企業の経営戦略を策定するうえでは、まず市場環境について理解を深める必要があります。環境に関する分析フレームワークは多数ありますが、中でも「企業や市場を取り巻くマクロ環境」を分析するフレームワークがPEST分析です。
マクロ環境をMECEに切り分けて分析できるPEST分析は、コンサル志望者にとって覚えておきたいフレームワークの一つです。
今回の記事では、PEST分析の基本や分析手順、活用事例などをご紹介します。
【目次】
PEST分析の基本:企業や市場を取り巻くマクロ環境を切り分けたフレームワーク
まずはPEST分析の基本的な特徴や考え方を紹介していきます。
PEST分析では4つの軸でマクロ環境を切り分けて分析
PEST分析はマーケティングの権威であるフィリップ・コトラーが編み出したフレームワークで、企業や市場を取り巻くマクロ環境をP(Polotics:政治)、E(Economy:経済)、S(Society:社会)、T(Technology:テクノロジー)に切り分けて分析します。
それぞれの要素に含まれるトピック
- P(政治):法律や法改正、税制、政権や政党のマニフェスト
- E(経済):経済成長率、物価、消費動向、為替
- S(社会):人口動態、流行や世論、宗教、倫理観
- T(テクノロジー):インフラ、イノベーション、技術開発や実用化
もう少し詳しくそれぞれの要素を紹介していきます。
Politics(政治)
政治的要因が企業や市場に変化を及ぼすケースは少なくありません。現状の市場環境や今後の環境変化を見通すうえで、重要な要素です。
【PEST分析のP】
- 政権交代
- 法改正や規制緩和
- 税制や減税、増税などの税政策
- 判例及び裁判制度
- 政治上の外交関係
特に自社に関連性の深い分野や、世界情勢など業種に関わらず大きな影響を及ぼしかねない分野については状況を的確に捉え、自社や市場に対する影響を図ることが大切です。
Economy(経済)
経済情勢は市場の成長性や企業業績などに大きな影響を及ぼします。自国の景気だけでなく、グローバルな経済動向や金融市場などもスコープに含まれます。
【PEST分析のE】
- 金融市場動向(為替、株価、金利や商品価格)
- 経済成長率
- 景気動向
- 物価上昇率
- 金融政策
グローバル企業であれば世界全体の経済動向を分析する必要があるのはいうまでもありません。一方、たとえ内需中心の企業だとしても、国内の経済は国際的動向の影響を大きく受けるため、やはりグローバルな経済動向を分析しておく必要があるでしょう。
金融政策については「政策」とあるため政治サイドで分析するケースもありますが、経済動向に直結するため、経済の枠組みの中で分析した方がスムーズな場合も少なくありません。
Society(社会)
社会構造や流行、常識概念、宗教などがビジネスの動向に大きな影響を及ぼします。社会変化に柔軟に追随できるよう、分析しておく必要があります。
【PEST分析のS】
- 人口動態(地域別人口、人口密度、構成、世帯数など)
- 流行
- 景気動向
- 世論
- 宗教や教育水準、言語
特に日本においては人口動態のうち少子高齢化が重要課題となっています。多くのビジネスにおいて、少子高齢化の進行を踏まえた経営戦略の策定・実行が必要な時代です。
Technology(技術)
技術革新が企業や市場のポジショニングを劇的に変化させる場合も。成長を加速するケースが多い一方で、電子書籍が紙の書籍の市場を奪うように、特定市場の衰退原因となることも少なくありません。
【PEST分析のT】
- イノベーション
- インフラの整備
- 新技術の普及や特許の取得状況
- 研究開発への投資度合い
技術進歩や新技術の普及度合いが企業や市場の動向にどのような影響を及ぼすのか、明確にしておくことが大切です。
PEST分析では、マクロ環境は以上の4要素で成り立つと考えられています。すべての要素を分析すれば、環境をMECEに分析することができるはずです。
マクロ環境とミクロ環境とは?
