今回はアクティビスト・ファンドの概要、プライベート・エクイティ・ファンドとの違い、最近の動向等を中心に記載していきます。
【目次】
- アクティビスト・ファンドの概要
- アクティビスト・ファンドの投資対象になるケース
- 主なアクティビスト投資家(個人)
- プライベート・エクイティ・ファンドとの違い
- アクティビストとしてのプライベート・エクイティ・ファンド
- プライベート・エクイティ投資家としてのアクティビスト
- アクティビスト・ファンドを取り巻く最新の動向(2023年3月時点)
アクティビスト・ファンドの概要
アクティビスト・ファンド(Shareholder activist)とは、上場企業の株主でありながら、その株式を利用して経営陣に圧力をかけ、特定の経営上のアプローチを取るよう働きかける株主のことです。
プライベート・エクイティ・ファンドのように買収によって支配権を得るにはコストがかかるため、アクティビスト・ファンドは発行済み株式の10%未満という比較的小さな持分を活用して株主提案権を行使します。
目的は、株主価値を向上させるといった財務的なものから、ESG政策の採用、ノンコア事業の売却や政策保有株の売却までさまざまです。
他にも、アクティビスト・ファンドは取締役会の議席を得るために、対象企業の株式を大量に取得し、対象企業内で影響力を持つことで、経営コストの削減、効率性向上、利益最大化等を目的とした改革を後押しします。
アクティビスト・ファンドの投資対象になるケース
一般的なアクティビスト・ファンドの投資対象にはヘッジファンド、プライベート・エクイティ・ファーム、富裕層の個人等がいますが、このような投資家は多くは経営効率の低い企業や経営不振の企業の株式を公開市場で購入し、支配権や取締役会の議席を得られるレベルまで出資比率を高めることが多いです。
一方でアクティビスト投資家がキャンペーンを成功させるためには、対象企業の株式の過半数を保有する必要はなく、その代わり発行済株式の0%以下の株式を取得し、株主総会で発言権を持つことが可能だからです。
アクティビストは、株主に配当として分配される可能性のある余剰資金を保有している企業をターゲットにすることがあります。
投資家は、その企業が余剰資金を必要とせず、配当の可能性があると判断した場合、その企業への出資比率を高め多額の配当金支払いに同意させることを期待するようなアクションを取ることもあります。(株主還元の要求)
他にも、対象企業の利益率が低い場合には経営陣の給与削減、不採算事業部門の廃止等、企業を黒字化するための施策を提案することがあります。
アクティビスト投資家は公開キャンペーン、委任状争奪戦、訴訟、経営陣との交渉等、アグレッシブなアプローチから協調的アプローチまで、複数の戦略を採用することで、自らの株主提案を通そうとしてきます。
主なアクティビスト投資家(個人)
アメリカで有名、かつ恐れられるようになったアクティビスト投資家は、次の2人です。
カール・アイカーン
カール・アイカーンは、最も有名なアクティビストの一人であり、また投資家としても知られています。
アイカーンは、1960年代初頭にウォール街で株式トレーダーとしてのキャリアをスタートさせました。1968年に裁定取引とオプション取引に重点を置いたアイカーン・アンド・カンパニーを設立し、1980年代に入ると企業買収者として有名になり始めました。
代表的な買収は1985年のTWA航空の買収で当該この買収により、同社を黒字路線に転換させ、倒産を防ぐことに成功しました。
ビル・アックマン
ビル・アックマンは、パーシング・スクエア・キャピタル・マネジメントの有名なCEOです。アックマンは自らを株主運動家だと考えており、ウェンディーズ・インターナショナルとターゲット・コーポレーションにかなりの株式を保有していることで知られています。
※参考:ビル・アックマンとパーシング・スクエア・キャピタル・マネジメント
プライベート・エクイティ・ファンドとの違い
プライベート・エクイティ・ファンドとアクティビスト・ヘッジファンドの関係には、深いものがあります。
