今回は、プライベートエクイティファンド(PEファンド)におけるIRR(Internal Rate of Return/内部収益率)の計算方法やその基準、問題点などについて解説します。
【目次】
- プライベートエクイティファンド(PEファンド)におけるリターンの基準
- IRR(内部収益率)とは
- IRRの計算方法
- プライベートエクイティファンド(PEファンド)におけるIRRの基準:ネットIRRとグロスIRR
- LPの目線
- プライベートエクイティファンド(PEファンド)におけるIRRの問題点
- まとめ
プライベートエクイティファンド(PEファンド)におけるリターンの基準
一般的にプライベートエクイティファンドの投資期間は3年後ないし5年後です。もちろんこの期間を上回って投資先の企業を保有するプライベートエクイティファンドも多くありますが、3年後ないし5年後のエグジット時点(株式公開もしくは第三者への売却)の際に株式価値が2倍から3倍になっていれば当初期待したリターンが出せていることになり、IRRでいえば15%から25%の水準になります。また5年でIRR20%、キャッシュマルチプルで2.5xというのはプライベートエクイティファンドにとって一つの目安です。
上記の投資期間はあくまでも参考値で、中々エグジットできない場合には投資期間は5年を超えて7年ほどになることもありますし、投資期間が長くなればなるほどIRRは下がります。
従って計算上は短期間に企業価値が向上するような投資案件の方が高いIRRを期待できます。なお、買収したものの当初思い描いていたような企業のバリューアップシナリオを実現できず、早期に売却した方が良いと判断する場合には、買収してから1~2年ですぐにエグジットをすすめリターンを確保するようなファンドもあります。
IRR(内部収益率)とは
IRRは、「負のキャッシュ・フローの正味現在価値が、正のキャッシュ・フローの正味現在価値と等しくなる率」です。つまり投資額=将来の正のキャッシュ・フローの現在価値になるような割引率を言います。
IRRはパーセンテージで表され、数値が高いほど良い投資であることを意味します。プライベートエクイティファンドがIRRを計算することは、投資家がファンドのパフォーマンスを判断するのに役立ちます。
同じような種類の投資ポートフォリオを保有し、同じ投資戦略を使用しているファンドがある場合には手数料が低い方を検討するのが賢明ですが、あるファンドが他のファンドよりも優れていることを証明するには両方のファンドのIRR を計算することによって判断できます。
IRRの計算方法
内部収益率 (IRR) 指標は、投資がもたらす年間収益率を推定します。株式投資における投資利回りのようなものと思ってもらえれば良いです。
投資家がリターンを測定するために追跡する別の指標であるマネーマルチプル(MoM)とは異なり、IRR は「時間加重」の投資収益率と見なされます。IRRが高ければ高いほど、他のすべてが同じ条件で実行された場合、潜在的な投資の収益性が高くなる可能性があり、IRR計算は次の手順を踏みます
ステップ 1 →将来価値 (FV)を現在価値(PV)で割る
ステップ 2 → 期間数の逆乗 (1 ÷ n) を乗じる
ステップ 3 → 得られた数値から 1 を引く
つまり、
内部収益率 (IRR) = (将来価値 ÷ 現在価値)^(1 ÷ 期間数) – 1
概念的には、IRR は、プロジェクトまたは投資のNPVがゼロに等しい収益率と考えることができます。上記の式以外にもエクセルではXIRR関数を使用してIRRを計算することが多いです。
XIRR関数は柔軟性があり、IRR関数よりも適しています。なぜならIRR関数の欠点は、Excelの各セルが正確に12か月で区切られていると想定していることですが、実際には必ずしもそうではないからです。
XIRR関数では複利が想定され実効年率が返されます。一方でIRR関数の場合には等間隔のキャッシュ・フローストリームを想定して利率が計算され、XIRR関数は各キャッシュの流入と流出のタイミング(つまり、複数のキャッシュ・フローのボラティリティ)を考慮する必要がある複雑なシナリオを処理できるというメリットがあります。
プライベートエクイティファンド(PEファンド)におけるIRRの基準:ネットIRRとグロスIRR
ネットIRR(Net IRR)は、手数料とコストを考慮した後のリターンです。
Gross IRR は、手数料やコストを考慮していない、投資のリターンです。グロス IRR は常にネット IRR よりも高くなります。
まれに、ベンチャーキャピタルまたはプライベートエクイティファンドにおいて管理費、キャリー、経費が存在しない場合がありますが、このようなケースでは、ネットIRR とグロスIRR は等しくなります。
