【具体例】プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM分析)のフレームワーク<多角化が進む企業の経営分析に有効>

企業がある程度成長すると、複数のビジネスを並走させながら企業を発展させていくフェーズに入るケースが少なくありません。その時にただ闇雲に多角化を進めると、経営効率が下がり、最悪の場合企業を衰退させてしまいます。

複数のビジネスをうまく運営させるためには、企業のリソースの効率的な配分が重要ですが、このリソース配分に関する考え方がプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)です。

大企業のコンサルプロジェクトにおいてしばしば重要な考え方となるプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントは大手のコンサルティングファームを目指す人にとって基本的かつ重要な考え方です。今回の記事を参考に、フレームワークの考え方をおさえておきましょう。

【目次】

    1. プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの基本的な考え方
    2. 4象限を活用したプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント
    3. プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント分析の進め方
    4. プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの長所と短所
    5. プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの分析事例
    6. プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントは多角化企業の戦略に重要な示唆を与える

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの基本的な考え方

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントとは、本来企業のリソースを各事業に最適配分するうえでの考え方全般を指します。一方で現代では、市場成長率と自社の相対シェアの2軸4象限による分析が主流に。ここではプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの基本的な考え方を解説していきます。

本来はリソースの最適配分を検討すること

企業のリソースは「ヒト・モノ・カネ」に分類され、通常それらは無限に利用できるわけではありません。そのため、限られたリソースを有効活用することが、企業が健全に成長していくためのカギとなります。

例えば、今後高い市場成長が見込め、また自社が得意とする領域には大きなリソースを投下してビジネスの加速を促進したい場合、成長が見込めない分野から撤退してリソースの再配分を行うのも一案です。

また、そのビジネス自体の利益は大きくなくとも、その分野での知見が他のビジネスに波及して企業成長につながるケースもあります。このような波及を「シナジー」と呼びますが、高いシナジーを発揮する分野に積極的に投資するというのも一つの考え方です。

本来のプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントとは、このように企業のリソースを、どの事業に、どの程度配分するかを管理することを指します。それは多角化企業が健全に成長していくためには、非常に重要な活動です。

現代では市場成長率×相対的シェアの4象限による分析が基本に

闇雲に分析しても有効なリソース配分の解を見出すのは容易ではないため、現代では、企業内に属する事業を次の「市場成長率」の高低と「相対的シェア」の大小の4象限の図でプロットしたうえでそれぞれの事業の方向性を定めます。

プロダクト・ポートフォリオが比較的シンプルな企業の場合は、4象限それぞれに事業内容を書き出して分析します。また、多角化が高度で事業数も多い場合には、市場成長率・自社の相対的シェアについて定量的なデータを取得して、プロットを作成する場合もあります。

プロットの例:円の大きさは売上高や利益率などになるケースが多い

こちらの図をもとに、リソース投下先の選択と集中を行うのが、現代のプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの基本となっています。

4象限を活用したプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント

現代において主流となっている4象限によるプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントについて、もう少し詳しく見ていきましょう。ここからは、4象限の意味合いについて解説していきます。

「花形」(市場成長率:高、市場シェア率:高)

市場成長率、自社のシェアがともに高い事業は、企業利益に貢献してくれる事業群となります。ただし、市場が成長する中では新規参入も起きやすく、一般的に競争は激しくなりがちです。

そのため、競争で力負けしないよう、積極的に経営資源を投下する必要があります。売上は大きい一方で、投資コストも相応にかかるため、利益率は上がりにくいのもこの象限の特徴です。

「金のなる木」(市場成長率:低、市場シェア率:高)

市場シェア率が高いため、高い売上を確保できます。また市場成長率が低いということは、今から参入をするのはリスクが高いため、新規参入企業は減少し、競争も激化しにくいゾーンです。

市場成長率が低いことから今からの新規投資が十分なリターンに繋がらない可能性があるので、リソースの投資は控えましょう。獲得した潤沢な売上・利益は花形や問題児に投資するのがセオリーです。

「問題児」(市場成長率:高、市場シェア率:低)

問題児は市場成長率は高いものの、市場シェアを獲得できていないことから、そのままでは売上は伸びにくいといえます。

問題児は市場シェアを高めることができれば花形へ成長する一方、自社のシェアが伸びる前に市場成長率が低下すると負け犬に転落してしまいます。事業を育てるためには積極的な投資が必要ですが、リスクの高い事業でもあるため、費用対効果を見極めてリソース投入を判断することが重要です。

「負け犬」(市場成長率:低、市場シェア率:低)

市場成長率、市場シェア率共に低いとなれば、売上、利益における企業への貢献は期待しにくい事業です。通常は追加のリソース投下は行わず、むしろ事業売却などにより撤退して、そこで得たリソースを他の事業に回すのがセオリーです。

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント分析の進め方

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント分析をこの4象限で行う場合は、次のような手順で進めていきます。

①自社の事業分類を定義する

第一に、自社の事業分類を明確にしなければなりません。定義の仕方は一様ではなく、経営戦略を策定するうえで有効な粒度で分類することが大切です。

例えばビールを中心とする総合飲料メーカーの場合、ビールとビール以外の酒を包括して全て「酒類」としてしまうのか、「ビール」「ウイスキー」「日本酒」などと分けるのか、もっと細かくビールを「メイン商品」「プレミアムビール」「第三のビール」などと分けるのか、いろいろな考え方があります。

