日本は高度成長期からのバブル崩壊を経て、「失われた10年」を経験し、国内企業の多くは収益性改善に向けて事業のスクラップアンドビルドや高収益事業へ資源を集中させる経営方針に転換していきました。こうした中、成長戦略に向けた次の一手として、M&A(企業の合併・買収)に大きく注目が集まっています。2000年以降のM&A市場は、コロナ禍による一時的な失速はあったものの、右肩上がりで拡大の一途を辿っています。
そのようなM&A市場の活況を牽引してきたのがPEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド)です。ファンドと言われると、2007年にNHKドラマでも一時注目された「ハゲタカ」ファンドをイメージされる方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。過剰に安く買い叩いた株式や資産を高値で売り抜けるハゲタカファンドには、マイナスのイメージを想起することでしょう。しかしながら、近年脚光を浴びているPEファンドは、幅広い経営ノウハウを活用し、友好的な関係を維持して企業価値向上に努めることから、譲渡企業からも株式譲渡先として選ばれる存在となっています。
今回は、複数の大手上場メーカー(重工業・モビリティ事業)にて経理職としてキャリアを積み、現在は金融機関系のPEファンドにて投資業務に従事して、投資先企業のCFOを兼務される方より、経理職からPEファンドへのキャリアステップについてお聞きしたので、ご紹介させていただきます。
【目次】
経理職からPEファンドへ転職する場合のキャリアステップについて
経営経理職からキャリアアップする方法はいくつかあります。
・CFOをはじめ経営層にステップアップする
・より大きな企業の同部門に転職する
・異業種に転職する
などです。
スペシャリストになるかゼネラリストになるか決めておくことが重要・公認会計士や税理士など資格取得も視野に
PEファンドは、転職先の候補の1つに過ぎません。経理からキャリアアップするためには、転職先にこだわるより先に明確化すべきことがあります。
スペシャリストとして経理・会計を専門とするプロフェッショナルを目指すか、ゼネラリストとして幅広いスキルを身に付けるのかという点です。
スペシャリストであれば公認会計士や税理士の資格を活かしたキャリアが考えられ、ゼネラリストであれば経営企画やコンサルタントなどとして幅広く活躍できます。
PEファンド志望者はまず、スペシャリストとして引き続き経理部門を目指すのか、ゼネラリストとして他部門を目指すのか決めてから転職活動を始めましょう。
経理職からの具体的なキャリアプランや取得資格を決める上では、経理職からの”よくある転職先”と”キャリアチェンジの理由”やUSCPA(米国公認会計士)の情報を参考になさってください。
経理からPEファンドへキャリアアップして活躍するために役立つスキル
では経理職からのキャリア変更において、PEファンドではどのような活躍が期待できるのでしょうか。
1)財務モデリングによるバリュエーション
一つ目はバリュエーションにおける財務知識の活用です。
バリュエーションには様々なアプローチ手法があり専門的な知識やスキルが必要ですが、その基礎的前提として会計・財務の分析能力が必須とされます。場合によっては財務3表モデルを作成して、各シナリオ別に分析を行う必要があるなど、財務諸表の構成や成り立ちを十二分に理解している必要がありますが、経理経験を有しているのであれば、簿記などの潤沢な財務知識を保有していることでしょう。加えて数値計画の策定に携わった経理経験者も中にはいらっしゃるかと思います。そのような経験もバリュエーションにストレートに活用できるようです。
2)ハンズオン支援における業務改善支援
二つ目はハンズオン支援における業務改善支援の面での活躍が期待できます。
PEファンドが投資対象としている未上場企業の大部分はオーナー系中小企業となっています。またオーナー系中小企業の多くは、限られた人員で構成されていることから、オーナー兼代表者が経営・営業・会計等業務全体を管掌しているケースが大半です。従って経理部門においても複数の経理担当者を置くほどの人的余力はなく、経理事務員のみ配置している場合も多く、経理面の組織基盤は脆弱となるケースもあります。
結果的に、経理面において、下記のような具体的な課題を有しているケースが少なくありません。
*月次試算表において、棚卸資産/売掛金/買掛金等が毎月メンテナンスされておらず毎月同額が計上されている
*月次試算表が「現金主義」で作成されており、実態の収益力を表していない
*決算書において、各科目の表示区分や仕訳が正当になされていない
こういった経理面における課題は、バリューアップにおいても重要なファクターとなっています。なぜかというと、イグジットの際にIPOを企図することや上場企業への株式譲渡を行う場合、上場企業に準じた会計対応が求められるからです。一般的に上場企業においては、会社法会計への対応のみならず、金融商品取引法会計に基づき四半期毎に情報開示(ディスクロージャー)を行う必要があり、投資先企業においても上場企業に準じた会計対応の必要性が高いと考えられます。
また前述の通りハンズオン支援においては、CFOという立場で支援に臨むケースもあることから、経理職を経験していた場合、経理面の業務改善のプロフェッショナルとして活躍することが可能です。加えて、中小企業におけるCFOは経理分野に留まらず、人事労務・総務など管理部門を一手で掌握する場合も多いことから、管理部門のゼネラリストとしてキャリア形成が期待できます。