IRRはプライベートエクイティで一般的に使用され、ロイターの調査によるとネットIRRの計算方法 (ゼネラルパートナーの資本を含むかどうか) は、プライベートエクイティ会社によって異なります。SECは、プライベートエクイティ会社がすべてのファンドの目論見書とマーケティング資料で平均ネットIRRとグロスIRR の両方を明確に報告するように呼び掛けているようです。
レイターステージの投資家やプライベートエクイティは、シンプルな倍数であるMoMよりも、投資収益率を測定する尺度としてIRRをより重視します。
レイターステージの取引ではマルチプルがそれほど高くなることはなく、公開株式市場 (S&P 500など) に対してよりベンチマークされているためです。ほとんどのプライベートエクイティファンドは、経済、取引環境、バリュエーションなどにもよりますが、少なくとも20~25%のIRRを目標としています。
ファンドの中には単に高いIRRを得るために、会社が買収され、その後すぐに非常に高いマルチプルで売却されるような早い段階でのエグジットを行うことを狙っているようなところもあります。
実際にThoma Bravo (米国にあるミッドマーケットのテクノロジーセクターフォーカスのプライベートエクイティファンド) は、Intuit から Digital Insight を10億2500 万ドルで購入し、4か月後にNCR に16 億 5000 万ドルで売却しています。非常に高いIRR : 316%を記録しましたが、no debtと仮定すると、MoMはわずか 1.6 倍です。
単純にMoMで見た場合にはリターンが低いと見えがちですが、4か月という非常に短い期間の中でこの結果を出しているという事は、とてつもなく高いIRRに反映されています。
LPの目線
次はLPの目線で考えてみます。ある投資先が売却された場合、30%のIRRが得られるとしましょう。これは一見素晴らしいように思えます。しかし、より詳しく見てみると、同じ投資でMoM :1.5 倍しか達成できない場合もあります。しかしLP側はMoMが1.5倍でもIRR30%であればそれを高く評価します。
なぜならIRR は、投資ファンドのパフォーマンスに関する最もベンチマーク化されたマーケティング指標であり、企業が既存および新規のリミテッドパートナー(LP) からの次のファンドの資金調達努力を満たす (または上回る) 能力に関して影響力を持つ傾向があるためです。
そのため、ほとんどのリミテッドパートナー(LP)はファンドのIRRにかなりの注意を払っています。IRRは時間を要素とした加重平均収益率を計算可能なため有用なのです。
くわえてプライベートエクイティは本質的に流動性の低い資産クラスです (つまり、上場株式のように、好きなときにすぐポジションを単純に売却できません)。
そしてLPは通常、クローズドエンドのプライベートエクイティ ファンド構造およびエンティティに投資します。つまり、ほとんどのプライベートエクイティ ファンドは、通常8 年から10 年の範囲の固定期間またはファンドの存続期間があり、ファンドの投資戦略とリミテッドパートナーシップ契約(Limited Partnership Agreement) で規定されている規則に応じて、さらに2~3年の償還期間の延長がありえます。
このように、プライベートエクイティでは投資に必要な時間が重要な論点であるため、IRRはプライベートエクイティのリターンに使用する重要な指標の 1 つです。
簡単に言えば、1年以内に2倍のMoMのリターンが得られれば非常に良い結果になりますが、13 年の投資期間において同じMoM:2倍の投資案件のIRRリターンはそれほど魅力的ではありません。なぜならIRR は、時間を変数としてリターンを判断できる指標なので1 年と13 年の期間を区別できるからです。
他の指標とは異なり、IRRを使用すると投資家は時間枠に関係なく、資産クラスや異なる組成年のファンド間で標準的な比較を行うことができます。それは、貨幣の時間価値を考慮しているからです。これはベンチャー投資家・プライベートエクイティファンドの投資家にとって重要な概念です。
例えば、投資家に対して7年間で10 倍のリターンを生み出すファンドは、14年間で10倍のリターンを生み出すファンドよりも高いIRRを生み出します。IRRは、リターンを生成するのにかかった時間を考慮に入れるため、ファンド間の比較が容易になります。また、IRRは年率であるため、投資家は投資を他の資産クラスと比較することもできます。
大手のプライベートエクイティファンド、例えばカーライルは上場していますので、投資のリターンをアセットクラスごとに開示しています。カーライルだけでなくグローバルファンドで上場しているようなところはウェブ上でデータを取得できますので探してみると良いでしょう。
