事業会社の経営・事業企画や戦略室は、前職での知見を活かすことのできる職務であり、ポストコンサルのキャリアとしても人気があります。企業側からも「戦略策定のプロフェッショナルとしての能力を社内に取り入れることができる」といった大きなメリットがあります。しかしながら、実際には、コンサルタントとしてのスキルセットと事業会社における企画職や戦略ポジションにおける期待値が微妙に異なることで、企業側から「求めていたものと違った」と見られてしまうケースも多いのが実情です。
今回の記事では、事業会社の採用担当や、戦略・企画部門マネージャーなどからお聞きした、コンサル出身者の「良いところ」その一方で、「直すべきポイント」「よくあるミスマッチ」などについてご紹介します。ポストコンサルのキャリアをお考えの方は、ぜひご参考ください。
【目次】
- 「戦略策定の経験が豊富」
- 「企業の前例から自由である」
- 「アウトプットベースの効率的な職務遂行ができる」
- 「事業経験に乏しい」
- 「戦略策定のプロセス全体に通暁していない」
- 「戦略策定自体が目的となっている」
「戦略策定の経験が豊富」
よくお聞きする「コンサルの最大のアドバンテージ」は、企画業務特に戦略に関わる業務の経験が豊富な点でしょうか。大手メガベンチャーのCSO室マネージャーからも「戦略策定という業務を体感的に理解していることは元コンサルが企画メンバーに入ってくれることの最大のメリット」という声をお聞きしました。
実際のところ、一般企業の企画部門で戦略策定を行うのは年に一度か二度、複数の事業に携わっている場合でも数回といったケースも多いのに対し、戦略コンサルタントであれば数か月に一度のサイクルで複数の案件を並行して進めていくことになります。企画を最終形まで仕上げる経験という点から見れば、戦略策定の経験値においてコンサルタント出身者は非常に有利です。
「企業内のメンバーを中心に企画策定を進めると、課題となっていたテーマにそって調査を進める途中であらぬ方向へそれてしまったり、結果として報告される分析の内容が当初のターゲットであったテーマとは違うものになってしまったりすることがあるが、こういった点もコンサルタント出身者であれば注意するべき点を弁えているので役に立つ」という声もあります。
また、戦略ツールの使い方や、分析を戦略につなげる思考技術などについてもいろいろなケースを扱っており、情報分析のプロセスにおいても勘所となる情報の処理方法や、必要なデータをどのような情報源から入手できるかといった知識が豊富なことから、「考えをまとめるための合理的な思考の進め方において高い能力を発揮できる」点もコンサル出身者を採用する大きなメリットのようです。
「企業の前例から自由である」
企業の内部の考え方、やり方にはおのずと決められた慣例があります。どの事業が重要なのか、利益を上げやすいのはどのセグメントか、といったことについては暗黙の了解があってそれを前提に議論が進められるところがあります。一方で、「コンサルティングファームで働かれてきた方の意見はこういった社内の因習にとらわれていないところがあり、戦略策定にあたって新たな気付きを与えてくれます」という意見もお聞きしました。
数年前に調査したまま当時の分析の結果をそのまま継続して前提としていた情報が、その後の業界の変化で大きく状況が変わっていたというケース。分析のもとになっていた情報源の有効性について、見直しが必要であったことが後からわかったりすることもあります。分析の進め方や戦略の選択にあたって、社内のパワーバランスが影響した要因を排除しないまま、その後も使い続けてしまうといったことも少なくないでしょうか。
「客観的な視点により、一つ一つの情報・推定に客観的な事実の裏付けを求め、論理的に組み立てられたドライな戦略がきれいに組みあがると、従来の企画が社内の雰囲気に流されていたことを認識させてくれる」という経験をされた方も多いようです。
「議論する必要がないことに時間を費やしていたことや、逆に重要な問題点を見過ごしていたことなどにも再検討を加えることができる機会になった」という声もよくお聞きします。
「アウトプットベースの効率的な職務遂行ができる」
コンサルタントの仕事はクライアントに対する最終的なアウトプットが求められます。一方で事業会社の企画業務では議論をすること自体が目的となってしまうことがしばしばあるようです。「企画の品質を高めていくという名分のもとに中間プロセスが業務そのものになってしまう」という意見もよく耳にします。このようなケースでは企画の納期も延び延びになり、最終的な企画は時間をかけた割にはクォリティの低いものになりがちでしょうか。
一方で、コンサルでは業務の形態上、アウトプットまで完了して仕事が評価されます。納期通りに企画作業を完遂することが業務上当然に求められる環境で仕事をしており、企画を文書化したりプレゼントして提供できる形まで持っていくことを業務の重要な要件と考えている方が一般的でしょうか。
