日本企業のグローバル進出、海外企業の日本企業の買収、日本と海外の親会社・子会社統合等、海外にまつわるテーマのプロジェクトが増加傾向にあります。そんな中、異なる言語での業務だったり、コロナ禍で渡航することが難しかったりとプロジェクト推進/マネジメントの難易度は非常に高いです。海外プロジェクトの成功に向けて、プロジェクトマネジメントの観点ではどのようなポイントを重視すべきなのでしょうか。
今回の記事では、コンサルとして海外プロジェクトのマネジメント(海外PMO)をする際の大切な要素を4つの観点からお伝えします。
【目次】
プロジェクト体制構築に関するポイント
海外プロジェクトの推進において、まずは体制構築が非常に重要となります。どのようなメンバーが、どんな役割を担って、プロジェクトに参画するのかが成功を大きく左右します。
体制構築時には何を意識すべきなのでしょうか。大きくは下記4つが挙げられます。
・意思決定権の明確化
・意思決定プロセスの明確化
・各タスクの役割・成果物の定義
・海外プロジェクトに適性のある人のアサイン
<意思決定権の明確化>
誰がプロジェクトのオーナーとなり、最終的な成果に対する責任を持つのかをまずは明確にする必要があります。これが曖昧だと、プロジェクトにおける意思決定事項について、誰も決めずプロジェクトが進まない、責任転嫁しプロジェクトが頓挫するなどの事態に陥ってしまいます。
国内で意思決定をする際には、対面でその場の空気感を察しながら、皆の合意のもと決めていくという風潮があったりもしますが、海外メンバーが加わるとこれは通用しません。
誰が、どのような発言を、どの立場で発言するのかが非常に重要になります。明確な旗振り役と責任者を設定することが円滑なプロジェクト推進には欠かせません。
<意思決定プロセスの明確化>
前述の様に、意思決定者を設定すると、次はどのような流れを経て意思決定者へ持っていくかを設計します。海外プロジェクトでは多数のステークホルダーが関わってくるため、意見をうまく吸い上げ、まとめあげる必要があります。
例えば、海外と日本の業務・システム統合プロジェクトの場合には、
①まずはプロジェクト内で上申する内容を決定するため、BizとITのプロジェクトマネージャーが報告内容を決める
②次に、プロジェクト内のステークホルダー(BizとIT両面のメンバー)が集う、ステアリングコミッティにて最終意思決定権を持つグループCEOに上申する内容を決める
③グループCEOの意思決定を諮る
このようなプロセスを設計することと、①で定めた意思決定者に合った報告者を定めておく必要があります。海外/国内のメンバーが参画しているので、意思決定者が海外の場合には、海外メンバーが主導して報告等を行っていくと円滑に進みやすいです。
また、誰をステークホルダーとして参画させるのかも重要ポイントです。関連部署・役職で判断することは一般的ですが、実際の事業における力関係等も加味して、プロジェクトに肯定的な人、発言力が高い人を見極めて、ステークホルダーに据えておくことでプロジェクトの推進力が飛躍的に向上するケースも多いので工夫することがおすすめです。
<各タスクの役割・成果物の定義>
日本のメンバーはプロジェクト期間中に、状況に合わせて臨機応変に対応することに長けています。一方、海外メンバーには異なる文化があることが多く、自分のジョブディスクリプションの内容に忠実で、それを超える内容は基本的には対応しないケースがあります。そのため、体制構築時に、どのチームの、どのポジションの人は、何を担当し、どんな成果物を作るのか、をすべて明確にしておく必要があります。もちろん、その後の変更も発生しますが、変更内容は改めて明示する必要があります。
その準備を怠ると、プロジェクト推進に必要な成果物作成の遅延や品質の低さに直結してしまいます。
<海外プロジェクトに適性のある人のアサイン>
後述のコミュニケーションにおけるポイントにて詳細を記載していますが、海外プロジェクトには多様性のあるメンバーが集まることが多いため、それぞれの考えや文化を柔軟に受け入れることが必要になります。
そのため、過去の自分の仕事の仕方に囚われない人、英語等の言語が決して流暢でなくともコミュニケーションをすることに抵抗がない人、そして、自国の業務やシステムについて精通している人を社内で探してアサインする必要があります。
そのような人はなかなかいないものですが、このアサインを妥協してしまうとプロジェクトの進捗・品質は大きく劣化してしまうため、必要に応じて、外部支援も上手く活用することで自社に足りない要素を補うこともあります。特に言語スキル等は積極的に活用し、コミュニケーションミスを予防することも重要なポイントです。