過去には、アクティビストの関与によって、対象企業の売却やプライベート・エクイティ・ファンドへの収益性の低い事業譲渡が行われることが多かったですが、多くの非公開化取引では、取引条件の改善を試みるアクティビストが反対し、企業は敵対的買収の際に「ホワイトナイト」としてプライベート・エクイティ・ファンドを連れてくることもあります。
この2つの投資クラス(プライベート・エクイティ・ファンドとアクティビスト・ヘッジファンド)は非常に似ているため、互いの戦略に適応しやすくなっています。
アクティビストのターゲットになりそうな企業は、非公開化案件対象としても適していることが多いです。
両者とも投資に際して長期的な視点を持っている(少なくともアクティビストはオペレーションの変更のみならず株価やバリュエーションの中長期的な改善に重点を置いている)ことと、さらに、両者とも、割安な企業を見抜き、価値創造を促進するための適切なリストラ策を講じるという大きな共通点を持っています。
もう一つの類似点は、投資家層でしょう。
プライベート・エクイティ・ファンドもアクティビスト・ヘッジファンドも、公的年金基金や資産運用会社からの支援に大きく依存しており、投資のベースになる資本を集めるためには、両者とも、例えばESG基準へのコミットメント等、同じルールを守る必要があります。
アクティビストとしてのプライベート・エクイティ・ファンド
プライベート・エクイティ投資家にとって、アクティビスト・アプローチが非常に魅力的である要因がいくつかあります。日本のスモールキャップのファンドは投資先に対してハンズオンのアプローチをとりますが、アクティビスト的なアプローチをとるファンドは金融的なアプローチをとります。
プライベート・エクイティ・ファンドは、その長期的なアプローチとプライベート・エクイティ・ファンドによるディール取引の複雑さゆえに、急激な市場の変化に対して柔軟性に欠ける面があります。
プライベート・エクイティはアクティビスト的な戦術を適用することで、より多くの投資機会が開かれるとも思われます。
プライベート・エクイティ・ファンドは、上場企業の少数持分の株式を購入することができるため、市場の下落をより迅速に捉えることができます。
さらに、ターゲットとなる企業の選択は、もはや売却可能な企業に限定されることはないですし、最近ではアクティビストに対するネガティブなイメージは徐々に消えつつあります。
アクティビストの活動は、両方の投資クラスに投資する主体(例えば、大手公的年金基金や資産運用会社)によって支援されるようになってきているため、プライベート・エクイティ・ファンドは、アクティビスト・ヘッジファンドよりも友好的で協力的である必要もなく、経済的利益を追求した投資をすることが望ましいです。
しかし、プライベート・エクイティ・ファンドがアクティビスト・ファンド的に投資活動することを難しくしているいくつかの障害があります。
プライベート・エクイティ・ファンドのリミテッド・パートナーシップ契約の多くは、投資基準に、対象企業の取締役会が(公に)反対する買収提案のような「敵対的取引」に参加することを認めないという条項があります。
通常、委任状争奪戦のようなプロキシーファイトも禁止されています。多くのプライベート・エクイティ・ファンドは、会社の支配権を獲得する目的、または非公開取引を目的とする場合を除き、公開会社のポジションを取ることに制限を設けていて、また、短期間の投資も通常禁止されています。
多くのプライベート・エクイティ投資家がアクティビズムに関与する唯一の方法は、前述の投資制限のない独立したアクティビスト・ファンドを設立することでしょう。
(既存のリミテッド・パートナーシップ契約のもとでは投資スタイルが攻撃的とみなされることで、経営陣に対する買収交渉が制限されることもありますのでそれを避ける趣旨です)
プライベート・エクイティ・ファンドがアクティビスト的なスタイルをとれば、ウルフパック戦術のように、競合他社のプライベート・エクイティ・ファンドは、企業の経営陣との交渉において、他のプライベート・エクイティ・ファンドの積極的なアプローチを利用することができるというメリットもあります。
プライベート・エクイティ投資家としてのアクティビスト