「企画業務をアウトプットまでで完結するものと考える態度は、ともすればタスクに縛られがちな企画担当者たちに厳しさを与えてくれる」という声もお聞きします。プロジェクトベースでお金をもらっているコンサルとしての経験で培われたプロフェッショナリズムに触発されて仕事の質を向上させることが期待できる点は、元コンサルタントと一緒に仕事をすることがメンバーにポジティブな作用を与えてくれるようです。
「事業経験に乏しい」
一方で、コンサル出身者の弱点についてもご紹介します。「コンサル出身者の最大の弱点は戦略を立てることはできるが事業経営を実行できないこと」という声をよくお聞きします。
複雑な実ビジネスの現場で戦術的な決断をする経験が少なく、戦略を事業運営という「自分で行うもの」という視点を持っていないという指摘もよく受けます。
ご存じの通り、いかに精密に作られた戦略でも現実の事業活動のすべての局面を想定することなどできません。また、策定された戦略以外の事業活動との調整をつけるうえで新たに導入された戦略は優先順位が低くなりがちです。そして実行されない戦略が作られるごとに、企画という業務の存在価値が貶められていくことになります。
「戦略策定のプロセス全体に通暁していない」
コンサルティングファームではクライアントやソリューションごとにチームで活動しています。このため、コンサルタントであっても必ずしも戦略策定の経験値が高いとは限らず、顧客営業が得意な方や数値分析など一点に秀でたコンサルも当然ながらいます。全体としては一般企業の社員よりは戦略作業について詳しいものの、一人で事業戦略を立てるとなると不本意な状況に追い込まれることがあるようです。
例えば、コンサルティングファームの商品戦略チームでコンサル経験を積み、転職して一般企業のマーケティング担当副社長として数年を勤めた後、別の企業の事業戦略責任者として引き抜かれた元大手コンサルの出身者がいました。大きな組織の中で高い給料をもらってきた方でしたが、一方で自分で「戦略を立てる」という仕事を通しでやったことがありませんでした。また、業務をするためには自分のために情報を分析するアナリストが必要かつ、しかも事業経験がありませんでした。戦略プロセスを手順としては理解していたものの、それだけでは自分でそれを実践することはできないという落とし穴に嵌り、戦略ツールをいろいろと並べてリードしようとしましたが、戦略会議に参加する事業部リーダーたちは次第に口を利かなくなり、やがて顔を見合わせて口をゆがめるといったケースもあったようです。
ご存じの通り、戦略論とはそれを当てはめればどんな事業に対しても結論が得られる公式ではありません。企業ごと、事業ごとに課題を解決するための方法論を構築する創造的なプロセスと言えるでしょうか。事業会社においては、戦略を立てるという目標に向かって事業チームを動かすために、一通り全ての作業に習熟していることが必須です。
「戦略策定自体が目的となっている」
先ほどもお伝えしましたが、コンサルタントファームにとって、戦略を策定することが業務そのものですが、事業会社における戦略は事業経営の一環に過ぎません。戦略は常に仮説の上に成立しており、実践の方法論は現場の実戦部隊に任されています。
この事業機能のウェイトがわからず、「事業=戦略」というスタンスで戦略を最重要で絶対的なものだと考えてしまうケースがよくあるようです。
戦略が実を結ばない最大の要因は、立てた戦略が実行されないことにあります。ロジックだけでは人は動かず、有効な戦略を事業経営の結果として現実にするためには、具体的な実行のプロセスに落とし込むための詳細な活動計画の設計が求められます。事業活動の主体となる部署での業務の優先順位やモチベーションも重要な要素であり、担当部署の経験値やキャパシティ上の課題がボトルネックになることも想定する必要があります。
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<コンサルタントのキャリアに関する記事>
【実話】経営企画に転職した元戦略コンサルにありがちな失敗とその対策
https://www.axc.ne.jp/media/change-jobs-knowhow/stconsulk
(参考)なぜベンチャーの経営層にはコンサル出身者がいることが多いのか?
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/venturefromfirm
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今回の記事では、事業会社の採用担当や、戦略・企画部門マネージャーなどからお聞きした、元コンサルタントの「良いところ」その一方で、「直すべきポイント」「よくあるミスマッチ」などについてご紹介しました。
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