以下は参考になるカーライルの資料です。
「Carlyle Reports Fourth Quarter and Full Year 2021 Financial Results」
IRRの計算において、まず正味現在価値 (NPV)の概念を理解する必要があります。簡単に言えば、NPVは将来のキャッシュ・フローの現在価値を計算します。すなわち一定期間のキャッシュインフロー (または予測キャッシュ フロー) の現在価値とキャッシュアウトフロー (または予測キャッシュアウトフロー=投資額) の現在価値の差です。
IRRはNPVを0に等しくする年間収益率で、将来のキャッシュ・フローの現在価値を最初のドル投資に等しくする率です(「ブレーク」と呼ばれることもあります)。これらのロジックに鑑みるとIRRを計算するために、GPは測定期間中のファンドのキャッシュ・フロー (キャピタルコールと分配)を正確に推定する必要があります。
プライベートエクイティファンド(PEファンド)におけるIRRの問題点
プライベートエクイティへの投資家は、基本的に投資を行うに当たり高いコストとリスクの増大に直面しており、これがそのままIRR偏重のデメリットになることもあります。
例えば、投資家は通常、対象となるポートフォリオ企業に関する情報に基づいてリターンや手数料を測定せず、代わりにキャッシュ・フローなどのデータを使用しファンドの内部収益率 (IRR) と呼ばれるものを計算します。これを言い換えると、つまり、「プライベートエクイティファンドの投資ポートフォリオ内の真の投資リスクはほとんど知られていない」ということです。リスクというのは財務的なものだけではなくオペレーション上のリスクや投資先の信用リスクもあるでしょう。
内部収益率(IRR)でパフォーマンスを測定することは、投資家がさまざまなプライベートエクイティ ファンドの収益を比較したり、公開市場で獲得したであろう戦略と対比したりすることも困難にします。それぞれの投資先の会社のリスク尺度や許容度は異なりますので、シンプルにIRRのみで違うファンド同士を比較できないという意見もあります。
他にも、メガファンドがより中小規模のプライベートエクイティファンドよりも良いリターンを生み出すかどうかという質問に関しては、全体として、近年、メガファンドのリターンはより小規模なファンドを上回っているようで「小規模なファンドに比べて、アンダーパフォームする可能性は低く、オーバーパフォームする可能性も低い」という人もいます。
新型コロナによるパンデミックは、プライベートエクイティファンドの業界全体でまだ感じられています。ブラックストーンやベイン等のメガファンドの急増はCOVID-19特有の傾向ではないが、パンデミックはおそらくファンドに追い風を与えたといわれています。
まとめ
このようにIRRは一般的に正味現在価値の概念と一貫しているのみならず、キャッシュ・フローの発生タイミングを考慮した投資収益率を計算できるという点で優れています。投資間の長さを重視している点で、同じ正味現在価値が得られる投資案件であれば、投資期間が短い方が高いIRRになりますし、プライベートエクイティファンドにとっても望ましい結果となります。
またプライベートエクイティファンドが一般的に行う投資案件において期待しているリターンの水準は、IRRでは5年間で20%、MoMでいうと2.5xが一般的な水準ですので、一般的な株式投資に比べても高い投資収益率が期待されていると見て良いでしょう。
これだけ読んでもイメージがわかない人もいると思いますので、実際に架空の投資案件をエクセルでモデリングし、投資期間と将来キャッシュ・フローの2変数で比較してIRRがどのように変化するかを考えてみてはいかがでしょうか。
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>PEファンドへのキャリアに関する記事
LBOモデル作成ステップをエクセルで解説【PEファンド/投資銀行への転職希望者向け】
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/lbomodel_pefund_howto
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今回は、PEファンドにおけるIRR(Internal Rate of Return)の、計算の仕方やその基準、問題点などについて解説しました。
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