転職や配属に当たって希望する方の多い企画職。一方で、一言で「企画職」と言えども、実際の仕事内容や求められるスキル、KPIなどは大きく異なります。
そこで、今回は経営企画、事業企画、マーケティング、営業企画のそれぞれの業務について、企業の中での役割と仕事内容等について具体的な事例を含めてお伝えします。
【目次】
経営企画の仕事内容
企業における経営企画職の役割は、「企業の将来のあり方を具体的な形にすること」です。一つの企業は通常いくつかの事業から構成されており、それぞれの事業は異なったやりかたで活動を進めています。対象とする市場やお客様の種類によって、実績を上げるために全く異なるアプローチをしていることは珍しくありません。
こういった状況を企業経営という全体的な視点から見て、大きな方向性をつけるのが経営企画の役割だと言えます。事業経営を長期的な経営の視点から捉えると、会社全体の進むべき方向とそれぞれの事業の進む方向がずれてしまうことがあります。このような状態は短期的には利益を生むかもしれませんが、長い目で見ると企業の競争力を弱めることがあります。
企業全体が長期的にどちらに進むのかという方向性は、経営者の意志によって決定されます。企業全体の経営方針をそれぞれの業務の現場での意思決定に反映させるための方向付けを行うのが経営企画です。この方向付けは通常財務的な形式を経由して表現され、対外的には3年から4年後の財務諸表という形で中期計画として外発されます。
社内の各部署に向けての企画資料はより詳細な内容になりますが、通常は経営企画からの企画書を事業部や関連部門の長に下ろし、それぞれの部門で具体的な活動計画を立てられるところまで討議を行ってからその内容をもう一度経営企画に戻します。各部門の計画のレベル感を合わせ、中期的な企業活動として一体化してその後の長期的なビジョンと重なるように調整します。
では、実際に経営企画の具体的な仕事例を挙げてみましょう。
A, B, Cという三つの事業からなる企業を考えます。A事業はこの会社の創設から継続する事業部門、ここのところ売上は停滞気味で利益はぎりぎり黒字といったところ。B事業はAから派生した事業で現在の稼ぎ頭です。C事業は数年前に企業買収により拡張した部門。A事業と関連が深い新しいマーケットで、ロゴやマネジメントを含めて経営は買収前の状態を継続しています。
B事業が2年前に投入した新世代の製品が思ったほどお客様に受入れられず、今後数年間苦しい状態におかれそうです。トップマネジメントとしてはA事業の活動内容には改善の余地があると考えており、事業間のシナジーを探ることで取りこぼしているバリューチェーン上の価値を見出すことができるのではないかと期待しています。
将来の経営を描き中期的な経営課題を明らかにするため、経営企画としては、
①B事業は数年以内に利益率が悪化することが想定される。次世代製品の開発、導入までは売上重視で顧客を確保し、マーケットシェアを維持する
②B 事業が利益を出し続けることが出来る数年以内にA事業への投資を進め、安定した事業利益を上げられるように開発活動を強化する
③A事業の固定費回収のためマーケットポートフォリオを見直して顧客層を広げ、売上金額の変動を押さえる
④A事業とC事業の共通顧客となりうるマーケットセグメントを特定し、両事業間の営業・開発活動の協調を推進する
⑤C事業の本社経営との連携を高め、ブランドを一体化する
といった課題へのソリューションを導くことになります。
事業企画の仕事内容
経営企画と同じく企画職の代表例として挙げられるのが事業企画でしょうか、企業活動の主要な舞台は事業レベルでの活動となります。一まとまりとなった製品やサービスのラインナップとそれを購入するお客様の組み合わせ全体で区分されているので、何をすればよいか、どういうことが求められるのかということについても具体的な活動レベルに落としやすく、対策と実績の関係を論じやすいのが特徴です。
事業活動のターゲットは実績としての数値目標へのフォーカスが強くなります。実績は年度ごとに予実という形で測定されます。しかし事業利益の改善や新市場の開発といったテーマでは結果を出すのに数年かかるのが普通ですから、事業企画の策定に当たっては経営企画とは若干異なり、2年または3年といった中短期を目安として活動計画を立てるのが一般的です。
コアとなる指標は売上、利益、シェアの三つ。事業企画ではこれを高めるための施策を立てることになります。このためには事業活動を行う業界における自社のポジションを高めることが求められ、そのための対策を具体化することが事業企画の役割です。したがって事業企画は企業内における事業活動そのものの方向性を定める役割を果たします。
基本的には市場の構成を横軸に、製品を縦軸において市場全体の構造をとらえ、どの部分でどのような手を打つかということを実践的に解いていきます。売上のトレンドや市場の成長率のようなマクロな指標をベースにして全体的な成長をとらえ、それに積み上げるイメージで重点的な事業施策を具体化するための道筋を考えていくのが通常の手順です。
通常事業戦略は製品を軸に考察されます。事業企画の仕事では自社の製品を提供するお客様をどのように特定するかという視点から製品と顧客の関連付けをすることで、どの部分でどのような対策を採るべきかということを明らかにしていくことになります。事業活動を行っている業界がいくつかの市場に分かれている場合、その企業の事業が強い分野とそうでもない分野、または全く参入できていない分野があるでしょう。このなかでどの分野に力をいれ、どの分野はターゲットから外すかと言う選択が事業企画の骨格です。