さらには、経理職で培ってきた資金管理スキルについても活かすことが可能です。投資先企業においては収益計上により積み上げたキャッシュはLBOローンの返済に充当するなど、余剰なキャッシュは保有しないのが原則です。従って精緻な資金繰り管理が求められることから、資金管理面に強い経理経験者は重宝されることとなります。
3)ミドルバック部門における管理業務
三つ目はミドルバック部門における管理業務での活躍です。
PEファンドにおける経理業務はLPSを用いることからやや特殊な運用が必要となります。そのため、一般的な企業における経理業務を遂行する能力がない場合には、様々な面で支障が生じてしまう可能性があります。また加えて、LBOローンを調達するためには法人格が必要ですが、LPSは法人格を有しないため、投資先企業とLPSの間にSPC(特別目的会社)を設立する場合が多く存在します。そういった場合にもSPCにおける管理業務が発生することから、経理経験を活かすことが可能となります。
経理職からPEファンドへのキャリアステップを目指す方に向けて【必要な用語集】
経理職からPEファンドへの転身について、現時点ではあまり具体的なイメージをお持ちでない方も、活躍することはできます。
今回お話をお聞きした方は、現在PEファンドにて投資運用や経営支援での経験を積み、将来的には事業会社やベンチャー企業でのCFOを目指したいと考え、日々精進しているようです。そういったキャリアビジョンにおいて、「過去の経理職の経験がキャリアの礎となっている」と改めて実感しているとのことでした。
最後に以下で、PEファンド未経験の経理職の方が、転職前に覚えておきたい基礎知識をまとめたため、ぜひ参考になさってください。
本記事が皆さんのお役に立つことが出来れば大変嬉しく思います。
PEファンドにおける業務内容に必要な用語
PEファンド未経験の経理職が覚えておきたい用語①ソーシング
ソーシングとは、投資候補先企業の発掘および選定のことをいいます。企業分析を通じて将来リターンが見込める企業を見つけ出す必要があります。ソーシングの手段は、M&A仲介会社や金融機関からの紹介、個別企業のオーナー社長への直接アプローチなど様々であり、幅広いコネクションが求められます。
PEファンド未経験の経理職が覚えておきたい用語②エグゼキューション
エグゼキューションとは、投資実行のことをいいます。投資候補先企業に対して買収したい旨を申し入れるとともに、企業の実態を精査するDD(デュー・ディリジェンス)やバリュエーション(価格査定)を行うことで、投資が可能かどうかの判断をするための買収プロセスを進めていきます。特にバリュエーションについては、財務モデリングによる財務分析スキルや株価算定のために割引現在価値を用いたDCF法の活用といった専門的な会計知識が求められます。
PEファンド未経験の経理職が覚えておきたい用語③バリューアップ
バリューアップとは、ハンズオン支援を軸とした投資実行後の投資先企業の価値向上に向けた取組のことをいいます。特に買収直後の統合プロセスのことをPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)といいます。買収直後において、投資先企業の社内は大きく混乱し、様々なトラブルが発生する恐れがあります。そのため、初期段階より当初の投資計画に基づいた投資効果を最大化するために、PMIを通じて緊急度や重要度の高い課題について具体的な統合内容を細かくスケジューリングした「100日プラン」を策定して進めるケースが主流です。実際に投資先企業へCFOなどの経営陣として入り込み、企業価値向上を進めていくことから、業務推進力とともに各種専門知識や経営支援スキルが求められます。
PEファンド未経験の経理職が覚えておきたい用語④イグジット
イグジットとは、投資先企業の株式を売却することで利益を確定させることをいいます。一般的なPEファンドにおける投資期間は、3~5年を目安としてイグジットを目指していきます。方法としてはIPO(株式公開)を通じて売却することをはじめ、事業会社や他の投資ファンドへ売却するケースや、必要に応じてMBO(マネジメント・バイアウト:経営陣による買収)を行うケースも考えられます。
PEファンド未経験の経理職が覚えておきたい用語⑤PEファンドのミドルバック部門
前述の①~④についてはPEファンドにおけるフロント部門について記載しましたが、ミドルバック部門の業務として投資業務における管理関連業務を行う部門もあります。一般的なPEファンドにおける投資ビークルはLPS(投資事業有限責任組合)を用いるケースが多いことから、キャピタルコール対応をはじめとしたLPS特有の業務に加え、会計記帳や財務諸表の作成・会計監査対応など会計関連業務も多く含まれています。
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>PEファンドへのキャリアに関する記事
日系スモールキャップのPEファンドに転職するメリット・デメリット
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/japanese_smallcap_pefund
PEファンド入社1年目で身に付けておくべきスキル・経験【コンサル・投資銀行の方向け】
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/privateequityfundfirstyear
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今回の記事では、経理職からPEファンドへのキャリア変更についてお伝えしました。
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