最後に、アサインする社員は、社内のエース級人材を登用することが成功に向けたポイントです。現業で成果を挙げている中、業務の変更や異動をさせるのがもったいないと考えられるケースも多いですが、海外プロジェクトは今後の社運をかけていることも多いため、失敗は許されません。海外プロジェクトを経た後のキャリアパスを魅力的なものにすること、そして社内周知することを通して、エース級人材が集まる仕組みを構築しておくことが重要です。
スケジュールに関するポイント
日本ではプロジェクト開始時点でプロジェクトのマイルストン・スケジュール・詳細なWBSを求められ、その通りに進めることがよしとされています。一方で、海外ではスケジュールは変わるもの、という認識で、何度も今後アップデートすることを前提としていることが多いです。
例えば、日本側が主導権を持ったプロジェクトにおいて、海外側へ詳細なマイルストン・スケジュール・WBSを求めても、なかなか手に入れることはできません。その必要性をいくら説いても、相手にはわかってもらえないことが多いです。
そのため、意思決定するマネジメントを含め、詳細なスケジューリングにこだわらないことが、かえってプロジェクトが円滑に進むポイントだったりもします。重要なマイルストンは設定しておき、それまでの各タスクの詳細スケジュールは変更されることを念頭に置くことがポイントです。
プロジェクト予算に関するポイント
お金にまつわる点では注意すべきことが多数あり、国ごとの違いもあれば、法人ごとの違いも存在します。税制、会計基準、CAPEX/OPEXの捉え方などの違いが例として挙げられます。
そして、プロジェクト費用は海外と日本のどちらが支払うのがよいのかという問題もあります。税制等も踏まえ、どちらが支払うことが有効なのかという論点もありますし、プロジェクトの成果はどちらに帰属されるものなのかをベースに支払い元を決定するという考え方もあります。
これはプロジェクトによってスタンスが異なるため、プロジェクト開始時点で大枠の方針は定めておくことがおすすめです。
お金に関することは責任が大きく、ミスも許されないことが多いため、専門的な知識を有しているメンバーのアサインが必須になります。海外プロジェクトの経験がある経理担当など、専任ではなくとも、プロジェクトへ関与してもらえる工数を事前に押さえておくことが重要です。
コミュニケーションに関するポイント
これまで①~③の重要なポイントを挙げてきましたが、それらすべてのベースとなるのがコミュニケーションです。
まず問題となるのが言語スキルです。英語がベースとなることが多いですが、通訳を雇ってでも、このスキルは補完する必要があります。過去の経験や知見からニュアンスも含めて伝えられる英語が堪能な社員がいれば、その方のアサインは必須となります。
バイリンガル人材は引く手数多ではありますが、社内に閉じずに考えると派遣の方々でも英語を売りにしている人もいますし、予算は抑えめで調達できる可能性が高いです。妥協せずにスキル補完をすることがポイントです。
社員をプロジェクトへアサインする際には、出来る限り、現業との兼務ではなく専任とするのがおすすめです。兼務だと評価が曖昧となってしまいコミットメントが得られづらくなるというデメリットが発生するケースが多いです。そのため、兼務の場合には、しっかりと評価する仕組みが必要となります。
また、口頭ベースでのやりとりができる人材も必要ですが、コミュニケーションの方法として文章を上手く活用することが重要です。異なる言語間ですと認識齟齬が発生することはどうしても避けられないため、話した内容を簡単にでも文章でまとめてメール等で確認し合うことが必要になります。口頭ディスカッションについても、できるだけたたき台となる資料を用意するだけで認識齟齬は大きく減らすことができます。
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>PMOへのキャリアに関する記事
キャリアになるPMO、ならないPMO
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/pmocareer
【PMOコンサルからのキャリアプラン】プロモーションのための+αから独立時の単価アップまで
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/pmocareerplan
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海外PMOにおける成功ポイントは他にも多くありますが、今回は、その中でもプロジェクト推進/マネジメントにおける根幹となる部分をご紹介しました。
やはり異なる言語・文化の人たちと仕事をすることは非常に難易度が高いですが、その分、会社への影響・得られる経験が大きいです。
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