②市場成長率を計算する

事業分類を明確にしたら、それぞれの事業が属する市場の成長率を計算します。

1年の市場成長率=ある年の市場全体の売上高÷前年の売上高

で算出されます。時期や景気動向により一時的に上下するケースが多いので、数年の成長率を平均して捉えるのも有効です。

③自社および競合のシェアを計算する

続いて、各事業の市場におけるシェアを計算します。

シェア=その事業の売上高÷市場全体の売上高

自社だけでなく競合を計算することが大切です。プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの横軸は「相対的シェア」によって定義されるためです。

④4象限に事業をプロットして方針を決める

以上の計算を終えたら、4象限に事業をプロットします。そのうえで各事業に対する今後のリソース配分方針を定めていきましょう。

リソースはヒト・モノ・カネいずれも有限なので、全事業に投下するリソースがきちんと企業全体のリソースにおさまるように注意しましょう。

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの長所と短所

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントは基本的に事業へのリソース配分を考えるうえで非常に役に立つ考え方ですが、一方で注意すべき短所もあります。ここではプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの長所と短所を簡単に紹介します。

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの長所

PPMの長所は、さまざまな事業間での経営資源の選択と集中や自社の事業ポートフォリオの最適化を進めるうえで、役立つ示唆が得られる点です。

大きな企業において俯瞰的に事業構成を見て、企業全体を成長させるうえで適切なリソース配分を決めることができます。

また、4象限を使用すれば、複数の事業の立ち位置が1枚の紙に可視化できることもポイント。プロジェクトチームなどで戦略を議論する際などにも有効です。

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの短所

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの最大の短所は、事業間のシナジーという観点が抜け落ちてしまいがちな点です。例えば、負け犬の事業から得られる示唆が、実は花形や金のなる木における競争優位を守るうえで重要な要素だったとします。

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントを杓子定規に導入すると、こうしたシナジーが見落とされ、収益力が小さいがために、負け犬の事業から撤退することに。やがてその事業から得ていたノウハウが途切れ、他の事業も弱体化させてしまうリスクがあります。

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントを導入するときは、こうしたシナジーの観点も加味して総合的に判断していくことが大切です。

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの分析事例

最後に、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの分析事例を二つ紹介します。実際のプロジェクトで分析をする際の参考にしてください。

サントリーのプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント

まずは大手飲料メーカーの一角、サントリーです。個々の大きな事業は、ビール、ウイスキー、清涼飲料にわけられますが、いずれも収益を生み出す力があるのがサントリーの強みです。

例えばウイスキーは、現在では成長率は高くなりにくいですが、サントリーは十分なシェアを有しており「金のなる木」といえる事業です。低成長といっても、需要が衰えることも想定しにくいという点もポジティブでしょう。

また、ビールに関しては、かつてはシェアの面で課題を抱える「問題児」でしたが、積極的な投資が奏功し、現在では大手ビールメーカーの一角として十分なシェアを確立。サントリーの「花形」事業に成長しています。

最後に、清涼飲料についてはシェアが高いうえ、今後も順調な成長が期待できる領域。マーケティングをうまくおこなうことで、サントリーの収益に大きく貢献する事業となっています。

当面はウイスキーから得られる着実な収益を、清涼飲料・ビールに配分していくのがサントリーにとってのセオリーとなりそうです。

キヤノンのプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント

もう一つは精密機器メーカーのキヤノンの事例。意外かもしれませんが有名な「ミラーレスカメラ」は「問題児」に分類されます。カメラはデジタルカメラやスマホに押されている印象を持たれがちですが、実は一眼レフのミラーレスカメラという領域は市場成長率の高い事業。ただし、競合が多いため、キヤノンといえど「問題児」に属します。

また、キヤノンの場合はインクジェットとその他のプリンターで状況が異なるので、あえてここを分けて分析しました。インクジェットはシェアはそこまで高くないものの、市場の成長率は高いです。やや問題児よりですが、花形に属する事業といえます。

一方、普通のプリンターの方がシェアは高い一方で、インクジェットの存在もあり、成長率は近年、低位安定した状態なので「金のなる木」となります。最後にFAXは既に衰退産業であり、キヤノンのシェアも低いことから「負け犬」です。

キヤノンのリソース配分の課題は、まずFAXの撤退の可能性も含めたリソースの見直しです。そして、そのリソースをミラーレスカメラ、ついでインクジェットに投資を行うことで、これらの事業のシェアを高めていくことになります。

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントは多角化企業の戦略に重要な示唆を与える

今回は多角化企業や大企業など、複数の事業を持つ企業のリソース配分などの戦略に有効なプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントを紹介しました。近年では4象限を利用した分析が主流となっています。各事業の位置づけを可視化するうえでも有効です。

大手のコンサルティングファームともなると、大手企業をクライアントに、全社的な経営戦略などを検討する機会も多くなります。そのような時にはプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの考え方は、いわば基本ツールの一つとなりますので、コンサルにチャレンジする方はおさえておきましょう。

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今回の記事では、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)の分析手法や具体例をお伝えしました。
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