そもそもマクロ環境分析とは、市場や企業を取り巻く環境を分析することであり、経済・社会など幅広い分野がスコープに含まれます。
相反する概念としてミクロ環境分析があり、こちらは企業や企業が属する市場のことを指します。
- マクロ環境分析:市場を取り巻く社会や経済環境などの分析
- ミクロ環境分析:自社が属する市場や競合の分析
なお、経営戦略やマーケティングにおける環境分析においては「外部分析」「内部分析」というフレーズも使われます。この場合は自社の外側を分析するのが外部分析、自社を分析するのが内部分析となります。
つまり、マクロ環境分析は一般的に外部分析の一部と見ることもできます。
PEST分析の位置付けと目的
PEST分析は一般的な戦略策定やマーケティングプロジェクトにおいて、最初に実施される分析であることが多いです。
例えばマーケティング戦略を策定するプロジェクトの場合、次の要領で分析を進めていくのが一般的。
まず市場を取り巻くマクロ環境から始まり、3C分析で企業自体の分析まで狭めていくことで、プロジェクトのゴールに適した情報を仕入れ、まとめることができるようになります。
その後に戦略策定のフレームワークを用いることで、現状を踏まえた適切な戦略を組み立てることができるのです。
市場の外側の状況は全てマクロ環境に含まれるため、マクロ環境分析の対象範囲はとても広いもの。フレームワークなしに闇雲に情報をまとめても、どこかに論点が集中したり、必要な領域が調査されなかったりしがちです。
その点、PEST分析を活用すれば、MECEに状況を切り分けることが可能。あとは各要素について偏りなく分析を行なえば、マクロ環境のことを適切に把握できます。
PEST分析の実施手順
マクロ環境を分析し、外部の状況についてそれぞれの要素の情報を整理するだけでも、環境の把握には役立ちますが、さらに精緻に分析して、戦略策定などに活かすためには、次の要領でPEST分析を進めるのがおすすめです。
PEST分析の実施手順①各要素について分析する
最初はP・E・S・Tそれぞれに関係する要素を洗い出していきます。ブレインストーミングの要領で、マスメディアなどの情報も活用しながら関係性のありそうな外部環境に関する情報を列挙し、それぞれの軸に分類していくとよいでしょう。
PEST分析の実施手順②事実と解釈に分ける
続いて、実際に起きていることである「事実」をもとに、市場や企業にどのような影響を与えるかという「解釈」を加えていきます。そのうえで、事実とそこから導き出せる解釈を分類しておきます。
PEST分析の実施手順③プラス要因とマイナス要因に分ける
続いて、ここまでで洗い出された事実と解釈をプラス要因、マイナス要因に分けていきます。通常、市場や企業の成長に寄与するものはプラス、逆に衰退の原因となりうるものをマイナスと考えていきます。
こうした切り分けをすることで、戦略策定の段階で行うSWOT分析に反映させやすくなります。プラス要因を活かし、マイナス要因を回避・抑制する施策を打ち出しやすくなるのです。
PEST分析の実施手順④現状と将来に分ける
PEST分析の要素は、現在の環境と、将来起こるであろう変化に分けていきます。戦略の方向性が現状の課題解決なのか、将来起こるべき環境変化への対策なのかによって、着目すべき要素は変わっていきます。現状と将来に分けておけば、メンバー間で論点を整理しやすくなるでしょう。
PEST分析の事例:自動車業界とコンビニ業界を例にフレームワークで分析
続いては、PEST分析の事例を二つ紹介します。実際に分析を行ううえでの参考にしてください。
自動車業界を例にしたPEST分析
一つ目の例は自動車業界です。PEST分析をして、次のように表にまとめました。
もし現状を踏まえた戦略策定であれば、市場縮小や若者の車離れが進む中で、競争力を維持するための戦略やマーケティング手法などを考えていかなければなりません。
一方で長期的な視点で見る場合は、電気自動車や自動運転の普及度合いや法制度改正などをにらみながら、他社の新技術を搭載した製品開発・販売に負けないように、自社でも電気自動車・自動運転車の販売までのロードマップを作っておく必要があるでしょう。
コンビニエンスストア業界を例にしたPEST分析
続いては、コンビニエンスストアの市場環境を例に、PEST分析を行いました。
コンビニは店舗が増加傾向にありますが、人口が減少し始めている中、まもなく飽和状態に至ると想定されます。その中でオーナーの長期労働や、オーナーに不利な契約が問題視されており、転換を迫られていて、こうした収益の低下圧力における競争力維持が課題です。
他方、ATMの機能拡充や無人店舗の運営、デリバリーサービスをはじめ高齢の利用者の増加を想定した対策など、中長期的に見ても様々な戦略を打ち出す余地がありそうです。
PEST分析で外部環境を精緻に把握して後続の分析に活用しよう
PEST分析は企業や市場を取り巻く環境について精緻に把握するために活用されるフレームワークです。うまく取り入れることで、MECEに環境分析ができるようになるでしょう。
多くの場合は環境分析だけで完結せず、分析結果をもとに内部分析やその後の戦略策定に役立てられていきます。そのため、プラス要因とマイナス要因のすみ分け、現状と将来の分類など、後続の分析に応用しやすい形で情報を整理することも大切です。
PEST分析はコンサルタントが習得しておくべき基本のフレームワークの一つです。この記事を参考に、入社後すぐに応用できるようにしておきましょう。
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