインで担当する場合の初期的な投資可否を判断するためにモデリングする事があります。上記に加えて、競合他社の調査や市場調査といった詳細なデューデリジェンス(DD)を実施するレベルの業務は求められないですが、本当に意向表明を入れられるか、時間軸やファンドの残高、投資スタンスと照らし合わせた検討がなされます。多くのケースでは、プロセスがタイトであることが多いため、常に流入してきた案件の検討を他の活動と同時並行で進めていることが多いです。
ディールのエグゼキューション
初期的な検討を経て、意向表明を提出し、1次選定がなされ、ディールがはじまる場合、まずはDDを実施することになります。ファンドによってDDの実施方法は異なりますが、外部の専門家をアサインすることが多いでしょうか。財務、税務、法務、ビジネス、労務、IT、環境などの案件に応じたDDが実施され、最終的に意向表明書で提示した価格通りに案件を進められるのか、そもそも投資できないリスクが顕在化されないかの詳細検討が行われます。このプロセスの先端で、マネージャークラスはDDのコントロールを実施することになります。ゆえに、外部の専門家を取りまとめながら、売り手とのコミュニケーションを図っていくことが求められますので、高度なプロジェクトマネジメント力が必要であると言えます。
DD実施後、最終意向表明として金額を入れた後、基本合意→株式譲渡契約へと進んでいきます。この局面でも法務の専門家(弁護士)と連携して業務を進めることになります。裏側ではLBOローンの組成も行わなければならず、大きなディールになればなるほど、参加するレンダーの数は増えていきますので、交渉が難航することが想定されます。また、メザニンファイナンスを使うケースも存在し、メザニンファンドをはじめとしたプレイヤーも登場します。各方面の複雑な交渉がなされてディールが成立していくため、PEファンドの業務の中でも最も忙しくなるシーンです。ディールが進み、DDを実施しはじめてからは多くの時間を本プロセスに1日の大半の時間を割くことになります。
投資先コントロール
無事投資実行がなされると、投資先のコントロール、即ち投資先のバリューアップ業務がスタートします。3年から5年ほど保有するケースが一般的で、他のソーシングや投資検討を行いながら、投資先のバリューアップ業務に取り組んでいくことになります。投資した最初の100日間などはバリューアップを重点的に実施すべく、ハンズオンにて会社の指揮命令系統の掌握に努めているファンドも多いと思いますので、業務の時間がバリューアップ業務に偏る傾向にあります。
特にマネージャークラス(ディレクターもしくはパートナー)の仕事は、Exitまでのプランニングと、100日プランの全体像の最終決定・現場への指示、加えて外部人材の招聘に向けた動きが中心になります。加えて、マネージャークラスは取締役へ就任するケースが多く、毎月の取締役会や経営会議には参加することが求められます。他の業務の合間を縫って並行して投資先のバリューアップ業務に取り組んでいきます。PEファンドのバリューアップ業務は大きな改善を前提に経営へ取り組むことになりますので、常に安定して会社が運営されていることは稀であり、対外的にも対内的にも問題が発生することが多く、とりわけ業績が悪化した場合には投資先のコントロールに時間を費やすことが多くなります。
特にマネージャークラスは、業務の細部に生じる問題というよりも、経営そのものにクリティカルな影響を与える可能性のある重要な論点の対応や相談業務が主となってきます。
Exit活動
投資先を3年から5年保有し、企業価値を高めた後、いよいよExit活動が開始されます。Exitのパターンとして、基本は他社への売却が一般的ですが、IPOとなれば成功と言えます。
売却活動は、ファンドごとに異なりますが、ファイナンシャルアドバイザーに頼って売却先を探すケースもあれば、自社で売却先をクローズドに探すケースもあります。Exit先の模索については、やはりチームを仕切っているマネージャークラスが窓口となって探すことになります。常にソーシング活動をしているPEファンドのマネージャークラスにとっては、投資先を探すことと並行して売却候補の情報を得て、打診していくケースも多く、ネットワーキング活動の重要性はExit活動においても非常に高いものと言えるでしょう。
また、売却候補先をマネージャークラスが見つけてきた後は、M&Aプロセスとなりますので、マネージャークラスがエグゼキューションでは最終的な売却先を選定するためにディールプロセスを整備した上で、アソシエイトクラスがDDプロセスを進めていくことになります。価格交渉をはじめとした株式譲渡契約の締結プロセス作業が発生しますが、当該業務も非常に重要であるため、常にマネージャークラスが交渉の意思決定に関与していくことになります。また、IPOによるExitは特殊なケースですが、証券会社対応、東証対応、監査法人対応などベンチャー企業でCFOを担当するケースと同様のプロセスが発生するため、非常に業務負荷が高まるもので、ファンドのポートフォリオにおいても目玉案件ともなるため、マネージャークラスの主体的な関与が求められます。
ファンドレイズ・出資者対応
最後に、PEファンドの資金そのものを集めて、運用する、という観点でお金を預かる出資者に向けた対応を担当するケースもあります。特にマネージャークラスの中でもパートナー職にある最上位の職位を主体としてファンドレイズの活動が行われます。本件については、ある程度の規模を誇るファンドではIR担当のようなミドルのポジションを用意しているファンドもありますし、小さなファンドでは投資担当者が兼務するケースもあります。当然、ファンドの資金が無くなれば新しいファンドの資金を集めなければファンドの経営が立ちいかなくなりますので、ファンドレイズのために金融機関をはじめ、出資者となり得るプレイヤーのもとをファンド設立の概要書を用意して資金集めに奔走する事となります。
当然、資金集めには、ファンドの中で責任を担っているキーマンを中心に説明に出向くことが重要であり、今後10年の各ファンドの経営や収益源の根幹にもなるため、マネージャークラスにとっては最も責任重大な業務であると言えます。また、無事資金が集まり、ファンドの設立が成った後も、投資の進捗や投資先の業績、回収状況を定期的に出資者へ報告する義務がPEファンドにはありますが、当然責任者からの直接の説明が求められる場面も多いため、本報告業務もマネージャークラスの重要業務であると言えます。
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>PEファンドへのキャリアに関する記事
FASからPEファンドに転職して活かせるスキル・キャッチアップが必要なスキルとは
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今回は、PEファンドのマネージャークラスの日常業務についてお伝えしました。いくつかの業務を並行して進めていく難易度の高いポジションであることは、どのファンドも共通するでしょうか。
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