昨今の日本国内におけるスタートアップ市場の盛り上がりが追い風にもなり、PEファンド出身者がIPO前のスタートアップやベンチャーへ転職するケースが増えています。
代表的な例では、ラクスル株式会社の永見CFOがいます。永見氏はPEファンド「カーライル・グループ」出身で、2014年4月にラクスルへ入社後、CFOとして2018年5月の東京証券取引所マザーズ市場IPOを牽引してきました。ラクスルは2022年1月現在において時価総額1,000億の企業に成長しています。
今回の記事では、PEファンド出身者がスタートアップやベンチャーで活躍できる理由とPFファンド時代に培ったスキルを具体的にスタートアップやベンチャーのどのような仕事分野で活かせるのかについて、解説します。
【目次】
- PEファンド出身者がスタートアップ・ベンチャーで活躍できる理由①圧倒的に高いポータブルスキルを有しているから
- PEファンド出身者がスタートアップ・ベンチャーで活躍できる理由②アンラーニングしやすいメンタリティがあるから
- PEファンド経験がスタートアップ・ベンチャーで活かせるスキル①取締役会の安定的な運営と精緻なIR
- PEファンド経験がベンチャーで活かせるスキル②豊富なファイナンス知識とDD経験を活かした資金調達全般
- PEファンド経験がスタートアップ・ベンチャーで活かせるスキル③予算アロケーションを中心とした経営判断の質向上
- PEファンド経験がスタートアップ・ベンチャーで活かせるスキル④新規事業企画や事業戦略構築の支援
- まとめ
PEファンド出身者がスタートアップ・ベンチャーで活躍できる理由①圧倒的に高いポータブルスキルを有しているから
PEファンド出身者がスタートアップやベンチャーで活躍できる理由は大きく2つあります。
1つ目が、「圧倒的に高いポータブルスキル」です。
PEファンドで得られるポータブルスキルは極めて高いです。論理的思考力、戦略思考、プレゼンテーション力、コミュニケーション力、資料作成力、ピープルマネジメント力等々、いずれの企業で働いたとしても求められるポータブルスキルを最高レベルで有しています。PEファンドの採用門戸は非常に狭く、ビジネスパーソンとして極めて優秀な人たちで構成される組織です。既に高いポータブルスキルを有する社員が、「投資して、企業価値を上げ、エグジットする」という専門的かつ複雑でハイリスクな仕事に従事し続けた経験を通じて磨かれたスキルが、余人をもって代えがたいレベルに至っていることは想像に難くないでしょう。
組織全体のビジネススキル向上の伸び代が相対的に高い企業がスタートアップやベンチャーです。大企業のように整備された環境と対極にあるのがスタートアップですから、ミーティング・資料作成・メンバーコミュニケーションなどの日常的な業務においてすら、高いポータブルスキルを活かせる場面が驚くほど多く発生します。
PEファンド出身者がスタートアップ・ベンチャーで活躍できる理由②アンラーニングしやすいメンタリティがあるから
スタートアップやベンチャーで働くということは、事業を成長させることはもちろん、合わせて企業文化を作っていくことが求められます。会社の目指すべきビジョンや社会に対して果たすべきミッション、会社として大切にしたいバリューなど、組織文化を形成・浸透させるための指針やガイドラインは固まっていません。それゆえ、職種や雇用形態の違いはもちろん、多種多様なバックグラウンドや考え方を持つ人たちが集まるダイバーシティの極みのような会社です。当然、業務のやり方や仕事で大切にしていることが人それぞれで異なるため、自分の考え方を一方的に押し付けるだけでは必ず衝突や摩擦が起こり、仕事を進められないことが多いです。
大企業出身者がスタートアップに転職して上手くいかない理由の1つに「アンラーニングできない」があります。つまり、前職における仕事の考え方・やり方に固執して自分をスタートアップの環境に適応させることができないのです。
PEファンド出身者は違います。既に「アンラーニングしやすいメンタリティ」を持っています。理由は、PEファンドで働く環境そのものがダイバーシティの極みだからです。PEファンドでは、異なる組織文化を持つ複数の企業経営者や主張の強い経営メンバーたちと仕事をします。そして彼らとコミュニケーションを取るテーマは投資金額や投資条件、投資後の全ての経営アジェンダなど、コンフリクトを起こしやすいセンシティブなものばかりです。この複雑な環境で成果を上げるためには「常に自分のやり方をアップデートし続ける変化への適応力」が必要です。既に前職のPEファンドで適応力を身につけている人が多く、変化の激しいスタートアップやベンチャーへ転職してもすぐにアンラーニングし、適応していけるのです。
それでは、もしPEファンド出身者がスタートアップ・ベンチャーへジョインしたら、具体的にどのような仕事の分野においてそのスキルを活かせるのか、具体的に解説します。
PEファンド経験がスタートアップ・ベンチャーで活かせるスキル①取締役会の安定的な運営と精緻なIR
PEファンド出身者であれば、毎月開催される取締役会を安定的に運営し、投資家にとって解像度の高い情報提供と理解しやすい説明ができます。例えば、毎月開催される取締役会用の資料作成です。エンジニアや営業出身の創業者ですと取締役会資料に記載される内容が自分の得意領域に偏りがちです。また、シリーズAやシリーズBのアーリーステージでは投資家が期待している報告のレベル感にそもそも達していないことが多いです。そして、経営陣の中には「取締役会で投資家から色々と指摘を受けたくない」というメンタリティを持つメンバーもいます。それゆえ、投資先企業の取締役会の運営経験や株主として取締役会をモニタリングする経験を有し、構造的で論理的な資料作成スキルをも持つPEファンド出身者が、短期間で成果を発揮しやすい定番テーマが「取締役会の運営」なのです。