以前は、アクティビストは、他の一般投資家が利益を共有できるように、公開企業への投資においてプライベート・エクイティ的なアプローチをとることを強調するだけでしたが、今では、完全なプライベート・エクイティ取引に準じた投資スタイルを敷衍することが非常に魅力的になっています。
会社を買収するということは、価値を引き出すために必要だとアクティビストが主張することも有用です。
しかし、プライベート・エクイティ部門は、古典的なアクティビストのキャンペーンを促進し、支援するために使用されることもあります。アクティビストによる買収提案によって、会社の経営陣に会社を売りに出すよう圧力をかけたり、潜在的な買い手に対して買収のメリットを検討するよう促したりすることもあります。
アクティビストは、潜在的なターゲットに、アクティビスト自身やアクティビストが実質的な株式を保有する企業とのプライベート・エクイティ取引を迫ることもできます。
アクティビスト・ヘッジファンドがプライベート・エクイティに取り組むには、いくつかの障害があります。彼らの投資戦略は、通常、かなり短いロックアップ期間を伴います。プライベート・エクイティ投資家とは異なり、アクティビストは通常、四半期ごと、あるいは毎月の流動性を持っています。
バイアウトのために資産を拘束することは、相当数の投資家が償還を要求した場合に問題となる可能性がありますし、さらに、潜在能力を発揮できない企業の過半数を所有することは、業績不振の少数株式よりも、ファンドの全体的なパフォーマンスと評判をはるかに傷つける可能性があります。
そのためプライベート・エクイティ・ファンド的なキャンペーンを送るのは問題ないですが、投資で過半数持分を取得したりする等のプライベート・エクイティ・ファンド的な投資活動はアクティビスト・ファンドにとってはそこまで現実的ではないでしょう。
アクティビスト・ファンドを取り巻く最新の動向(2023年3月時点)
最近(2023年前半)は2022年に増して急激に日本においても、アクティビスト・ファンドによる株主提案や書簡の送付がかなり増えてきています。
例えば2023年2月にあった主要なアクティビスト・ファンドによるキャンペーンをあげると、
・2023/2/24:Oasis(フジテックに対する役員選任等提案)、同年英ニッポン・アクティブ・バリュー・ファンド等3社:T&K TOKAへのTOB(結果的に不成立)、
・2023/2/23 ひびきパースアドバイザーズ:イハラサイエンスMBOのTOB価格に対する意見書の提出
・2023/2/20 ひびきパースアドバイザーズ:日本高純度化学に対する提案(政策保有株見直し等)
等があります。
※参考:
日本経済新聞「英投資ファンドなど、T&K TOKAにTOB」
ひびきパースアドバイザーズ
2023年には他にも、リ・ジェネレーションによるナガホリへの経営陣の不満への書簡送付がありました。大量保有報告書を提出するアクティビストが多く、日本においてもアメリカと同様にアクティビストによる株主提案に対して正しく対応しないと株価のつり上げや短期間で相当な持分を取得するようなファンドの出現等、翻弄される可能性があります。(ナガホリの例はその最たるもの)
特に買収防衛策の廃止や安定株主の構成等は証券会社のディフェンスアドバイザリーチームと密に連携して対策を講じる必要があるでしょう。
他にも上場会社が自社とシナジーの低いアセットを多く持っていることによる売却の圧力、ノンコア資産を売却することでポートフォリオの再構築を促すようなキャンペーンも多くなっています。
このように、アクティビストに先に指摘されないうちに積極的にノンコア資産の処分を行う会社は上場会社でも見られます。(日立等)先んじて自社のポートフォリオ変革を行うことで株式市場にも好印象を与えることもできますし、アクティビストによる少数持分の取得を未然に防ぐことができます。
最近ではTOBに関する規制も変更の兆しがあり、アクティビストによる株の買い集めにより急に筆頭株主になるという事態を防ぐという趣旨があるものと見受けられます。しかし上場している以上は株主を自由に選ぶことはできないので、今後の規制改革の動向が待たれるところです。
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