外部の眼から見れば事業企画は企業と市場との関係を構築する作業と言えます。自社がマーケットリーダーである分野ではその強みを維持してシェアを確保し利益を高め、他社と競合が激しい分野では新しい強みを獲得してシェアアップを図る、というのが基本です。但し、分野によって事業のボリュームに大きな差がある場合や、一つの分野が急激に成長している場合などでは、特定の分野での競争力を高めることの重要性が突出することがあります。
グローバルな事業企画の立案において、アメリカや中国の市場については独立した戦略を立てる必要がありますし、自動車産業をターゲットにする事業であれば電気自動車や自動運転車の導入に伴って発生する新規用途の分野は是が非でも参入すべきセグメントとなります。営業・サービス体制の強化、新規チャネルの開拓、新製品の投入といった事業政策が目標とする市場に合致するようにその詳細を設計しなければなりません。
事業企画の内容は事業活動のKPIとして明確に測定することが求められます。内容によってはどのように測定するのかについて工夫が必要なものもありますが、この効果的な測定方法の設定も企画者の重要な業務です。ターゲット市場での売上とシェア、新規顧客や業界団体を相手にしたプレゼンテーションの視聴者数、他社製品との競合時の受注率など、営業活動の測定項目を上位レベルで捉え、アウトプットを管理していく項目が主になります。
マーケティングの仕事内容
企業によってはマーケティングという独立した部門が存在しない場合もあり、営業部門がマーケティングの機能を兼ねているケースも珍しくありません。B to Cのビジネスでは社外の広告代理店によるマーケティングも広く行われていますが、マーケティングという活動は広い意味では営業活動の一環と言えます。
企業は社内で設計・製造したものを社外に販売することで対価を得、利益を生み出していきます。営業はこの販売作業自体をその目的としているのに対し、マーケティングは両者の価値を推移させる作業を行います。社内で作られた製品の持つ値打ちをお客様にとっての意味のあるものとして提供するためには、作られたものを企業の外の目で見る立場が求められるのです。この意味で、マーケティングは会社にとって企業の内部の価値観を世の中にとっての価値に翻訳する役割を果たします。
マーケティングの仕事は自社の製品がお客様に接触するその現場での作業になります。社内での製品企画に携わった人は社内の視点に従って製品の価値を伝えようとするため、お客様にとっては購入のメリットを感じられないことが往々にしてあります。産業財の場合はスペックや技術の方向性といった共通のキーワードがありますが、一般消費財の場合はお客様が求めているものが多様なため、特にこれが重要なステージになります。
お客様が求めているのは製品それ自体ではなく、製品を購入することで結果的に得られる便益。したがって最終的な便益を得るのに不都合があるならば、いかに「良い製品」、「性能の高い製品」であっても敬遠されます。機能的には優れていても使用するにはソフトが手に入りにくい機材など、マーケティングの失敗例は数多く見られます。
産業財の場合でも、同じ製品を相手によって違う販売ルートで提供したり、製品と同時にサポートするサービスをそろえたりすることでお客様にとっての購入のメリットが拡大することがあります。製品とお客様にとっての便益との関係をきちんと合わせる必要があるので、お客様の求めているものを正確に理解しなければなりません。
マーケティングの手順としては、最初から製品が存在していてそれをどうやって売るかという課題になる場合と、ターゲットとなるマーケットがあってそこに対して投入する製品を企画する、という場合があります。製品がある場合にはマーケティングの仕事は営業部門のサポート的な役割となります。もともとマーケティングの仕事は営業の現場と重なっているので、これまでのアプローチでは見えてこないお客さんにとってのメリットを掘り起こしたり、ポイントを絞った営業用の商材を作成したりすることになります。
商品企画を含む場合には、マーケティングは市場戦略と事業戦略の橋渡しの役割を果たします。市場調査を行い、潜在顧客の聞き取りや競合製品の分析によってあるべき製品の姿を具体化していきます。マーケティングにおける企画はこれまでにないものを生み出すことが求められるため、アウトプットの自由度が高くクリエーティブな能力が発揮できます。その分、企画者の思い込みや好みに流されることも多く、イメージ先行のコンセプトや実現性の乏しいアイデアも散見されます。
上手にマーケティングされた商品企画でも、実際の製品設計で企画が実現できるとは限りません。そのため、商品企画は製品設計の結果を受けて修正されることを想定しておく必要があります。一方でマーケティングを軽視して製品企画を行うと、設計者の思い込みや便宜を優先した開発となりやすく、一般向けであるはずの製品が一部のお客様だけの希望に沿っていたり、最先端の技術を備えていながらお客様の欲しい重要な機能はオプションになっているような偏った新製品が生まれやすいのです。
営業企画の仕事内容
ある事業で実績を上げる営業活動の考え方としては、大きく下の二つがあります。