PEファンド経験がベンチャーで活かせるスキル②豊富なファイナンス知識とDD経験を活かした資金調達全般
次は、IPO前のスタートアップ・ベンチャーにおけるCFOの看板業務の1つである「資金調達」です。
・投資家候補のソーシングとアタックする優先順位付け
・会社や事業の魅力・裏付けとなるトラックレコード・今後のロードマップや資金使途などを示した投資家向け資料の作成
・既存株主のダイリューションやIPO時の想定時価総額などを考慮した戦略的な発行株式数・株価の設定・交渉
・投資家に期待する経営への関わり方、株式の売却・買取条件、従業員SO比率上限などを盛り込んだ投資契約書の交渉・締結
など、極めて戦略性の高い業務を、創業者や他メンバーを巻き込みながら入金が必要な時期までに完遂させるチャレンジングな仕事です。
PEファンド出身者は、この資金調達に関わる一連の仕事を「投資する立場」として経験しています。つまり、投資家が投資判断をする際に気にするポイントの先回りや、投資家にとって理解しやすくスムースなデューデリジェンスプロセスを運営することができます。無論、ファイナンス知識は豊富ですからエンジニアや営業出身の創業者の右腕となって資金調達全般をリードすることができます。
PEファンド経験がスタートアップ・ベンチャーで活かせるスキル③予算アロケーションを中心とした経営判断の質向上
3つ目は、経営判断の質を上げることです。
経営判断は、事業や会社が成長するに従って複雑さが増していきます。シード期のスタートアップであればプロダクトをマーケットフィットさせていくことに全力を注ぐこと、シリーズBやC領域になってくるとマーケットフィットしたプロダクトをグロースさせていくためにマーケティングやセールスの仕組み作りに投資すること、など投資を伴う経営判断が比較的シンプルです。しかし、会社のステージが進み、売上成長の踊り場を迎えたり、マルチプロダクト化が進んできたりすると、「どのテーマに何をいくら投資する」という経営判断の難易度が急に上がります。どのテーマに投資すればトップラインが最大化されるか?求めるリターンは短期なのか、長期なのか?上手くいかないリスクは?投資されないテーマに従事しているメンバーを組織としてどのように取り扱っていくか?等、意思決定に必要な変数が増えていきます。そのため、経営判断に必要な材料や論点を整理し、「意思決定のための議論ができる状態」を作ることの必要性が生じます。経営企画の機能です。
PEファンド出身者は、前職で「投資の判断」・「投資後の経営判断」に深く携わっているため、意思決定のためにどのような材料を用意すれば良いのか?材料をどのように集めるのか?の実務的なスキルを有しています。それをスタートアップ・ベンチャーの「経営判断の質向上」に活用できるのです。
PEファンド経験がスタートアップ・ベンチャーで活かせるスキル④新規事業企画や事業戦略構築の支援
最後は、新規事業企画や事業戦略構築のサポートです。
スタートアップやベンチャーにおいて、新しいプロダクトや事業を創出していく役割はCEO、既存事業のグロース戦略を構築するのはプロダクト責任者やセールス責任者が担うことが一般的です。彼らが考える企画や戦略に対し、足下の数字状況やマーケット・類似サービスに関するリサーチを通じた客観的な視点からのアドバイスや提案ができます。企業への投資判断やハンズオンでの経営支援を担ってきたPEファンド出身者は、事業性や戦略をフラットに評価できるスキルを有しています。ゆえ、新規事業や事業戦略を描く当事者が没頭し続けると見失いがちな「客観性」という絶妙なエキスを注入し、新規事業の企画や戦略の解像度を高め、それらの成功確率を上げることに貢献ができるのです。
まとめ
①PEファンド出身者は、スタートアップ・ベンチャーに不足しがちな高いポータブルスキルを有しており、且つ激しい変化に対しても自身をアンラーニングし続け、適応していくメンタリティを持っています。
②PEファンド出身者がスキルを活かして活躍できる仕事のテーマは、「取締役会の運営」「資金調達」「経営判断の質向上」「新規事業や戦略面でのサポート」の4つです。ポジションとしてはCFOや経営企画部長が該当します。
③スタートアップ市場の盛り上がりが追い風にもなり、PFファンド出身者がIPO前のスタートアップやベンチャーへ転職する機会が増えています。
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>PEファンドに関する記事
コンサルから投資ファンドの転職で求められるスキルとは?
https://www.axc.ne.jp/media/column-career-change-case/investmentfund
公認会計士からPEファンドへのキャリアパス【入社前後に役立つスキル・経験】
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今回の記事では、PEファンド出身者がスタートアップやベンチャーで活躍できる理由についてお伝えしました。
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