①ある製品が売れている用途を事業対象としている別のお客様を探す
②ある製品が売れている既存のお客様に他の製品を使っていただく機会を探す
前者の場合はマーケットシェアを高める、②であればお客様への浸透率(ペネトレーション)を高めるというアイデアです。マーケットシェアの拡大を狙うことは、従来取引のない顧客との関係を作ることが必要となり、ペネトレーションの場合は既存の顧客が何をどこから買っているのか、という営業情報が必要になります。
このプランを実行しようとすると、有望な見込み客をどうやって選ぶのか、そのお客様にどのように働きかけるのかという方法論が鍵になります。この計画を実効性のあるものにするために詳細な計画を設計するのが営業企画の基本です。会社全体の視点から見れば、経営企画、事業企画の内容を営業レベルで実践する方法論が営業企画です。
基本的には営業部門での取り組みとして営業実績の拡大を目標としますが、事業企画の内容としての活動が営業部門において営業企画として詳細化されることもあります。例えば営業での販売と利益のポートフォリオを見直して、売上の大きいセグメントへの依存度を引き下げるという事業企画項目に対し、営業企画として売上高第二順位の顧客層への販売活動を強化する、若しくは市場でのシェアが2位または3位のセグメントでのシェアアップを図る、といった取り組みを行う場合です。
ある事業のX製品の売上げを5%伸ばす場合を考えます。この製品はA,Bという二つの市場に顧客があります。A市場は直販中心でXのシェアはまだ高くないのでここで売上を伸ばすのであれば新規顧客の開拓に注力します。B市場は既存代理店のチャネルが強く、Xのシェアもすでにそれなりに高いので短期的に大きな伸びを期待するのは難しそうです。
この場合、
①X製品売上の5%を数値化し、新規営業開発件数としてのボリューム感を算定する
②市場でのXの見込み客のリストを作成する。
この場合、
(1)既存顧客でのXの機能用途、
(2)既存顧客でのXの使用条件(ソフトウェアや使用環境など)の他
(3)開発サイクルや自社製品への感情
(4)現在使用している競合との関係
などを含めて潜在顧客のリストアップを行います。
③作成したA市場見込み客に対してスクリーニングの計画を策定する。作業手順のマニュアルや営業ツールについても必要であれば準備する
④B市場について、販売量を増やさずに販売単価を上げる可能性を模索する。代理店からエンドユーザーへのバリューチェーンを調査し、社内に取り込める付加価値があればオプション、またはサービス体制を拡充する。
⑤B市場について、集中的な営業活動を行うことで獲得できる可能性のある大手顧客を数件リストアップする
などといったことを実務レベルで構造化していきます。
策定された企画の100%が実績に繋がることはありません。KPI化するに当たっては常に成功率の要素を勘案して評価する必要があります。スクリーニングの手順と情報収集、潜在顧客から見込み客への絞込み、見込み客へのアプローチ状況のモニタリング、代理店の販売戦略精査など、計画を評価する項目は営業担当者の活動そのものを追う指標が中心になります。こういった情報は社内の情報システムなどではフォローできないものが多く、活動計画ごとのレポーティングを組織化することが必要になります。
まとめ
企画職の仕事を社内の視点から見ると、経営から営業現場へとつながっている企業活動を経営、事業、営業というそれぞれのレベルに分け、それぞれの視点で何をやるかを考えて可視化する、というレベル感の違いが見えてきます。目標を達成するための対策についても上位の企画ほど達成への道筋には自由度が高く、詳細な部分は下位の企画によって具体的に記述されるような関係になっています。
いずれのレベルでも、最終的な達成目標は財務指標としてのKGIに現され、売上、利益、シェアの目標値に向かうプロセスがKPIとして設定されます。このうち、売上と実績は絶対的な数字ですので企画の段階によらず同じ目標値に収束されていますが、マーケットシェアについては企画のレベル感によって測定する対象の内容が変わってしまうことに注意する必要があります。
企業活動の対象となりうる全領域における自社の存在感と事業活動の特性を考慮した業界の領域での対競合能力、そして営業活動の舞台となっている事業領域における活動範囲での受注率というものを考えると、それぞれのステップ間を移るときにかなり大きな部分が「見えなくなってしまう」ことに気がつくでしょうか。
詰まるところ、企画とは活動領域に対する経営資源の使い方に関する方法論であるといえます。活動範囲をどこまでの領域とするかというスコープが戦略の自由度を決定します。経営企画から営業企画にわたるレベル感の違いというのは、実際には企業活動を世の中に向けての価値に変えるための枠組みの広さの違いです。そして、その領域と自分達の活動を結びつける関係性が企画の基本構造そのものと言えます。
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今回の記事では、企画職として代表的な経営企画、事業企画、マーケティング、営業企画のそれぞれの業務について、企業の中での役割と仕事内容等についてご紹介しました。
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